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春の章 始まり編
4 リッカの実
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魔力調整って浪漫だよな。
ホカホカの野菜たっぷりスープを口に運びながら、アルカはゲームで何度も見たイベントシーンを思い出す。
この世界では魔素が生命維持に血液と同じくらい重要で、体内の魔素が底を尽きると、命を落とす場合もある。
前世で言うと、失血死と同じ状態だ。
魔素は身体中を巡り、魔力となり体外に放出される。魔力を消費するということは、生命の素を失うことと同義だ。
だが、魔素は空気と同じく大気から自然に取り込むため、急速に大量を失わなければ問題は無い。
魔力の基本総量は本人の資質次第だが、上限を超えて使用しなければ睡眠や食事、魔導ポーションで回復する。
それとは別に、他者同士で魔力を譲渡や共有したり出来る。それが魔力調整と呼ばれる方法だ。
魔力調整は相性が悪いと危険ということもあり、通常は気心の知れた仲でのみ行われる。
その大きな理由が直接的な接触が必要なこと、相性が嵌ると途轍もない快楽をもたらすからだ。
勿論、直接と言っても手を繋ぐ、ハグをするなど軽いものから、最終的には体を繋げるところまでの方法がある。
魔力調整をすると相性が良ければ、どうしても官能を引き起こすため、基本的には親しい間柄で行う。
寧ろパートナー同士では繋がりが深いほど、魔力が簡単に結んで混じり合うため、性行為では自然と魔力調整も行ってしまう。
何故なら体だけ繋げるよりも、断然気持ちが良いからだ。
だから仲の良い夫婦や恋人同士は、お互いの魔力の気配を帯びているのが普通だ。
逆に家族となると波長に血縁由来の親和性があるため、性的な興奮は引き起こされない。
主人公と攻略キャラは、何かにつけしょっちゅう魔力調整をしてイチャイチャしてたんだよなあ。
さすが18禁ゲーム……。設定でエロチャンスを逃さない。
柔らかな野菜の甘みを味わって飲み込むと、小さく溜息を吐いた。
「アルカ君、あまり食欲無い?」
「いえ!すごく美味しいです!」
窺うようなレグルスの声に、アルカは思考の海から浮上した。
ここがレグルスの屋敷のダイニングだと言うことを、すっかり忘れていた。
すぐ後ろに控えていた老執事が、すっとメイドを呼ぶ。
この老執事ハリスに2人とも怒られて、食事を促されて現在に至る。
いい歳してなんだが、説教中のハリスは笑顔なのにめちゃくちゃ怖かった。
平時なら仕事の話で話題は尽きぬ2人だが、今日ばかりはぎこちなく会話が続かない。
向かい側のレグルスの向こう、ハリスが呆れたような瞳で主の背を見詰めている。
レグルスも分かっているのか、居心地が悪そうだ。
アルカだって物語なら、はいはいそういう設定ですね続けてどうぞで済むのだが、まさか自分が憧れの上司から魔力調整を受けるなんて。
思い出す度に、頬がカッと熱くなり汗が流れる。
「メイヤー様、どうぞ。こちらはサッパリとしていて、喉を通りやすいかと」
「あ、すみません、お気遣いを」
ハリスが気遣うようにそっと、旬の果物の盛合せを手ずから給仕してくれた。
ちょうど今時分の、春が旬のリッカの実だ。
リッカの木は国中の至る所に自生していて、冬以外はずっと実を付けている。
通年手に入るが、1番採れの春物が、1番美味い。最大の歓待に応えて、1粒口に運ぶ。
この世界では前世と同じ植物や食物、生物が多数存在するが、ファンタジーらしく独自の物もある。
1つ違う点は全ての動植物は、大なり小なり魔素を帯びている。
リッカの実は独自のもので、魔素をふんだんに帯びているため、魔素植物に分類されている。
口に含んだリッカの実は、甘酸っぱく爽やかでとても美味い。
前世の金柑に似た味で、もっと甘みが強く果汁も多い。大分回復したとは言え、魔力不足の身には染み渡るようだ。
