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春の章 始まり編
10 バークレー山迷宮攻略
迷宮内はレア素材も含め、かなり潤沢に素材や魔石が存在し、正に宝の山だった。
しかし下層2層から、かなり強い魔物が徘徊していた。
魔素溜まりの影響が顕著で、アルカ達は片端から対処していく。
ちなみに他のゲームでは、魔障の類は聖女が浄化するというのがお約束だが、この世界では聖女も居ないし浄化の概念は無い。
魔素濃度を下げるだけで問題は解決するので、魔術師の出番となる。
「はいっ、ジーク君、退いて~」
魔素溜まりから魔素を吸い取ったレグルスが、ジークを囲んでいた魔物たちへ上級の水魔法を放つ。
「今、俺ごと撃ち抜こうとしませんでしたか?」
高圧で放たれた水の散弾に、素早い反射で避けたジークが怒鳴った。
「え~?ごめんね~?俺、水魔法ってあんまり得意じゃないから~」
ダンっとレグルスの後ろの壁に、背後を取っていた魔物が突き刺さる。
縫い止めているのは、ジークが豪速で投げた剣だ。
「髪の毛、1本切れちゃったんですけど?」
「すみません、狙いを外しました」
「ジーク君、調子悪いんじゃない?帰った方がいいんじゃない~?」
レグルスがにこにこと壁の剣を抜いて、ジークへ豪速で投げ返す。ジークは危うげ無く、剣の柄を握り止めた。
地下5層まで来ると、取り繕うのが面倒になったのかレグルスとジークは、あからさまに小競り合いを始めていた。
こんなやり取りは情報室ではじゃれ合いに入り、しょっちゅう見られるおふざけの内だろう。
ただ、ここまでこの2人が、突っかかり合うのは初めてで珍しい。
アルカももう面倒になって、1人黙々とアブゾーブをしては、魔法をぶっ放している。
これが魔素溜まりを鎮静する方法だ。
魔術師なら誰でも使える初級魔法アブゾーブを使い、魔素を吸い取るだけの、簡単なお仕事である。
ただし己の許容量を超えないようにする必要があるため、大規模な鎮静は魔力量の多い、即ち魔力の器が大きい魔術師が処理に適している。
その点で言えば、アルカもレグルスも適任だ。
2人とも使用魔力の多い上級魔法を幾つも使用出来るし、魔力量も多い。
実質無尽蔵の永久機関と化し、バンバン魔法を撃って、ガンガン魔素を吸えば良いだけである。
上位魔術師が居ない場合は、人海戦術で対応出来るため、通常ダンジョンはギルド支部で上手く管理している。
しかし今回は魔素量が多く、2人で消化するには時間がそれなりにかかる。
左手でアブゾーブ、右手で放出なんて器用なことをしながら、ややうんざりしてきた。
魔法は派手だが、やっていることは地道で地味な単純作業なのだ。
ギルド職員には通称『掃除当番』として、敬遠されているくらいだ。
向かって来た魔物の集団に、特級魔法の氷雷を喰らわせながら、アルカは欠伸を噛み殺した。
折角だから闇魔法の特級を習得するために、上級の上級を練習することにした。
しかし暑い。5層になると火属性ダンジョンだけあって、猛暑日くらいの体感温度だ。
5層を鎮静する頃には、レグルスとジークは汗だくになっていた。
ジークが調査した際には最下層だった6層に降りると、あちこちにマグマが流れた広大なフロアになっていた。
「やっぱり階層が増えてる。この間は、ここはボスフロアだった」
「……直ぐ下、もう1層増えただけのようです。下に居ます」
漸く終わりが見えてきたことにホッとしつつ、6層の広さと暑さに皆、口を閉ざした。
息をするだけで火傷しそうな暑さで、長時間人が活動することは不可能だろう。
「局長、火属性なんだし多少炙られても死なないですよね。こっから先は、お1人でも大丈夫なのでは?」
「ジーク君こそ、頭以外は本当に強いもんね。折角だしドラゴン単独討伐の記録更新した方が、いいんじゃない?」
