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番外編
ジェイクサイド
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かつては最強の剣士と呼ばれたロイの石のように固まった体を崖から滝に放り投げる。
落差が高いこの滝は、滝つぼが見えないほどの高さだ。
激しい滝の音で、滝つぼに落ちた音もかき消される。
「怖いね」ドムレットがいう。ドムレットのフード付きマントが風にはためく。
この滝のことを言っているのか、呪いのことを言っているのか、それともおれのことを言っているのか。
「やつは希望通り呪いをもらっただけさ。そして滝つぼで寝ようが、どこで寝ようが一緒だ」
「気ままに生きている奴らしい最後だ」
おれは崖から、滝壺を睥睨した。
※※
ロイがノアの寝所に襲いに来た時も、おれは奴を外に追いやっただけで、殺しはしなかった。優しさからではない。ロイがノアに「あれはおれのものだ」と呪いを欲している言葉を聞いて、呪いを移す場所として、これほど最適な奴もいないと思ったからだ。
優しいノアはそれでも、呪いをロイに移すことに同意しなかった。
奴が今までノアにしてきたことは許しがたいことだ。それに加えてノアの眼前に汚い物を晒して咥えろと言った。
万死に値する。
しかも馬鹿げたことに呪いを祝福と呼び、返せと言い出した。
なんの憐憫の情もわかない。
虫けららしく知能も低い。
まだ魔物の方が知性があるくらいだ。
おれはノアが呪い持ちだろうが、なんだろうが構わない。石のままで大事にする。でもそれはノアが嫌だろう。
おれもノアと話せて、抱き寄せて、抱きしめ返してくれて、笑いかけてくれることを体験したら、もう駄目だ。もうこの幸せを離せない。
一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。
ノアはまだ照れているけど、当たり前みたいな毎日が幸せだ。
自己肯定感の低いノアは自分なんてって思っていそうな時がある。おれはそれは違うと言う。
ノアは誰よりも丁寧に人も物も扱う。それは誰にでもできることじゃない。
おれを助けてくれたときも何の見返りも求めていなかっただろう。
魔物退治の時も、囮になると言っておれを驚かせた。
誰にも言ってないが、もしかして魔物に同情しているのか。魔物を逃がしたかったのではないかと思えた。
だからおれは魔物に止めを刺した。
ノアがこれ以上魔物に同情して、魔物と一緒にどこかに行くとか言い出さないように。
そんな危うさがあった。
あのロイに対してもだ、あれだけひどいことをされたのに、ノアはロイに呪いを渡すとはずっと言わなかった。呪いだから渡せないと。
あの愚かなロイがノアをまた襲って、ノアを殺そうとした。そしてついにノアが呪いをロイにやると言ってくれた。小さな声で悲しそうに。
どれほど苦しかっただろう。ノアにそんな苦しみを与えたロイは本当に殺すだけじゃ足りない。
ノアは知らないが、生きたまま呪いを移すには、双方の同意がないと難しいと呪術師に言われていた。
だが今回は同意の移動というよりも、回復魔法なしでは助からないほどの致命傷を受けたノアの体を捨てて呪いがロイに移ったと思う。
ロイがノアの元に行ったことに気づいてすぐにドムレットを呼んで一緒に簡易寝所に行った。
青ざめた顔で、血の池の中で目を閉じているノアを見つけた時、自分がどれほど認識が甘かったかと痛感した。
ドムレットを連れてきたことだけは正解だった。ドムレットは惜しげなく上級の回復魔法をかけてくれた。それがなかったら、ノアの命は危うかった。
ノアをこんな風にしたロイは絶対に許せない。
ロイは有名冒険者として名前をはせていたころの面影はない。いっそ引退でもすればいいのに、奴は過去の名声に縋り付いていた。
誰にでも優しくて誰にでも情を持つノアだから、心配だ。
やっとおれに目を向けてくれたと思っても、ノアはおれとは一緒に過ごせないと選択した。
おれに呪いが移るとダメだと言って。そんなこと今更だろ?
