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おまけ
第50回雪上魔魚釣り大会 後
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「さて、終了まで残すところ2時間を切りました!私、無類の実況大好きおじさんですが、稀代の早寝おじさんでもあります!もう眠くて眠くて、こんなクレイジーな大会を始めたのは一体誰なんだと思うところですが」
「我が祖父だ!」
公園の中心のキャンプファイヤーの側、戦斧を振るって薪割りをしていたガラシアが腕組みをしながら堂々と答えて、ステージ上の司会大好きおじさんはピシっと背筋を伸ばした。
「こんな素晴らしい大会の司会を出来て光栄の極みおじさんが、ただ今より中間報告をします!」
公園にはリタイアした者や、夜通し開いている出店や出し物目当ての観客が集い、わあっと歓声を上げた。
「鷹の目監視班からの報告ですと、ただいまの3位は釣り大好きおじさん18匹、2位は3度の飯より筋肉が好き19匹、1位ジー君21匹となります!折り返しも過ぎましたが、皆さん夜はまだまたこれからだァ~!」
「おい、ここ俺が見つけた場所なんだから、どっか行けよ!」
「俺のが先に見つけたんだから、お前が行けよ!」
「おーおー、醜い争いだなァ~」
アルカとジークがぎゃあぎゃあ喚きながら、隣り合って釣りを続けているのを、飽きてしまったレグルスとイドは後ろに座ってぼへっと眺めた。
レグルスが魔法で起こした火で湯を沸かし、イドがジークの母エレン直伝のココアを淹れる。
2人のんびりココアを啜る横で、アルカが氷魔法で作った即席生簀の中の王鮭がじゃぷんと跳ねた。
「あー腹減ったぁ、1匹焼いて食っちまうかな~」
「そうだね。焼いちゃおうか。美味い食べ方をアルカから習ってて」
「魚減らしたら殺す!」
ギンと幼馴染コンビから殺気が送られる。生簀の中には全員が釣った魚が入っているため、何とも横暴な話だが、弟子コンビは沈黙した。
「あいつらヤベーよ、俺らはもう帰ろうぜ。会場に豚汁あるって言ってた。俺、豚汁食いたい」
携帯椅子から落ちるように、雪に仰向けに倒れ込んだイドが息を呑む。
「全員動くな」
緊迫したイドの声に全員が瞬時に振り向き、ぴたりと動きを止めた。
「氷虎……!」
いつの間にか真後ろの藪から体長5メートル以上はある、毛先が淡く水色に輝く白銀の虎が顔を出していた。
その美しさと迫力に、誰もが息を詰めて動けない。
虎はその巨体にそぐわず、獲物に接近するまで殆ど音を立てない。取り分けこの氷虎はこの面子を以ってしても、間合いを取られるまで全く気付くことが出来なかった。
大きさや気配遮断のレベルからしても、かなりの強個体だと窺える。
そもそも氷虎は生息数が少なく、大部分は王国以北の北方三国に住まうとされ、帝国と繋がるセドルア山系でも目撃された事例は僅かだ。
「ジーク、駄目だ。こいつに害意は無い」
大剣を収納袋から取り出そうとしたジークの機先を捉えて、アルカが制した。
アルカはじっと氷虎と見つめ合って、それから頷いた。
氷虎は静かに藪から身を出し、即席生簀へと向かった。それから中に居た魔魚を捕まえ出す。
「兄ちゃん、魚、食われちゃうぜ」
「しょうがないよ。ほら、見てな」
氷虎が1番大きな王鮭を生簀から出すと、茂みががさがさと揺れ、もこもこが2つ飛び出して来た。
「可愛い!子猫だ!」
「虎な」
もこもこ毛玉は、真っ白な子虎だった。子虎と言ってもナンほどの大きさがあるが、まだ足取りが幼く愛らしい。
子虎たちはシャーシャー鳴きながら、一散に王鮭に駆け寄り食らい出した。母虎は満足気にそれを見つめ、2匹が満足するまで生簀の魔魚を与えた。
母虎が自分の食事を始めると、魔魚を食い終わった子虎たちがよちよちと寄って来て、アルカとイドにじゃれつく。
「あっ、あ~っ、もふ、もふ!」
目をハートにしたイドが、幸せそうに毛玉に顔を齧られて血を流している。アルカも足元で腹を出した子虎を存分に堪能すると、やがて3匹はまた藪の中に消えて行った。
近寄ってもらえなかったレグルスとジークは、心持ちしょんぼりしながら、闇にひらめいた尻尾の先を見送った。
