亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第二章

夜更けの風は冷たさを残す。

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 結局帰ってもオレは眠れず、寝転んだまま太陽が登るまでただただ天井を眺めたりぼーっとしていた。
(亞名は「これが仕事だから」と割り切るのかもしれない。それもそれで少しおかしい気もするが、死神のオレはこの仕事と事実をどう受け止めればいいんだ?)
自問ばかりを繰り返していると、亞名が起きたのか足音が聞こえてきた。
「かずと、起きてたの?」
通りがかりにオレの部屋を覗いたのだろう、亞名が声をかける。
「ちょっと、寝れなくてな」
オレは寝ころんでいる体勢を変えずに答える。
「そう」
「亞名はちゃんと寝れたのか?」
「うん」
「そう、か」
やはりというかなんというか、亞名は普段と何一つ変わらなかった。声のトーンが暗くなることもなく、いつもの純粋無垢な雰囲気は曇らない。それは少し不気味ささえ感じる。
「じゃあ、わたし行くから」
「学校か、気をつけて」
「うん」
会話するため少しだけ開けた部屋の障子をパタンと閉め、亞名の足音は遠ざかる。
再び一人になり、また天井を見つめた。
(この寺、古い建物なのは確実だが木材が腐るわけでもなく、どこも適度な綺麗さに保たれているんだな)と部屋の細かいところを眺めながらそういうことを考えたりもする。
(その維持費用も、亡くし屋の仕事あってか……)
亞名は自分が生きていくためにこの仕事をしているんだ。亡くし屋はなにも『死』の強制はしていない。だから殺すという意味にはならないのだろう。
(そういう意味ではわかっていても、何が正しいのかはわからないんだよな……)
「ふぁーあ」
さすがに眠気が襲ってきたため、少しだけ仮眠することにした。

 何かがオレの髪を触っている。と思うとその次は顔に手をかけてきた。
「でっ」
一瞬の地味な痛みに驚き、飛び起きる。横にはしろが耳を立てて嬉しそうにしていた。
「いやお前爪たてんなよ……」
「ニャ?」
その腹を空かせた黒猫は、悪気もないような顔をしてオレが完全に起き上がるのを待っていた。
「まだ昼間じゃないか? ったく」
オレはよっと立ち上がり、ダルさの残る足取りでしろの餌を取りに行く。
カツカツとしろの餌を食らう姿を見ていると、自分も腹が減ってきた気がした。
(確かこの前亞名が大量に買ってきてたコンビニ飯が冷蔵庫に残ってたっけ)
たぶん『此の世』にいるせいだろう。死神でも、死んでいても、腹は減る。思い返すと、天界と此の世の狭間ではそんな風に思いもしなかった。
(というか、随分オレも慣れたんだな……)

 最初は、天界やら此の世やら、死神なんてもの信じる気もなかったし、自分が死んだことすら認めてなかった。でも段々とこれがオレの『現実』だってことが分かってきたところだ。それには亞名、亡くし屋との出会いが大きい。
(オレは死んでるけど、亞名は生きてるんだよな……たぶん)
亞名のほうが日頃、否人間じみた言動や行動をするからわかりにくかったが、現に今も学校に行ってる最中の女子高生だ。
(オレは、亡くし屋を手伝って何をすべきなんだろうな)
生きていた頃の記憶を取り戻すのは前提だが、時間はかかる。その間、昨晩のような依頼はまたあるだろう。普通の人には見えないオレが説得なんてできるわけもない。そもそも説得をする必要性もあるかわからないが未だ煮え切らない想いがあるのは確かだ。
(見守るだけ……か)
死神の仕事、そして亡くし屋と、その少女亞名。今はまだその存在意義すらわからない。きっとオレは今まで、生きている間はそんなことを考えてこなかったんだろう。この決められた運命をどう進むべきなのかオレにはまだわからない。
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