おれは構わずノアの世話を焼きつづけた。ノアはやっと動けるようになってからも、可哀そうになるくらい非力で、体力もなく、何もできなかった。
おれを頼ってくれればいいのに、ノアはそれはおれに悪いと思っているようだった。
愛していると告げたおれに、ノアは仕事があるから離れて暮らすと言う。
おれは許せないと思った。だけどノアがおれから離れようとしても、離れられないようにすればいいだけだと気付いた。
身の回りの品をたんまりと入れた鞄を渡した。もちろんノアが一人で暮らすのに困らないよう色々入れて、拡張鞄だから鞄自体貴重な物だし、重量以上の物を入れている。
ノアはありがとうと感動しているが、華奢で力のないノアはそれさえ持てない。
ノアの中では、持てないから置いていくという考えはない。せっかくもらったものは大事にしないとと思っている。だから一生懸命に持つが、一歩か二歩歩くだけでダウンしている。肩で呼吸をしている。
おれは送るよと伝えた。怯えさせないように、努めて今まで通りに。
ノアはありがとうと、素直に言ってくる。鞄も代わりに持つと、ノアはジェイクはすごいなと感動している。一つ一つなんてことのないことに感動しているノアが本当に心配になる。
おれが見てやらないと誰かに騙されそうだ。
一緒に男爵に挨拶に行ったのも、ノアはありがたいって思ってそうだけど、おれは男爵に主張しにいっただけだ。
ノアはおれの大切な人だから、適当に扱うと容赦しない。
幸い勘もよいし、人格的にも問題がないような人でよかった。
おれは貴族を基本、信用していない。
「ふむふむ」と男爵は頷いている。
恋人のために、挨拶に来ていると思っているようだ。どうして一緒に暮らさないのか、どうしてノアが働きに来ているのか不思議に思ったようだが、何も言わない。
きっと働きたいというノアの想いにおれがこたえたのだと思っている。その通りなのだが。
とにかくノアの所にいつでも来てもよいと言ってもらえた。
男爵にはそれ相応のお礼もしなければ。困っていることがあれば言ってくださいと伝えておく。
A級冒険者と知り合いになりたい者は多いから「おおー。これはありがたい」と男爵は言っていた。
落差が高いこの滝は、滝つぼが見えないほどの高さだ。
激しい滝の音で、滝つぼに落ちた音もかき消される。
「怖いね」ドムレットがいう。ドムレットのフード付きマントが風にはためく。
この滝のことを言っているのか、呪いのことを言っているのか、それともおれのことを言っているのか。
「やつは希望通り呪いをもらっただけさ。そして滝つぼで寝ようが、どこで寝ようが一緒だ」
「気ままに生きている奴らしい最後だ」
おれは崖から、滝壺を睥睨した。
※※
ロイがノアの寝所に襲いに来た時も、おれは奴を外に追いやっただけで、殺しはしなかった。優しさからではない。ロイがノアに「あれはおれのものだ」と呪いを欲している言葉を聞いて、呪いを移す場所として、これほど最適な奴もいないと思ったからだ。
優しいノアはそれでも、呪いをロイに移すことに同意しなかった。
奴が今までノアにしてきたことは許しがたいことだ。それに加えてノアの眼前に汚い物を晒して咥えろと言った。
万死に値する。
しかも馬鹿げたことに呪いを祝福と呼び、返せと言い出した。
なんの憐憫の情もわかない。
虫けららしく知能も低い。
まだ魔物の方が知性があるくらいだ。
おれはノアが呪い持ちだろうが、なんだろうが構わない。石のままで大事にする。でもそれはノアが嫌だろう。
おれもノアと話せて、抱き寄せて、抱きしめ返してくれて、笑いかけてくれることを体験したら、もう駄目だ。もうこの幸せを離せない。
一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。
ノアはまだ照れているけど、当たり前みたいな毎日が幸せだ。
自己肯定感の低いノアは自分なんてって思っていそうな時がある。おれはそれは違うと言う。
ノアは誰よりも丁寧に人も物も扱う。それは誰にでもできることじゃない。
