【完結・おまけ更新中】相方の最推しVが俺で溺愛されてます??

漠田ロー

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32 おまけ 恋の次は 1

「ねぇ、恋の次は何だと思う~?」
「……知らね」

「んふふ、アンタだよ、アンタ! 恋の次はアンタになんの!」

 全く持って酔っ払いの戯言だと思った。




「これさ、ヤバない」

 向かいの右のデカい男が、隣にスマホを差し出す。

「んふっ、ふふ、ヤバ。俺このシリーズ好き」

 左側の綺麗な男が、差し出されたスマホを覗き込む。なんとその距離ゼロセンチ。肘と肘がぴったりくっついてしまっている。

 俺はと言えば、さっきから右と左に視線を往復させている。そしてとうとう耐えるのを止めた。

「お前らさ、ヤッただろ」
「んっ!?」

 向かい側の左側、俺のユニットメンバー、空原花翠ことカズが盛大に慌てた。
 会議室で企画ミーティングの休憩中、ちょうど三人だったから、俺はわざと直接的に言ってやった。

「なっ、なっ、なんで……!?」

 右側の星降慧はしれっとしたままだったが、カズは分かりやすく狼狽した。

「お前の慧の受け入れ方が変わった。慧の踏み込み方が変わった。そういう距離感が滲み出ちゃってんの、モロバレ」

 ずここーっとパックジュースをわざと音を立てて吸って、ストローをガジガジと噛む。

「そっか。察しが良くて手間が省けた。そういうことだから、もうカズイにちょっかい出そうと思わないでね、蓮」

 全然悪びれもせず、普段感情の無い瞳に、珍しく俺を映して慧はスパッと言った。

「慧、失礼なこと言うな! 蓮くんは大事な友達だぞ」
「えー……、大事なんだぁー」

 慧はやる気が無い風に返事をしたけど、それがこいつのポーズだって俺は知ってる。チラっと俺を見た慧の目は真っ暗で、その癖嫉妬でギラギラしている。

「……あ~、アホらし」

 正月開けて久々に会ったと思ったら、出来ればワンチャン狙ってたカズが、慧みたいなヤバい奴と出来上がっちゃってんだから。

 カズは派手な顔の造りじゃないんだけど、よく見ると綺麗に整った顔立ちをしていて、清楚系美人で楚々としてるのに、ふとした仕草や視線の運び方がめちゃくちゃ色っぽい。体の線もそそられる。

 中身はトラウマ持ちで拗れてて卑屈で淋しがりで、純粋で可愛らしいとこもある。
 その癖、しっかり開発済みとか聞くと、本当に一発お願いしたい感じで狙ってた。
 もしこいつと恋愛出来たら、深い恋愛ってのが出来そうだなとも思っていた。

 が、本気で攻められなかったのは、この慧が居たせいだ。カズの警備よろしく、四六時中、牽制してたからである。

 慧は一目見て、関わりたくないヤバい奴と、俺の中で認定された。ユニットメンバーじゃなきゃ、正直親しく話したりしない。
 厳密に言うと親しくはない。だって慧が、カズ以外の人間に、アリンコほども興味を持ってないから。カズかそれ以外かで、世界が真っ二つになってる。さらに、以外の世界は滅びようとも、自分には全く関係無いと言うくらいのスタンス。

 たまに居るんだよな。こういう一人しか、世界に存在出来ない奴。俺たちがこの世界の様々な事象に分配している興味や感情を、たった一人に集約させちゃう奴。

 そういう奴の世界は、唯一絶対神と自分しか居ない砂漠の星のオアシスになってる。そこしかないし、そこ以外は要らない、完結した世界。
 まさに慧がそう。カズの前では本当に上手く取り繕ってるけれど、俺らには全くそれを隠そうとしない。そんで、そういう奴を敵に回すとロクなことがない。俺もカズも。

 あーあ、ヤバいのに捕まっちゃって可哀想に。だから俺にしとけって言ってたのに。
 そう眺めていると、俺自体には一切の興味が無い真っ暗な瞳が窺っていることに気づき、溜め息を吐く。

