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春の章 王子護衛編
17 ピピ=ティティテスタ大密林
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防水耐性を上げたブーツをしっかり履き込んで、頭の中で携行品と装備を確認する。
着替えも余分に持ったし、携帯食も多めに持った。
最後にきっちり鍵に魔力を込めて、部屋の戸締まりをする。
アルカが長い階段を下りると、エントランスで待ち構えていたナンが鳴いた。
「ナン、おはよう!しまったな、何にも持ってないんだよ、今。ごめんな、帰って来てから、もう1度チャンスをいただきたく……!」
「ナン、ナン」
気にするなと言うようにナンは鷹揚に鳴いた。
それから未だナンナンと言っている。だが単語数が多すぎて、解読に難航する。
「アルカちゃん、お出かけ?」
直ぐそこの部屋の扉が開いて、エプロン姿のイザベラが顔を出した。
「イザベラさん、おはようございます。任務でピピ=ティティテスタに行ってきます」
「ティティテスタ?もしかして、大密林に行くのかい?」
「はい。1週間程度で戻れるかと」
「ナン、ナン」
「そう……、ちょっとお待ちなさいな」
イザベラは頬に手を当ててから、部屋に引っ込んだ。
ナンを窺うと、くぁっとピンクの舌を覗かせて、欠伸をしていた。
「これ、役に立ちそうな薬。持ってきなさい」
「えっ、悪いですよ!任務なんで、支給薬もありますし!イザベラさんが使うものですよね?」
「違うわよ、この通り私は未だピンシャンしてるからね。余ってた物だから良いのさ。これはあんたに必要になる」
「ナン」
「ナンまで持ってけって言うのか?……何かありそうなんだな?」
「ナ~ン」
「分かったよ。イザベラさん、ナン、ありがとうございます」
イザベラとナンに頭を下げると、1人と1匹は満足気に頷いた。
「気をつけて行くんだよ」
「はい、行ってきます」
アルカはイザベラたちに手を振って、ギルドへと向かった。
本日からのアルカの任務は、ローテションを組んでいた王子一行の警護の担当となる。
国の最南端、隣国との境界にあるティティテスタ自治領にある、ピピ=ティティテスタ大密林にある迷宮が行き先だ。
今回の警護担当は情報室からアルカとジークの2名、それに王族専用の護衛、王家の影たちとなる。
アルカたちはギルドの転移陣から、ティティテスタ支部の転移陣へ飛んだ。
「あつ……」
間もなく夏の盛りを迎えるが、ティティテスタは既に真夏だった。
雨季は明けていたが、密林は湿気が多くジメジメしている。
時折スコールも降るが、深い森の中では余計に不快感が増すだけだ。
「なんか、お前との任務って、最近暑いのばっかだな」
「この前のは、お前が勝手に付いてきたんだろ」
ジークと気怠い会話をしながら密林を進むと、王家の影が音も無く現れた。
「対象、20メートル」
「了解」
互いに無駄口を叩くこと無く配置に付く。近距離の護衛が3人、遠距離が2人、中距離にアルカたちの配置だ。
「来たな」
やいやい話しながら、密林でも目立つ色合いの集団が現れた。全員それなりに戦えるので、普通の魔物なら対処出来そうだ。
護衛は全員気が付かれないように、付かず離れず彼らについていく。
「はぁ、不毛だな」
ジークがうんざりしたように呟いた。
「ちょっとくらい切ったり折れたりしたって、死にはしないんだから、自分たちでやらせりゃいいのに」
「概ね同意見だが、普通の人とお前の頑丈さを同列にするなよ」
「アルカ」
何だと問い返そうとして、視界が急に反転してヒュンとした。
一瞬で蔦に足首を掴まれ吊るされて、樹上に一息に引っ張られていた。
「だからお前は魔力探知に頼り過ぎだって、言ってるだろ」
「……うるさいな」
太腿のホルダーに差していた、双剣の一振りで蔦を断ち切る。
今日は密林という状況と隠密任務のため、装備も1番得意なものにしている。
アルカが1番得意な近接攻撃術は、刃渡り50cm程度の湾刀に似た造りの双剣を使い、体術を組み合わせた暗殺術だ。
