【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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おまけ

イドとアハト、ジーク 2

「ケーヤクぅ?コヨーヌシ?」
「そうだ。契約とは、条件を明確にして、互いにそれを守る約束するものだ。この世で1番大事な行為となる。説明するから覚えるように」

「なー、このぐちゃぐちゃしたの何?」
「文字と言う。話や考えを紙に残して、後で忘れないように見ることが出来る。まずはこの練習から、するが良い」

「何このモジ」
「貴様の名前だ。山猫」


 アハトは他人に厳しく、己にはその10倍厳しい人だった。だが、知らないことは、絶対に馬鹿にしないし怒らなかった。
 但し1度解ったと答えたことは、間違えることを許さなかった。

 そんなアハトに私生活こそ放任されたが、仕事に関してはかなり厳しく躾けられたものだ。

 アハト自身も王太子と言えど毎日私設兵団との訓練は欠かさないし、王太子の義務の祭祀、書類仕事も欠かさない。

 アハトは毎日早朝に禊をして、祭祀を務める。神官服姿のアハトは神の使いのような神々しさがあって、いつもじっくり眺めたものだ。

 イドの影スキルを封じたスキル殺しの加護は、王と後継になる者に祭神から与えられるもので、アハトが妾腹の第8子にも関わらず王太子になれた所以だ。

 同時にアハトが幾度もの暗殺の危機に晒される理由となる。王の祖先が太古に神とした契約により、直系のみに現れる加護だが、王と直系の後継の2人までとなり、死と共に継承されていく。

 しかしアハトを殺したとて、今いる王の約30人の実子たちの中から、また新たに選定される確約は無い。
 それどころか、神の気に入る新しい直系が生まれるまで、待たねばならぬ可能性もある。

 それでもアハトが消えれば、自分や子供にチャンスが回ってくるかも知れない。そう狙う異母兄弟30人と各派閥に、アハトは常に命を狙われている。

 そんな訳でアハト以外の実子は殆どが、既に子も多数生しているが、アハトはのらりくらりと独身を続けている。
 その考えを聞いたことはないが、何となくイドは納得出来るものを感じていた。

 傲岸不遜な美丈夫で女泣かせの風貌だが、夜の遊びに耽ることもない。アハトは公的な場を除けば、静かで退屈そうにしている男だった。


 今も埠頭でチェアに座り、ウキ釣りをしているアハトの姿は、一国の王太子とは思えぬ程密やかな気配だった。

 ヘラン=サマル神聖王国、最南端の港町ササンにアハトの隠れ家の1つがある。イドはジークと共に、そこに滞在しているアハトを訪ねていた。

「アハトー」

 声を掛けると、少し離れた場所に佇む護衛ヤーシャがチラリとジークを確認し、最側近のジャファルは片眉を上げた。
 他に伴の姿は無いが、見えぬ場所に私設兵団の隠密が配置されて警護している筈だ。