いつの間に仲良くなったんだ。大分砕けた口調で気安く話す2人を横目に、自らに掛けた結界を強化する。
「……?え、待って、アルカ君。何それ?」
魔力に反応して、振り向いたレグルスが目を丸くする。
「何だ、お前だけ余裕そうだな?」
「もしかして結界魔法に氷、と風を反映させてる?」
「は?何だその便利魔法」
汗だくの2人が、ぷるぷると指差してくる。
「ちょっとやってみたら出来ました、冷房付き結界」
5層が余りに暑く、エアコンを思い出して魔法を何度か工夫して編み出したら、エアコン結界が爆誕した。
ちなみにエアコンは、この世界でも氷と風魔石を使った空調設備として普及している。
結界を体に合わせて、薄く氷魔法のフリーズを重ねて、内側に初級風魔法のウィンドを、魔力を最小に絞って循環させている。
今さっき出力を上げて、エアコン強にした。
割と多い魔力を使い、複雑で繊細な操作をしているが、魔素なら幾らでもあるため、やりたい放題である。
『掃除当番』の利点は、こんな風に魔法の訓練になることだ。
魔術は体系と理論が決まっていて、属性関わらず魔力と理解で行使出来るが、魔法はこんな風に本人の才覚と創造力で編み出すことが出来る。
勿論ガイドとして各級の基礎魔法は決まっているが、魔法はいくらでもアレンジ可能だ。
魔術自体も多少のアレンジは可能だが、術式理論の完全な理解と組み立てが必要となる。
言わば自由に絵を描くのと、PCでプログラムを組むような違いがある。
魔術と魔法、両方習得して初めて魔術師の資格が取れるが、その点アルカは中々優秀だった。
「か~、天才かよ」
「えっ、何で教えてくれなかったの……?」
「2人ともずっと仲良くお話していて、忙しそうでしたので」
レグルスとジークは、スンとした顔で黙った。
「ね、ねぇ、アルカ君、俺にもかけてくれませんか?俺だとそこまで魔力を絞れないので、多分四肢が爆散しちゃいます」
「俺にも頼む」
「分かりました。ジーク君には、俺がかけてあげましょう」
「局長に頼んでませんし、四肢が爆散するって言いましたよね、今。もうモーロクしたんですか」
「大丈夫大丈夫、ジーク君、頑丈だから大丈夫だよ」
2人の間に特大の氷柱を2つ落とす。氷柱が音を立てて地面にめり込んだ。
「有り余ってるようなので、これでも担いでれば良いと思いますよ?」
にっこり笑うと、2人は怯えた表情で漸く静かになった。
「俺はずっと真面目に、ずっと作業をこなしていたんですが。何故なら早く終わらせて、帰りたいから。だから体力馬鹿2人に付き合って休憩無しでも文句言わずに、俺はずっと作業を真面目にこなしてたんですよ」
大事な事だったので2回言った。
「それをあんたらは」
「わ~!アルカ君ごめんなさい、休憩しましょう、ねっ!配慮が足りなくて、申し訳なかったです……!」
「一旦、5層に戻るか?」
わたわたとしだした子供っぽい男たちに、溜息を吐いてエアコン結界を大きく展開した。
「あっ、アルカ君、見て見て。これ肉焼けそうです」
6層入口で休憩していると、すぐ横にあったマグマで熱せられて赤くなった平たい岩を、レグルスが指差した。
それから目を輝かせながら、自身の空間収納袋から2層で狩った猪の魔物を取り出す。
レグルスはあっという間に猪魔物を解体して、るんるんと解体したナイフで突き刺した肉を、岩に押し付けた。
リッカの実の時もだけど、割とこういうとこあるんだよな。ちょっと残念な雑さだ。
迷宮調査などの任務時やスタンピード時は、現地調達ということで魔物で腹を満たすこともままある。
まあ元は動物なので忌避感は無い。魔物も料理素材として、一般流通もしている。魔素量が多い分、美味い物も多い。
じゅわっと脂が跳ねる音がして、香ばしい匂いが漂い、ジークまでも肉をもらって焼き出した。
ジークは身体強化の影響もあり、かなりの大食いだから我慢出来なかったのだろう。
