【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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19 なんかさ自意識過剰じゃね?

「カズイ、誤解しないで、聞いて欲しいんだけど。……俺、実は」

 冬の夜気に微かな沈黙が落ちて、慧が意を決したように唇を開いた。

「鴫原!」

 突然響いた声に、ビクリと体が反応した。忘れもしない、桧木の声だ。

「なんで……」

 息を弾ませながら走って来た桧木は、ベンチに座る俺の前に塞がるように立ちはだかった。

「あの辺りに良く来るのかと思って、ずっと探してたんだ。お前と会いたくて」
「……は?」

 告げられた言葉を理解する前に、本能的に鳥肌が立つ。こいつは一体何を言ってる?

「今日ようやく見つけられて良かった。でもその男は何? 新しい彼氏?」
「……行こう」

 慧を引っ張って立ち上がる。得体の知れない気持ち悪さが一瞬で怒りに変わったせいで、目の前がチカチカした。

「待って、待てって! 話がしたいって言っただろ!」

 伸ばされた腕が、慧によって跳ね除けられ、その腕の中に庇うように引き込まれる。

「お前、この間の奴だろ。この人に触んな。消えろ」

 ナイフみたいな鋭く冷たい声で、慧は俺を後に庇いながら一歩前に出た。

「あんたには関係無いだろうが。俺は鴫原と話があるんだ。邪魔するなよ」
「お前みたいなストーカー野郎、虫唾が走る。警察呼ぶぞ」

 慧の声は本気で、俺は慌ててその腕を引いた。警察沙汰なんてなったら、慧はもちろん事務所にも迷惑をかける。ユニットを潰すような真似、絶対駄目だ。

「二度と関わらないなら、一言だけ聞いてやる。何の用だ」

 慧の背中から前に出たものの、直ぐに庇えるようにか、腰を抱かれて半身くらいは慧に寄り添う形になる。

「二人きりが良いんだけど。……お前はその男に聞かれて良いの?」

 桧木が何を話題にしたいのか悟り、息を飲む。本当に今更何を言うことがあるのか。

「ごめん、少し離れてて」

 慧を見上げると、ぐっと口を結んで堪えている様子だった。大丈夫、と目だけで笑うと、慧は渋々少しだけ距離を開けた。

「何かしようとしたり、指一本でも触ろうとしたら、すぐ通報するからな」

 取り出したスマホを見せながら、慧は桧木を睨んだ。

「なあ、あの時は飯田たちのせいで、疎遠になっちまって残念だったけど、また昔みたいに戻りたいんだ」

 桧木はうっとり笑って俺を見た。一気に蘇った過去に呆然とする。

「……お前、何言ってる? 飯田たちのせい? 流出させたの、お前だろ」
「……え?」

 桧木の余裕ぶった顔が、ピタリと固まった。体が何故か、小刻みに震える。怖い訳じゃないのに、不思議な感覚だと、頭のどこかが冷めてる。

「やったのは確かに飯田と高梨だけど、お前が影で笑いながら何してたか、……俺は見たから、知ってるんだぞ?」
「……えー、……そっかー……」

 無理に口角を引っ張り上げた、嫌に粘着質な目で見られて、生理的な嫌悪感が増す。

「俺を見捨てた癖に、二人になると友達ヅラして、その割に裏ではエグいことやっておいて。俺はお前が、一番気持ち悪かった」
「……そんなこと言うなよ、傷つくじゃん」

 はーと息を吐いて笑いながら髪をかき上げた桧木は、明らかに雰囲気が豹変した。一歩踏み出された分、距離を取る。

「だってお前がいつまでも、俺のところに落ちて来てくんねーからさ。俺だって考えるだろ?」
「な、に……?」

「だからー、先に目をつけたのは俺の方なのに、飯田みたいな猿に良いようにされて、やりまくってんだもん。腹も立つだろ。お前は鈍いし」

 喉が鳴るのが自分で分かった。桧木はすっと目を細めて顔を近づけて来た。

「大好きな飯田にヤリ捨てられて、クラス皆からも嫌われて、家族にも捨てられた可哀想なお前を優し~く慰めて、俺だけにする予定だったのに。まさか見られてたとはなァ」
「……!」

 はく、と唇が戦慄いた。トラウマの記憶が洪水みたいに押し寄せて来て、立ってるので精一杯だ。

「……まさか、家にUSBを投函したのは、……お前、か……」
「……さあ、どうだろうな」

 心底おかしそうに歪んだ笑みを見せたのが、答えだと思った。

「お前は卒業後姿を消すし、家族も引っ越しちゃってるし、結構探したんだぜ。でもこの間、運命的に再会できて確信したよ。今も昔も、お前を一番想ってるのは俺だから、お前は俺の物になるべきだって」

 俺はただ阿呆みたいに桧木を見た。怒り、憎しみ、悍しさ、吐き気、そういう負の感情が一気に喉元まで迫り上がって、情けないことに何の言葉も出なかった。
 
 だけど桧木とのこれまでを思い出して、本能的にどう振る舞えば良いのかを悟り、一か八か試してみる。俺は見下して見えるように笑った。

「なあ、お前、何年前の話してる訳? 俺は別にもうどうだって良いんだよ。だってお前らが教えてくれたもんな? たくさんとすると楽しいって」
「は?」

 挑発しながらジッと見ると、桧木の片頬が微かにヒクリとした。

「今じゃたくさんのオトモダチがいんの、俺。お前が土下座して、その中の一人に加えて欲しいって泣きながら頼むなら、それこそ道具代わりに使ってやって良いけど?」

 トドメにそれっぽく見える風に嘲笑うと、思惑通りに桧木の顔が真っ赤になる。

「ふざけんなよ……っ、このアバズレが! お前なんか誰からもまともに相手されない癖に! お前には俺しかいねえだろうが!」
「いや、だからたくさん居るって言ってんじゃん。なんかさ自意識過剰じゃね? ……そんな必死になっちゃってさ、俺しかいないのは、お前の方じゃねーの?」

「このっ……!」
「触んなつったよなァ……?」

 桧木の手が俺の胸倉を掴む前に、背後から伸びてきた慧の手がそれを阻む。

「いっ……」
「俺の身内に弁護士いんだ。これ以上しつこくすんなら、出るとこ出るぞ」

 慧の手が、めりめりと桧木の手首を締め上げる。顔を歪めた桧木が呻くと、慧はようやく解放する。後退った桧木は恨めしげに俺と慧を見た。

「お前、こいつのあだ名知ってるか? オナホだぞ。俺らのお古のクソビッチと、せいぜいよろしくやってろよ」

 そう吐き捨た桧木は顔を真っ赤にしたまま、踵を返して去っていた。支配的でプライドが高い奴は、これでもう俺への接触を諦めるはずだ。
 少しだけ息を吐いて俯く。隣に立つ慧を見上げることが出来なかった。

「……ごめん、……変なことに巻き込んだ」

 もうほとんど慧に聞かれてしまっただろう。慧がどう思ったかを考えると、膝が震えるほど怖くなってきて、それだけ言うのが精一杯だった。
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