あの時

ソメイヨシノ

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図書室の彼 4

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校舎に入り、図書室に向かおうとしていた所で先生に会ってしまった。

「あれ、卒業生がここでなにしてるんだ?忘れ物か?」

「図書室に忘れ物しちゃって」

彼が言い終わるより先に先生が言った。

「そうか、でも図書室の司書さんは今日体調崩してて欠席してるから入れないんだよ」

「そうですか…」

「でも図書室の忘れ物も全部職員室に保管しているから、職員室に行くといいよ」

「わかりました」

彼は振り返って、私の顔を見た。

「どうする?」

「えっ、どうするって」

忘れ物を取りに職員室に行くんじゃないの。と、言うより先に彼は言った。

「忘れ物、嘘なんだよね」

いたずらっぽく彼が笑う。

「なんで嘘ついたの?」

私としては二人きりになれてラッキーだったけど、なぜ彼は嘘をついたのか全く分からなかった。

「二人きりになりたかったから」

照れくさそうに、私から視線を逸らした。

二人きりになりたい、なんてもう恋愛の意味でしかないのに。
この時の私は、ただただ困惑していた。

そんな私を見ながら彼は言った。

「ごめんね、困らせたよね。わざわざ二人きりにさせてごめんね」

ごめんね、なんて謝ることないのに。
彼と二人きりになれて嬉しかったのに。

「ううん、大丈夫」

告白なんてできなかった。
二人きりになれたのに、そのチャンスを彼が作ってくれたのに、ずっと無言のまま校舎を出た。

「元気でね」

彼が去っていく。
追いかけることも、声をかけることも出来ずに見えなくなっていく。

多分お互い好きだった。
告白すればきっと、家の電話番号くらいは知れたかもしれない。

けど今となっては何も残らず、彼との思い出への後悔だけがただ、私の中に浮かんでいる。
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