「誰か塩胡椒とか持ってます?」
「どうぞ」
ジークが収納袋から調味料一式を取り出して、本格的な焼肉が始まってしまった。
大きな男たちが小さくまとまって膝を抱えて肉を焼く姿に、何だかどうでも良くなって、アルカも参加する。
「エールがあれば最高でしたね」
声をかけるとレグルスがパアっと顔を輝かせ、いそいそと肉を差し出した。
ちゃんとフォークに刺されたそれを受け取って、アルカも岩の一画で肉を育てる。
「俺は米が欲しい」
ジークの言葉に頷きながら、じゅわじゅわ焼ける肉を見守る。
焼けた肉は、蕩ける甘い脂に普段よりキツめに振った塩胡椒が良く合って、汗をかいてくたびれた身体に染み渡る美味さだ。
「……やっぱり魔素の多いとこに空きっ腹で長時間いるのは、良くないですね」
レグルスの呟きに皆しみじみと頷き、しばらく3人で膝を突き合わせて無心で肉を焼いた。
幸い魔物も寄ってこなかったため、3人はしっかり腹を満たして充分な休息を取った。
エアコン結界が強力なため、それぞれ着替えて体を拭いてさっぱりし、小1時間快適な仮眠も取れたので英気充分だ。
アルカ達が身につけている、情報室員に支給されている空間収納袋はベルト型で、武器ホルダーも付いている優れ物だ。
さらに収納量も一般流通分より大容量で、家1軒分の荷物が入る。
今回の任務は長くて数日と読んでいたので、替えの装備なんかを余分に容易していたので良かった。
通常の冒険者たちならここまで来るのに、2週間程度かかるだろうが、採取や討伐目的ではないし、面子が面子のためあっという間に最深部へ辿り着いた。
迷宮に入ると時間感覚が狂うので体感5時間くらいだが、それでも恐らく丸一日はかかっているだろう。
「この先ですね」
休憩が良かったのか、6層は最速で魔素の対処を終え、アルカたちはいよいよダンジョン最深部へ辿り着いた。
最下層7層はこれまでの岩とマグマのフロアとは違い、静謐で真っ直ぐな一本道が奥の広場に続いているだけだ。
大体の迷宮のボスエリアは、他の魔物が湧かないことが多い。
レグルスの言葉以上に、肌に刺さるような威圧的な魔力を感じる。
奥の広間から感じる魔素濃度は、魔障を引き起こす寸前の気配で、マスターに悪影響を及ぼしているのは必至だ。
やはりこのドラゴンだけは、討伐が必要なようだ。
この世界の魔物は、動物が転化したものが基本だ。
しかし、ダンジョンが最初から内包して産まれてくる、ダンジョンマスターやフロアボス、そのボス達が生み出す眷属だけは違う。
それこそ神話の時代の怪物といった、いかにもファンタジーな魔法生物がいる。
この魔法生物たちから採れる素材はレア素材で、しかも一定の時が経てば新しくマスターが出現するため、腕に覚えのある冒険者達に人気の討伐クエストになる。
そのため、それなりのダンジョンマスターはクエスト用にするし、今回もフロアボスは見逃して来た。
しかしこのドラゴンだけは、トップランカーでも厳しいだろう。何より魔素の掃除に邪魔である。
「久々のS級なので、気を抜かないように」
「お任せください。綺麗に仕留めて見せます」
「あんまり調子に乗るなよ」
レグルスの言葉に強気に返したジークを肘で小突く。
多数あるダンジョンでも、S級ドラゴンがマスターになるのは珍しい。
ドラゴン素材はS級レア素材として、特に珍重されている。
特に魔物の心臓部分は魔核と呼ばれ、中でも竜の魔核は竜核と呼ばれる特級素材のため、ギルドに売ると高額報酬が貰える。
ギルド職員の任務中の拾得物は、ギルド所有になるため懐に入れることは出来ないが、査定評価や任務報酬に上乗せされる。
今回竜核を手に入れれば、高額任務報酬は間違いが無い。状態が良ければ更に加算される。
「じゃあバフかけますんで」
アルカも気合い充分、全員に念入りにバフを付与した。あとエアコン結界にも。