「すごく美味しいです。今まで食べた中で1番です」
「それは良うございました。実はこちら、庭で栽培しているものとなります」
ハリスは先程の説教時とはがらりと変わった、柔らかな笑顔で頷く。
「ああ、そうなんですね。だから完熟なんですね。領地の本邸の周りにもたくさん自生していたので、子供の頃はしょっちゅう採ってました。……懐かしい」
「メイヤー伯領は自然が豊かでしたね……!」
それまで黙っていたレグルスが、パッと顔を上げて話に入ってくる。
「はい、食べ過ぎて魔力過多に、なって……」
「……っ、あ、はは」
魔力調整に繋がる方向に話が飛び火して、2人は取り繕うように笑った。
いや、中学生かよ。2人ともとっくに成人済みだし、レグルスに至ってはアルカの4つも年上である。
再び沈黙した場に、ハリスのこれ見よがしな溜息が落ちる。
「レグ坊っちゃん、折角ですしお庭を案内して差し上げるのがよろしいかと」
「ハリス……、頼むから、部下の前で坊っちゃん呼びは勘弁してくれ」
どうもレグルスは、この老執事に頭が上がらないらしい。2人の間からは、単なる雇用関係以上の親愛が感じられる。
弱り切った顔のレグルスなんて、初めて見る。
思わずマジマジと見ると、少し頬を染めたレグルスが拗ねたような、少年みたいな顔で視線を逸らした。
「あ~、えっと、……リッカの実、見に行こうか」
「ありがとうございます、局長」
「じゃあ、食べ終わったら早速……」
「しかし自分は仕事が残っていますので、これで失礼致します」
片手を上げてレグルスを遮ると、場の空気が一気に零度以下に下がった。
「アルカ君?」
「メイヤー様?」
「え?」
レグルスとハリスの顔に、飛び切りの笑顔が張り付いてる。
なんか親子みたいに似ているなあ、と場違いな感想が浮かんでしまった。
「アルカ君、俺、君はちゃんと話が分かる子だと思ってましたが。ねえ、本当に理解してます?何で死にかけたのに、まだ働こうとするんですか」
庭園を歩きながら、レグルスは剣呑な顔で説教を続けていた。
「いや、本日出勤日でしたし……」
「あのねえ、君を今日休暇にしない訳がないでしょ?上司の前で倒れたんですよ?ただでさえ君は、休暇が未消化ですし」
「でも未処理の仕事が」
「もう1回、初めから説教し直しましょうか。ハリスと2人で」
「……局長だって、休暇未消化じゃないですか」
「俺はいいんですよ。局長ですから。それに俺も、今日はちゃんと休暇にしましたし」
腹が満ちて麗らかな日差しを浴びて、新鮮な風に吹かれれば漸く2人も調子を取り戻したようで、気楽な会話が続く。
王都の貴族街の一番端にあるせいか、レグルスの屋敷の庭は広い。
屋敷自体は身分を鑑みると小さいくらいで、使用人も気心の知れた精鋭のみのようだった。
すれ違ったいかにも好々爺の、髭をたっぷり蓄えた庭師と礼を交わす。
にこにこと、坊っちゃんと声をかけていたから、彼もレグルスと馴染みのある使用人らしい。
「あいつらにとって、俺はいつまでも小さな末っ子のままでね。……君にはみっともないところばかり、見せてしまった」
「とんでもないです。皆さん、とても局長を想ってらっしゃる。この庭園を見れば分かりますよ」
庭園に植えられているのは、魔素植物ばかり。
仕事柄、魔力を消費する機会が多い、レグルスのためだとはっきり解る。
レグルスは面映そうに笑って、導くようにアルカを誘った。
「こっち、すぐそこ、リッカの木」
待ち切れないように腕を引く様が、本当の大型犬に見えてきた。
待て。供給過多が過ぎる。
ゲームのイベントのレグルスも、上司としてのレグルスも、いつもは冷静沈着で柔らかな笑顔を浮かべていても、常に一線を明確に引いている人柄だった。
長く相棒をしているアルカにさえ、他者よりは随分砕けては居たが、絶対に越えられない壁を感じていた。
