【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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21 俺の名前は

「スイの頃から、ずっと好きだった」

 そう言った慧は悲しげに睫毛を伏せ、俺を解放した。それからこちらに背を向け、ベッドサイドに座り込んで頭を抱える。

「こんな風に告げるつもりじゃなかったのに」

 俺も身を起こし、その背中をジッと見つめる。好きだという告白と、『スイの頃』という言葉。

「スイ、って、まさか―……」
「うん。翠が個人で配信してた時から、俺、ずっと知ってた」

 衝撃の告白に言葉を失う。個人配信というと高校生の頃だ。登録者六百人のアカウントで、卒業と同時に消したものだ。
 慧がそれを知っているなんて。

「結構、俺のコメント拾ってくれてたから、会話してたんだぜ、あの頃から。俺、スイのこと好きだったから、事務所で会った時にすぐ声で分かった」
「嘘……、誰?」

 はは、と乾いた笑い声と共に、慧は呻いた。

「俺の名前は、慧斗」

 メンバーの本名はもちろん全員把握済みで、慧の本名は星野慧斗だ。

「慧斗、……けいと、……もしかして、毛糸さん!?」

 『毛糸』の単語に慧の体が大きく跳ねた。それから増々項垂れて、ぎゅっと縮こまる。それが、答えだった。

 ハンドルネーム、毛糸。熱心にコメントをくれた固定ファンで、その名前には特別な思い出がある。

「慧!」
「……っ」

 がしっとその肩を掴むと、慧は叱られている子供みたいに怯えた瞳をしていた。

「慧が、毛糸さんなの!?」
「……っ、そう、だよ……、俺だ」

 絶望したみたいな顔を俯けて、慧は吐き捨てるように声を絞り出した。

「気持ち悪いだろ、俺のこと……! ずっと黙ってて、お前のコンビにまで収まって! あいつに最低なストーカー野郎って言ったけど、俺だって似たようなもんだ……!」

 自分を痛めつけるみたいな言葉を止めたくて、その頭を引き寄せて抱き締める。

「全然違う! あの日、話したじゃんか!」
「……っ、お、覚えててくれたの……?」
「忘れる訳無いだろ!」

 泣いているみたいに震える頭を撫でながら、奇跡みたいな出来事に、腕の中の大きな体を強く抱き締めた。




 高校入学を機に配信をやってみようとしたのは、何のことは無い、ただの流行りに乗っかった、有名配信者になれば働かなくても金持ちになれるから、なんてそんな単純なものだった。
 
 歌ったり踊ったり、ゲームするのも好きだった。だからほとんど毎日ネタを探しては、ショート動画も始め、たくさん流行りの動画を撮るようにした。
 そんな中、高校一年で同じクラスになって、たまたま仲良くなったのがギターが上手い飯田で、その縁でつるむようになったのが、奴の幼馴染の桧木と高梨だ。

 配信では歌ってみた動画が一番再生数が稼げたから、俺は熱心に飯田にギターを習って、弾き語りも始めた。俺のギターは中々求めるレベルにならなくて、小学生の頃から兄の影響で弾いていた飯田は殊更に格好良くて憧れていた。

 飯田は顔も良いし、話すのも上手くて、笑いのセンスもあるし、ギターを教える時に触れる指先が硬くて、近付くだけで胸が苦しくなった。
 元々小学生の頃から、ドキッとするのは異性じゃなくて同性だった自分を、もしかしたらという可能性じゃなくて確信したのもこの頃だ。

 とても告げる勇気は無くて、でも二人きりで空き教室でギターの練習をする時間はドキドキして、指が触れる度に目が合う度に、馬鹿みたいに尻尾を振ってた。

 結果としては、飯田はそういう俺を見下せる人間だった。
 何をしても良い都合の良い道具だと思った訳だ。

 ある日、何の言葉もなくキスされて、徐々に深い関係になって。思い返せば好きだなんて言われたこともなく、二人だけの秘密にしようといかにも甘い声で言われて、俺はただそれだけで舞い上がってしまった。
 なんせ触る時だけは、甘くて優しい風に振る舞うのだから、恋は盲目ってのは本当で、フィルターのかかっていたお目出度い俺には何にも見抜けなかった。

