【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

文字の大きさ
37 / 168
夏の章 砂漠編

36 旧市街

 ウルクと手筈通り合流したアルカは、かなり悩んだが予定通り旧市街へ、一先ず向かうことにした。

 アルカは既に挑発を受けている。のこのこと本拠地に足を踏み入れたら、藪蛇になりそうだ。
 だが、カードはたくさん持っていた方が、有利になる。増してあの格上を相手にするなら、尚の事。

 ウルクと共に闇に紛れ、隠密で旧市街を慎重に進んでいく。
 よく裏取引が行われる一帯に、深く潜れば潜る程、街の様相は荒れていく。

 縦横に重なり乱立する土壁の家に囲われた路地裏は、日中の熱が留まったまま膿んで滞留し、饐えた匂いがどこからとも無く漂って来る。

「ここです」

 ウルクが、とある家の前で止まった。
 何の変哲も無い民家のようだが、扉を開けると地下へ続く細い階段がある。

 ウルクは躊躇無く階段を下り、その先にある小さな扉を潜った。

「よう、オッサン」

 薄暗い狭い部屋の中に、小さなカウンターと古ぼけた椅子が数脚。バーにしても寂れ切って、営業している気配すら無い。
 カウンターの隅からすっと出てきた男は、全身を覆うガウンを纏い、隈の濃い目元以外は隠していた。