それが今、眼の前にいるレグルスはどうだろう。壁を感じないどころか、見たことのない表情すら晒している。
「ほら」
引かれた腕もそのままに、一際大きなリッカの木に辿り着く。
随分大きな木だ。大資料室の書架くらいある。その大きな木に、鈴なりの黄金の実がいっぱいに実っている。
レグルスが長い腕を伸ばした。本当にスタイルが良い。
190cm近い長身に長い手足。太い骨格に無駄の無い均整の取れた筋肉。靭やかで隙の無い体躯は本当に美しい。
柔らかな陽射しに縁取られたレグルスが黄金の実をもぐ姿は、まるで絵画のように厳かで神秘的だ。
「はい、どうぞ」
採った数粒を袖で軽く拭ってから、レグルスは口元に差し出して来た。
「ちょ、局」
質の悪い戯れに抗議するために開いた唇に、ぎゅむっとリッカの実が押し付けられた。
もう仕方が無いので、大人しく迎え入れて咀嚼する。
「まだ魔力が全回復してませんからね」
飲み込んだタイミングで、次々と唇に押し付けられる。
無言の抗議にもレグルスが引かないために、結局全て手ずから与えられた。
何が楽しいのか、その間レグルスはずっと満足そうに、にこにこと笑っていた。
「君、サム君とジョエル君の仕事の肩代わりしていましたね、1人で」
最後の1つを飲み込んだタイミングで、レグルスは口を開いた。
「それは、まあ……、なんていうか、結果的に」
図星を突かれて曖昧に濁す。頭半分ほど見上げた直ぐ先に、思っていた以上に近い距離にレグルスがいた。
「君の責任感の強いところ、美徳だとは思うけど。少しは俺のことも頼って」
どこか寂しそうな微笑みに、何も言えなくなる。
「相棒でしょ、俺たち」
柔らかな瞳に、吸い込まれるような気さえしてくる。何故だ。何故かレグルスに惹き寄せられる。
つ、と唇の端を硬い親指で撫でられた。濡れた感触と立ち上った香にリッカの果汁と知る。
「先に謝っておくね、明日騒がしくなったらごめん」
レグルスは悪戯っぽく笑んで、親指を自らの唇に寄せた。それまでの無邪気とも言える雰囲気から一変。
急に現れた蠱惑的な笑みに、背筋が人知れず震えた。
ホカホカの野菜たっぷりスープを口に運びながら、アルカはゲームで何度も見たイベントシーンを思い出す。
この世界では魔素が生命維持に血液と同じくらい重要で、体内の魔素が底を尽きると、命を落とす場合もある。
前世で言うと、失血死と同じ状態だ。
魔素は身体中を巡り、魔力となり体外に放出される。魔力を消費するということは、生命の素を失うことと同義だ。
だが、魔素は空気と同じく大気から自然に取り込むため、急速に大量を失わなければ問題は無い。
魔力の基本総量は本人の資質次第だが、上限を超えて使用しなければ睡眠や食事、魔導ポーションで回復する。
それとは別に、他者同士で魔力を譲渡や共有したり出来る。それが魔力調整と呼ばれる方法だ。
魔力調整は相性が悪いと危険ということもあり、通常は気心の知れた仲でのみ行われる。
その大きな理由が直接的な接触が必要なこと、相性が嵌ると途轍もない快楽をもたらすからだ。
勿論、直接と言っても手を繋ぐ、ハグをするなど軽いものから、最終的には体を繋げるところまでの方法がある。
魔力調整をすると相性が良ければ、どうしても官能を引き起こすため、基本的には親しい間柄で行う。
寧ろパートナー同士では繋がりが深いほど、魔力が簡単に結んで混じり合うため、性行為では自然と魔力調整も行ってしまう。
何故なら体だけ繋げるよりも、断然気持ちが良いからだ。
だから仲の良い夫婦や恋人同士は、お互いの魔力の気配を帯びているのが普通だ。
逆に家族となると波長に血縁由来の親和性があるため、性的な興奮は引き起こされない。
主人公と攻略キャラは、何かにつけしょっちゅう魔力調整をしてイチャイチャしてたんだよなあ。
さすが18禁ゲーム……。設定でエロチャンスを逃さない。
柔らかな野菜の甘みを味わって飲み込むと、小さく溜息を吐いた。
「アルカ君、あまり食欲無い?」
