【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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10 『絶対に開けないで』

「ただいま、おかえり、カズイ」

 家の玄関に入るなり、慧はにっこにっこで俺の背中を押した。

「ちょちょちょ、もう帰らないと! 今日はリスナーさんと配信する約束しちゃったから、俺は帰るよ」

 時刻は既に九時半近く、慧の家からは二駅で三十分見れば帰れるけど、出来れば十時前に配信を始めたいところだ。

「ウチで配信すればいいじゃん。機材ならそろってるし、出来るじゃん」
「え~? でも」
「いいじゃん、お願い。カズイの配信、大好きだから、見たいの」

 ほんのり頬染めて、少し舌っ足らずになった慧の破壊力よ。酔った慧はいつもより可愛いのに、強引で火の玉ストレートだ。
 にぎにぎと、寝る前の猫みたいに服の裾を揉んでいる。

「も~、しょうがないな。……じゃあコンビニ行ってくるから待ってて」
「なんで? 何でも使っていいよ?」
「……下着の替え、とか買うの」
「俺の新しいの使えばいいよ?」

 カッと顔が熱くなる。本当に、無防備過ぎて嫌になる。隠しているのはこっちで、慧は何も知らないし親切心だってのは理解っている。
 何も言えなくなった隙に、部屋に引っ張り込まれる。慧はにへ~っと笑って、俺を配信部屋に連れて行った。

 デスクトップが置かれている机に俺を座らせ、慧はパソコンを立ち上げた。酔っているのにすらすらと準備していくので、配信稼業が身についてるなあと大人しく待つ。
 高級なゲーミングチェアの座り心地に感心していると、基本的な準備は終わり、あとは引き継いだ。

 今日はFreeK始め事務所のほとんどが入っている、建築と冒険ゲームのサーバーで、作業雑談で配信予定だ。
 枠も立てて用意が出来たので振り返ると、慧はわくわくした顔で、フロアソファで正座待機をしていた。

「えっと? ここに居るの?」
「うん、絶対邪魔しないし、静かにしてる」

 いや、視線が煩くて、いまいち集中出来ないんだが……。でもあんなキラキラした顔をされると、無碍にも扱えない。
 ふと二つあるモニターの下に、慧と花翠のもちぬいが並べて置かれているのに気づく。前回は気づかなかったな。

 このぬいはもっちもちの手触りが気持ち良くて、デフォルメされたキャラデザがめちゃくちゃ可愛くて、俺も気に入って、メンバー全員のを家の机に飾ってる。
 机には他のぬいは無く、コンビだから律儀に俺の分も飾ってくれたんだろうか。慧はぬいぐるみに興味を持つタイプじゃない。

 そっけないデスク周りに、もちっと寄り添ったぬいだけが異質で、それ故に慧のコンビ愛や、いじらしさみたいなのを感じてしまった。

「最初に慧の家から配信してるって言うから、自由にしてていいよ」
「カズイ……! そ、それはやめて、俺は今リスナーの一人だし……!」
「は?」

 途端にぶんぶんと全力で手を振った慧に、ピキりかける。なんでじゃ、意味分からん。お前が連れ込んだんじゃろがい。
 体育座りになった慧が、早く配信を始めろとキューを出す。いそいそとスマホを取り出して、ミュートで画面を見てるらしい。

 画面に映った花翠の待機画面三千人の中に、リアルで背後に居る相方が居るんだよなあ、と変な気持ちになりながら配信を開始した。



「はい、じゃあ、今日はこんなとこで。スパチャ、高評価、チャンネル登録、メンバー登録ありがとう。初見さんもいつも見てくれる人も、本当に本当にありがとう。また次回もよろしくお願いします。寒くなってきたから風邪引かないでね、おやすみバイバーイ」

 配信を終わらせ、ちゃんと切れたことを確認してパソコンの電源を落とす。何とか無事に終わったと後ろを振り返ると、慧はすっかり横になり寝落ちしていた。

 あれだけ配信見たいとか言ってた癖に。まあ、酒に酔ってたから仕方ない、許してやるか。
 そ~っと近づくと、スマホを持ったまま口を少し開けて、すうすうとあどけない寝顔を晒していた。

