【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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夏の章 砂漠編

37 サマル王太子

「歓迎しよう。掛けたまえ」

 王族特有の有無を言わさぬ物言いに、アルカたちは逆らわずに、側面のソファへ並んで座った。

 十中八九、呼び出しの相手はサマル王太子関連だとは思っていたが、本人に迎えられることは想像していなかった。

 しかも背後に1人、側近がいるだけである。警護班は撒いて、お忍びで来たのだろう。
 アルカ班が日中、神経を擦り減らしているのに、有り得ない。

 全部台無しにする気か、この呑気な王族は。

「ああ、この店はサマル出身者が経営していてな、警備上の問題は無い。この男も存外、腕が立つ」

 アルカの視線に悟ったのか、サマル王太子は愉しそうに紅い瞳を細めて口の端を上げた。

 王者の風格というか不遜さと威圧感があり、目敏さと怜悧さが表れている。
 軽々に口を開くのは得策では無いと、判断した。

「楽にせよ。取って食おうと言うのでは無い。まずは貴殿らレーヴァステインギルド総本部情報室へ、感謝申し上げる」

 全く謝意など感じられないが、黙って話を聞く。

「特にその方、アルカ・メイヤー。貴殿の活躍には、我が警備隊も舌を巻いている」
「勿体なきお言葉」

 頭を下げると、サマル王太子は煙管を灰皿に打ち付けた。

「貴殿らが存じているか知らぬが、恥ずかしい話だが、少し内輪の揉め事が起きていてな」

「殿下、我々ギルド職員は我が国民のいち臣僕、いかなる政情も不干渉が不文律なれば、それ以上お伺いすることは出来かねます」

 レグルスがきっぱりと話を遮り、隣に座ったアルカは顔を青くした。
 サマル王族は、自国の王族より苛烈な性質を持っている。

「レグルス副代表、そう素気なくするな。ハンク統括代表には、既に話してあるのだ」

 目を伏せたレグルスが口を閉じた。久し振りに見る貴族的な、あの能面を被っている。

「時にアルカ殿、貴殿は稀少な闇属性持ちだそうな」
「……は」
「私の下に就かないか?しがないギルド職員でいるより、良い思いをさせてやるぞ」

「お言葉ですがサマル王太子殿下、この者を失うのは我がギルドにとって大きな損失となりますので、私からお断り致します」

 間髪入れずにレグルスが反応し、アルカは少し安堵した。

「闇属性持ちは国でも庇護しておりますし、流出は許さぬでしょう。統括代表も承服しなかった筈です」

「ふふ、国が許さぬ、ねぇ……。時にアルカ殿、私は貴殿に聞いているのだが?」
「は、過分な御言葉、感謝致しますが、私からも謹んで辞退させていただきます」

 頭を下げると、サマル王太子は感情の読めない笑顔を浮かべていた。

「ふむ、貴殿のような優秀な人材は、是非手元に置きたいのだ。何故なら私は、命の危険に晒されている」

 全く怯えなど無い態度に、やられたと感じる。
 交渉には良くある手で、最初に無理難題をふっかけ、本来の交渉を通す術だ。

「貴殿に助けてもらいたいのだ。この私を」
「ヘラン=サマル王太子殿下、私には少々荷が勝ちます。貴国には、優秀な人材が多いではありませんか」

 サマル王太子が軽く手を上げると、側近が盃に葡萄酒を注いだ。

「何、我が国へ来いと言うのでは無い。この地で私を助けてほしいと言うだけだ。私を総会期間に暗殺する計画があってな、犯人を捕らえて欲しいのだよ、貴殿に」

「……何故、私なのですか。殿下の信を置く、警備隊から選出なさるが筋と言うもの」

「警備隊から人を割いたら、誰が私を守るのだ?残念ながら信の置ける者は少なく、全て役割に余地が無い。しかし、貴殿ならば自由に動けるだろう?それに、既に犯人の目星は付いてるのではないか?」

