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第三章
失くした日々は夢か現か。4
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あとはもう、半分うろ覚えでしかなかった。翌日、本人確認のためと警察の人に呼び出され、否が応でも現実を見せつけられた。そこでとてつもなく叫んだのか全く定かではないが喉が焼け付くように痛く、声なんかもうでなかった。
愛歌が持っていた鞄や私物を渡され、オレは家に帰らされた。付き添いだった警察官がドアを閉めた際に、
「大丈夫ですかね……あれ」
「いやぁ大丈夫じゃないでしょ」
と言っているのが聞こえた。
こんな時でもそういうのだけは鮮明に覚えてるものなんだ。と人間の頭の悪さに落胆する。
しばらくは何もできなかった。ただ立ち上がることもできずに床に倒れ込んだまま、何回か日が昇って暮れるのを空が勝手にしていた。
なんにも考えることすらもしていなかったある日。ふと愛歌の鞄を渡される時に何か言われたことを思い出す。あれはなんだっけ。
「これ、愛歌さんと共に落ちていた鞄とその中身ですが……。もしかすると愛歌さんはイジメにあっていたのかもしれません」
「い……じめ?」
放心しすぎてその時は言葉の意味すらまともに受け取れなかった。が、今思い返すとそう言われた気がする。
起き上がって愛歌の鞄を開ける。すると愛歌の文字ではない文字で沢山の悪口がノートや教科書に書き込まれていた。
「は、はははは」
オレはいつの間にか掠れた声で笑っていた。
(なんで、なにも気づけてあげれなかったんだろう。愛歌を守るとか言って、なにが守るだよ。なんでオレは知らなかったんだよ。なんで──)
呆れすぎて笑いながらまた泣いた。
愛歌の受けた痛みを少しでも理解できるように、その悪意の塊を端から端までじっくり見ることにした。ページをめくっていると、何か別の紙が挟まれているページがあった。
(なんだこれ……)
見るとそれは何か書いてあるものでもなく、丁寧に封された手紙の形をしていた。一度開けた形跡がある。
オレはその手紙を開く。そこにはこんなことが書いてあった。
──〈亡くし屋に興味はありませんか? 貴方は自分で、自分の意志で死を選ぶことができるのです。その死は痛くも辛くもありません。ただ眠るように死ねるのです。貴方は今、死にたいと思ってはいませんか?〉
(なんだこの、たちの悪いイジメは)
その時はイジメている奴らが悪ふざけのつもりで種類の違う嫌がらせをしたんだろうと思った。
「けど、違ったんだな」
オレは虚空に話しかける。
「いるんだろ、魔女」
そう言うと、黒猫が一匹姿を現した。
「あら、バレるの早いわね」
「……またしろの姿を借りて」
「違うわ、だってここは貴方の意識の中。貴方は私の姿を見たことが無いから、それに近いイメージの姿をしているだけ」
「なんでもいいけど」
「いいのよ、回想を続けてくれて」
「別に、このあとは何もないだろう」
「そお? 貴方がどうやって死んだか興味があるわ」
「……このあと」
このあとオレは、さすがに腹が減ったのを自覚して買い物に出かけたんだ。家にあるものはすべて腐っていたから。けど、考えながら歩いていたつもりだったが、まともに歩いてすらなかった。信号すらちゃんと見えてなかった。見えていたところで、という話でもあるが。
あとはもう気づいたらあの場所にいた。大事なことも全て忘れ去って。生きていたのはそんな日々だ。きっとどこにでもある少し悲惨だっただけ。という人生。
「あらよくわかってるじゃない」
「オレのことはどうでもいいんだよ。それよりちゃんと教えてくれ」
「何を?」
「とぼけるなよ。あの日、愛歌のノートから手紙が出てきた。あれは亡くし屋の招待状だ」