華麗に地面に着地したものの、アルカは内心羞恥に悶えた。
最弱の魔物にまんまと吊るされたアルカに、王家の影からの非難めいた視線が刺さっている。
密林に出来るようなダンジョンには、植物魔物も居て捕食行動を取ってくる。
基本的には動かず、人や動物が通れば反射的に捕食してくるだけだ。食肉植物と同じ原理である。
だが、だからこそ殆どの植物魔物には、殺気や攻撃意思が無い。
おまけに魔力も本体部分以外はかなり薄くて、魔力探知にも掛かりづらい。
周りに人がいると、その魔力に埋もれてしまう。
よって魔力探知をよく使う魔術師ほど、植物魔物には気がつけないものなのだ。
そういうものなのだ。決して、アルカが鈍感なのではない筈だ。
「お前、昔から変わらないな。学園時代の森ダンジョン訓練の時も、よく吊るされてたよな」
呆れたようなジークを睨む。
「やめろ、その話はするな」
「嫌だね。何度も引っかかるお前が悪い。いくら弱いって言ったって、あいつらの質の悪さ、忘れた訳じゃないよな?」
「ぐ……、分かった、分かってるよ」
半眼のジークから目を逸らして、道なき道を進む。
植物魔物は体力値の面では、初心者でも倒せるF級魔物だが、状態異常を付与してくる個体が多い。
特にこういった森林ダンジョンでは、複数の強力な状態異常を付与してくる個体が数多く自生していて、厄介な敵となる。
中でもボスになるような個体の討伐は、冒険者たちも忌避する面倒さだ。
バステ全付与、吸魔、吸血など厄介な攻撃で、アイテム対策をしないと全滅するような場合だって有り得る。
後方で、ざざっと梢が鳴った。
「なんだよ、ホラ見ろ、王家の影だって似たようなモンだろが」
ぷらんぷらんと揺れている護衛を指差して、アルカは唇を尖らせた。
「人を嗤う前に、自分の世話をしろよ」
勝ち誇ったように毒吐くアルカに、ジークはやれやれと首を振った。
「それをな、人はブーメランと言う」
今度こそアルカは黙って、草を掻き分けた。
それにしても潤沢な森だ。あちこちに貴重な薬草や花が自生している。
鳥や猿型の魔物の鳴き声も聞こえる。虫型魔物もあちこちにいるため、密林は様々な音と気配に満ちている。
滴るような緑の中、濃い空気を吸っていると、まるでこの星の一部になった気がする。
これが冒険の醍醐味なのだと、しみじみ感じる。
ふとレグルスを思い出す。
レグルスもこんな風に、どこまでも遠く、遥か遠くに馳せる思いを感じることが出来たのなら。
自ら定めた輪郭を越えて広く遍く、ここではない何処かまで。
レグルスにも、そんな瞬間が訪れれば良い。
アルカは切に祈るような気持ちで、彼の人を想った。
王子一行は影のアシストもあり、3日でダンジョンの目的地まで辿り着いた。目的地は最奥ではなく、第3エリアだ。
実はピピ=ティティテスタ大密林は、約700万km2の広さがある。
迷宮フィールドの大部分は、南方の隣国周辺国5カ国に跨るが、保有諸国全ての中立地帯だ。
レーヴァステインの保有は約15万km2と少ないが、テスタルートは入りやすく人気がある。
大密林の最深部は中央に存在するが、その辺りは隣国に位置し、上位ランカーも苦戦する魔物の宝庫だ。
そのため、テスタルート第3エリアに新たに出没したフロアボスを討伐させることで、満足させる計画になっている。
そもそも森林ダンジョンでは、魔障は発生しにくい。
植物魔物が魔素を吸って、吐き出すからだ。言わば魔術師の役割をしている。
ただ、彼らが放つのは魔法の代わりに、状態異常の毒となる。
そう言った理由と魔物の厄介さで、アルカたちはこのダンジョンを選定から外していたが、ティティテスタ自治領に頼まれてもいないのに、恩を売りたい王家が肝入で指定してきた。
大密林には古代遺跡の祭壇が点在し、そこには魔素が集まりやすいため、パフォーマンスをするには雰囲気も相まって最高なのだ。
テスタの民に、王子自らが慰問をして魔素を鎮めて貢献したという、シナリオを見せて友好度を上げたいらしい。
実に下らない政治的背景である。
