【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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30 おまけ 聖地巡礼は突然に2

「慧、ちょっと来い」

 撮影の合間、動画チェックの間の休憩に入った瞬間、悠に呼び出された。いつも陽気な悠には珍しく、語気も強いし有無を言わさない。
 スタジオを出て、人の居ない階段の踊り場に着いて早々、拳骨が落ちた。割と強めで痛い。

「何すんの」
「真面目にやれ。皆分かってんぞ、お前が集中してないの」

 ほとんど同じぐらいの身長で、悠の方が一センチ低いくらいだけど、筋トレマニアでガタイの良い彼が迫ると威圧感がある。

「……ごめん」
「俺にじゃない。今日の企画のために集まった他のライバー、スタッフの皆さん、何より見てくれる視聴者さんにだろ。俺らの代わりは死ぬほどいるんだ。半端な真似してたら、あっという間にここには居られなくなるんだぞ」

 悠の言ってることは正論で、今はVチューバーでいたい俺には、ぐうの音も出ないくらい正しいことだった。

「何かあったんか?」

 俺が反省していることを感じたのか、悠は自販機コーナーに促して、コーヒーを奢ってくれた。あんまり好きじゃないと言ったら、笑顔で圧力をかけられたので、大人しく飲む。

「カズイと全然連絡がつかないんだ。昨日飲み会の帰りから、俺、全然記憶無くて。朝もメッセージ一言だけで。何回も電話してるのに」
「あっ」

 隣を見ると、悠は目を泳がせて半笑いになっていた。

「何か知ってんの?」
「いや別に。お前が甘えたから、カズイがタクシーで家まで送ってったくらい」

「俺が甘えた? 他にはなんかやらかした? 俺、ノンアルしか飲んでなかった筈なのに、なんでか記憶ないしさ、なんも思い出せんし……。カズイに何かやらかしたのか、……今、蓮と二人なのか、とか気になって」
「あっ。……え~っと、それでスマホばっか気にしてたのか」

 何かちょいちょい挟まる『あ』が気になるけど、正直悠とこんな話してるより、早くカズイと連絡をつけたい。焦燥感にスマホを出すと、勝手に覗いていた悠が大きな声を出した。

「うっわ、何この通話キャンセル界隈」

 トーク画面に連続して残ったキャンセルマークを見られたから、パッと視線外に隠す。
 けれど悠が溜息を吐いたので、何だと見返す。

「お前、カズイのこと好きだろ」
「うん」
「……即答かよ。もう少し隠せよ」
「? でも本当のことだし。悠に隠す必要は感じてないし」

 何が悪いのかと首を傾げると、悠は引いた顔をした。

「……お前ちょっとカズイに対して、過剰過ぎるぞ。誰彼構わず威嚇するわ、カズイのことになると他の何も見えなくなるわ」
「だってカズイは俺の全てだし。俺はカズイのためだけに生きてるから」

「あああ重い重い、重いて!?」

 若干距離を取った悠が、自分の体を抱いた。ちょっとムッとする。何にも知らない癖に。

「重くない。カズイが喜ぶことしかしないし、困らせたりなんかしないし、ちゃんとカズイのことリサーチして、タイミングも合わせてる」
「うわ怖い怖い怖いって! おま、それ、本当にカズイ喜んでるか? 押し付けてないか?」

 大袈裟に身震いした悠にカチンとくる。そもそも悠に何か言われたくない。カズイに憧れられて、いつも見つめられてる悠には。
 俺のカズイの特別な存在の悠。いっつもカズイの視線の先にいる悠。カズイとカズイ以外の分類の中で、悠は良い奴だからまあ好きな方に入るけど、この点で言うと大嫌いだ。

「だから、怖くねーって。カズイの嫌がることはしない。カズイは俺の絶対だから」
「あっ、……ッスー……、あぁ……、うん。……まあ昨日の件もあるし、一応お兄さんからの助言な?」

「いらね。悠は兄貴じゃないし」
「おうこれぃ、くっそガキャぁ、良く聞けや。お前のそれ、普通なら息苦しくなるぞ。カズイのためって言うけど、俺にはお前のためって聞こえる。自己満足するために、カズイを振り回すなよ。カズイをちゃんと一人の人間として、尊重しろよ」

 ふと脳裏に母親が浮かんで、絶句する。それきり黙った俺を憐れんだのか、悠は肩を叩いて哀れっぽい笑顔を浮かべた。

「ちなみに、昨日お前にウィスキー飲ませたのは、俺、な!」

 パチンとウィンクしてサムズアップした悠を、反射的に殴ったのは言うまでもない。



 車を走らせながら、ちょっと前のそんな会話を思い出して、俺は少し鬱になった。
 多分、ナーバスになってるんだと思う。クリスマスに晴れて恋人になれた翠の家、つまり聖地に向かってるから。

 恐れ多い、恐れ多すぎる。翠の生活している場所の空気を吸うなんて、耐えられるだろうか。あまりの有難みに昇天する可能性がある。

 だけど恋人が風邪引いて高熱に倒れたってのに、行かない選択肢がある訳無い。翠が死んだら俺も死ぬ。その場で死ぬ。
 と、悠の言葉が蘇って、俺はハンドルを握り締めた。

 俺は違う。母親と同じなんかじゃない。翠に自己満足を押し付けて、自我を無視したりなんかしない。自分の欲望を押し付けたりなんかしない。

 必死でそう繰り返すも、実のところ、俺には正解なんて分からなかった。そう思われていない自信も無い。
 俺の考えは、普通なら息苦しくなるって言われた。俺が母親の人形だった時、確かに息苦しかった。
 それって逆説的に言うと、俺が母親と同じことをしてるって証明なんだろうか。