「えぇ」
「愛歌は……亞名、いや亡くし屋に依頼したのか?」
「さぁ」
「さぁってなぁ!」
「あら怖い。じゃあ見せてあげる。貴方の愛しい愛しい妹が死んだ日を」
愛歌が持っていた鞄や私物を渡され、オレは家に帰らされた。付き添いだった警察官がドアを閉めた際に、
「大丈夫ですかね……あれ」
「いやぁ大丈夫じゃないでしょ」
と言っているのが聞こえた。
こんな時でもそういうのだけは鮮明に覚えてるものなんだ。と人間の頭の悪さに落胆する。
しばらくは何もできなかった。ただ立ち上がることもできずに床に倒れ込んだまま、何回か日が昇って暮れるのを空が勝手にしていた。
なんにも考えることすらもしていなかったある日。ふと愛歌の鞄を渡される時に何か言われたことを思い出す。あれはなんだっけ。
「これ、愛歌さんと共に落ちていた鞄とその中身ですが……。もしかすると愛歌さんはイジメにあっていたのかもしれません」
「い……じめ?」
放心しすぎてその時は言葉の意味すらまともに受け取れなかった。が、今思い返すとそう言われた気がする。
起き上がって愛歌の鞄を開ける。すると愛歌の文字ではない文字で沢山の悪口がノートや教科書に書き込まれていた。
「は、はははは」
オレはいつの間にか掠れた声で笑っていた。
(なんで、なにも気づけてあげれなかったんだろう。愛歌を守るとか言って、なにが守るだよ。なんでオレは知らなかったんだよ。なんで──)
呆れすぎて笑いながらまた泣いた。
愛歌の受けた痛みを少しでも理解できるように、その悪意の塊を端から端までじっくり見ることにした。ページをめくっていると、何か別の紙が挟まれているページがあった。
(なんだこれ……)
見るとそれは何か書いてあるものでもなく、丁寧に封された手紙の形をしていた。一度開けた形跡がある。
オレはその手紙を開く。そこにはこんなことが書いてあった。
──〈亡くし屋に興味はありませんか? 貴方は自分で、自分の意志で死を選ぶことができるのです。その死は痛くも辛くもありません。ただ眠るように死ねるのです。貴方は今、死にたいと思ってはいませんか?〉
(なんだこの、たちの悪いイジメは)
その時はイジメている奴らが悪ふざけのつもりで種類の違う嫌がらせをしたんだろうと思った。
「けど、違ったんだな」
オレは虚空に話しかける。
「いるんだろ、魔女」
そう言うと、黒猫が一匹姿を現した。
「あら、バレるの早いわね」
「……またしろの姿を借りて」
「違うわ、だってここは貴方の意識の中。貴方は私の姿を見たことが無いから、それに近いイメージの姿をしているだけ」
「なんでもいいけど」
「いいのよ、回想を続けてくれて」
「別に、このあとは何もないだろう」
「そお? 貴方がどうやって死んだか興味があるわ」
「……このあと」
このあとオレは、さすがに腹が減ったのを自覚して買い物に出かけたんだ。家にあるものはすべて腐っていたから。けど、考えながら歩いていたつもりだったが、まともに歩いてすらなかった。信号すらちゃんと見えてなかった。見えていたところで、という話でもあるが。
あとはもう気づいたらあの場所にいた。大事なことも全て忘れ去って。生きていたのはそんな日々だ。きっとどこにでもある少し悲惨だっただけ。という人生。
「あらよくわかってるじゃない」
「オレのことはどうでもいいんだよ。それよりちゃんと教えてくれ」
「何を?」
「とぼけるなよ。あの日、愛歌のノートから手紙が出てきた。あれは亡くし屋の招待状だ」
「えぇ」
「愛歌は……亞名、いや亡くし屋に依頼したのか?」
「さぁ」
「さぁってなぁ!」
「あら怖い。じゃあ見せてあげる。貴方の愛しい愛しい妹が死んだ日を」
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