【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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夏の章 プリトー村編

22 プリトー村

「ほい、いつもの家の鍵。風は通しといたが、足りん物があれば、いつでも言ってくれ」

 プリトー村長のアンディ宅で、いつも滞在中に借りている空き家の鍵をもらう。

「まあ~、ルカちゃん、1年ぶりね。元気だった?」

 奥からアンディの妻、デイジーが顔を出した。ふくよかで肝っ玉の強い、朗らかで頼もしいご婦人だ。

「え、あら、やだぁ。ルカちゃん、なにこの男前は!?」
「ルカとパーティーを組んでる、レグと言います。よろしく」

「あらあら、まあ、そぉ~。あら、それなら、これじゃあ足んないわね」

 含んだようにアルカとレグルスを見比べていたが、デイジーは奥に引っ込んだ。

「今日は疲れただろう。依頼の話は、明日また家に来てくれや。夕食は」
「ほら、アンタはいいから!ルカちゃん、これ、夕食と、簡単だけど朝ご飯ね」

 デイジーは大きなバスケットを、2つ押し付けて来た。

「こんなにたくさん悪いよ。食材なら自分で」
「まあまあ、いいじゃないの、今日は特別。2人でゆっくりなさいな」

 完全に勘違いしてる。そういえば毎年、到着後は必ず、アンディ宅に夕食に招かれていた。
 これは絶対、要らぬ気を回されている。

「ありがとうございます。有り難くご馳走になります」

 アルカが事態を把握している内に、レグルスがさっさとバスケットを受け取ってしまった。

「うん、素直でよろしい!さ、また明日おいで。ゆっくり休むんだよ」
「ありがとう、デイジーさん、アンディさん」
「おう!また明日な!」

 気の良い夫婦に見送られ、集落の外れの空き家への道を辿る。

 疎らに立つ民家から暖かな光が漏れ、夜空には満天の星が光り輝いている。
 この世界には月と呼ばれる衛星もあるため、空に三日月が浮かんでいる。

 名も知らぬ虫が鳴き、温度の下がらない風が、水と草の匂いを運んで行った。
 今は見えないが、この村には家の間を縫うように、幅50センチ程度の小川が流れていて、とても美しい。

「すみません、レグルス様。俺が持ちます」

 手を差し出すと、レグルスは空の手を乗せてきた。

「暗くて見え辛いので、案内よろしくです」
「いや、そんな訳ないでしょ……」

 誰よりも夜目が利くのは知っている。外そうとした手を、きゅっと握り込まれた。

「すぐ着くのに」
「まあまあ。それにしても良い方たちですね。アンディさんたち」
「はい。毎年世話になってます」

 未舗装の砂利道をてくてくと歩く。道端にある木立の影に入れば、なるほど確かに暗くて見え辛い。

「アルカ君、そこ、大きな石が。気を付けて」
「……、やっぱ見えてるじゃないですか」

「いえ、勘です。勘」
「ふふ、……しょうがない人だなあ」
「うわっ」

 何故かレグルスが躓きかける。ガチャとバスケットの中身が、音を立てた。

「やっぱ1つ持ちます」
「う……、ハイ」

 手は繋いだまま、空いている方で受け取ると、握られた手に静かな力が籠もる。
 暗くて良かったな、と熱くなった頬を俯けた。

 10分ほど歩いて小さな煉瓦の橋を幾つか渡り、件の空き家に辿り着いた。
 離れた手の感触を残したまま、真鍮の鍵を回す。

 アンディの親戚の家だったが、彼らはトスカの町へ大分前に越してしまったとのことだ。

 時折プリトーに帰省した際に使用するらしく、無人が長い割に良く手入れがされていて、滞在するには何も問題が無い。
 水回りとダイニングに、主寝室と子供部屋が1つずつの、この村で良くある小ぢんまりした家だ。

「レグルス様、俺、食事の用意しますが、風呂はどうします?」
「……ワァ」
「レグルス様?」

 ダイニングテーブルにバスケットを下ろしたまま、何故かぼうっとしたレグルスに首を傾げた。

「浄化魔法だけにします?」
「あっ、俺、用意します!大丈夫!爆破しません!」
「……やっぱり俺が」

 レグルスはぶんぶんと手を振って、ぴゅんと風呂場へ消えた。

 本当に大丈夫だろうか。爆破って何だ。
 風呂を沸かすのに、爆破に繋がる作業は無い筈だ。万が一にも、借りた家を壊すのは不味い。

 アルカは若干不安な気持ちで、食事の用意を始めた。

「やりました、俺。頑張りました……!」

 ちょうどもらったスープを魔石コンロで温め直して、食卓に頂き物と持ってきたワインを並べたところで、レグルスが戻って来た。

 レグルスは褒められ待ちの犬のような顔をしているが、頑張ったという言葉に引っかかる。

「えっと、一応報告をいただいても?」

「はいっ。ちょっと溢れましたが、水魔法でバスタブに水を張って、限界まで圧縮した結界で、炎を閉じ込めて入れて来ました!食事が終わる頃には、お湯が沸いてる筈です。アルカ君の冷房結界を、参考にさせていただきました」