 誰にも言えない秘密の恋だなんて酔い痴れて、苦しい思いを乗せた歌は一番伸びた。高校二年生の、せっせとオナホとして役割を熟していた頃のこと。

 毛糸さんからコメントをもらったのは、その歌みた動画が最初で、簡潔な言葉だけど、だからこそ本気で褒めてくれてるのが良く分かるもので、すごく嬉しかったことを覚えている。

 毛糸さんは一つ下みたいで、好きなゲームや音楽性、フィーリングみたいなものが良く合った。コメントも鋭い考察や、尖った笑いのセンスがあって、いつもコメントをもらえるかそわそわしてたくらいだ。

 どの動画にも必ずコメントをくれて、ゲームのライブ配信では最初から最後まで付き合ってくれる。
 どんな人なんだろうと、ずっと思っていた。
 思えば毛糸さんを始めとした数少ない固定ファンのおかげで、中々思うようにバズらなくても、腐らず配信を続けられたんだと思う。

 そんな中、高校三年生の夏前に、それは起きた。日直か何かの仕事をしてから、いつもの集合場所の空き教室に向かった。その日の帰りは皆で遊びに行くかって話で、テスト上がりで浮かれてた気がする。

 空き教室の前まで行くと、中からギャハハと笑い声が聞こえた。それが下品で不快な感じで、すぐに誰かの悪口でも言ってるんだと理解した。
 俺はあんまりそういう話題は好きじゃないから、落ち着くまで待とうと、タイミングを測るために扉の前で待機した。

 そこで聞いた会話は、一生忘れられそうもない。思い出したくもないけど、俺は両思いで付き合ってると思ってた奴とは、恋人でも何でも無いって知った。
 それどころかセフレですらなく、ただの道具、吐き捨てるための便所扱いだって知った。

 その衝撃で立ち竦んでいたところに、ちょうど呼び出しのスマホが鳴った。嫌に静かな廊下にその音は大きく響いて、あの時何とか逃げていれば、その後はもっとマシだったと思う。

 会話を聞いていたのがバレてからが、本当の地獄だった。バレたことでタガが外れた飯田と高梨に無理矢理動画を撮られて、その後もしばらく玩具にされた。

 桧木はその時、何て言ったかは忘れたけれど、上手いこと言って教室を出て行った。あいつのズルいところは、直接捕まりそうなことはしないってこと。
 そうやって保身に走った癖に、裏で二人になると嫌にベタベタ慰めるフリをしてきたこと。
 その癖、動画はしっかり持ってたこと。それを同級生に見せながら、嗤ってたのをその後見た。

 それであっと言う間に俺が男相手のビッチだって噂は広がって、クラスでどんどん孤立していった。卒業までまだ半年以上って時だった。
 夏休みも呼び出されては良いようにされて、夏休み開けには学校に行けないほど、メンタルをやられた。

 もう飯田や高梨よりも、昨日まで友達だと思っていた無害な人たちから、一斉に向けられる好奇や差別の目が何より心を抉って、玄関から先に出られなくなった。

 そんな時に、家に封筒が投函されたんだ。バレた時が一番底じゃなかったのは、この後知った。
 
 その封筒に入っていたUSBを、最初に見つけて確かめたのは当時中三の妹。中身は飯田と高梨に脅されて従っているのを、まるで俺が喜んでやってるように見える風に編集された動画だった。

 妹は元々ちょっと潔癖だったから、仲の良い兄のそんな姿を見ておかしくなったし、両親も動画を見て、特に母親が狂った。

 妹も自分も受験だって言うのに、家の中はその日からめちゃくちゃになって、結果として、家は離散することになったんだ。
 正確に言うと、俺と、俺以外の家族で別れることになった。

 まあ、居るだけで妹と母親を苦しめる存在なんて、家族には要らないって判断しても妥当だろう。父親の別居案には、直ぐに同意した。
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