【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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27 毛糸の話3

「俺、この配信でアカウント消す予定なんで」

 高校三年生に上がる直前、俺の神は俺に死ねと言った。

 スイが配信をしなくなってから八ヶ月、久し振りに配信をしたと思って、飛びついたらこの宣告だった。
 あまりの衝撃で、何もコメント出来ず、リスナーが俺しか居ないから、コメント欄も止まってしまった。
 そしたらスイが困ったように笑った。

「良ければ、音声繋いでゲームしませんか?」

 神からの有り得ない提案に震えながらも、断る選択肢は無かった。最後なら尚更。パニックになりながらも通話を繋いで、ついに直接会話することとなった。

「あ、毛糸さん? 初めまして、いつもコメントありがとうございます」

 イヤホンから直接聞こえるスイの声に、もうパニくってまともに挨拶も出来なかった。

「あれ、もしもし? 聞こえてる? 配信は切ったから、普通に声出しても大丈夫だよ?」
「あっ、はっ、いっ」

 アホみたいな返事になって、俺は自分を呪った。スイに会ってから、スイに恥ずかしくないように、まともに生活するようにしてたけど、相変わらず学校では人避けの格好を続けてたせいで、友達は居ないから、人まともに話すのが久し振り過ぎた。

 普段人と滅多に話さないのに、久し振りに会話するのが神とか、ハードルが高過ぎる。

「緊張してる? 大丈夫だよ、俺、ただの一般人だし。ていうか、毛糸さんはずっとコメントで絡んできたから、大事な友達みたいなものだし、って馴れ馴れしいかな」
「ぜっ! ぜぜんっ!」

 え、死にたい。死ねるな、これ。俺の絶望を知らず、慧はクスクス笑った。は? 可愛いかよ。

「ゆる~く遊ぼうか。時間大丈夫?」
「明日日曜だし、予定無いから、よ、余裕っす」
「良かった。じゃあさ、これやろうよ。入ってる? 俺持ってないから一緒にダウンロードせん?」
「うっ、うん、する……!」

 二人でダウンロードしたのは、協力して上に登る人気ゲームだった。
 ゲームをしながら、何が好きとか嫌いとか、流行りの歌や番組、アニメの話、ゲームの話、他愛の無い会話だけど、俺にとってはものすごく貴重な話だった。

 神が、スイとして鮮明な形になってく。話すリズムや声、呼吸の間合い、配信とは違う耳元で聴く、スイの形。
 特別な奇跡みたいで、本当に感動した。

「イッヒ~ヒヒ、待っ、やめ、やめっ、腹よじれ死ぬ、ヒッ」
「あっ、無理、あっ、ッスー……」

 スイはよくゲラゲラ笑った。時々笑い過ぎて過呼吸みたいになってた。まあ俺が緊張し過ぎて、変な話やプレイをしまくってたせいだけど。

 だけど、夢みたいだと思った。俺に誰かと笑って話して、ゲーム出来る未来があったなんて。しかもそれがスイだなんて。

 スイはどうして配信者辞めるの、なんでしばらく停止したのとか、明け方なのに大声で笑える環境なのとか、聞いてみたいことはあったけど、どれも聞いたら壊れてしまいそうで口には出せなかった。

 そうしている内に朝は近づいて、別れの時間もすぐそこに来ていた。俺は一秒でも長く、この時間が続けば良いと願った。
 カーテンの隙間から朝日が射し込んだ頃、笑い疲れた声でスイは言った。

