【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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春の章 始まり編

3 統合

 目覚めると浮上した意識が全て統合されたのが解った。

 一ノ瀬歩こと、アルカ・メイヤーはゆっくりと瞬きをした。

 正に知らない天井である。更には差し込む柔らかな光で、既に朝を迎えたことを知る。昨日の出来事は夜だった。

 世界の真実、というものを知った衝撃の余韻が残っていて、アルカは珍しくぼんやりと天井を見つめ続けた。

 『君と見る暁の花』。20数年生きてきたこの世界が、ゲームだったなんて。

 まあ確かに前世でも、量子世界論はネットで楽しく論じてきたが。実際に身に降りかかると、話は別である。

 レーヴァステインという国や王族の名前、ギルドの体系、剣と魔法が生活の一部ということ。
 貴族と平民の身分があること。それから生活を手助けする魔道具の名前なども、ゲームに出ていた分は全て一致。

 何より所々に見える日本水準。街並みは中世ファンタジーだが、生活設備が電気の代わりに魔力で動いている。

 その魔力で水洗トイレはもちろん、日本にあるほとんどの家電相当の製品が普及している。
 中世ヨーロッパと違って、衛生観念もばっちりなところもそうだ。

 1つ残念なのはテレビや電話、スマホなんかの電波系を利用する製品が無いことだ。

 それに人《ヒト》の成り立ちの伝承。
 我々はかつて絶滅した人間と、ホムンクルスの末裔であるが故に、大気に満ちている魔素を取り込み魔法が使えること。

 加えてホムンクルスの特性のため、繁殖方法は必ずしも人間と同じく生体を使用する必要が無い。

 そのため、恋愛は性別よりも本能的な魔力相性や好みの問題という、世界共通認識になっている。
 それでBLや百合、何でも有りな世界が成り立っている。

 そして1番最大の理由は。

「目が覚めましたか?アルカ君」

 静かに部屋に入って来た男、レグルス・マクファーレン。

 この男こそが世界を断定する鍵だった。かつて歩が寝食を削って推したキャラそのもの。
 間違いがない。というより実物の方が100倍、

 か、顔良~~~!

「まだ調子が悪そうだね」

 ベッドサイドが沈み込み、ふわりと覚えのある香りと共に、乾いた大きな掌が額に載せられる。
 優しく前髪を払うレグルスの指先の感触に、ぼうっとしてしまう。

「熱は無いみたいだ。どこか不快なところはある?」

 不快どころか最高です、とは言えずに首を振る。
 アルカとしてより、歩の感覚が強く出てしまっているみたいで、上手く言葉が出てこない。

 レグルス様が動いて喋ってるんだが~?しかも3Dで。こんなことある?

 今のアルカは毎日接していて慣れているのか、表情筋が煩い思考を反映して無様に動くことはない。
 アルカは仕事柄としても、表情を崩さぬことには長けているのが幸いした。

「覚えてますか?……昨日のこと」

 少し遠慮がちにレグルスが問う。困ったように下げられた眉毛が、何だか大型犬のようで可愛らしい。

 心の中で悶絶しつつ、昨日のことを思い出す。

「たっ、大変な粗相を致しまして申し訳ありませんでした、局長……!」

 それこそ、がばりと飛び起きた。昨日は大資料室に資料を探しに行って、5メートルある書架用梯子の真上から落ちたのだ。

 それをレグルスに助けられて、剰え魔力調整をさせてしまった。
 なんたる失態。身分差を考えても、無礼討ちされても文句は言えない。
 
 この世界の現代では、貴族の役割と言えば王宮勤めの大臣から下は領主になるが、実体としては政治的官職に代々就く者といったところだ。

 20年前の改革により、貴族から平民の人権を無視した理不尽な差別や待遇も法律で禁止されたこともあり、中世のようなパンが無ければお菓子を食べろみたいなものとは、毛色が違ってきている。

 そのため、貴族と平民の垣根は大分低くなってきており、現代日本で言う為政者や、旧華族や財閥一族に対するに似た感覚になりつつある。

 それでも平民からすれば、社会的責任や財力が大きい権力者のため丁寧にしておこう、というのが大体の風潮である。

 その点では大コンプライアンス時代に配慮された作品ではあったが、逆に代々続く貴族内での序列や差別意識はかなり厳しい。

 寧ろ表には絶対に出ないが、何でも出来る貴族内の方が恐ろしい世界なのである。

 そしてレグルスの身分は公爵家。アルカの身分は伯爵家。
 互いに長子ではないため後継ではないが、弱小伯爵家次男のアルカはいずれ平民になる身分だ。

 それに対してレグルスは自身も侯爵位を賜っているし、今後もずっと貴族として、国営冒険者ギルドの副代表としても国の要人足る身分。
 つまり、貴族としての生来の格差が凄まじいのである。

「急に起きないで!」

 飛び起きたところを慌てて押さえられ、ゆっくりとベッドへ戻される。

「いえ、その、俺はとんでもないご無礼を」

 いくらレグルスの掲げる職場理念が身分差の撤廃でも、本質的にアルカも貴族である。長年染み付いた貴族通念に青褪めた。

「……アルカ君、分かってますか?君は昨日死にかけたんですよ?」
「……はい」

「君、睡眠も栄養もろくに取らずに、ずっと働いてましたね?しかも自分にヒールをかけ続けながら」

 その通りである。返答に詰まって俯く。

「酷い魔力枯渇と過労になっていました。その上書架から落ちるし、魔力暴走まで引き起こしかけたんですよ。それもかなり重篤な暴走兆候だった。……偶々俺が間に合ったから良かったものの、あのままだったら死んでいたかも知れない」