第3エリアの遺跡群に到達した王子一行は、中央の祭壇に陣取るフロアボス、巨大なトレントと交戦を始めた。
アルカたちも、トレントの呼びかけに寄ってきた魔物が、王子たちを襲わないように、遺跡を背後に迎え討つ。
「アルカ!土中から根で掴んでくるやつ、いるからな!」
「分かってるよ!」
ジークは大剣で植物魔物と、人ほどの大きさの蜂の魔物をまとめて叩き斬りながら叫んだ。
アルカも素早く凍結を使って、植物魔物を砕いていく。
その最中、アルカの魔力感知に引っ掛かった気配に、電流が走ったかの如く瞬間的に叫ぶ。
「影ども!止めさせろ!!」
王家の影には聴こえた筈だ。アルカでは距離があり過ぎて、間に合わない。
「火魔法を使わせるな!!あのクソガキを早く!!」
振り向いた先に、トレントに向かって火魔法の上級を練り上げている、あの王宮魔術師ケインがいた。
ピピ=ティティテスタ大密林で、火魔法を使うことは各国との協定で禁止されている。理由は2つ。
1つは大密林が、火事になることを防ぐため。
大密林を焼失した場合、素材の金額損失はもちろん、世界の森林の7割が損失することになり、酸素生成に与える世界的影響が計り知れないためだ。
もう1つは、ピピ=ティティテスタは古来より続くテスタ民の聖地であり、最奥に女神の番人がいる。それを目覚めさせないため。
この番人がダンジョンマスターなのだが、不滅の存在だ。
番人は過去何度か討伐されてはいるが、倒しても一晩で復活するため、昔から守護神として神格化されている。
迷宮として認識されたのはここ数百年だが、発見済みの中で最古の迷宮とされている。
しかし、認識されるずっと前から女神や番人の伝説はあり、そのために古代の人々は、ここを聖地とし信仰が続いている。
女神の番人は普段は最奥で眠るだけで、何もしないので通常は無害だ。
だが、大密林で火魔法を使うと直ぐに飛んで来て、火魔法の使用者を殲滅する。
その強さは災厄級で、S級オーバーの封印指定魔物に認定されている。
だから誰も植物魔物の最大弱点の火魔法は、ここでは絶対に使わないのに。
アルカの警告に、ジークや影たちが飛び出していたが、王宮魔術師の方が一手早かった。
「炎風!」
無情にも詠唱が紡がれた。
着替えも余分に持ったし、携帯食も多めに持った。
最後にきっちり鍵に魔力を込めて、部屋の戸締まりをする。
アルカが長い階段を下りると、エントランスで待ち構えていたナンが鳴いた。
「ナン、おはよう!しまったな、何にも持ってないんだよ、今。ごめんな、帰って来てから、もう1度チャンスをいただきたく……!」
「ナン、ナン」
気にするなと言うようにナンは鷹揚に鳴いた。
それから未だナンナンと言っている。だが単語数が多すぎて、解読に難航する。
「アルカちゃん、お出かけ?」
直ぐそこの部屋の扉が開いて、エプロン姿のイザベラが顔を出した。
「イザベラさん、おはようございます。任務でピピ=ティティテスタに行ってきます」
「ティティテスタ?もしかして、大密林に行くのかい?」
「はい。1週間程度で戻れるかと」
「ナン、ナン」
「そう……、ちょっとお待ちなさいな」
イザベラは頬に手を当ててから、部屋に引っ込んだ。
ナンを窺うと、くぁっとピンクの舌を覗かせて、欠伸をしていた。
「これ、役に立ちそうな薬。持ってきなさい」
「えっ、悪いですよ!任務なんで、支給薬もありますし!イザベラさんが使うものですよね?」
「違うわよ、この通り私は未だピンシャンしてるからね。余ってた物だから良いのさ。これはあんたに必要になる」
「ナン」
「ナンまで持ってけって言うのか?……何かありそうなんだな?」
「ナ~ン」
「分かったよ。イザベラさん、ナン、ありがとうございます」
イザベラとナンに頭を下げると、1人と1匹は満足気に頷いた。
「気をつけて行くんだよ」
「はい、行ってきます」
アルカはイザベラたちに手を振って、ギルドへと向かった。
本日からのアルカの任務は、ローテションを組んでいた王子一行の警護の担当となる。