しかし下層2層から、かなり強い魔物が徘徊していた。
魔素溜まりの影響が顕著で、アルカ達は片端から対処していく。
ちなみに他のゲームでは、魔障の類は聖女が浄化するというのがお約束だが、この世界では聖女も居ないし浄化の概念は無い。
魔素濃度を下げるだけで問題は解決するので、魔術師の出番となる。
「はいっ、ジーク君、退いて~」
魔素溜まりから魔素を吸い取ったレグルスが、ジークを囲んでいた魔物たちへ上級の水魔法を放つ。
「今、俺ごと撃ち抜こうとしませんでしたか?」
高圧で放たれた水の散弾に、素早い反射で避けたジークが怒鳴った。
「え~?ごめんね~?俺、水魔法ってあんまり得意じゃないから~」
ダンっとレグルスの後ろの壁に、背後を取っていた魔物が突き刺さる。
縫い止めているのは、ジークが豪速で投げた剣だ。
「髪の毛、1本切れちゃったんですけど?」
「すみません、狙いを外しました」
「ジーク君、調子悪いんじゃない?帰った方がいいんじゃない~?」
レグルスがにこにこと壁の剣を抜いて、ジークへ豪速で投げ返す。ジークは危うげ無く、剣の柄を握り止めた。
地下5層まで来ると、取り繕うのが面倒になったのかレグルスとジークは、あからさまに小競り合いを始めていた。
こんなやり取りは情報室ではじゃれ合いに入り、しょっちゅう見られるおふざけの内だろう。
ただ、ここまでこの2人が、突っかかり合うのは初めてで珍しい。
アルカももう面倒になって、1人黙々とアブゾーブをしては、魔法をぶっ放している。
これが魔素溜まりを鎮静する方法だ。
魔術師なら誰でも使える初級魔法アブゾーブを使い、魔素を吸い取るだけの、簡単なお仕事である。
ただし己の許容量を超えないようにする必要があるため、大規模な鎮静は魔力量の多い、即ち魔力の器が大きい魔術師が処理に適している。
その点で言えば、アルカもレグルスも適任だ。
2人とも使用魔力の多い上級魔法を幾つも使用出来るし、魔力量も多い。
実質無尽蔵の永久機関と化し、バンバン魔法を撃って、ガンガン魔素を吸えば良いだけである。
上位魔術師が居ない場合は、人海戦術で対応出来るため、通常ダンジョンはギルド支部で上手く管理している。
しかし今回は魔素量が多く、2人で消化するには時間がそれなりにかかる。
左手でアブゾーブ、右手で放出なんて器用なことをしながら、ややうんざりしてきた。
魔法は派手だが、やっていることは地道で地味な単純作業なのだ。
ギルド職員には通称『掃除当番』として、敬遠されているくらいだ。
向かって来た魔物の集団に、特級魔法の氷雷を喰らわせながら、アルカは欠伸を噛み殺した。
折角だから闇魔法の特級を習得するために、上級の上級を練習することにした。
しかし暑い。5層になると火属性ダンジョンだけあって、猛暑日くらいの体感温度だ。
5層を鎮静する頃には、レグルスとジークは汗だくになっていた。
ジークが調査した際には最下層だった6層に降りると、あちこちにマグマが流れた広大なフロアになっていた。
「やっぱり階層が増えてる。この間は、ここはボスフロアだった」
「……直ぐ下、もう1層増えただけのようです。下に居ます」
漸く終わりが見えてきたことにホッとしつつ、6層の広さと暑さに皆、口を閉ざした。
息をするだけで火傷しそうな暑さで、長時間人が活動することは不可能だろう。
「局長、火属性なんだし多少炙られても死なないですよね。こっから先は、お1人でも大丈夫なのでは?」
「ジーク君こそ、頭以外は本当に強いもんね。折角だしドラゴン単独討伐の記録更新した方が、いいんじゃない?」
いつの間に仲良くなったんだ。大分砕けた口調で気安く話す2人を横目に、自らに掛けた結界を強化する。
「……?え、待って、アルカ君。何それ?」
魔力に反応して、振り向いたレグルスが目を丸くする。
「何だ、お前だけ余裕そうだな?」