 曖昧に首を振ると両肩を強く掴まれ、思わず顔を上げる。

「死ぬところだった」

 怖いくらいに真剣な翠玉の瞳が、真っ直ぐに射抜いてくる。目を逸らすことの出来ない熱量に震える。

「……申し訳ありません」
「違う。心配した。すごく。もうあんな無理はしないで」

 拒絶を打ち破るようなその言葉は、避けようのないほど真っ直ぐに胸に刺さった。
 しばらくの沈黙の後、アルカは静かに頷いた。

 頷いたところでレグルスも漸く力を抜いて、ふわっと微笑った。
 近距離で破壊力抜群の笑顔を浴びせられ、アルカは慌てて目を逸らした。

「と言っても、部下の業務量を把握していなかった俺に落ち度があります。次回から必ず相談してください」
「すみません、1人で何とかなるかと」

 今回アルカが過労に陥った原因が、部下2名に急な休暇が入ったためとなる。
 
 そもそもアルカは情報局長付き、言わばレグルスの秘書とも言える専任のバディのようなものだ。

 その下に生え抜き16名の局長直下情報室を抱えているが、内2人がのっぴきならない事情で、1週間以上休暇を取っている。

 その2人分の仕事を、アルカは1人でカバーしていた。
 レグルスにバレないように、業務時間外・休日対応と、更にはこっそりと自宅に仕事を持ち帰って。
 
 情報室はとにかく忙しい。全国の支部に散らばる情報局員から上げられる重要機密情報の、とりまとめと対処が主な仕事だ。

 通常局員が選別したA級以上の情報と、各地からの秘匿案件は先ずここに上がる。
 そして精査後、他に回せるものは適切な部署ないし、支部に振り分けられる。

 精査には室員自ら現地調査や裏取りもするし、その後、他に回せない案件は情報室が担当する。

 そのため情報室に居るメンバーは、いつも半分程度だ。
 残り半分は出張している状態で、皆ギリギリで業務を分担している状態になる。

 通常局員でもマニュアルの厳しい選別で雇っているが、情報室だけは国家機密も扱うため、レグルスが直接選んだ人柄も実力も信頼しているメンバーしか置かない。

 故においそれと、追加人員を増やさない超難関エリートなのだ。
 前世のブラック企業と同じくらい忙しいが、給料と待遇は段違いに良く、何より誇りが持てる仕事だ。

「局長、助けていただいて、ありがとうございました」

 誰に頼ることもせず無理を通した結果、レグルスに迷惑をかけてしまった。
 猛省したが、謝罪はこれ以上受け取ってもらえそうにない。だから何とか、礼の言葉を絞り出した。

「いいえ、大したことはして……」

 微笑みかけたレグルスが、ピシッと固まる。その様子に反射的に冷や汗が流れた。

「え、俺、他にも、何か……やらかしましたか?」
「えっ、あっ、いやっ、あ~~、君と言うか、ですね……。あ~~、私、ですね……」

 何故か公的な場に出た時にしか使わない一人称を使ったレグルスを訝しむ。

 仕事となれば冷静無慈悲とも言われる人が、何をこんなに取り乱すことをするというのか。

「あのっ、決して!決してっ、疚しい気持ちで私の屋敷に連れ帰った訳では無いですし一刻も早く私は君を救いたかった!それだけは理解していただきたいんですが!」

 ここまで早口のワンブレスで告げた、レグルスの血走った瞳に若干引きつつ頷く。

「その何ていうか、わ、私の鍛錬が足りず!」

 実質国1番の実力者が、大声で何を宣うか。取り乱すレグルスを眺めて、逆に冷静になった脳内で突っ込む。

「こ、恋人以上の方法で魔力調整してしまいました……」

 真っ赤な顔でポソっと呟かれた、本当に小さな声に耳を疑う。

「は?なんて?」

 取り繕えない素が出たが、レグルスは気付かず更に頬を染めた。

「すみませんすみません!違うんです決してセクハラしたかった訳じゃなくて、口移しでは間に合わなくて直接肌を合わせるレベルで!だけど決して最後まではしてないです!裸で抱き合った……、多少接触しただけです本当に!!」

 多少、と目を泳がせながら、レグルスが小さく繰り返した。

「…………、!?」

 目玉をひん剥いて、バッと掛布団を捲る。

 なんかでかいシャツ1枚しか着てないし、パンツ履いてない!
 尻と腰に違和感無し!ヨシ!いや良くない!!なんかすっきりしてる!

 絶対に何かはあった!いや、聞ける訳ねーだろ!

 ドッドッドッと心臓が脈打って、やたら汗が出る。顔が赤いのか青いのかは、もう自分では判断出来ない。

「あああ、こちらこそすみません!本当にお見苦しいものをお見せし、お手を煩わせて本当に申し訳ありません!すぐに腹を切ります!」

「腹!?いや、止めて!?というかそんなに嫌だったの!?」
「いやいやいや滅相も無い!ちょっと死んできます!」
「なんで!?生きて!?」

「レグ坊っちゃん!病人の前で何を騒いでいるのですか!」

 収集の付かなくなった2人を一喝したのは、平伏したくなる威厳のある老執事だった。
 
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