国の最南端、隣国との境界にあるティティテスタ自治領にある、ピピ=ティティテスタ大密林にある迷宮が行き先だ。
今回の警護担当は情報室からアルカとジークの2名、それに王族専用の護衛、王家の影たちとなる。
アルカたちはギルドの転移陣から、ティティテスタ支部の転移陣へ飛んだ。
「あつ……」
間もなく夏の盛りを迎えるが、ティティテスタは既に真夏だった。
雨季は明けていたが、密林は湿気が多くジメジメしている。
時折スコールも降るが、深い森の中では余計に不快感が増すだけだ。
「なんか、お前との任務って、最近暑いのばっかだな」
「この前のは、お前が勝手に付いてきたんだろ」
ジークと気怠い会話をしながら密林を進むと、王家の影が音も無く現れた。
「対象、20メートル」
「了解」
互いに無駄口を叩くこと無く配置に付く。近距離の護衛が3人、遠距離が2人、中距離にアルカたちの配置だ。
「来たな」
やいやい話しながら、密林でも目立つ色合いの集団が現れた。全員それなりに戦えるので、普通の魔物なら対処出来そうだ。
護衛は全員気が付かれないように、付かず離れず彼らについていく。
「はぁ、不毛だな」
ジークがうんざりしたように呟いた。
「ちょっとくらい切ったり折れたりしたって、死にはしないんだから、自分たちでやらせりゃいいのに」
「概ね同意見だが、普通の人とお前の頑丈さを同列にするなよ」
「アルカ」
何だと問い返そうとして、視界が急に反転してヒュンとした。
一瞬で蔦に足首を掴まれ吊るされて、樹上に一息に引っ張られていた。
「だからお前は魔力探知に頼り過ぎだって、言ってるだろ」
「……うるさいな」
太腿のホルダーに差していた、双剣の一振りで蔦を断ち切る。
今日は密林という状況と隠密任務のため、装備も1番得意なものにしている。
アルカが1番得意な近接攻撃術は、刃渡り50cm程度の湾刀に似た造りの双剣を使い、体術を組み合わせた暗殺術だ。
華麗に地面に着地したものの、アルカは内心羞恥に悶えた。
最弱の魔物にまんまと吊るされたアルカに、王家の影からの非難めいた視線が刺さっている。
密林に出来るようなダンジョンには、植物魔物も居て捕食行動を取ってくる。
基本的には動かず、人や動物が通れば反射的に捕食してくるだけだ。食肉植物と同じ原理である。
だが、だからこそ殆どの植物魔物には、殺気や攻撃意思が無い。
おまけに魔力も本体部分以外はかなり薄くて、魔力探知にも掛かりづらい。
周りに人がいると、その魔力に埋もれてしまう。
よって魔力探知をよく使う魔術師ほど、植物魔物には気がつけないものなのだ。
そういうものなのだ。決して、アルカが鈍感なのではない筈だ。
「お前、昔から変わらないな。学園時代の森ダンジョン訓練の時も、よく吊るされてたよな」
呆れたようなジークを睨む。
「やめろ、その話はするな」
「嫌だね。何度も引っかかるお前が悪い。いくら弱いって言ったって、あいつらの質の悪さ、忘れた訳じゃないよな?」
「ぐ……、分かった、分かってるよ」
半眼のジークから目を逸らして、道なき道を進む。
植物魔物は体力値の面では、初心者でも倒せるF級魔物だが、状態異常を付与してくる個体が多い。
特にこういった森林ダンジョンでは、複数の強力な状態異常を付与してくる個体が数多く自生していて、厄介な敵となる。
中でもボスになるような個体の討伐は、冒険者たちも忌避する面倒さだ。
バステ全付与、吸魔、吸血など厄介な攻撃で、アイテム対策をしないと全滅するような場合だって有り得る。
後方で、ざざっと梢が鳴った。
「なんだよ、ホラ見ろ、王家の影だって似たようなモンだろが」
ぷらんぷらんと揺れている護衛を指差して、アルカは唇を尖らせた。
「人を嗤う前に、自分の世話をしろよ」
勝ち誇ったように毒吐くアルカに、ジークはやれやれと首を振った。
「それをな、人はブーメランと言う」
今度こそアルカは黙って、草を掻き分けた。
それにしても潤沢な森だ。あちこちに貴重な薬草や花が自生している。
鳥や猿型の魔物の鳴き声も聞こえる。虫型魔物もあちこちにいるため、密林は様々な音と気配に満ちている。