おれを助けてくれたときも何の見返りも求めていなかっただろう。
魔物退治の時も、囮になると言っておれを驚かせた。
誰にも言ってないが、もしかして魔物に同情しているのか。魔物を逃がしたかったのではないかと思えた。
だからおれは魔物に止めを刺した。
ノアがこれ以上魔物に同情して、魔物と一緒にどこかに行くとか言い出さないように。
そんな危うさがあった。
あのロイに対してもだ、あれだけひどいことをされたのに、ノアはロイに呪いを渡すとはずっと言わなかった。呪いだから渡せないと。
あの愚かなロイがノアをまた襲って、ノアを殺そうとした。そしてついにノアが呪いをロイにやると言ってくれた。小さな声で悲しそうに。
どれほど苦しかっただろう。ノアにそんな苦しみを与えたロイは本当に殺すだけじゃ足りない。
ノアは知らないが、生きたまま呪いを移すには、双方の同意がないと難しいと呪術師に言われていた。
だが今回は同意の移動というよりも、回復魔法なしでは助からないほどの致命傷を受けたノアの体を捨てて呪いがロイに移ったと思う。
ロイがノアの元に行ったことに気づいてすぐにドムレットを呼んで一緒に簡易寝所に行った。
青ざめた顔で、血の池の中で目を閉じているノアを見つけた時、自分がどれほど認識が甘かったかと痛感した。
ドムレットを連れてきたことだけは正解だった。ドムレットは惜しげなく上級の回復魔法をかけてくれた。それがなかったら、ノアの命は危うかった。
ノアをこんな風にしたロイは絶対に許せない。
ロイは有名冒険者として名前をはせていたころの面影はない。いっそ引退でもすればいいのに、奴は過去の名声に縋り付いていた。
誰にでも優しくて誰にでも情を持つノアだから、心配だ。
やっとおれに目を向けてくれたと思っても、ノアはおれとは一緒に過ごせないと選択した。
おれに呪いが移るとダメだと言って。そんなこと今更だろ?
おれは構わずノアの世話を焼きつづけた。ノアはやっと動けるようになってからも、可哀そうになるくらい非力で、体力もなく、何もできなかった。
おれを頼ってくれればいいのに、ノアはそれはおれに悪いと思っているようだった。
愛していると告げたおれに、ノアは仕事があるから離れて暮らすと言う。
おれは許せないと思った。だけどノアがおれから離れようとしても、離れられないようにすればいいだけだと気付いた。
身の回りの品をたんまりと入れた鞄を渡した。もちろんノアが一人で暮らすのに困らないよう色々入れて、拡張鞄だから鞄自体貴重な物だし、重量以上の物を入れている。
ノアはありがとうと感動しているが、華奢で力のないノアはそれさえ持てない。
ノアの中では、持てないから置いていくという考えはない。せっかくもらったものは大事にしないとと思っている。だから一生懸命に持つが、一歩か二歩歩くだけでダウンしている。肩で呼吸をしている。
おれは送るよと伝えた。怯えさせないように、努めて今まで通りに。
ノアはありがとうと、素直に言ってくる。鞄も代わりに持つと、ノアはジェイクはすごいなと感動している。一つ一つなんてことのないことに感動しているノアが本当に心配になる。
おれが見てやらないと誰かに騙されそうだ。
一緒に男爵に挨拶に行ったのも、ノアはありがたいって思ってそうだけど、おれは男爵に主張しにいっただけだ。
ノアはおれの大切な人だから、適当に扱うと容赦しない。
幸い勘もよいし、人格的にも問題がないような人でよかった。
おれは貴族を基本、信用していない。
「ふむふむ」と男爵は頷いている。
恋人のために、挨拶に来ていると思っているようだ。どうして一緒に暮らさないのか、どうしてノアが働きに来ているのか不思議に思ったようだが、何も言わない。
きっと働きたいというノアの想いにおれがこたえたのだと思っている。その通りなのだが。
とにかくノアの所にいつでも来てもよいと言ってもらえた。
男爵にはそれ相応のお礼もしなければ。困っていることがあれば言ってくださいと伝えておく。
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