「久し振りだな、坊主」

 オッサンと呼ばれた男は、意外にも気安い声でウルクに応じた。

「頼んでた情報くれ」
「相変わらず、人使いの荒い家だよ」

 男は掛けるよう促した。ギシリと軋むスツールに座ると、ウルクが実家が懇意にしている情報屋だと説明した。

「今回は高いぞ。かなりヤバイ話だったから」
「大丈夫大丈夫、後でギルドに経費請求するから、取り敢えずこれ前金ね。足りない分はウチに請求しておいて」

 ウルクはごとりと音のする金の袋を、カウンターに置いた。情報屋は、中身を確かめると頷いた。

「早速だが、最近街に入り込んだのは、サマルの暗殺ギルドの野郎たちだ。手引きしたのはシャキイフ商会だ」
「てことは、西地区が拠点か?」

「ああ、シャキイフの奴らの根城の、地下街に出入りするのを見た」
「分かった、ありがとう」

「坊主、気を付けろよ。あいつら、サマルじゃ名の知れた凄腕だ。特に今回は、首領も来てるって話だぜ」
「うん、何かの時は、よろしくぅ」
「高くつくぜ」

 軽口を叩いて、話は終わりとなった。ウルクが席を立つのに合わせて、アルカも後を追う。

「シャキイフ商会ですが、表じゃ細々やってんですが、裏でヤバいこと手広くやってるんすよ」

 路地裏を歩きながら、ウルクが切り出した。

「人身売買に違法娼館、魔石密輸なんかが主かな。それがこのタイミングで、サマルの暗殺ギルドを手引きしたんなら、間違いなく黒幕と繋がってますねぇ」

「王太子を廃したい程の有力者と、繋がってるのか。厄介な商会だな」

 最もらしい返答をしたが、犯人と動機だけなら知っているのだ。

 それを証明しない限り、アルカは何も言えない。だが、今回の情報があれば最悪の場合、利用出来るだろう。
 
「先に手を回してくれていて、ありがとうな。局長も2人のこと褒めてたぞ」

 ポンと高い位置にある肩を叩くと、ウルクはむずむずした後、堪えきれぬ子供のように嬉しそうに笑った。

「へへ、褒められた」

 チャラチャラとピアスを鳴らして、ウルクが弾みながら歩く。全く可愛い部下である。

「あと情報屋の経費は、よろしくお願いしまぁす!ついでに~、ご褒美にカジノに連れてってくださぁ~い」

 前言撤回、直ぐに調子に乗る部下である。


 2日目、襲撃が本格的になり、アルカ班は1日かなり忙しかった。
 ギルド本部での夜の会食まで襲撃は引っ切り無しで、アルカも何度か会敵していた。

 1度は移動中の場所に向け、近距離で爆発魔法を使われそうになって危なかった。
 ジョエルの張った結界と、ウルクの連携で事なきを得た。

 また、市内での騒ぎや小火が数件、経路上で起き、陽動と思われる騒動に奔走した。
 ヒールと強化を駆使して3人で1日対処に奮闘したが、神経が擦り減った1日であった。

 少し遅れて定時報告に向かうと、レグルスは既に待ち合わせ場所で待っていた。

「お疲れ様です。……疲れてる?」
「多少。今日は、ほぼ1日捌いていました。明日の最終日は、かなり激化する可能性が有ります」

 ウルクの掴んだ情報を共有すると、レグルスは暫し考え込んだ。

 明日の夜にパーティー会場に潜り込んだ、暗殺者が事を起こす。
 第2王子一行とサマル王太子は一緒に行動をしているから、明日もシナリオ通りに進む筈だ。

「……その、少し困ったことになりました」

 レグルスが逡巡しながら、言葉を選びながら口を開いた。常に無い様子に首を傾げる。何かロクでも無いことらしい。

「君に呼び出しがかかってます」
「誰からです?」

 堪えるように、レグルスの眉が寄せられた。

「今は言えないです。今日の深夜迎えに行きます」

 そんなの1つしか、答えがないじゃないか。本当にロクでも無いことだった。

 昨夜のように逢瀬を楽しむ余裕も無く、アルカは途方に暮れながら解散して、残りの任務に当たった。

 パーティーが終わり貴人たちがホテルに戻ったのを見届けて、アルカ班も宿舎へ帰投となる。
 手短にシャワーを浴びて軽い食事を取り、仮眠を取りながらレグルスを待つことにした。

 暫く浅い眠りに身を委ねていると、部屋が控え目にノックされた。
 ホテルマンかと思いドアを開けると、そこに立っていたのはレグルスだった。

「局ちょ」

 言い終わらぬ内に、部屋に滑り込んだレグルスに抱き寄せられる。

「セクハラしてる場合じゃないだろ、呼び出しされてんでしょ」

 大きな身体で縋るようにきつく抱き締められ、背中をポンポンして宥める。

「少しだけ魔力入れていい?」
「マーキング残ったら、明日部下に、何て言えば良いと思ってんの?任務中なんだよ?」

 するりと絡められた指から逃れると、レグルスは焦った顔をした。

「今、連れてくのに、跡残したいの!」
「ハァ?それこそ意味分からん」

 肩に額をグリグリ擦り付けられ、まるで子供の駄々みたいだ。しょうがなく頭を撫でると、レグルスは渋々身を離した。

 自分で突き放した癖に、何故か傷ついた気持ちになる。

「アルカ、そんな瞳するのはズルい」
「……別に、ズルいって言われても……」

「俺のこと弄んでる、ねぇ?……勘違いしそうになる」
「な、人聞き悪いこと言うなよ。大体弄んでるのは」

 これ以上は問答無用とばかりに、唇を塞がれた。
 一瞬で魔力が流れ込んで、背中が震えた。血流のように身の内を巡るのは、圧倒的な歓喜だ。

 レグルスを全身で感じる。
 夢にまで見た温もりと匂いが、穴の開いた身体の空洞を満たしていく。

 絡んでいた舌が、水音を立てて離れた。レグルスの蕩けた瞳に映るのは、同じく蕩けた顔の自分だ。

「……このまま、すっぽかそう」
「上司の癖に悪いこと言うな」

 2人は乱れた息を整えながら部屋を出て、目的地まで急いだ。

 目的地は新市街の接待によく使われる、高級歓楽街だった。
 高級なバーや、娼館、賭場が建ち並び、色の付いた多数の魔石ランプが妖しく光り、色めき立った人々がそぞろに歩いている。

 目に喧しい不夜城の光に、居心地悪くレグルスと黙って歩く。
 程なく奥まった場所にある高級娼館に着いた。

 ここは娼館と言っても社交倶楽部に近く、キャストを侍らせ酒を飲み、希望すれば朝まで過ごせる仕組みらしい。
 団体利用も酒だけの利用も問題が無いため、貴人たちの接待を兼ねた会合にも使われるそうだ。
 
 レグルスを認めると、黒服が恭しく重い両開きの扉を開いた。
 踏み入った中はかなり広く、重厚なソファにシャンデリア、ピアノと生演奏用の舞台、噴水まであった。

 落とされた照明にシャンデリアが輝き、店は満員で思い思いに盛り上がっている。

 席の間には葉の大きい観葉植物や、淡い色の薄布が吊るされていて、開放的なのに何処か秘した雰囲気も漂っている。
 焚きしめられた香の匂いも相まって、淫靡さも感じられた。

 初めて入った高級娼館に物珍しく、辺りを観察しながら黒服に着いていくと、フロアの奥まった空間に案内された。

 ちょうど噴水の影で、他とは違う何重にも重ねられたオーガンジーの天幕から貴賓席だと判った。

「失礼致します。お客様のご到着です」

 黒服が最敬礼をし、薄布の向こうの人物が鷹揚に手を上げると、恭しく布の入り口が持ち上げられた。

「呼び出しご苦労、歓迎しよう」

 最奥のソファに座った人物、ヘラン=サマル神聖王国が王太子アハトが、ゆるりと煙管から煙を吐いた。
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。