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16 生き残った僕
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気を失った僕を抱きながら、ロイドは僕の魔力の静けさに、圧倒的な愛に、何にも比べられないような多幸感を感じた。
そして僕を愛していることに気付いた。
・・・と後で言っていた。
※
「気付いたってどういうこと?」って聞いた僕はちょっと拗ねた。
ロイドは必死になって「リアムを愛しているのは当たり前のことなんだけど、あの時おれは自分の意識がはっきりしてなくて、意識が戻った時に自分の愛する存在と抱き合って一つになっている幸せに気づいたんだ」と言う。
それでも上手く説明できないみたいで頭を抱えて呻いていた。
まあ許してあげよう。狂暴化でそれだけですんだんだから。
結果、僕とロイドは生き残った。
今も二人で公爵邸のロイドの部屋で暮らしている。
やっぱりその前にキスや愛していると気持ちを伝えあって、魔力を交換していたこと。ロイドが肉体的にも精神的にも成長もしていたのがよかったのかも知れない。
僕が全面にロイドを受け止めていたこともよかったのかも知れない。
あるいは・・・。
何が正解かはわからないが。
あれでもマイルドに狂暴化できたといえる。
もしかしたらミエールのことがなければ狂暴化もしなかったかもしれない。
それだけ僕らの魔力の親和性が高いってことだから、ふふんっどうだってなる。
誰にも自慢できないんだけど。
公爵様の率いる捜索隊に助けられてから、公爵邸のロイドの部屋のベッドで、随分僕は長いこと寝ていたらしい。
捜索隊が洞窟にいる僕を抱き抱えて泣き叫んでいるロイドを見つけてくれた。
ロイドの凶暴化はその時には治っていたらしい。
僕は気を失っていた。
ロイドが僕から離れなくて大変だったらしい。他の人が僕を運ぼうとすると暴れた。
なんとか公爵が「今帰らないとリアムが一生目を覚まさないぞ」とロイドの首根っこを掴んで揺らして脅したらしい。
結局、ロイドが僕を大事に抱えて公爵邸に戻ってきたと、後でメイドのロイルから聞いた。
「大事に大事に抱えていらっしゃいました」
目を覚ますとロイドはでっかい図体なのに、子供の姿の時と同じように僕にしがみつくように抱き着いて寝ていた。
以前は僕の腕の中に収まった体は、反対に僕がロイドの腕の中に収まっていた。すっとした鼻梁と長いまつ毛、公爵に似ているけど、目を閉じているとあどけないロイドの腕の中にいるとわかって、僕は安心して目を閉じた。
生きている! 夢じゃないよね? 夢でもいい。
ロイドと一緒なら。
僕は安心してまた目を閉じた。
また目を覚ますと、枕元には心配した僕の家族が集まって泣いていた。あーこれ前にも体験したことがある。あの時は僕は体調が戻らずそのまま死んだんだ。
だけど、今僕は生きている。そっと手の指や体を動かしてみる。手も足も痛くない。起きることもできた。
起き上がってクッションにもたれてみる。
「無理しないで」と母が言う。
「リアム痛いところはないか」と兄。
「リアムこんなことになるなら、やはりお前を公爵邸にやるんじゃなかった」父が嘆いている。
「僕を助けてくれたのはロイドなんだよ」僕はロイドを庇いたいが、声はほとんど出なかった。でも微かに笑うことはできた。
いつのまにか薬を用意してくれていたロイドから薬を受け取る。
すごい苦い薬だ・・。
家族はとにかく大事にしてくれといって去っていった。また僕はロイドの指を握りながら眠った。
うつらうつらと日々を過ごす。
また目を覚ますと、ロイドがまた僕の世話をしてくれていた。
ロイドは僕より二回りは大きくなったんじゃないかと思う。
僕の体の成長は相変わらず停滞しているから、子供と大人だ。
そんなロイドが僕の侍従みたいに背中にクッションを当てたり、水を飲ましてくれたり世話を焼いてくれる。
ロイドは僕の顔をみたら、何がほしいかわかるみたいだ。
主人と役割が交代している。だめだと思うけど、毎日が眠くて仕方がない。
僕の体は生きているのが不思議なほどだったらしい。その影響だろうか。
そんな風に幾日か過ぎた。
※
ある日、目を覚ますと窓の外には、月。
