【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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17 ホワイトクリスマス!

「カズイ、起きて、カズイ!」
「ふぁ……?」

 昨晩あのまま眠ってしまった俺は、揺すり起こされて目が覚めた。一瞬頭が働かなくて、目を瞬かせる。
 慧は昨夜のことなんて忘れたみたいに屈託無く、寧ろどこか興奮したみたいに、顔を輝かせていた。

「……早いね、慧」
「あっ、ごめん。でもさ、ちょっと来てよ」
「おわっ!?」

 眠気でぼやっとした俺を待ちきれなかったのか、慧は毛布ごと俺を縦に抱えて、掃き出し窓へと駆け寄った。

「見て」
「うわ……、すご、雪積もってる!」
「な、すごくない?」

 バルコニーの手すりに薄っすらと、氷みたいな溶けかけの雪が朝日に照らされている。
 俺を腕に抱いたまま、慧は珍しく子供みたいに笑った。

「ホワイトクリスマス!」
「あー、そうだね。通勤の人たち大変だろうなぁ」
「それはそうだけど。一センチも無いから、すぐ消えちゃうよ。……嬉しくない?」

 あからさまに肩透かしみたいな表情をしたので、ふっと笑って頭を撫でてやる。

「見れて嬉しいよ。起こしてくれてありがとう」
「へっへー。そうだろそうだろ」

 何だかいつもよりテンションが高い慧は、俺を布団にそっと戻した。

「まだ寝てていいよ」
「……慧は?」
「俺は色々、野暮用が」
「え? 忙しいの?」

 何か用があるのを無理矢理空けてくれたのか、と不安になって身を起こす。視線で問うと、慧は目を逸らした。

「や、朝飯の準備、とか」

 叱られる前の生徒みたいな顔をしながら、歯切れ悪く返してくるので、わざと大きな溜息を吐いてみせる。

「昨日の残りあるし、二人でやろうよ。ずっとホテルじゃなくていいから」
「でも」

 まだ言い募ろうとした慧を手招きする。ちゃんとのこのこ近づいてきたので、手を引っ張って布団に引っ張り込む。

「!?」

 硬直した慧にも布団をかけて向かい合わせに横になり、ポンポンと肩を叩く。

「あ、え? か、カズイ、ふざけてる……?」
「いんや? もうちょっと寝よ。夕方近くに出ればいいじゃん」

 ふわあと欠伸をすると、慧は目を泳がせて逡巡しているようだった。

「な、布団から出されて、冷えたんだけど。責任取ってくれよ」
「ああ、毛布足す、」

 ころんと胸元に寄ると、慧の体は強張った。本当に矛盾して、一進一退した思考と欲に振り回されて嫌になる。
 でも許されるなら許して欲しい。

 おずおずと伸ばされた大きな手が背中に触れて、ホッとしながら目を瞑る。
 静かな部屋の中、一つの布団に包まって、ただ体温だけを分け合って微睡んだ。



「カズイー、道大丈夫だから、車で行くよねー?」
「あーい!」

 洗面所で支度をしていると、廊下の向こうから問いかけられたため、返事をしておく。
 前回出来た俺コーナーにある歯ブラシを見ながら、数回泊まっただけなのに、すっかり同棲感が出てるように思えて静かに赤面する。

 ホラゲーオフコラはかなり好評で、まだ何回かは確実に続ける方針で、慧が場所提供を譲らなかったため、お泊りセットまで置いている始末だ。

 あまりにも、あまりにも慧と過ごすのは居心地が良い。多分だけど、慧が全部合わせて配慮してくれて、知らない間に先回りして整えてくれているからだと思う。それも悟らせない形で。

 慧は何でそんなに、俺を推してくれるんだろう。『空原花翠』の何が、慧を魅了したんだろう。歌もダンスも好きで頑張ってるし、平均以上になるように努力してるけど、メンバーの中で一番地味だし。
 ゲームも好きだけど、プロ上がりのVは山のようにいて、これも特別じゃない。トークも普通だし。

 もちろん世界に向けて発信しているから、分母の大きさで、ファンになってくれる人は多くいる。事務所も業界三番手くらいの、今急成長中として注目されているし。
 八十億人中の中の二十万人が、俺を推してくれて、さらにその中の一人に相方の慧が含まれてる。

 相方だから推してくれてるのかな。いつからそうなんだろう。

「カズイ?」
「はいっ」

 洗面所を覗きに来た慧と鏡越しに目が合う。慧は目元を緩めた。

「オシャレしてる。かっこいいね」
「ふぁー、ま、まあ、せっかくですし。慧もじゃない?」
「そう、気合入れた」

 何でもないことのようにさらっと言った慧が、後に立ってワックスを掬う。大きな手が頭に優しく触れて、髪を整えていく。
 心地良さに、ぼーっとなすがままに任せていると、セットが終わり、何だかいつもより垢抜けている。

「いかがでしょうか」
「最の高です」

 一々心が弾むのが止められない。慧とは日常の一コマでも、楽しくなる。

「あっ、風強いらしいから」

 慧は玄関に掛けていたマフラーを、俺の首に巻き付けてきた。スンと香った慧の匂いに、顔が赤くなる。
 実は俺も今日はプレゼントを用意していて、マフラーだったりする。今渡しちゃうか、後にするか悩みどころだけど、お返しを気遣われても困るし。
 帰って来たら渡すか。そこまで考えて、ナチュラルに慧の家に帰ろうとしていた自分に引く。

「ふふ、カズイ雪だるま」
「お前が巻いたんだろー。でもサンキュー」
「よし、じゃあ行きますか」

 いつもよりピシッと決めた慧がマスクをしてから、手を差し出す。当たり前みたいに手を繋いで、マンションの地下駐車場に向かった。

 いや本当、これが常態化してるのヤバないか。煩悶している内に助手席のドアを慧が開けてくれて、流れるように乗り込んで、ダッシュボードに頭を打ちつけたい気持ちでいっぱいになった。

 この王族扱い、癖になったら不味いやつだ。車のエンジンがかかり、スムーズに発進する。

「寒い暑いあったら、いつでも言って」
「ふぁー、い……」

 視線を道の先に向けて、真面目な顔で運転する慧が、これまた格好良い。運転も安全で丁寧だし、マナーはちゃんとしてるし、安心して身を預けられる。
 黒のSUVはシートも座りやすく、慧に似合っていて、それを悠々と運転するのが様になってる。
 メロ……。ダッシュボードに頭を打ちたくなる二回目だったけど、運転中の奇行は何とか堪えた。

 スマホからお気に入りの曲を流して、朝の雪の混乱が消えた街を車は走る。
 冬の日の入りは早くて、もうすぐ暮れる光が厚い雲間から差して、濡れたビルや家を照らしている。
 道行く人は忙しそうだったり、楽しそうだったり、何にも無さそうだったり。

「わりとパーキング混んでるな。少し歩いても良い?」
「もちろん! ぶらぶら歩くのも楽しいじゃん。俺、慧と一回服とか買いに行ってみたかったんだよ」
「そうなんだ。一回と言わず、いつでも行くよ。じゃあ今度良さそうな服屋に行こう」

 クリスマスマーケットの開かれている大きな公園は、近くにこの間の焼肉屋がある飲み屋街があって、駐車場がちょうど空いていたため、そこに入れることにした。
 一瞬だけ嫌な顔を思い出したけれど、頭を振って車を降りる。またドアを開けてくれた慧と目が合ったら、そんな嫌なことは吹き飛んだ。
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