【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

文字の大きさ
24 / 168
夏の章 プリトー村編

24 プリトー村の依頼

 温かな湯気を立てる食卓を囲みながら、アルカはレグルスに切り出した。

「俺、ここには17歳の頃から、毎年夏に来て、村長からクエスト依頼を直接受けてます」

 ギルドを通さない個人雇用は違法では無いが、トラブル時の問題解決が面倒になりがちだ。
 何か咎められるかもと思ったが、レグルスは黙って続きを促した。

「最初に来た時、この村から隣町のギルド支部にクエスト依頼を出しても、田舎過ぎて冒険者が誰も中々来てくれなくて、捨て置かれてるって話を聞きました。俺はその時学生でしたが、冒険者でもあったので、依頼を受けることにしました」

 それからもう丸8年、この村はアルカに取ってメイヤー領よりも、故郷と思える場所になっている。

「この村、もう数年先には限界集落になりそうなくらい、過疎が進んでいるんです。年寄りしかいなくて、一番若いのがアンディさんたちなくらい。いつもは皆で何とかしてるんですが、夏は繁忙期で色々手が回らないんです」

 少し気難しいところもあるが、村の年寄りたちは1度懐に入れた者には、家族のように接してくれる。

 アルカはそんな村人たちが、好きだった。
 膝が痛いと言いながら、森に薬草を採取しにいく爺様婆様を、放っておけなかった。

 彼らの子供や孫は、観光資源も無く職は農業ばかり、娯楽や学校すらも無いこの村から、都市部へ去ってしまった。

 都市や他の町とも交通手段が乏しく、国の最東北に取り残されたような場所だ。
 新天地を望んでも、無理も無いことだろう。
 
「そう……、君は学生の頃から……」

 少し口を結んで、レグルスは眉を下げて笑った。

「我々に怠慢が有り申し訳ない。ずっと対応してくれて、ありがとう」

「いえ、これは個人的な縁でしていることなので。ただ、きっと同じ問題が過疎地域で起きている筈なので、ギルドの体制として、改善検討した方が良い問題だと思います」

「休暇が終わったら、直ぐに代表に上げます」

 レグルスが力強く頷いて、アルカは詰めていた息を吐いた。

「そう言う訳で、今日から3日間、ここにある依頼リストの、村周辺で出来ることは全部こなします。それから山に用事があるので、そこで1泊する予定になります」

 依頼リストを手渡すと、レグルスは直ぐに目を通す。

「えっ、これ3日?……ずっとこの量を1人で?」
「まあ、量は多いですが、簡単なものばかりなので、何とかなりますよ」

 素材採取、薬草採取、魔物討伐、時折力仕事の手伝いが入っているのは愛嬌だ。

「冒険者っぽいでしょ?」
「はい!頑張ります!」

 レグルスがわくわくと目を輝かせて、元気良く椅子から立ち上がった。


 村のすぐ傍にある森に分け入り、レグルスと二手に別れて黙々と薬草を採取する。
 1年分でも採ってやりたいが、根こそぎ採ると次の生育に差し障るため注意する。

 レグルスは任務では採取知識もしっかりしているので、その辺りは心配ないだろう。
 仕事に関する事柄は誰よりも知識があるし、出来過ぎるくらいに出来るのだ。

 痛み止めの薬草、炎症を押さえる薬草、安眠効果のある花を次々に採取する。

 村の周辺は魔素は豊富ではあるが、溜まりを作るほどでは無いので比較的安全だ。
 ただ、通常の狼や熊が出る場合がある。それに時折、山から魔物が降りてくる場合がある。

 村人で魔法をきちんと使えるのは数人、それも中級の下の魔法しか使えないため、防衛には魔石なんかを駆使している。

 中天に太陽が差し掛かり、そろそろ昼時だなとアルカは腰を伸ばした。ずっと屈んでいたため地味に腰がキツい。
 小腹を満たすために、村のあちこちに自生しているリッカの実を摘んだ。