「あぁ……、魚全部食われてら……」
「しょうがないだろ、稀少生物なんだから」
珍しくあからさまに項垂れたジークの背中をバシンと叩き、アルカは全員を見渡した。
「大丈夫、これから夜明け、朝マズメの時間帯だ。4人で頑張ればまだ可能性がある。優勝して全員でラーメン食いに行こうぜ!」
「乗った!」
「俺、味噌にする!」
「ふふ、もうひと踏ん張りしますか!」
全員でおー!と気合を入れて、再び池へと並んで竿を振った。
「え~、厳正なる集計の結果、今回の優勝者は釣果32匹で……、釣仙人だぁ!」
「どうも、儂、釣仙人。ぶい」
壇上でぷるぷる震えた手でピースをして、御年101歳の小柄な老人が湧いた観客に手を振った。
「つ、釣仙人だと……!?」
めちゃくちゃ話してぇとアルカが目をひん剥いている横で、ジークが悔しそうに唸っていた。
アルカたちはジークを代表として魚を提出したが、結果は5位。表彰台に呼ばれることもなく、バックスとお近付きになることもなく。
しかし残り時間僅かでこれだけの釣果だから、重畳というもの。
「そして、審査員特別賞ですが、なんと180cmの主級王鮭を捕まえた、この方!」
朝焼けの輝くステージの中央で得意気な顔をしているのは、やっぱり我らがナンだった。
「本来審査員が自ら受賞するのは規定外だが、この文句のつけようの無い獲物に、バックス氏と私からの特別賞とした!他にも多数の王鮭を捕ってきてくれた、ヤズマイシュの猫神に今一度盛大な拍手を!」
ガラシアが立ち上がり良く通る声で宣言すると、会場から歓声と拍手が送られた。
「あいつ、審査員の癖に」
納得しないような顔でレグルスとジークが頷き合ったが、アルカはそんな2人の背を叩いた。
「まあまあ、盛り上がったし虎も触れたし、いいじゃん!昼からは鍋とちゃんちゃん焼きの振る舞いだし、楽しみだな!」
「もふれたの、イドとお前だけだろ」
「アルカは本当、ナンに甘いんだから」
更に膨れた大人気無い男たちに、いつの間にか姿を消していたイドが呼びかけた。
「おーい、ジーク、兄ちゃんたち!豚汁食おーぜ」
イドが皆の豚汁を用意して、休憩用テントに陣取っていた。ほかほか湯気を立てる豚汁に腹の虫が騒ぎ出す。
3人で顔を見合わせて、にこにこのイドの元へいそいそと向かった。
「我が祖父だ!」
公園の中心のキャンプファイヤーの側、戦斧を振るって薪割りをしていたガラシアが腕組みをしながら堂々と答えて、ステージ上の司会大好きおじさんはピシっと背筋を伸ばした。
「こんな素晴らしい大会の司会を出来て光栄の極みおじさんが、ただ今より中間報告をします!」
公園にはリタイアした者や、夜通し開いている出店や出し物目当ての観客が集い、わあっと歓声を上げた。
「鷹の目監視班からの報告ですと、ただいまの3位は釣り大好きおじさん18匹、2位は3度の飯より筋肉が好き19匹、1位ジー君21匹となります!折り返しも過ぎましたが、皆さん夜はまだまたこれからだァ~!」
「おい、ここ俺が見つけた場所なんだから、どっか行けよ!」
「俺のが先に見つけたんだから、お前が行けよ!」
「おーおー、醜い争いだなァ~」
アルカとジークがぎゃあぎゃあ喚きながら、隣り合って釣りを続けているのを、飽きてしまったレグルスとイドは後ろに座ってぼへっと眺めた。
レグルスが魔法で起こした火で湯を沸かし、イドがジークの母エレン直伝のココアを淹れる。
2人のんびりココアを啜る横で、アルカが氷魔法で作った即席生簀の中の王鮭がじゃぷんと跳ねた。
「あー腹減ったぁ、1匹焼いて食っちまうかな~」
「そうだね。焼いちゃおうか。美味い食べ方をアルカから習ってて」
「魚減らしたら殺す!」
ギンと幼馴染コンビから殺気が送られる。生簀の中には全員が釣った魚が入っているため、何とも横暴な話だが、弟子コンビは沈黙した。
「あいつらヤベーよ、俺らはもう帰ろうぜ。会場に豚汁あるって言ってた。俺、豚汁食いたい」
携帯椅子から落ちるように、雪に仰向けに倒れ込んだイドが息を呑む。
「全員動くな」
緊迫したイドの声に全員が瞬時に振り向き、ぴたりと動きを止めた。
「氷虎……!」