「止まれ」

 瞬時にジークの眼の前に立ち塞がったヤーシャの、真っ直ぐに揃えた前髪と高く結った長い黒髪が揺れた。異国の風貌と切れ長の美しい目を持つ中性的な美貌の男だ。

「ヤーシャ、怪しい奴じゃねーよ。こいつはジーク。レーヴァステインのギルドのお使い」

 イドがそう言ってもヤーシャはアハトの命しか聞かぬため、暫しジークと睨み合いになる。

「殿下がお通しせよとのことだ、ヤーシャ」

 ジャファルが寄って来てイドたちを促すと、ヤーシャは一瞬で元の位置へ戻り、アハトの警護に戻った。

「イド、殿下と言うようにと何度言ったら分かる?減給するぞ」
「へーへー、ジャファルは相変わらずうるせーね。元気そうじゃん」

 3人で連れ立ち、埠頭の先で釣り糸を見ているアハトの元へ向かう。数メートル空けたところでジャファルが立ち止まり、ジークを制した。

 流石に王太子と言うことで弁えているジークに頷いて、イドは1人でアハトの傍に寄る。

「よー、アハト、釣れてるか?」

 空のバケツを見ながら、イドは笑って問うた。

「久しぶりに戻ったのに、ご挨拶だな?山猫」

 アハトは海を眺めたまま、特に面白くも無さそうにイスの肘掛けに頬杖を付いた。

 強い海風が吹いて潮の香を運び、波間が強く揺れた。午後の日差しに照らされたアハトの褪せた金の髪が靡く。

 レグルスと同じくらいの年だが、アハトの方が精悍で厳しい顔をしている。背負う重圧の違いだろうが、最近の憔悴しきった兄弟子を思い出し、イドは口を開いた。

「アハト、俺、このままあっちで働くことにした」
「ふん。情が湧いたようだな」

 アハトが立ち上がると、ジャファルとヤーシャが空かさず脇に控えた。そのまま埠頭を歩き出し、控えていたジークには目もくれずに通り過ぎて行く。

「ついてくぞ、ジーク」
「……大丈夫なのかよ」

 不満そうなジークを促して、アハトたちの後を追う。

「機嫌悪けりゃ、とっくに追い払われてるよ」
「そーかよ」

 小さな港を抜け、直ぐ側の丘を下った浜辺に、アハトの隠れ家があった。裕福な商人の邸のように造られていて、中々豪華で敷地も広い。

 アハトに雇われて懐刀として仕えていた時は、良くここに来ては釣りに付き合わされたものだ。
 レーヴァステインに送り出されて1年も経たぬ筈だが、懐かしく思い出される。

 邸に入ると応接室に通されて、アハトの前にジークと並ぶ。

「時に山猫、その野良犬は?」

 最高級のマホガニーのソファにもたれ、アハトはイドを見て首を傾げた。

「ジークつって、俺の仕事の相棒!」
「レーヴァステイン王国冒険者ギルド総本部、情報室所属のジーク・エバンスと申します。本日は統括代表ハンク・ゴメスの名代として参りました」

 ジークが懐からハンクの書状を取り出すと、ジャファルが受け取り、アハトへと献上した。

「ほら、前にさ、バブ・イルムでアハトのこと、1番近くで護衛してた奴なんだけど」
「殿下だと言っているだろう。鳥頭め」

 ジャファルとやいやいしている間に、アハトが書状にさっと目を通してから手の中で燃やした。

「あっ、何で燃やすんだ!」
「この条件では受けぬ」

 イドが抗議したが、アハトは真っ直ぐジークを見た。

「名代殿、御存知かは知らないが、私は権力も富も土地も宝物も、生まれながらに全て手にしているのだよ。故に、飽いているのだ」

「……では、どのような条件であれば、イドの移住のご許可をいただけますか」

 ジークも真っ直ぐにアハトを見つめ返す。

「退屈で堪らないのだ。その私から、この山猫を奪おうと言うのなら、そうだな、貴殿が何か私を愉しませてくれないか」

 ひくりとジークのこめかみが動いたが、アハトは退屈そうに笑んだ。

「何をお望みでしょうか。無芸なもので、ご期待に沿えるかは甚だ疑わしいですが、お聞かせ願えますか」

「貴殿はギフテッドだな。私の警護を一任されていたなら、相当の実力と見受ける」

 アハトが後ろに控えていたヤーシャに手を上げると、ヤーシャは直ぐにその足元に跪いた。

「この者はギフテッドでは無いが、我が国で有数の使い手だ。このヤーシャと仕合って勝てば、山猫の移住を許可しよう」

「アハト、そりゃないよ。ヤーシャはめちゃくちゃ強ぇーじゃん」
「あ?俺が負けるって言いたいのか?」

 ギロっと睨んで来たジークに、イドは肩を竦めた。

「五分五分じゃねーかな」

 王太子の前で耐えたのか拳骨を繰り出さない代わりに、据わった目でジークはアハトに向き直った。

「お受けします。ご希望であれば、何人でも仕合いましょう」
「ふ、そう来なくてはな」

 アハトは漸く、紅い瞳に愉悦を宿した。
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