 答えは出ない内に、車はマンションの向かいの駐車場に着いてしまった。ああ、とうとう着いてしまった、足が竦む。いや、早く行って助けなきゃ。
 矛盾したまま、やっぱり倒れてたらとほとんど走ってエレベーターに乗り、部屋に向かう。

 不安でピンポン連打すると、顔を真っ赤にして虚ろな目でフラフラした翠が出てきてくれた。その姿に一瞬で恋人モードに切り替わるも、次の台詞で撃沈する。

「えっ、慧、だめだめ、帰って!」

 しかし、根性で中に滑り込んで、翠の家に入った感慨で理性が一瞬飛ぶも、何とか看病にこぎ着けた。

 不謹慎ではあるけど、熱を出して弱った翠も可愛い。ちょっと首元がよれたTシャツから、綺麗な鎖骨が覗いてたり、熱があるのに例のホットパンツみたいな短パンから艶めかしい太腿が丸出しなのも、直視出来ないくらいヤバい。

 強引過ぎたかなとか、押し付けないようにと思ったけど、俺を見た瞬間安心しきった顔になったから、やっぱり何が何でも傍に居たいと思った。

 買い物に出てる間に眠ってしまった翠に、少し安堵して食事を作る。
 翠の家は何も無かった。生活必需品はちゃんと揃ってるけど、そこに一切のこだわりや趣味、思い入れなんかは全く見えない家だった。

 多分、この人はここを自分の居場所だと思っていない。俺ですらそれなりにこだわって、居心地が良くなるよう、地に足を着けた生活になるようにしているのに、この家は伽藍堂みたいな感じがした。

 全部一人分の食器を見て、翠の生活が簡単に想像できた。俺たちは本当に良く似ている。俺も翠とのオフコラ企画が出るまでは同じだったから。
 翠を家に呼ぶ口実が出来て、色々と買い揃えてなければ、俺の家も同じだった。
 小さな鍋を取り出して、この人の深い孤独を想った。


 普段中々甘えてくれないのも、拒絶されるのが怖いんだって解ってる。それを免罪符にして、強引にしてきたけども、俺には本当に正解が分からない。
 貴方の深い孤独に、踏み込んで良いのだろうか。俺を受け入れてくれるのだろうか。
 例え間違っても、愛して良いのだろうか。

 言葉に出来ない想いは、俺にもたくさんある。だって俺も拒絶されるのが怖いから。
 普通は違うって言われたら、普通を知らない俺には太刀打ちできないから。

 ずっとじわじわ真綿で包んで俺を浸透させて、好きになってもらえるよう頑張り続けて、ようやく奇跡みたいに恋人になれたのに、相変わらず足りない俺を救ってくれたのは、やっぱり翠だった。

 翠は俺を全部受け止めると言ってくれた。俺の願いは、全然普通だって。
 俺が愛しても許してくれるって。それから。俺の願いは翠が叶えてくれるって。
 翠はやっぱり俺の神だった。



「ほんとに、ここでいいの? 正気?」
「は? 神聖な空間だぞ、最高に決まってんだろうが」

 俺は引っ越しを終えた部屋を見て、満足の溜息を吐く。なんて清々しい空気だろう。魂が浄化されるまである。

「相方が俺の等身大パネルに見守られながら、グッズに囲まれて配信してるって、狂気の沙汰なんだけど」

 防音改造したシン・祭壇部屋の隅に、花翠グッズに埋もれるように置かれた俺の配信デスクを見て、翠は引いた顔をした。引いた顔も可愛くて意味が分からん。

「神を冒涜すなや」
「ひっ、強火こわ……」

 元々の配信部屋は、そのまま翠の部屋にした。翠が持ってきたのは配信機材と、幾つかの服と細々した私物の段ボール一箱だけ。ほとんど俺の家の物を使うからそれは良いんだけど。

「午後から買い物行こう。翠に似合うの、気に入るの一緒に探そう」
「うん! ……ていうかさ、なんで布団まで俺の部屋に置いたの? ……一緒に寝たくないの?」

 少し不安そうにもじもじして翠が問う。俺はあまりの可愛さに急いで抱き寄せた。ついでに翠の良い匂いをスーハー堪能する。

「毎晩ベッドで一緒に寝たいと思ってるけど、いいですか?」
「……ハイ、喜んで~……」

 ちょっと照れた翠が頷く。くぅ、殺す気か。

「でも一応、翠にも逃げ場が必要かなって。こっちで一人になりたい時は、ちゃんと我慢するから、安心して」

 俺なりのケジメを宣言すると、翠は眉を下げて困った風に笑った。

「分かった。じゃあ、慧が一人になりたい時はこっち使っても良いよ。俺は毎日寝室の広いベッドで寝るから。……でも、俺は、我慢出来ないかもだけど」

 少し悪戯っぽく誘う目に、俺は一周回ってスンとする。

「好き。抱く」
「あっ、こら、買い物!」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「んはっ、親父くせーってば!」

 ゲラゲラ笑いながら、俺たちはくっつきあって真っ昼間から二人の寝室に向かった。
 
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