「毛糸さんは、何にも聞かないんだね」
「……スイさんの、嫌なことはしたくない。けど、聞いていいなら聞きたいよ」
「何でも答えるよ」

 ああ、最後なんだなと理解した。だからやっぱり聞かなきゃ終われないんだと思った。俺も、スイも。

「なんで長い間、更新しなかったの? 待ってたよ、ずっと」

 思いの外、拗ねた声になってしまい、イヤホンの向こうで息を飲んだのが分かった。

「ごめんね。……俺なんかを、待っててくれてたんだ……」
「……何かあった?」

 俺の神が自分を自分で貶した。そのことに胸が酷く痛む。

「恋人や友達だと思ってた人に裏切られて、家族からも捨てられて、めちゃくちゃごたついてた」

 努めて軽くした声で、そう告げられ絶句する。

「あ、ごめん、やっぱ重かったか」
「……ううん、大丈夫。俺も中三で両親から捨てられて、一人」
「えっ、そうなんだ。たまたま知り合った二人ともそうなんて……そんなことある? すごい確率だね」

 少しだけ翠が持ち直したので、安心する。

「……それが原因で辞めるの?」
「あっ、それでね、さすがにメンタルやられてたんだけど、すごいVチューバーさんに出会ってさ。おかげで復活したんだ!」

 それを聞いた時に感じたのは、俺たちがすごく似ている嬉しさと、俺の神が他の神を見つけてしまった衝撃だった。

 簡単に言うと、ぐっさり刺さった。傷ついた。スイが誰かに心を救われて、奪われたなんて。

「それでさ、毛糸さんだから言うんだけど、俺もその人、彼方悠大と同じ事務所のVチューバーを目指そうと思って。ガチのガチで。だからそれに専念しようと思って。生活費とレッスン代のバイトに、大学とレッスンって考えると、もう寝る時間も無いからさ」

 誰かに話したかったんだろうスイは、楽しそうにそう一気に教えてくれた。
 俺の中にも、嵐みたいに一気に色んなものが渦巻いた。

「スイ!」
「はっ、はいっ」

 思わず強く呼んでしまうと、スイはびっくりしたように息を潜めた。

「もし俺が同じ事務所のVチューバーになったら! ……一緒にゲーム配信してくれる?」
「は……、何それ……」

 一世一代の告白に呆然とされて、勢い任せでイキった自分を殴り倒したくなる。

「熱、あっつ!! 最高に熱いじゃん! 俺も、今日思ったんだよ、毛糸さんと一緒にゲーム配信したら面白そうだって、やっば、あつぅ~!」

 ああ、俺の神はやっぱり、俺の光で変わらず神だった。

「お、俺さ、スイのこと好き、だから、必ず追いかけるから、何年かかっても、必ず同じ場所に行くから……! だっ、だから、待っててくれますか、応援してるから、夢を叶えて、そこで待っててくれますか……!」

 噛みまくるしどもりまくるし、支離滅裂で不格好な告白だった。だけどスイは、柔らかい声で頷いてくれた。

「うん、待ってる……! 俺も頑張るから、また会えたら、絶対、一緒に配信しよう」
「うん、約束、っ……」

 邪魔になりたくなくて、友達になりたいとは言えなかった俺の精一杯の告白は、すごく大事な約束になって俺を未来へと連れて行ってくれた。



 自覚したばかりの貴方への恋心は、繋がるか分からない微かな糸で、通話が切れた時に俺は泣いた。
 でもそこから俺は、その細くて切れそうな糸を辿って、貴方の元まで辿り着いたよ。

 貴方に会えたら、好きになってもらえるように。体を鍛えて、ダンスも歌も死に物狂いで頑張って、話し方も変えて格好も変えた。前髪だけは切れなかったし、マスクも必須になったけど、貴方に少しでも相応しくなりたかった。

「空原花翠です。よろしく」

 研究生として会った時に、俺はたくさん言いたいことがあって、だけどそのどれも言葉にならなくて。

 スイ、貴方に会いたくて、俺はここまで来たんだよ。これからは俺がずっと、一番の味方でいるから。

 そう告げたら、貴方はどんな顔で笑ってくれるのかな。初めましてと余所行きに笑う貴方に、俺はそんなことばかり思って、また恋に落ちたんだ。
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