【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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13 相方の推し愛が重くて強火な件について

 相方の推し愛が重くて強火な件について。

「カズイ、これもどうぞ」
「カズイ、汗拭いて」
「こっち座って、カズイ」
「カズイ」

 スタジオで企画撮影の最中、俺は控室のパイプ椅子でぐったりと燃え尽きていた。
 意識すると、慧は本当に、一緒に居る間はずっと、ずーっと俺の世話をしている。

「どしたー、カズカズ」

 控室に入って来た悠くんが、隣に座ってお菓子に手を出す。

「いや……、あの、悠くん、変なこと聞くけど、慧、いつもより世話焼きじゃない?」

 チョコレートの包装を剥きながら、悠くんは心底不思議そうに首を傾げた。

「いつも通りだろ。あんなもんじゃん?」
「マジか~」

 一つチョコレートを口に放り込んでから、悠くんはもう一つ剥いて差し出してきたので、素直に口を開ける。

「おわ!」

 ガチンと、後から間に入り込んできた慧が、悠くんに齧りつく勢いで、チョコレートに噛み付いた。

「あっはっは、この狂犬がァ。お座り!」

 悠くんは爆笑しながら立ち上がり、慧に拳骨を落とした。悠くんも若干分からないとこがあって引くけど、この人の場合、悪いこと以外は何でも許容する性格の発露だと思いたい。

 やや指を齧ったことを説教されている慧は、しらっと明後日の方を見ている。
 俺の視線に気づくと、慧はジッと俺を見つめ返した。人前だと笑わないけれど、少しだけ目元が緩んでいる。

 俺はそっと目を逸らして、項垂れた。これ、多分、間違いないよな。もしかしなくても、嫉妬だよな。
 あれか、慧は俺の強火ヲタだったか~。しかも推し活全振りタイプか~。全然気づかずに、享受しちゃってたわ~マジ。
 いや~、相方がな~。俺を推してるとはな~。いや~、いや本当……。

 相方だから逃げ場が無い!

「カズイ、どしたの? 具合悪い?」
「ううん、全然、大丈夫」

 悠くんの説教から解放されたのか、慧が反対側の隣に座って顔を覗き込んできた。
 心配そうな顔に、少し息を吐く。別に、慧の献身が嫌な訳じゃない。訳じゃないんだけど。

「チョコ食べる?」

 俺だけに見惚れるくらいに綺麗に笑って、チョコを剥いて差し出してくれた慧に、心臓がきゅっとなる。
 つくづく俺は馬鹿で、またノンケなんかにときめいてんだから、本当救いようが無い。

 来週に控えたクリスマスのための撮影を行い、解散になった時には日が暮れていた。
 今日は皆時間が無くそのまま解散で、さあ帰って配信だと駅に向かおうとすると、慧が追いかけて来た。

「どした? 今日はスタジオで蓮くんとオフコラだろ?」
「うん。あの、カズイ……」

 慧は黒マスクをしていて表情は良く分からないけれど、目だけは激しく泳いでた。

「ク、クリスマス、配信する?」
「ああ、どっちかやろうかなと思ってるよ。年末年始は二日くらい休むし」

 背の高い慧を見上げると、そわそわした指先がぐっと握り込まれた。

「じゃっ、じゃあ、イブに家でホラゲーオフコラ配信しよ」
「は?」

 一瞬で氷点下になった心のまま見つめると、慧は前のめりになった。

「カズイの好きなケーキとチキンとシャンパン用意する。あと、イブに頑張ったら、佐々井さんが二十五日はゆっくり休んでいいって」

 配信頻度や休み、戦略は基本的にこちらの意向を汲んでくれるし、定期的に配信してれば、多少の突発の休みにしても怒られはしない。
 けど、レッスンや企画撮影、突発案件もあるので、マネージャーに対して一ヵ月の行動計画表を提出して、最低限は割らないように、出来る限りその通りにしている。
 給料も固定給は低めで、その分広告収入の歩合制のため、頑張れば頑張った分反映されるシステムでもある。

 FreeKに関しては、どんどん売りたい時期なので、露出に関しては佐々井さんとも良く相談している部分だ。
 だが、その佐々井さん公認で、気持ち良く世間のイベントデーに休めると言うのなら。
 そして―。慧をジッと見つめると、たじろいだように瞳を揺らす。

「シャンパンは却下。ノンアルな」
「う、はい……。でも、オッケーってこと?」
「まあ聖夜に俺らのコラボで、せいぜい皆を笑かしてやろうぜ」

 そう拳を出すと、慧はマスク越しで油断しているのか、分かるくらいはっきり笑って拳を合わせてきた。

 慧と別れてクリスマスイルミネーションに飾られた、駅までの道を弾むように歩いて行く。
 慧とクリスマス。そう考えると、心のどこかで浮かれた気分が湧き上がってくる。

 良くない傾向だ。弁えろと、頭の中の冷静な部分が言っている声も、どこか遠くに聞こえてしまう。

 神は特定の信者を愛してはいけない。信者は等しく大事で愛すべき存在。
 だから、慧からの愛だけを特別に重く受け取ってはいけない。そもそも慧は相方だし。

 推しとして大事にされていると、しっかり理解して、適切に受け止めなきゃ。
 何度も繰り返したそれを反芻しても、浮き上がる踵が抑えきれないから、やっぱり相当浮かれてる。

 通りがかりの広場で、クリスマスマーケットが行われていた。たくさんの人で賑わい、遠くに大きなツリーや美味しそうな湯気も見える。すごく幸せそうな景色だった。
 クリスマス当日は、クリスマスマーケットに二人で出かけても良いかも。慧はイルミネーションも好きそうだったし。

 二人でご馳走食べて、ケーキ食べて、次の日はそのまま一緒にだらだらしたり、出かけたりとか。
 この前みたいに、ロマンチックなところで、くっついてみたり。

 なんて触れられた手首をそっと握る。あの日の台詞が、『空原花翠』に向けられたものじゃ無かったら、良かったのに―。
 
 バチンと自分の頬を殴った。
 今、自分が何を考えたか。ゾッとして、駅まで走り出す。
 
 一過性の推し活に、何を期待してるんだ。今まで持てなかった夢を、慧に全部見ている。
 空原花翠が見ない夢を、見てはいけない。俺はもう、空原花翠として生きて、人に夢を見せる存在なんだから。

 完璧に演じないと。そうじゃないと、意味が無い。空原花翠じゃない自分に価値なんて無い。
 皆が俺に夢を見てる。慧だって、そう。ちゃんとやらなきゃ飽きて捨てられる、コンテンツだ。

 皆に蔑まされ拒絶された俺が、唯一受け入れてもらえる場所を、俺は死に物狂いで守らなきゃいけない。
 この場所に居続けなきゃ、他に居場所なんてないんだ。

 すっかり冷えた心を取り戻したところで、ホームに電車が滑り込んで来て、たくさんの人を吐き出して、また吸い上げた。
 俺もまた、その中の一人だった。
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