 むふっと得意気な息を吐いた様まで、犬らしかった。

「ありがとうございました、レグルス様。食事にしましょうか」

 お湯の入れ方は独特の方法だったが、恐れていた大惨事は免れたようだ。
 アルカは取り敢えずレグルスを褒めてから、食事を盛り付けた。
 
 デイジーの持たせてくれたのは、牛の内臓と筋をトマトで1日煮込んだ煮込み、自家製チーズ、蒸し野菜、カリカリに焼いてオリーブオイルを塗った薄切りのパン、どれも一手間掛かった食事だった。

 農業と牧畜が産業の、レーン地方の伝統的な料理だ。
 煮込みはアルカがいつも絶讃しているので、必ず作ってくれるため、合わせて持って来たワインに良く合う。

「わ~、すごく美味い、コレ。後で作り方を聞こう」
「レグルス様が料理するんですか?」

 しみじみと呟いたレグルスに思わず問うと、少し考えた。

「そうですね、チャレンジしても良いかも。直ぐには出来ないでしょうから、まずは家のジョー、コックに覚えてもらいます」
「ふふ、これ手間は掛かるんですが、案外簡単に出来ますよ」

 じっくり煮込まれて旨味が引き出された肉を掬って、パンに乗せて食む。
 レグルスもその手があったかという顔をして、早速真似た。

「アルカ君、作れるんですか?」
「レシピをいただいたので、何度か。最近は忙しくてめっきり作ってませんけどね」

 レグルスは食事の手を止めて、ぽかんとした。

「アルカ君って、本当、すごいなあ。何でも出来る」
「いや、何でもは出来ませんし、全くすごくも無いです」

「いやいや、俺は本当に君を尊敬してます。魔法1つ取っても、凄い創造力と柔軟性、緻密な魔力操作。俺には出来ないから、本当に憧れる」

 今度ぽかんとしたのは、アルカだった。

「レグルス様は全属性の魔法が使用出来るし、全ての魔術に精通しているじゃないですか。魔力だって量も質も桁外れだし」

 アルカの言葉に、レグルスは緩く首を振った。

「俺は、既存のものをただ覚えただけ。教本や魔術書に載っているものは使えるけど、何か自由に考えることも出来ない。魔術師としては、下の下なんです」

「レグルス様……」

 レグルスはいつかのように、自嘲気味に笑った。

「だから君は……、あ!しまった!!」

 突然の大声に、アルカはビクついた。レグルスはあわあわと右往左往してから、頭を下げた。

「昇格おめでとう!言うのが遅くなって、本当に申し訳ない!」
「え、いや、頭を上げてください……!」

「会ったら直ぐ言おうと思ってたのに、俺ってばすっかり浮かれちゃって、恥ずかしい……!」
「俺は忘れてましたし、えと、……あ、ありがとうございます?」

 取り敢えず何とか、レグルスの頭を上げさせて、胸を撫で下ろした。

「王都に帰ったら、一緒にお祝いしましょうね」

 ふわっと笑ったレグルスが眩しく、アルカは少し俯いて頷いた。

 食事を終えて2人で食器を片付ける頃には、夜はすっかり更けていた。

「レグルス様、先にお風呂どうぞ」
「んぐぅ……、いや、アルカ君から」
「えっ、いやいや、上司を差し置いてなんて、無理です」

 レグルスがむっと唇を尖らせた。

「今は上司じゃなくて、パーティーの仲間です。ついでに言うなら、このパーティーのリーダーはアルカ君なので、俺の上長に当たります」

「……そう来たか」

 この話になると、レグルスは意固地になる。どうしても、対等に拘りたいらしい。

「どうぞ、リーダー」

 止めとばかりに綺麗な笑顔を見せて、レグルスは黙ったまま慇懃に風呂場を指した。
 アルカは根負けして、何も言わずに風呂に向かった。
 
「天才となんとかって、紙一重かも知れん……」

 浴室のガラス戸を開けると、バークレー山6層の熱気がアルカを襲った。

 凄まじい湯気を立てるバスタブを、そっと覗く。真っ赤に熱せられた球体が浮かび、お湯がぼこんぼこんと沸騰していた。

「地獄かな?」

 結界を内側から業炎で熱して、熱気を貫通させているらしい。

 なるほど分からん。原理はサッパリだが、このままだと死は確実なため、爆弾結界を氷で包んで、更に念入りに凍らせて砕いた。
 そのまま浴槽へ落とし、適温になるまで追加の氷と水を足す。

 ようやく湯船に浸かった、アルカは溜息を吐いた。
 浄化魔法で体の汚れは落とせるが、汗は乾かないので、風呂に入れるのなら普通に入りたい。

 何でも魔法に頼り過ぎるのは、あまり良くない。

「だけど、風呂はスイッチ1つで、沸くんだよなぁ……」

 浴槽の足側の壁に備えつけられた、魔石の給湯スイッチを見ながら漏れた呟きに、同意するように水滴が湯に落ちた。

「レグルス様、パーティーリーダーとして1つお願いがあります。分からないことは、ちゃんと聞いてください」

 風呂上がりに、髪も乾かさずに説教を始めたアルカに、レグルスは目を白黒させてから、しょぼんと肩を落とした。
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