 あまりに気持ち良さそうに寝ているため、起こすのも忍びないけど、さすがに慧を運ぶのは厳しい。デカいし重いから、手荒に引き摺ることになる。
 起きなければここで二人で寝れば良いかと思いつつ、遠慮しながらも慧に声をかける。

「慧、起きろ~、配信終わったよ~」
 
 少し揺すってみても、スーピーと全然起きる気配は無い。今日はこのまま、ここで二人雑魚寝にするか。幸いフロアソファは二人で寝転がれるし、下もふかふかだからそう辛くないはず。

 ただやっぱり冬だけあって、夜はちと寒い。寝室から毛布を持って来るついでに、洗面所で歯ブラシの新しいのをもらい、簡単な寝支度を済ませる。シャワーは明日朝借りよう。

 寝室に許可なく入るのは気が引けたけど、慧も俺も風邪を引く訳にはいかないので、背に腹は代えられない。
 そっと入った寝室は相変わらずシンプルで。……なんと、布団が入っている収納が無かった!

 広いウォーキングクローゼットには、おしゃれな服やバックが整然と並んでいるだけで、前回借りた客用布団が無い。かと言ってベッドから引き剥がすのも、と悩んだところで物置の存在を思い出した。

『絶対に開けないで』

 慧の声が浮かんだが、後で謝ることにしよう。別にどんなに汚部屋でも、例え恥ずかしい物、如何わしい物があっても華麗にスルーするし。それに何でも使えって言ってたし。

 家主に無断で家探しする罪悪感に、勝手ながらそろそろ疲れてきてしまった俺は、慧の言いつけを破って、玄関脇の部屋へ向かった。

 取っ手に手をかけて、なるべく余計な物を見ないように、ささっと済ませようと、静かに扉を開く。
 薄暗い部屋に、扉の動きに合わせて廊下の光が細く差し込んでいく。
 キィィと蝶番が微かに軋む音が、深夜の廊下に響いて、知らずに唾を飲み込んだ。

「……っ!!?」

 扉の先の暗闇の中、ぼんやりと浮かんだ人影に、冗談抜きで心臓が止まりかけた俺は、声無き悲鳴を上げた。マジでチビらなかったこと、卒倒しなかったことを、褒めて欲しい。
 だが代わりに毛根が死んだ恐れはある。

「っ、っ……っ……、……?」

 引き攣れた呼吸をしながら、逃げることも出来ずにいると、暗闇に慣れた目が状況を把握していく。

「……ぇ、……これ」

 恐る恐る部屋の入り口の明かりを点けると、人影が見えた位置にあったのは、等身大パネルだった。

「……お、俺?」

 そこに居たのは空原花翠、つまり俺のキャラパネルだった。しかも前に展示イベントで使ったやつ。

「……?」

 一度ドアをそっ閉じして、目を擦ってからもう一度開ける。
 しかし、やっぱりそこにあったのは、空原花翠の等身大パネルだった。

 混乱の極みに陥ると、人は何も考えられなくなる。多分今、俺の脳はバグってる。
 ふらふらと少しだけ中に踏み入ると、壁には花翠がメインのポスターや、花翠の公式Tシャツや限定タオルが飾られている。

 更にパネルの奥に、祭壇らしき物まで見えた。祭壇への理解は脳が拒んだが、アクスタや様々なグッズが山と積まれていたように思う。
 しかし俺は、それ以上目が情報を拾う前に部屋の電気を消して、外へ出て扉を閉めた。

 それから寝室に戻り、掛け布団や毛布をベッドから剥ぎ取り、慧の下へ戻り隣に寝転んで、二人へ均等に布団をかけてスヤァと目を閉じる。

「いや、寝れるかい!!」

 カッと目を見開いてハァハァと怒鳴る。
 いや、どう見ても推し活だよな、アレ……。しかも強めの重課金勢。相方が俺の推し活をしていて、さらに重課金勢とは?? 全く意味が分からんが??

 ぎっと睨んでも、慧はにへっと笑いながら眠りこけていた。
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