【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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夏の章 プリトー村編

31 魂送り

 食事を終えて片付けもそこそこに、アルカはエール片手に、レグルスを村を見下ろせる場所まで連れて行った。

 草の上に直に座ると、横を叩いてレグルスも座らせる。今日は新月で辺りは暗い。

「そろそろかな、見てて」

 2人で黙って村を見渡す。暗闇の中、1つずつ小さな灯りが村の広場に灯る。

「あっ、そっか……、今日は魂送りか」

 レグルスが思い出したように呟いて、身を乗り出す。

 送魂祭5日目の今夜は村人が広場に集まって、一斉に灯籠舟に火を灯し、村を巡る小川へ流す。
 アンディ夫婦もいつも早寝の爺様婆様も、今晩だけはあそこに集まっている。

 今は去った人々へ送る多数の想いが、柔らかく光りながら村を順に巡っていく。
 新月の暗闇に浮かび上がる光景を、上から見下ろすと正に圧巻だ。

「綺麗だ、けど……、少し哀しいね」

 灯りに見惚れた表情で呟くレグルスは、もしかしたら送った人がいるのかも知れない。

「……死んだって、こんな風に想われているなら、幸せだけどな」

 アルカも流れる光を見つめて呟いた。

 例えば自分が死んだとして、誰かがこんな風に想ってくれるのかと言えば、疑問だ。
 今、生きている時でさえ、そんな想いを受け取ったことがないのだから。

 居なくなれば簡単に忘れ去られる存在なのだと、身に沁みて理解っている。
 不謹慎だが、忘れられない死者の方がマシなくらい、稀薄な関係しか持っていないのだ。

「……それは、置いていかれる方を加味してない意見だなあ」

 レグルスは少し苦笑した。

「だけど、そっか。……そうだと良いな。想うことを許してもらえるのなら、良いな……」

 そう続けたレグルスの横顔は、酷く寂寞としていた。

 暫く2人で黙ってエールを飲みながら、村を巡る光の群れを見送った。

 最後の1つが消えて、アルカは唐突にレグルスを動かぬよう制した。

「目、つぶって、手貸して!」
「はっ、はい!」

 多少酔ってしまったのかも知れない。いつもより大分気安く、アルカはレグルスの両手を握って立たせた。

「目、つぶった?」
「はい!」

 覗き込むと、レグルスは素直に目を閉じていた。そのまま少し歩いて、湖の畔に誘導する。

 緊張してるのか、抱き込んでいる腕が強張っている。それがおかしくて、くすくすと笑いが漏れる。

「えっ、なんで笑ってるの!?」
「なんでもないでーす」
「ぐぅ……、ねえ、アルカ君酔ってる?どこ行くの?」

「酔ってないし、イイとこ」
「んぐぅ……、いいとこ……」

 レグルスが煩悶している間に、畔に着いてアルカは足を止めた、

「はい、目、開けていいよ」
「……うわぁ」

 レグルスが目の前の光景に目を丸くしているのに、気を良くしたアルカは、得意気に腕組みをした。

 湖一面に、この時期だけ見られる光虫が多数、淡く緑に光りながら舞っていた。

 この虫は蛍と似ているが、唯一違うのが、水の中でも生息しているところだ。
 だからこの湖は、上空も水の中も全体が光る絶景となる。

「泳ごう」

 アルカはレグルスの腕を引いた。この景色の1番美しいのは、湖底だ。

 水中を漂う光虫の灯りは湖の底の花を照らし、闇夜に透明な水が姿を失い、まるで花の中に浮いている気分になれる。

 それをレグルスに見せたかったのだ。きっと喜ぶだろうから。
 だと言うのに、レグルスは動かなかった。

「レグルス?」
「……、その」
「やだ?」

 腕を握ったまま目を覗き込むと、レグルスはぎゅっと顔を寄せた。

「違う、違うんです、……笑わない?」
「うん?」
「俺、……泳いだことない」

 消え入りそうな声で、恥じ入るようにレグルスは告白した。

「レグルスにも知らないことって、あるんだぁ」
「俺は知らないことだらけですよ」

 がっくりと肩を落としたレグルスの手を握る。

「大丈夫、俺がいるから。手、握ってるから、一緒に行こう」
「……アルカ、……君は本当」

 レグルスは空いていた手で顔を押さえたまま、絶句しているが、アルカは構わず先に湖に足を着けた。

「ここら辺はまだ足が着くから、深みの手前まで行ってみよう」
「……はい」

 何故か神妙に項垂れながら、レグルスも湖に入った。

 村よりは標高が高いが、ここも十分熱帯夜になるため、冷たさを保つ清水が気持ちが良い。