「もしかして結界魔法に氷、と風を反映させてる?」
「は?何だその便利魔法」
汗だくの2人が、ぷるぷると指差してくる。
「ちょっとやってみたら出来ました、冷房付き結界」
5層が余りに暑く、エアコンを思い出して魔法を何度か工夫して編み出したら、エアコン結界が爆誕した。
ちなみにエアコンは、この世界でも氷と風魔石を使った空調設備として普及している。
結界を体に合わせて、薄く氷魔法のフリーズを重ねて、内側に初級風魔法のウィンドを、魔力を最小に絞って循環させている。
今さっき出力を上げて、エアコン強にした。
割と多い魔力を使い、複雑で繊細な操作をしているが、魔素なら幾らでもあるため、やりたい放題である。
『掃除当番』の利点は、こんな風に魔法の訓練になることだ。
魔術は体系と理論が決まっていて、属性関わらず魔力と理解で行使出来るが、魔法はこんな風に本人の才覚と創造力で編み出すことが出来る。
勿論ガイドとして各級の基礎魔法は決まっているが、魔法はいくらでもアレンジ可能だ。
魔術自体も多少のアレンジは可能だが、術式理論の完全な理解と組み立てが必要となる。
言わば自由に絵を描くのと、PCでプログラムを組むような違いがある。
魔術と魔法、両方習得して初めて魔術師の資格が取れるが、その点アルカは中々優秀だった。
「か~、天才かよ」
「えっ、何で教えてくれなかったの……?」
「2人ともずっと仲良くお話していて、忙しそうでしたので」
レグルスとジークは、スンとした顔で黙った。
「ね、ねぇ、アルカ君、俺にもかけてくれませんか?俺だとそこまで魔力を絞れないので、多分四肢が爆散しちゃいます」
「俺にも頼む」
「分かりました。ジーク君には、俺がかけてあげましょう」
「局長に頼んでませんし、四肢が爆散するって言いましたよね、今。もうモーロクしたんですか」
「大丈夫大丈夫、ジーク君、頑丈だから大丈夫だよ」
2人の間に特大の氷柱を2つ落とす。氷柱が音を立てて地面にめり込んだ。
「有り余ってるようなので、これでも担いでれば良いと思いますよ?」
にっこり笑うと、2人は怯えた表情で漸く静かになった。
「俺はずっと真面目に、ずっと作業をこなしていたんですが。何故なら早く終わらせて、帰りたいから。だから体力馬鹿2人に付き合って休憩無しでも文句言わずに、俺はずっと作業を真面目にこなしてたんですよ」
大事な事だったので2回言った。
「それをあんたらは」
「わ~!アルカ君ごめんなさい、休憩しましょう、ねっ!配慮が足りなくて、申し訳なかったです……!」
「一旦、5層に戻るか?」
わたわたとしだした子供っぽい男たちに、溜息を吐いてエアコン結界を大きく展開した。
「あっ、アルカ君、見て見て。これ肉焼けそうです」
6層入口で休憩していると、すぐ横にあったマグマで熱せられて赤くなった平たい岩を、レグルスが指差した。
それから目を輝かせながら、自身の空間収納袋から2層で狩った猪の魔物を取り出す。
レグルスはあっという間に猪魔物を解体して、るんるんと解体したナイフで突き刺した肉を、岩に押し付けた。
リッカの実の時もだけど、割とこういうとこあるんだよな。ちょっと残念な雑さだ。
迷宮調査などの任務時やスタンピード時は、現地調達ということで魔物で腹を満たすこともままある。
まあ元は動物なので忌避感は無い。魔物も料理素材として、一般流通もしている。魔素量が多い分、美味い物も多い。
じゅわっと脂が跳ねる音がして、香ばしい匂いが漂い、ジークまでも肉をもらって焼き出した。
ジークは身体強化の影響もあり、かなりの大食いだから我慢出来なかったのだろう。
「誰か塩胡椒とか持ってます?」
「どうぞ」
ジークが収納袋から調味料一式を取り出して、本格的な焼肉が始まってしまった。
大きな男たちが小さくまとまって膝を抱えて肉を焼く姿に、何だかどうでも良くなって、アルカも参加する。