「いえ!すごく美味しいです!」
窺うようなレグルスの声に、アルカは思考の海から浮上した。
ここがレグルスの屋敷のダイニングだと言うことを、すっかり忘れていた。
すぐ後ろに控えていた老執事が、すっとメイドを呼ぶ。
この老執事ハリスに2人とも怒られて、食事を促されて現在に至る。
いい歳してなんだが、説教中のハリスは笑顔なのにめちゃくちゃ怖かった。
平時なら仕事の話で話題は尽きぬ2人だが、今日ばかりはぎこちなく会話が続かない。
向かい側のレグルスの向こう、ハリスが呆れたような瞳で主の背を見詰めている。
レグルスも分かっているのか、居心地が悪そうだ。
アルカだって物語なら、はいはいそういう設定ですね続けてどうぞで済むのだが、まさか自分が憧れの上司から魔力調整を受けるなんて。
思い出す度に、頬がカッと熱くなり汗が流れる。
「メイヤー様、どうぞ。こちらはサッパリとしていて、喉を通りやすいかと」
「あ、すみません、お気遣いを」
ハリスが気遣うようにそっと、旬の果物の盛合せを手ずから給仕してくれた。
ちょうど今時分の、春が旬のリッカの実だ。
リッカの木は国中の至る所に自生していて、冬以外はずっと実を付けている。
通年手に入るが、1番採れの春物が、1番美味い。最大の歓待に応えて、1粒口に運ぶ。
この世界では前世と同じ植物や食物、生物が多数存在するが、ファンタジーらしく独自の物もある。
1つ違う点は全ての動植物は、大なり小なり魔素を帯びている。
リッカの実は独自のもので、魔素をふんだんに帯びているため、魔素植物に分類されている。
口に含んだリッカの実は、甘酸っぱく爽やかでとても美味い。
前世の金柑に似た味で、もっと甘みが強く果汁も多い。大分回復したとは言え、魔力不足の身には染み渡るようだ。
「すごく美味しいです。今まで食べた中で1番です」
「それは良うございました。実はこちら、庭で栽培しているものとなります」
ハリスは先程の説教時とはがらりと変わった、柔らかな笑顔で頷く。
「ああ、そうなんですね。だから完熟なんですね。領地の本邸の周りにもたくさん自生していたので、子供の頃はしょっちゅう採ってました。……懐かしい」
「メイヤー伯領は自然が豊かでしたね……!」
それまで黙っていたレグルスが、パッと顔を上げて話に入ってくる。
「はい、食べ過ぎて魔力過多に、なって……」
「……っ、あ、はは」
魔力調整に繋がる方向に話が飛び火して、2人は取り繕うように笑った。
いや、中学生かよ。2人ともとっくに成人済みだし、レグルスに至ってはアルカの4つも年上である。
再び沈黙した場に、ハリスのこれ見よがしな溜息が落ちる。
「レグ坊っちゃん、折角ですしお庭を案内して差し上げるのがよろしいかと」
「ハリス……、頼むから、部下の前で坊っちゃん呼びは勘弁してくれ」
どうもレグルスは、この老執事に頭が上がらないらしい。2人の間からは、単なる雇用関係以上の親愛が感じられる。
弱り切った顔のレグルスなんて、初めて見る。
思わずマジマジと見ると、少し頬を染めたレグルスが拗ねたような、少年みたいな顔で視線を逸らした。
「あ~、えっと、……リッカの実、見に行こうか」
「ありがとうございます、局長」
「じゃあ、食べ終わったら早速……」
「しかし自分は仕事が残っていますので、これで失礼致します」
片手を上げてレグルスを遮ると、場の空気が一気に零度以下に下がった。
「アルカ君?」
「メイヤー様?」
「え?」
レグルスとハリスの顔に、飛び切りの笑顔が張り付いてる。
なんか親子みたいに似ているなあ、と場違いな感想が浮かんでしまった。
「アルカ君、俺、君はちゃんと話が分かる子だと思ってましたが。ねえ、本当に理解してます?何で死にかけたのに、まだ働こうとするんですか」
庭園を歩きながら、レグルスは剣呑な顔で説教を続けていた。
「いや、本日出勤日でしたし……」