「涼しくて気持ち良いでしょ?」
「うん」

 やや大人しいままのレグルスの手を握って、腹まである水を掻き分けていく。
 胸くらいまでの深さになってからは、浮きながらレグルスを誘導する。

「ほら、下」

 崖のように急に深くなる棚の前で止まって、2人で底を覗き込む。

 空気中よりも大きな灯りを纏った光虫が、湖底の花や草木に付き、まるで植物が自ら光を放っているように見える。

「すごい、異世界みたいだ……!」
「な、あっちはもっと凄いんだ。……ちょっと泳いでみる?」

「えっ、今?……ちょっと怖いなぁ」
「大丈夫だって、絶対手を離さないから。もし溺れても絶対に助ける」

 尻込みしたレグルスの瞳を覗き込む。
 水中から空中へ飛んでいく光虫が、レグルスを淡く照らしていた。
 同系色の光に照らされて、橄欖石の如く輝く碧い瞳が揺れている。

「……アルカ、君はいつも、俺を救ってくれるね」

 握った両の手に、力が込められた。そのままレグルスは、アルカの肩に頭を乗せた。

「本当にありがとう。俺を赦してくれて、受け入れてくれて、ありがとう」

 顔を上げたレグルスは少し苦しげで、それでも真摯な表情をしていた。

「礼を言うくらいなら、泳ぐ練習しようよ。それで来年の今日はもっと中央の方、一緒に見よう」
「……来年」

「一緒に背負ってくれるんだろ?」

 碧く輝く瞳を、じっと覗き込む。
 ぱしゃんと水が跳ねて、抱き寄せられた。濡れたシャツ越しに感じる肌が熱い。

「俺、君といると、どんどん欲深くなる。もっと知りたい。傍にいたい。……もっと、触れたい」

 熱い指先が微かに触れて、頬をなぞる。懺悔みたいな震える声で、乞う男を目に焼き付ける。

 躊躇いがちに、何度か止まりながら近づく瞳。触れ合う鼻先。アルカは目を閉じずに、見つめ続ける。
 レグルスは鼻先を触れ合わせたまま、動きを止めた。互いに瞳の色を探り合う。

「ごめん……、調子に乗った」

 無理に身を剥がすように、離れた顔を引き寄せる。唇を触れ合わせると、レグルスは目を見開いて硬直した。
 その隙にアルカの魔力を送り込む。

「……っ!」
「今日、俺のためにたくさん、魔力使わせたから」

 1度離した唇を再びくっつけて、また魔力を流す。

「まっ、アル、カ……!」

 離れようとするレグルスの首に両腕を回して、しっかり引き寄せる。

「ん……」

 やはり、かなり相性が良い。レグルスの中に溶けて、1つになる感覚に頭が痺れる。
 唇をただ合わせているだけなのに、口腔を犯す以上の快感が背中を走る。

 レグルスの両手が、行き場を決めかねて彷徨っているのが少しおかしくて、何度も唇を触れさせる。

「アルカ、っ、これ以上は……!……だめだって……っ」

 レグルスは弱り切った、それでいてどこか切羽詰まった、雄の顔をしている。
 糸が切れる前の葛藤を浮かべた瞳が、ぐらぐら揺れているのが堪らない。

「……レグルス」
「ぅ、……は」

 ペロと唇の隙間を、舌を出して舐める。
 すっと細められた瞳孔の開いた瞳が、凶暴さを宿した。浮いていた手が腰と背中に回され、強く抱かれる。

 深く合わせた唇から、熱い舌先と共にレグルスの魔力が入って来る。
 どんどん波長が合って混ざり合っていく。舌が絡まり、狂おしく愛撫される感覚に喘ぎが漏れる。

「レ、グ……、んん、……ふ」
「アルカ……、アルカ」

 息継ぎの合間に、酷く大切な物のように名前を呼ばれる。

 名を呼ばなければ、どちらがどちらかも判らなくなりそうな程、感覚が繋がって混ざる。

「もっと……」

 レグルスが口付けを深くしようとした瞬間、体勢を崩した2人は、大きな音を立てて水に沈んだ。

「うわ!レグルス!大丈夫か!?」

 慌てて引き揚げて、2人で呆気に取られる。
 それから耐えられなくなって、頭からずぶ濡れのまま、2人同時に吹き出して、腹を抱えて笑う。

「俺って、本当、君の前だと全然かっこつかないみたい」

 一頻り笑って涙を拭きながら、レグルスは笑みの残る顔でアルカの手を繋ぎ直した。

「やっぱりさ、明日、泳ぎ方教えてよ」

 繋いだ指先に熱っぽい唇を落としながら、レグルスは悪戯っぽく笑った。

「……分かった、俺、割と厳しいから覚悟しておいて」
「そう言えば、情報室の鬼教官って聞いたことある……」
「その話、後で詳しく聞きましょうか」

 燻った熱は軽口で隠して、2人は手を離さぬままテントへと戻って行った。
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