亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第二章

亡くし屋の仕事を死神は手伝う。3

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 亞名は自炊をする方ではないらしい。作ってもお味噌汁、それとご飯を炊くだけ。自分一人ならそれで構わないと言っていたが、オレに配慮してコンビニで色々買ってきてくれた。
「種類沢山あるな」
「なにが欲しいかはわからなかったから」
「なんか、豪華だな」
ボソッと口から出た言葉。机に広げたいくつもの惣菜やコンビニ弁当が今まで見たことない豪華さだとオレは思ったのだ。
「コンビニの、なのに?」
「そう、だな」
なんでそう思ったかまではわからない。けど、それはオレが生きてた時には体験したことなかった出来事なんだと、なんとなく誰かに申し訳なさすら感じた。
「…………食べないの?」
「あ、ごめん。亞名は何がいいんだ?」
「……特にないからかずと先でいい」
「いや亞名が買ってきたんだし──」
言いかけて、やめる。どうせこのまま遠慮したとして遠慮合戦が始まるだけだ。
「よし、じゃんけんしよう」
「……なんで?」
「なんでもだよ」
「そう……」
「最初はグー──」
「じゃんけんってどうやるの?」
出鼻をくじかれた。
「え、今までやらないで生きてきたのか?」
コクリ、と亞名は頷く。
「えーっと、手のひらで形を作ってだな──」
オレはじゃんけんのやり方を教えてやった。
「なんで最初はグーなの?」
「さすがに知るかよ……」
「そう」
「まぁ解ったならやるぞ、最初は──」
オレがグーを出したと同時に亞名が手のひらをひらいて出した。
「………………」
「勝ち?」
「いや、そのルール上それを勝ちと言っていいのかはあれだけど……」
「?」
「まぁ……勝ちでいいから、好きなもの選びな」
「うん」

 亞名はこういう順序を踏めば素直に選ぶらしい。それが知れただけでもこのじゃんけんにはきっと意味があったんだろう。
「これにする」
「オムライスにしたのか」
「お母さんが昔似たものを作ってくれてたと思うから」
「…………なんか悪かった」
「?」
「気にしないなら問題はないよ。えっとオレは……」
手に取ったのは無難な幕の内弁当。焼き鮭、卵焼き、ご飯、煮物。質素なのは亞名が作ってもあまり変わらなかった。それを疑問に思った亞名が聞いた。
「他にもいろいろあるよ?」
「なんか、オレが贅沢してもな。それに、やっぱり懐かしいんだこういうのが」
「そう」
「亞名はオレのことをそんなに聞かないな」
「必要はないから」
「そうなのか?」
「かずとが死神っていうことも、いつ出逢うかも、雇うってこともわたしは
「え」
「あの人。魔女さん……この間の声の人? に全部教えてもらってた」
「そうなのか。ていうかそういう大事なことは早く言えよ……」
「大事なことなの?」
亞名はやっぱりそういうことに疎いらしい。
「…………亞名がいいならいいよ」
「うん」
「食べるか」

「ンニャッ」
 お弁当を開いた瞬間、狙っていたかのようにしろが机の上に乗っかり、オレの焼き鮭をかっぱらっていった。
「あ、おいこら!」
しろは焼き鮭を咥えたまま廊下を走り去って行った。追いかけようとしたが、すでに他の部屋に逃げたか見当たらなくなったため断念。
「大丈夫?」
「しろに餌あげてなかったのか……」
「ごめんなさい」
「いやオレが油断してたから、いいさ」
「他になにか食べ──」
「?」
亞名が話すのを中断し、ポケットから携帯端末を取り出す。
「………………」
少しだけ亞名の雰囲気が変わった気がしたが、一瞬で元に戻った。
「なにかあったか?」
(そりゃ学生だし、友達とも普通に連絡取ったりするか)
そんな風に気楽に考えていたが、亞名はそれを読んだかのように否定する。
「依頼」
障子の間から吹いた隙間風がオレ達の間を通過する。少し肌寒いそれはその場の空気を変えた。
「……そうか」
「明日の夜。行ける?」
「え? あぁ」
オレは亡くし屋専属の死神になった。それは決まったこと。もしかすると、他の死神よりよっぽどハードなのでは? と疑問がよぎったが、オレ自身でも決めたことだ。
「というか、病院以外にもあるのか?」
「うん。たまに。ここに連絡が入る」
「そういうのどこで知って……」
「あの人が連絡くれる」
「なるほど」
亞名に亡くし屋の力を与え、ゆく先々の予見もし、伝える。さっき亞名に魔女とも言われてたが。本当にそうなら亡くし屋の営業くらい朝メシ前だろうな。と納得した。
「ご飯途中でごめんなさい」
「オレは気にしないからいいよ」
「そう」
「………………」
「………………」
二人静かに夜ご飯を食べ終え、その後寝支度をした。部屋に一人になった途端に初仕事の疲れが襲ってきた。
(亞名は疲れないのか? 肉体的にというより……)考えながらオレは寝落ちた。
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