いつか一回目のロイドが凶暴化したときに見たように、月明かりで部屋が光と影で染まった。カーテンや天蓋の布に陰影をつき、影が僕を襲ってきそうだ。
だけど僕は怖くなかった。
隣にはやっぱり僕に巻き付くようにくっついて寝ている一回目と同じくらいに大きくなったロイド。バカみたいに大きくなったのに、怖くなかった。
そういえば立ち耳や尻尾が見えない。少し残念に思う。
あの時と同じ大男になったのに、僕のロイドだって思った。
僕は動かない重たい体をなんとか動かして、眠っているロイドの額にキスをした。大人以上に大きくなったのに、やっぱりどこか幼いロイドに笑いが小さく込み上げる。
あーやっと終わったと思った。
ロイドの狂暴化が終わり、僕がその後も生き残る道にやっと来た。
あの時の怯えて全てを諦めて泣いていた僕に言いたい。僕は生き残ったよ。
だから安心して、ロイドも僕も、もう大丈夫だから。
片隅で蹲って怯えて泣いていた僕。
顔を上げて。
暗闇の中縮こまっていたあの頃の僕は顔を上げて、明るくなっていることに気づいた。
バアッと明るい顔になって、笑顔になった。
そしてその姿はキラキラと輝き、消えていった。
僕幸せになるからね。
※
この後に、もう一つだけやることが残っている。それは前回ではなかったことだから、どうなるかわからない。
ロイドの凶暴化が治れば契約終了で、ロイドの前から消える事。
契約をしたときは僕は狂暴化するような男と離れたかったから、願ったり叶ったりだった。でも今は僕はロイドを愛している。ロイドも僕を愛しているだろう。
別れちゃったらロイドがまた狂暴化するよ!? って公爵を脅しちゃう?
今まで僕にもらったお金は延命グッズの購入以外には使ってないから随分残っている。一億マルソも入るし。
それを公爵に返してもなんとかならないだろうか。
公爵にもらった再生の石はまだ同じように胸元で輝いている。あの時に石の力を使ったのかどうかわからない。だけど生き残った要因の一つだと思う。
僕は会っていないが、僕が気を失っているときに、公爵は様子を何回か見に来てくれていたらしい。
僕にとって父よりも頼りになる”お父様”だった。
公爵邸に戻ってから自分の部屋には戻らず、ずっとロイドの部屋で寝ていた。
僕の体調が戻ってから初めての公爵との晩餐が今日ある。
そして僕を愛していることに気付いた。
・・・と後で言っていた。
※
「気付いたってどういうこと?」って聞いた僕はちょっと拗ねた。
ロイドは必死になって「リアムを愛しているのは当たり前のことなんだけど、あの時おれは自分の意識がはっきりしてなくて、意識が戻った時に自分の愛する存在と抱き合って一つになっている幸せに気づいたんだ」と言う。
それでも上手く説明できないみたいで頭を抱えて呻いていた。
まあ許してあげよう。狂暴化でそれだけですんだんだから。
結果、僕とロイドは生き残った。
今も二人で公爵邸のロイドの部屋で暮らしている。
やっぱりその前にキスや愛していると気持ちを伝えあって、魔力を交換していたこと。ロイドが肉体的にも精神的にも成長もしていたのがよかったのかも知れない。
僕が全面にロイドを受け止めていたこともよかったのかも知れない。
あるいは・・・。
何が正解かはわからないが。
あれでもマイルドに狂暴化できたといえる。
もしかしたらミエールのことがなければ狂暴化もしなかったかもしれない。
それだけ僕らの魔力の親和性が高いってことだから、ふふんっどうだってなる。
誰にも自慢できないんだけど。
公爵様の率いる捜索隊に助けられてから、公爵邸のロイドの部屋のベッドで、随分僕は長いこと寝ていたらしい。
捜索隊が洞窟にいる僕を抱き抱えて泣き叫んでいるロイドを見つけてくれた。
ロイドの凶暴化はその時には治っていたらしい。
僕は気を失っていた。
ロイドが僕から離れなくて大変だったらしい。他の人が僕を運ぼうとすると暴れた。
なんとか公爵が「今帰らないとリアムが一生目を覚まさないぞ」とロイドの首根っこを掴んで揺らして脅したらしい。
結局、ロイドが僕を大事に抱えて公爵邸に戻ってきたと、後でメイドのロイルから聞いた。
「大事に大事に抱えていらっしゃいました」
目を覚ますとロイドはでっかい図体なのに、子供の姿の時と同じように僕にしがみつくように抱き着いて寝ていた。