 この森の自分の担当分は終わったので、レグルスと待ち合わせの森の入り口に向かう。
 入り口付近の小道で、ちょうど歩いて来たレグルスとかち合う。

「お帰り、レグ。どうだった?」
「ぐ……、ただいま」

 顔の中心にシワを寄せてから、レグルスは頷いた。

 自分で村の外では仲間対応をしろと念押しした癖に、何が不満なんだ。
 アルカの怪訝な視線を振り払うように、レグルスは1つ咳払いをした。

「へへー!ちゃんと全部、完了しました!それからアンディさんたちへお土産」

 収納袋からデンと取り出されたのは、クイーンビーのローヤルゼリーと蜜入りの巣、巨大な牡鹿1頭。

「うわ、レア素材じゃないですか、良く見つけましたね?」

 思わず素の口調が出る。クイーンビーは魔力の高い大型の蜂で、人の入らない場所に巣を組む。

 滅多に見つけられないため、王都でそのローヤルゼリーを買おうと思ったら、かなりの大金が必要だ。蜜だって、普通の蜂蜜の8倍はする。

「この鹿の角も滋養強壮に良いからね。粉薬にして、皆で分けたらいいなって」
「そうだね、レグ、ありがとう」

 レグルスが村の年寄りを気遣ってくれたことが、素直に嬉しい。自然と笑顔になり、真っ直ぐにレグルスを見つめた。

「ぁ……、わ、うん……、いや、こちらこそ」

 口を片手で押さえて、レグルスはごにょごにょとした。

「レグ、1度村に戻ろう」
「……うん」

 何となくぼーっとしたレグルスを促して、村への道を辿る。正午の日差しは強く、半袖1枚でも暑くて汗が出る。

「ちょっと暑すぎるから、昼休憩は長めにしようか」
「うん。依頼、結構良いペースじゃない?」

 レグルスが頷きながら、リストを確認する。
 やはり1人より2人、というか国1番の魔術師が居るので、仕事がかなり早く進む。

「レグのおかげだ。一緒に来てくれて良かった」

 隣を見上げれば、レグルスの顔が一気に赤くなった。
 目を疑う間に、レグルスが顔を背けたが、髪の隙間から覗く耳の赤さが隠せていない。

「……本当はずっと、君の……、すごく個人的なことに踏み込み過ぎたのかもと、反省してた。だけど、……俺こそ、ありがとう。許してくれて」

 まだ少し赤い余韻を残して、それでもレグルスはしっかりとアルカの瞳を見た。

 晴れやかで力強いエメラルドの瞳が、夏の陽射しに透けて美しく輝いている。

「あんれ~、ルカ坊でね~のぉ!隣はいい人かいなぁ?」
「なんだ往来でいちゃついて、若いモンはいいねぇ~」

 後ろから牧草を積んだ荷馬車がゆっくり通り過ぎ、乗っていた2人の爺様が囃し立てた。

「爺様!変なこと言ってないで、乗せてけよ!」
「だめだ~、こりゃ年寄り専用じゃて!若けぇモンは歩け~!」
「はぁ!?都合の良い時だけ、年寄りぶって!」

 わははと、爺様たちが遠ざかって行く。

「あの爺様たち、こっちが年寄り扱いすると怒るのに」

 つい子供の頃の気安い口調になって、頬を膨らませながらレグルスを見上げてしまった。

 少し目を丸くした後に滲んで広がったレグルスの微笑みが、あまりに優しく、今度はアルカが顔を逸らした。
 

 昼食をあちこちから貰ったお裾分けで賄って、アルカたちは借家の裏庭の木陰でしばし涼んだ。

 抜ける風は暑いが、森と裏庭を横切る小川の水気が含まれていて気持ちが良い。
 旧いハンモックを引っ張り出して、レグルスは昼寝を決め込んだし、アルカも布張りのデッキチェアに横たわり目蓋を閉じた。

 葉擦れの音に、村人手作りの蜂蜜漬けリッカエードの氷が溶けて鳴る音。小川を絶えず流れる水の音。

 それからいつの間にか、気にならなくなったレグルスの存在。

 穏やかで心地良い時間が過ぎていく。ここに居る間は、何も難しいことは考えなくていい。煩わしいことなんか何も無い。

 1人だけど、独りじゃない。村の皆も、今はレグルスだっている。初めて送魂祭を憂鬱じゃないと思えた。


 それから2人は、日没後暫くまで採取を続けて、また夜を迎えた。

 眠る段階になってまた、ベッド問題が浮上したが、1度も2度も同じかと思って、アルカはさっさとベッドに転がった。

 突っ立ったまま動きを止めていたレグルスだったが、急に流れるような土下座を見せて、睡眠魔法を要求してきた。

 何故か鬼気迫る様相で懇願されたため、アルカはしょうがなく睡眠付与してやった。

 しかしそのまま床に倒れ込まれて、アルカはキレながら爆睡するレグルスをベッドに引き上げた。

 こうしてプリトー村2日目の夜は、更けていったのだった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。