「あのねえ、君を今日休暇にしない訳がないでしょ?上司の前で倒れたんですよ?ただでさえ君は、休暇が未消化ですし」
「でも未処理の仕事が」
「もう1回、初めから説教し直しましょうか。ハリスと2人で」
「……局長だって、休暇未消化じゃないですか」
「俺はいいんですよ。局長ですから。それに俺も、今日はちゃんと休暇にしましたし」
腹が満ちて麗らかな日差しを浴びて、新鮮な風に吹かれれば漸く2人も調子を取り戻したようで、気楽な会話が続く。
王都の貴族街の一番端にあるせいか、レグルスの屋敷の庭は広い。
屋敷自体は身分を鑑みると小さいくらいで、使用人も気心の知れた精鋭のみのようだった。
すれ違ったいかにも好々爺の、髭をたっぷり蓄えた庭師と礼を交わす。
にこにこと、坊っちゃんと声をかけていたから、彼もレグルスと馴染みのある使用人らしい。
「あいつらにとって、俺はいつまでも小さな末っ子のままでね。……君にはみっともないところばかり、見せてしまった」
「とんでもないです。皆さん、とても局長を想ってらっしゃる。この庭園を見れば分かりますよ」
庭園に植えられているのは、魔素植物ばかり。
仕事柄、魔力を消費する機会が多い、レグルスのためだとはっきり解る。
レグルスは面映そうに笑って、導くようにアルカを誘った。
「こっち、すぐそこ、リッカの木」
待ち切れないように腕を引く様が、本当の大型犬に見えてきた。
待て。供給過多が過ぎる。
ゲームのイベントのレグルスも、上司としてのレグルスも、いつもは冷静沈着で柔らかな笑顔を浮かべていても、常に一線を明確に引いている人柄だった。
長く相棒をしているアルカにさえ、他者よりは随分砕けては居たが、絶対に越えられない壁を感じていた。
それが今、眼の前にいるレグルスはどうだろう。壁を感じないどころか、見たことのない表情すら晒している。
「ほら」
引かれた腕もそのままに、一際大きなリッカの木に辿り着く。
随分大きな木だ。大資料室の書架くらいある。その大きな木に、鈴なりの黄金の実がいっぱいに実っている。
レグルスが長い腕を伸ばした。本当にスタイルが良い。
190cm近い長身に長い手足。太い骨格に無駄の無い均整の取れた筋肉。靭やかで隙の無い体躯は本当に美しい。
柔らかな陽射しに縁取られたレグルスが黄金の実をもぐ姿は、まるで絵画のように厳かで神秘的だ。
「はい、どうぞ」
採った数粒を袖で軽く拭ってから、レグルスは口元に差し出して来た。
「ちょ、局」
質の悪い戯れに抗議するために開いた唇に、ぎゅむっとリッカの実が押し付けられた。
もう仕方が無いので、大人しく迎え入れて咀嚼する。
「まだ魔力が全回復してませんからね」
飲み込んだタイミングで、次々と唇に押し付けられる。
無言の抗議にもレグルスが引かないために、結局全て手ずから与えられた。
何が楽しいのか、その間レグルスはずっと満足そうに、にこにこと笑っていた。
「君、サム君とジョエル君の仕事の肩代わりしていましたね、1人で」
最後の1つを飲み込んだタイミングで、レグルスは口を開いた。
「それは、まあ……、なんていうか、結果的に」
図星を突かれて曖昧に濁す。頭半分ほど見上げた直ぐ先に、思っていた以上に近い距離にレグルスがいた。
「君の責任感の強いところ、美徳だとは思うけど。少しは俺のことも頼って」
どこか寂しそうな微笑みに、何も言えなくなる。
「相棒でしょ、俺たち」
柔らかな瞳に、吸い込まれるような気さえしてくる。何故だ。何故かレグルスに惹き寄せられる。
つ、と唇の端を硬い親指で撫でられた。濡れた感触と立ち上った香にリッカの果汁と知る。
「先に謝っておくね、明日騒がしくなったらごめん」
レグルスは悪戯っぽく笑んで、親指を自らの唇に寄せた。それまでの無邪気とも言える雰囲気から一変。
急に現れた蠱惑的な笑みに、背筋が人知れず震えた。
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