いつの間にか真後ろの藪から体長5メートル以上はある、毛先が淡く水色に輝く白銀の虎が顔を出していた。
その美しさと迫力に、誰もが息を詰めて動けない。
虎はその巨体にそぐわず、獲物に接近するまで殆ど音を立てない。取り分けこの氷虎はこの面子を以ってしても、間合いを取られるまで全く気付くことが出来なかった。
大きさや気配遮断のレベルからしても、かなりの強個体だと窺える。
そもそも氷虎は生息数が少なく、大部分は王国以北の北方三国に住まうとされ、帝国と繋がるセドルア山系でも目撃された事例は僅かだ。
「ジーク、駄目だ。こいつに害意は無い」
大剣を収納袋から取り出そうとしたジークの機先を捉えて、アルカが制した。
アルカはじっと氷虎と見つめ合って、それから頷いた。
氷虎は静かに藪から身を出し、即席生簀へと向かった。それから中に居た魔魚を捕まえ出す。
「兄ちゃん、魚、食われちゃうぜ」
「しょうがないよ。ほら、見てな」
氷虎が1番大きな王鮭を生簀から出すと、茂みががさがさと揺れ、もこもこが2つ飛び出して来た。
「可愛い!子猫だ!」
「虎な」
もこもこ毛玉は、真っ白な子虎だった。子虎と言ってもナンほどの大きさがあるが、まだ足取りが幼く愛らしい。
子虎たちはシャーシャー鳴きながら、一散に王鮭に駆け寄り食らい出した。母虎は満足気にそれを見つめ、2匹が満足するまで生簀の魔魚を与えた。
母虎が自分の食事を始めると、魔魚を食い終わった子虎たちがよちよちと寄って来て、アルカとイドにじゃれつく。
「あっ、あ~っ、もふ、もふ!」
目をハートにしたイドが、幸せそうに毛玉に顔を齧られて血を流している。アルカも足元で腹を出した子虎を存分に堪能すると、やがて3匹はまた藪の中に消えて行った。
近寄ってもらえなかったレグルスとジークは、心持ちしょんぼりしながら、闇にひらめいた尻尾の先を見送った。
「あぁ……、魚全部食われてら……」
「しょうがないだろ、稀少生物なんだから」
珍しくあからさまに項垂れたジークの背中をバシンと叩き、アルカは全員を見渡した。
「大丈夫、これから夜明け、朝マズメの時間帯だ。4人で頑張ればまだ可能性がある。優勝して全員でラーメン食いに行こうぜ!」
「乗った!」
「俺、味噌にする!」
「ふふ、もうひと踏ん張りしますか!」
全員でおー!と気合を入れて、再び池へと並んで竿を振った。
「え~、厳正なる集計の結果、今回の優勝者は釣果32匹で……、釣仙人だぁ!」
「どうも、儂、釣仙人。ぶい」
壇上でぷるぷる震えた手でピースをして、御年101歳の小柄な老人が湧いた観客に手を振った。
「つ、釣仙人だと……!?」
めちゃくちゃ話してぇとアルカが目をひん剥いている横で、ジークが悔しそうに唸っていた。
アルカたちはジークを代表として魚を提出したが、結果は5位。表彰台に呼ばれることもなく、バックスとお近付きになることもなく。
しかし残り時間僅かでこれだけの釣果だから、重畳というもの。
「そして、審査員特別賞ですが、なんと180cmの主級王鮭を捕まえた、この方!」
朝焼けの輝くステージの中央で得意気な顔をしているのは、やっぱり我らがナンだった。
「本来審査員が自ら受賞するのは規定外だが、この文句のつけようの無い獲物に、バックス氏と私からの特別賞とした!他にも多数の王鮭を捕ってきてくれた、ヤズマイシュの猫神に今一度盛大な拍手を!」
ガラシアが立ち上がり良く通る声で宣言すると、会場から歓声と拍手が送られた。
「あいつ、審査員の癖に」
納得しないような顔でレグルスとジークが頷き合ったが、アルカはそんな2人の背を叩いた。
「まあまあ、盛り上がったし虎も触れたし、いいじゃん!昼からは鍋とちゃんちゃん焼きの振る舞いだし、楽しみだな!」
「もふれたの、イドとお前だけだろ」
「アルカは本当、ナンに甘いんだから」
更に膨れた大人気無い男たちに、いつの間にか姿を消していたイドが呼びかけた。
「おーい、ジーク、兄ちゃんたち!豚汁食おーぜ」
イドが皆の豚汁を用意して、休憩用テントに陣取っていた。ほかほか湯気を立てる豚汁に腹の虫が騒ぎ出す。
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