「慧。はっきり言っておくけど、俺らはお前と違って隠して生きてんだ。その理由は想像出来るな? カズのためにも、お前のためにも、ちゃんと隠せ。事務所に居られなくなったら困るだろ」

 向き合って目を見て言うと、慧はきょんとした。それからコクンと頷く。
 こういうところが憎み切れんのよな、コイツ。何だかんだ構ってしまうのは、それなりに気に入ってるってことだろう。深く関わるのは御免だけど。
 
「カズ、お前が選んだなら、それでいいけど、コイツはちゃんと言い聞かせて、手綱握った方が良いタイプだぞ。お前の言葉は通じる狂犬だから。ちゃんと話し合うコミュニケーションが大事だからな」

 一応カズにも忠告すると、ふわっと嬉しそうに笑った。あ~ほんと、逃した魚はデカかった。

「佐々井さん捕まんなかったから、企画書提出しておいて欲しいってよー……、お、痴情のもつれ?」

 会議室に戻って来た彼方悠大が、俺たちを見渡してあっけらかんと言った。俺的には、こいつも慧と同じくらい関わりたくないヤベー奴だ。
 正方向に狂っていて、やたら鋭くて何でもお見通しなんだけど、はちゃめちゃな陽気さと明るさで上手く擬態してる。

 ま、こういう人気商売をしようって奴らは、どっかぶっ飛んでる奴が多いもんだ。俺を含めて。だけど、このユニットには特大の濃いのが集まったものである。



「みーくん、来たよー」

 カランカランとドアベルを鳴らして、いつものバーに入る。時刻は深夜、ほとんど毎日配信終わりに来て、次の予定まで居るのがルーティンになってる。仕事とか何も予定がなきゃ、ここに入り浸ってるくらい。

「お疲れ、レン」

 カウンターの中で作業をしているマスターは、俺の幼馴染で二歳上の深澄みすみ。小さい頃から、俺の面倒を見てくれた人だ。

 黒いシャツをスマートに着こなした深澄は、相変わらず女にキャーキャー言われてる。柔らかな色の真っ直ぐな茶髪と、少しタレ目で泣きぼくろがセクシーな甘いマスク、ちょっと優男風だけど実は脱いだらすごいムキムキボディの、ギャップ萌え系お兄さんだ。
 ちなみに人当たりも良くて軽いから、女子にめちゃくちゃモテる。

 元々このバーは、深澄の昔の家兼料理屋だ。二年前に隣の町内の婆ちゃんと同居すべく、新しく建てた店と家に他の家族は移ったから、一階をバーに改装して、二階に深澄が一人で暮らしている。
 俺は高校を卒業するまで、この店の裏のボロアパートに住んでいて、子供の頃から本当に世話になった。今は徒歩五分の場所に引っ越したけど、やっぱりここに通ってる。
 自分のマンションはほとんど配信の時くらいしか居なくて、毎晩のようにこっちで寝ているくらいだ。

「腹減ったァ、おっちゃんの飯食いたい」
「お前、勘が良いな。今日は差し入れ預かってるから、後でな」
「やりぃ~」

 カウンターにだらしなく凭れてると、いつものカクテルが置かれた。深澄がポンポンと頭を撫でてから、女の客の下に向かう。
 あの女ども前も来てたな。俺の深澄に色目使いやがって。深澄もデレデレしちゃってさ。楽しそうに話してんじゃねー。

 という内心は隠して、目が合った深澄に手を振る。客商売だから愛想振りまくのはしょうがない。俺だってこう見えて、リスナーは大事にしてんだし。

「なにー? 待ちきれんなら、先、上がってるか?」

 しょうがないなという笑顔で寄って来た深澄に、わざとらしくシナを作って見上げる。

「ねー、バーテンさぁん、失恋しちゃったのぉ、慰めてぇ?」
「またー? しょうがない奴だな。可哀想だからこれやるよ、ほら」

 ぽむっと手渡しされたのは、ペロキャンだった。またポンポン俺の頭を撫でてから、深澄は仕事に戻る。今度は小さいテーブル席に呼ばれてた。
 相変わらずのガキ扱いも満更ではなくて、俺は大人しくペロキャンを舐めながら閉店を待った。
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