亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第一章

空から落ちた死神は少女と出会う。1

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「わああああああああああぁぁあぁぁああ」

 オレはどこから落とされたのか。考える隙もなく、物凄い速さで急降下していた。雲になった水蒸気が顔に当たる。地面に当たる恐怖で必死に目をつむる。
バサバサバサッ
「つっっっ」
葉がこすれる音。感触的に木に落ちているのだろう。バキバキベキベキと枝が折れる音もする。
ドサッ
「ぐっ、たぁっ…………」
落ち終わり、しばらくそのまま横たわっていた。
恐る恐る目を開けると、見えるのは空、と枝が中途半端に折れ空中にぶら下がって揺れている木々。辺りの木の多さから森か林に落ちたことがわかった。
「あいつ、殺す気か…………」
オレを落としたであろう赤髪の死神を思い出しながら、勢いよくオレは上半身を起こした。
「はっ」
ぺたぺた両手で自分の身体の至る所を確かめる。
「な……あんな高さから落ちたんだぞ……?」
気がつけば無傷に五体満足でいた。落ちた瞬間に痛かったはずの背中もすでになんともない。
「はは……」
オレは思った。
オレはどこかの森で迷い遭難し、今の今までそれを忘れてただけで。どこからか滑り落ちた瞬間に気を失ってただけなんだと。
気を失ってた間、変な夢を見ていただけ……。
──「夢じゃないってば」
赤髪をした自称死神をもう一度思い出す。
「………………」
確かに、ここがどこかもわからないのに夢だったという証拠もない……か。
「それに……」
なんだか自分の服装には違和感がしていた。
黒くて長いローブに、黒いシャツとズボン。さっきまで着ていた服とは違うような……。
これじゃまるで──
「『死神』じゃないか」


 ただその場に座り込んでいても何も解決しないため、オレはここがどこか確認するためになにかないかと探すことにした。
「よっ」
土で不安定な足元。立ち上がり服に付いた汚れを手で払いながら全身を動かす。
「やっぱりなんもないよな……」
痛みも何もない身体に、空から落ちていた事実との矛盾を感じながらオレは適当に歩き出そうとした。
その時、ひらりと自分の服から下に、なにかが落ちるのが見えた。
「なんだ……?紙?メモ?」
拾い上げて折りたたまれたそれを広げる。
〈こっちで調べて得ている情報!
 その1、その少女は学生らしい。
 その2、森の中のお寺に住んでるらしい。
 その3、両親の影はなし、一人暮らし?
 その4、生活には困ってない模様、資金面は問題がない?
追伸、1日の終わりにちゃんと仕事の報告はいれること!以上! メル〉
「………………」
「雑だな……」
とりあえず夢ってことにしようとしていたオレの考えが甘かったらしい。事実がどうであれ、夢は夢なのだと思いたかったのに。
「『死神』の仕事か……なんだっけ……」
メルとの会話を思い出す。『神様』とかいうメルの上司からの依頼。

──「えーっと。〈ここ最近、死期を迎えていない人間の勝手な死が増えているような気がします。処理するのが緊急になるから面倒くさいので、原因調べてどうにかしてください。神様〉だって。」

「雑だったな……」
「それでそれをどうにかしろとか、結局やることは何もわからないじゃないか……」
「はぁー……」
オレはため息をついた。仕方ないがやるしかなさそうだ。


 今までの聞いた情報を整理すると、その原因に関わってそうな少女がいると。
それでメルのメモによると森の中に寺があってそこにいる、らしい。
らしいってのが曖昧すぎて気になるが、他にアテもない。それにメルがオレを落としたとして、全く関係のない場所に落とすか……?
そう考えると、オレが今いるこの森が少女の住んでる森なんだろう。
(というか、森に住んでるってなんだよ。めちゃくちゃ野生児、的な……? 親の代わりはオオカミとか……)
突飛した想像をしつつオレは行く先を決める。
「まずは、日が暮れる前に寺探しか……」
太陽の方向を見る。細かくはわからないが昼過ぎだろう。夕方までそんなに時間はない。ここには人工的な明かりもないだろう。そうなると暗くなって探すどころじゃなくなる。
「とりあえず、歩くか」
簡単には会えそうにない、そう覚悟した。
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