「エールがあれば最高でしたね」
声をかけるとレグルスがパアっと顔を輝かせ、いそいそと肉を差し出した。
ちゃんとフォークに刺されたそれを受け取って、アルカも岩の一画で肉を育てる。
「俺は米が欲しい」
ジークの言葉に頷きながら、じゅわじゅわ焼ける肉を見守る。
焼けた肉は、蕩ける甘い脂に普段よりキツめに振った塩胡椒が良く合って、汗をかいてくたびれた身体に染み渡る美味さだ。
「……やっぱり魔素の多いとこに空きっ腹で長時間いるのは、良くないですね」
レグルスの呟きに皆しみじみと頷き、しばらく3人で膝を突き合わせて無心で肉を焼いた。
幸い魔物も寄ってこなかったため、3人はしっかり腹を満たして充分な休息を取った。
エアコン結界が強力なため、それぞれ着替えて体を拭いてさっぱりし、小1時間快適な仮眠も取れたので英気充分だ。
アルカ達が身につけている、情報室員に支給されている空間収納袋はベルト型で、武器ホルダーも付いている優れ物だ。
さらに収納量も一般流通分より大容量で、家1軒分の荷物が入る。
今回の任務は長くて数日と読んでいたので、替えの装備なんかを余分に容易していたので良かった。
通常の冒険者たちならここまで来るのに、2週間程度かかるだろうが、採取や討伐目的ではないし、面子が面子のためあっという間に最深部へ辿り着いた。
迷宮に入ると時間感覚が狂うので体感5時間くらいだが、それでも恐らく丸一日はかかっているだろう。
「この先ですね」
休憩が良かったのか、6層は最速で魔素の対処を終え、アルカたちはいよいよダンジョン最深部へ辿り着いた。
最下層7層はこれまでの岩とマグマのフロアとは違い、静謐で真っ直ぐな一本道が奥の広場に続いているだけだ。
大体の迷宮のボスエリアは、他の魔物が湧かないことが多い。
レグルスの言葉以上に、肌に刺さるような威圧的な魔力を感じる。
奥の広間から感じる魔素濃度は、魔障を引き起こす寸前の気配で、マスターに悪影響を及ぼしているのは必至だ。
やはりこのドラゴンだけは、討伐が必要なようだ。
この世界の魔物は、動物が転化したものが基本だ。
しかし、ダンジョンが最初から内包して産まれてくる、ダンジョンマスターやフロアボス、そのボス達が生み出す眷属だけは違う。
それこそ神話の時代の怪物といった、いかにもファンタジーな魔法生物がいる。
この魔法生物たちから採れる素材はレア素材で、しかも一定の時が経てば新しくマスターが出現するため、腕に覚えのある冒険者達に人気の討伐クエストになる。
そのため、それなりのダンジョンマスターはクエスト用にするし、今回もフロアボスは見逃して来た。
しかしこのドラゴンだけは、トップランカーでも厳しいだろう。何より魔素の掃除に邪魔である。
「久々のS級なので、気を抜かないように」
「お任せください。綺麗に仕留めて見せます」
「あんまり調子に乗るなよ」
レグルスの言葉に強気に返したジークを肘で小突く。
多数あるダンジョンでも、S級ドラゴンがマスターになるのは珍しい。
ドラゴン素材はS級レア素材として、特に珍重されている。
特に魔物の心臓部分は魔核と呼ばれ、中でも竜の魔核は竜核と呼ばれる特級素材のため、ギルドに売ると高額報酬が貰える。
ギルド職員の任務中の拾得物は、ギルド所有になるため懐に入れることは出来ないが、査定評価や任務報酬に上乗せされる。
今回竜核を手に入れれば、高額任務報酬は間違いが無い。状態が良ければ更に加算される。
「じゃあバフかけますんで」
アルカも気合い充分、全員に念入りにバフを付与した。あとエアコン結界にも。
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ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。