【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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25 毛糸の話1

 暗闇の中横たわって、白く浮かび上がる光を見つめる。
 何もしたくない。
 何も考えたくない。
 眠りたくない。

 手の平サイズの長方形の光は、意味の成さない音と絵を垂れ流していて、見ていても全く意味は理解出来なかった。
 数分間で消費され、飽きて捨てられるところまでいかないくらい、流れて埋もれていくもの。
 空っぽになった自分には、すごく必要なもので、ただただ埋もれていく無数の虚無を黙って見つめ続けた。

 自分より下が居るって、クソみたいな自己承認欲求を満たしたいってだけなのは、自分でも良く分かってた。

 自分では眠れなくて、意識を失うみたいに寝落ちるのは、決まって厚いカーテンの向こうに微かに光が差す頃で。昼夜逆転した生活に、部屋から極力出ないようにと、誰とも会いたくない毎日だった。

 死ぬことすら思いつかないくらい、ただ息をして寝転がって、スマホを見つめるだけの日々。

 そんな日々に、貴方は突然現れた。

 初めは歌だった。少し高めなのにどこかハスキー、それでいて良く伸びる透明感のある声が、流行りの甘い恋の歌を紡ぐのが耳に入って来た。
 弾き語りのギターは少し下手くそで、歌の上手さとアンバランスだったせいか、明確に耳に入って来た。

 ちょっと不器用なのに、真っ直ぐ透明で。優しい語りかけみたいな恋の歌は、嘘みたいに意識に入り込んで、目蓋が自然に落ちた。
 ぐっすりと眠ったのは何ヶ月ぶりだっただろう。

 ただ明滅して目と耳を滑っていく筈だったそれは、その日から俺に、鮮やかな音と色をもたらした。



「ケイトちゃん、可愛いわ。こっちのお花なんかどうかしらぁ。フリルもいいわね。あなた、本当に私の最高傑作だわぁ」

 物心ついた時から、俺は母親の着せ替え人形だった。母は俺に、ドーリーな服を着せるのが大好きだった。

 資産家一族に生まれた外科医の父と、ハーフの美容外科医の母の間に生まれた一人息子の俺は、とても可愛らしい容姿で生まれた。
 両親はどちらも美形、金もある、誰からも羨まれた出自だが、よくある話で家庭内は目茶苦茶だった。

 簡単に言うと両親は子供を持ってはいけない類の人間で、父は自分だけが大切なワーカホリック、母は綺麗なものだけが好きな自己愛の塊。
 家庭を顧みずほとんど関わることの無かった父はまだマシで、問題は母の方だった。

 綺麗なものが大好きな母親は人形が趣味で、それが高じて美容外科医になったくらいだ。
 生まれたのが男だったけれど、それは可愛らしい顔をした子供だったため、母は俺で人形遊びを始めた。

 子供の頃は今より色素が薄くて、アッシュブロンドの髪にヘーゼルグリーンの瞳で、髪を伸ばした俺は大人からは天使みたいに可愛いと言われていた。
 幼稚園では男子からはオカマ外人とからかわれ、女子からは庇われたり好かれたりしていた。

 母親は質の悪いことに職業柄、芸能界とも繋がりがあって、俺をタレントやモデルとして売り出した。もちろん女児として。

 性差がはっきりしてきた十歳まで、俺はそれを続けさせられた。性差が出てくると、それまでの完璧な少女趣味から、中性感のあるボーイッシュな女の子のような格好をさせられた。

 芸能界では偉い人という肩書のおっさんに、隣に座るように強要されベタベタされ、可愛い可愛いと言われ続け、反吐が出るくらい嫌だった。
 そんな俺を見ながら、母親は最高傑作が褒められるのを喜んでいた。

 学校に行けば、男子からは外人、オカマと罵られ、女子からは王子様みたい、付き合ってと付き纏われた。どうもその頃流行っていた少女漫画のヒーローと似ていたらしい。
 まともな友達なんか一人もいない俺を見ながら、母親は次のプロデュース案について、ずっと喋り続けた。

 どこに行っても、俺は容姿のことだけ言われた。可愛い、カッコいい、外人、オカマ、大分類でこんな感じ。
 そこに俺という人間は要らなくて、俺の言葉は誰も聞いてはくれなかった。

 俺が俺の意見を言おうとすると、母親は気狂いみたいに喚いた。

 本当は。

 俺は、ピンクやフリルの女の服は着たくない。黒とか青の、かっこいい男の服が着たい。
 俺は、長い女の髪型はしたくない。短くして、サッカー選手みたいに格好良くしたい。
 俺は、芸能界なんて辞めたい。汚いおっさんの相手なんかするなら、勉強してた方がマシ。

 俺は、金髪も緑の目も白い肌も、明らかに違う顔の造りも、皆と違うものは要らなかった。黒い髪、黒い目の普通になりたかった。

 俺はね、本当は人間の男で、母さんの人形なんかじゃないの。

 そう告げたのは、中学進学の時だ。私立の父親の母校に進むことが決まっていて、それを機に変わりたいと思ったから。

 結果は、母親が狂った。それで元々上手くいって無かった両親は、離婚前提の別居が決まった。
 二人とも家にほとんど帰って来ることはなくなったけれど、俺はようやく母親の人形遊びから解放されたのだった。

 週五日、家政婦が派遣されたのと、父方の弁護士の伯父さんの協力で、暮らしはまあ何とかなった。

 けれど学校生活は最悪だった。男の格好は出来たけど、まあ結局何も変わらなくて、女子からは付き纏われた挙句、変な人と嫌われるか、逆に私が居なきゃとストーカー紛いのことをされるかの二択。
 男子からは外人の癖にイキるなとか、女子にモテるのを僻まれて容姿への蔑みや、ハブりが日常だった。

 これで俺が人付き合いが上手ければ良かったんだろうけど、俺に求められたのは容姿だけだったから、まともな人間付き合いなんて知らなかった。
 おまけに中身はすっからかんどころか、人間不信の捻くれたストレスいっぱいの人形しか残ってなくて、結局友達なんか出来なかった。

 相談なんて誰にも出来なかった。皆、良くも悪くも、俺のガワにしか興味が無くて、俺は彫像かなんかみたいに観賞用に展示されてれば良いだけだったから。

 とどのつまり、皆が俺に求める価値って、母親と同じ、人形だった。
 
 俺はどうしたら人間になれるのか、どうしたら人に人間扱いしてもらえるのか、そう考えてネットの世界で学ぶことにした。
 色んな人気者を見れば、どんな風に振る舞えば良いのか分かるかも知れないと思った。
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