以前は僕の腕の中に収まった体は、反対に僕がロイドの腕の中に収まっていた。すっとした鼻梁と長いまつ毛、公爵に似ているけど、目を閉じているとあどけないロイドの腕の中にいるとわかって、僕は安心して目を閉じた。
生きている! 夢じゃないよね? 夢でもいい。
ロイドと一緒なら。
僕は安心してまた目を閉じた。
また目を覚ますと、枕元には心配した僕の家族が集まって泣いていた。あーこれ前にも体験したことがある。あの時は僕は体調が戻らずそのまま死んだんだ。
だけど、今僕は生きている。そっと手の指や体を動かしてみる。手も足も痛くない。起きることもできた。
起き上がってクッションにもたれてみる。
「無理しないで」と母が言う。
「リアム痛いところはないか」と兄。
「リアムこんなことになるなら、やはりお前を公爵邸にやるんじゃなかった」父が嘆いている。
「僕を助けてくれたのはロイドなんだよ」僕はロイドを庇いたいが、声はほとんど出なかった。でも微かに笑うことはできた。
いつのまにか薬を用意してくれていたロイドから薬を受け取る。
すごい苦い薬だ・・。
家族はとにかく大事にしてくれといって去っていった。また僕はロイドの指を握りながら眠った。
うつらうつらと日々を過ごす。
また目を覚ますと、ロイドがまた僕の世話をしてくれていた。
ロイドは僕より二回りは大きくなったんじゃないかと思う。
僕の体の成長は相変わらず停滞しているから、子供と大人だ。
そんなロイドが僕の侍従みたいに背中にクッションを当てたり、水を飲ましてくれたり世話を焼いてくれる。
ロイドは僕の顔をみたら、何がほしいかわかるみたいだ。
主人と役割が交代している。だめだと思うけど、毎日が眠くて仕方がない。
僕の体は生きているのが不思議なほどだったらしい。その影響だろうか。
そんな風に幾日か過ぎた。
※
ある日、目を覚ますと窓の外には、月。
いつか一回目のロイドが凶暴化したときに見たように、月明かりで部屋が光と影で染まった。カーテンや天蓋の布に陰影をつき、影が僕を襲ってきそうだ。
だけど僕は怖くなかった。
隣にはやっぱり僕に巻き付くようにくっついて寝ている一回目と同じくらいに大きくなったロイド。バカみたいに大きくなったのに、怖くなかった。
そういえば立ち耳や尻尾が見えない。少し残念に思う。
あの時と同じ大男になったのに、僕のロイドだって思った。
僕は動かない重たい体をなんとか動かして、眠っているロイドの額にキスをした。大人以上に大きくなったのに、やっぱりどこか幼いロイドに笑いが小さく込み上げる。
あーやっと終わったと思った。
ロイドの狂暴化が終わり、僕がその後も生き残る道にやっと来た。
あの時の怯えて全てを諦めて泣いていた僕に言いたい。僕は生き残ったよ。
だから安心して、ロイドも僕も、もう大丈夫だから。
片隅で蹲って怯えて泣いていた僕。
顔を上げて。
暗闇の中縮こまっていたあの頃の僕は顔を上げて、明るくなっていることに気づいた。
バアッと明るい顔になって、笑顔になった。
そしてその姿はキラキラと輝き、消えていった。
僕幸せになるからね。
※
この後に、もう一つだけやることが残っている。それは前回ではなかったことだから、どうなるかわからない。
ロイドの凶暴化が治れば契約終了で、ロイドの前から消える事。
契約をしたときは僕は狂暴化するような男と離れたかったから、願ったり叶ったりだった。でも今は僕はロイドを愛している。ロイドも僕を愛しているだろう。
別れちゃったらロイドがまた狂暴化するよ!? って公爵を脅しちゃう?
今まで僕にもらったお金は延命グッズの購入以外には使ってないから随分残っている。一億マルソも入るし。
それを公爵に返してもなんとかならないだろうか。
公爵にもらった再生の石はまだ同じように胸元で輝いている。あの時に石の力を使ったのかどうかわからない。だけど生き残った要因の一つだと思う。
僕は会っていないが、僕が気を失っているときに、公爵は様子を何回か見に来てくれていたらしい。
僕にとって父よりも頼りになる”お父様”だった。
公爵邸に戻ってから自分の部屋には戻らず、ずっとロイドの部屋で寝ていた。
僕の体調が戻ってから初めての公爵との晩餐が今日ある。
応援ありがとうございます!
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