滴るような緑の中、濃い空気を吸っていると、まるでこの星の一部になった気がする。
これが冒険の醍醐味なのだと、しみじみ感じる。
ふとレグルスを思い出す。
レグルスもこんな風に、どこまでも遠く、遥か遠くに馳せる思いを感じることが出来たのなら。
自ら定めた輪郭を越えて広く遍く、ここではない何処かまで。
レグルスにも、そんな瞬間が訪れれば良い。
アルカは切に祈るような気持ちで、彼の人を想った。
王子一行は影のアシストもあり、3日でダンジョンの目的地まで辿り着いた。目的地は最奥ではなく、第3エリアだ。
実はピピ=ティティテスタ大密林は、約700万km2の広さがある。
迷宮フィールドの大部分は、南方の隣国周辺国5カ国に跨るが、保有諸国全ての中立地帯だ。
レーヴァステインの保有は約15万km2と少ないが、テスタルートは入りやすく人気がある。
大密林の最深部は中央に存在するが、その辺りは隣国に位置し、上位ランカーも苦戦する魔物の宝庫だ。
そのため、テスタルート第3エリアに新たに出没したフロアボスを討伐させることで、満足させる計画になっている。
そもそも森林ダンジョンでは、魔障は発生しにくい。
植物魔物が魔素を吸って、吐き出すからだ。言わば魔術師の役割をしている。
ただ、彼らが放つのは魔法の代わりに、状態異常の毒となる。
そう言った理由と魔物の厄介さで、アルカたちはこのダンジョンを選定から外していたが、ティティテスタ自治領に頼まれてもいないのに、恩を売りたい王家が肝入で指定してきた。
大密林には古代遺跡の祭壇が点在し、そこには魔素が集まりやすいため、パフォーマンスをするには雰囲気も相まって最高なのだ。
テスタの民に、王子自らが慰問をして魔素を鎮めて貢献したという、シナリオを見せて友好度を上げたいらしい。
実に下らない政治的背景である。
第3エリアの遺跡群に到達した王子一行は、中央の祭壇に陣取るフロアボス、巨大なトレントと交戦を始めた。
アルカたちも、トレントの呼びかけに寄ってきた魔物が、王子たちを襲わないように、遺跡を背後に迎え討つ。
「アルカ!土中から根で掴んでくるやつ、いるからな!」
「分かってるよ!」
ジークは大剣で植物魔物と、人ほどの大きさの蜂の魔物をまとめて叩き斬りながら叫んだ。
アルカも素早く凍結を使って、植物魔物を砕いていく。
その最中、アルカの魔力感知に引っ掛かった気配に、電流が走ったかの如く瞬間的に叫ぶ。
「影ども!止めさせろ!!」
王家の影には聴こえた筈だ。アルカでは距離があり過ぎて、間に合わない。
「火魔法を使わせるな!!あのクソガキを早く!!」
振り向いた先に、トレントに向かって火魔法の上級を練り上げている、あの王宮魔術師ケインがいた。
ピピ=ティティテスタ大密林で、火魔法を使うことは各国との協定で禁止されている。理由は2つ。
1つは大密林が、火事になることを防ぐため。
大密林を焼失した場合、素材の金額損失はもちろん、世界の森林の7割が損失することになり、酸素生成に与える世界的影響が計り知れないためだ。
もう1つは、ピピ=ティティテスタは古来より続くテスタ民の聖地であり、最奥に女神の番人がいる。それを目覚めさせないため。
この番人がダンジョンマスターなのだが、不滅の存在だ。
番人は過去何度か討伐されてはいるが、倒しても一晩で復活するため、昔から守護神として神格化されている。
迷宮として認識されたのはここ数百年だが、発見済みの中で最古の迷宮とされている。
しかし、認識されるずっと前から女神や番人の伝説はあり、そのために古代の人々は、ここを聖地とし信仰が続いている。
女神の番人は普段は最奥で眠るだけで、何もしないので通常は無害だ。
だが、大密林で火魔法を使うと直ぐに飛んで来て、火魔法の使用者を殲滅する。
その強さは災厄級で、S級オーバーの封印指定魔物に認定されている。
だから誰も植物魔物の最大弱点の火魔法は、ここでは絶対に使わないのに。
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