亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第二章

しぼんだ蕾は花に憧れる。1

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 腹ごしらえも済まし、亞名が学校から帰るまでにまだ時間はあった。その場でぼーっとしているくらいならとオレは気分転換のため街に降り、どこかの公園にでも寄っていようと考えた。
(といっても、他人と関わるわけじゃないしな……)
「あ…………」
足を止める。そこは家電屋さんでいくつものテレビ画面が点きっぱなしで流れていた。
〈続いて、昨夜○×市の△□中学校で遺体として発見された、その学校に通う14歳の少年の飛び降り自殺と見られる事件ですが──〉
「………………」
〈「きっとねいじめられてたんですよ」「学校側はいじめの事実はないと否定しているようですが」「でもねぇこの歳の子が自殺するなんて、いじめじゃなくてもね大抵なにか嫌がらせされてたとかね」「前日に家のタンスにしまわれてたお金がなくなっていたって話もありますが」「まぁ本当はいじめるやつが死ねよって思ってるんだろうけどね、こうするしかなかったんじゃないですか」──〉

(他人の『死』について随分と勝手に喋るんだな……)
と感想を抱いてしまったが、きっとこのニュースを見ているだけの人達も日常会話の中で勝手に話題に上げ、勝手にこの少年を語るんだろう。
(オレだってきっと知らなかったらそうしてた)

「──さん、お兄さん」
 しばらく勝手に少年を語るコメンテーター達を眺めていると、
「そこのお兄さん」
声をかけられた気がした。
「え?」
声がした方を見ると、自分よりは歳上だろうか、スーツ姿の女の人が立っていた。
「よかったらこれ、今キャンペーン中なんですよ」
営業スマイルを完璧に身に着けているその人は、持っているチラシをオレに見せながら説明しようとしていた。
(オレの姿って普通の人には見えないはずじゃ……?)
「あの、」
「あー!忙しかったですかね!すみません足止めしてしまって」
「いやあの、」
「でも本当に今お得なんですよ!見てください!」
「あのだから」
「あ、興味湧いてきましたか? じゃあぜひこちらに……」
「すみません!」
「え……」
オレは怒涛の喋りをなんとか止めようと大声になってしまった。

「あ、ごめんなさい。えっと、確認なんですが、オレのこと見えてるんですか……?」
 我ながら不思議なことを言っている自覚はあったが、この場合正しいのだろう。死神だし。
「え、あ…………」
女の人はカァーっと顔が赤くなり、周りを見渡す。他の通行者はチラチラと女の人を見てはいるがそれは決していい視線ではなかった。
「ごめんなさいっ」
そう言うと足早に去ってしまった。
「なんだったんだ……?」
と、ふと何かが落ちていることに気が付き、それを拾い上げる。それには話しかけてきた女の人の顔写真と会社名、そして名前が書いてあった。
「あ、落とし物…………」
去っていった先を見るがもう姿は見えない。
「さて、どうするか」
走っていったってことは近くに会社があるかもしれないし、オレは他人には基本的に見えないため届け出ることも難しい。
「かといって拾ったものをまた落としておくのはな」
あの人がオレのことが見えるなら、オレが届けたほうが早そうだと思い、オレは彼女が走っていった先を追いながらその会社を探しにいった。
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