 底知れぬ笑顔があった。何を言っても、回避は出来そうにない。

「ハンク統括代表は、快く承諾してくれたぞ?同盟国次期王の、一大事なのだ。全面的な協力を約束してくれた」

 嘘だ。ハンクがそんな面倒事を、快諾する訳がない。
 だが今の言葉を使われれば、誰が断れると言うのか。

「承知仕りました。犯人捕縛の確約は出来かねますが、それでお許しいただけるなら」

「アルカ……!」

 浮き足立ったレグルスを、目で制する。誰も逆らえないのだ。レグルスが騒いで、咎を受けるのは避けたい。

「ふふ、貴国最強の魔術師を尻に敷くとは、益々気に入ったな。結果は不問とし報酬も弾もう。是非尽力してくれ」

 サマル王太子は満足そうに盃を呷った。

「その嫉妬深い魔術師に飽いたら、我が国へ来るが良い。いつでも歓迎しよう」

 話は終わりとばかりに手が振られ、すっと布が開かれる。アルカ達は部屋を退出した。

 店の外に出ると、まだ鼻に香の匂いがこびり付いている気がして、アルカは大きく息を吐いた。

「送る」

 レグルスは返事を待たずに、アルカの手を強く握った。有無を言わせない力に、アルカも黙って歩き出す。

 ざわざわとした通りを無言で歩く。街の明かりが強過ぎて、星が1つも見えない。
 少し砂漠に出れば、それは見事な星空が広がるのに。

「レグ、何怒ってんの」
「……怒ってない」

 そう言うレグルスはどう見ても、目つきを剣呑にして眉を吊り上げていた。

「勝手に返事して、ごめん?」
 取り敢えず推測で謝ってみたせいで、疑問形になる。

「……アルカは悪くない」

 意外と怒ると、むっつりするタイプなのか。口を開かぬレグルスに、手を繋ぎ直して指を絡める。
 悪戯に指を動かせば、レグルスはじとりとアルカを見た。

「……俺のこと、チョロイと思ってるでしょ」
「……嫌なら止めるけど」

 手を離そうとした気配を察したのか、ぎゅっと力が籠もり、しっかりと指を絡められる。

「そうだよ、どうせ俺はチョロイよ」

 次はいじけ出した。なるほど、レグルスはむっつりで、いじけやすいと。

「何か失礼なこと考えてる。それぐらい分かるから、俺だって!」

 剣呑な目つきはすっかり消え、拗ねた表情が顔を出している。

「話してよ。レグルスの考えてること」

 歓楽街は抜けて、辺りの人が疎らになる。
 通りすがりの酒場から、西方特有の調べが漏れ聞こえた。中では人々が陽気に盛り上がっている。

「君のこと、守れなかったから」
「未来の王なんて言われたら誰も断れないって」
「あいつ、君のこと引き抜こうとしたし」
「本気じゃないだろ、アレ」

「君が危険な目に遭うかも、なのに俺は、君の傍にいられないし」

 アルカが大事だから自分の身など構わない、デイジーから聞いたレグルスの言葉が蘇る。

「すぐ殿下に断ってくれたじゃないか」
「でも結果になってない」

 馬鹿な男だ。毎回自分の身を投げ出して、アルカのために尽くそうとする。
 身分でも名声でも、尽くされる方は、本来レグルスなのに。

 何が楽しくて価値の無い自分に、ひたすらに尽くそうとするのか。
 本当に馬鹿で哀れで――。

「レグルス、次まとまった休暇取れたら、砂漠に行ってみようか」
「……う、うん?……何の話?いや、嬉しいけど」

「昼は砂漠の地下迷宮に潜ってさ。夜は星空見て、朝陽を見る」
「……うん」
「すごく綺麗なんだよ。俺はそれをレグルスと見たい」

 レグルスを見上げると、何処か泣きそうな表情に見えた。

「返事は?」
「……はい!」

 漸く満面の笑みで頷いたレグルスに、アルカも微笑んだ。

 やっぱりレグルスは、怒ったり悲しんだりするより、気を抜いて笑っているのが1番良い。

「アルカ、今日そっちに泊まっていい?」
「駄目に決まってるだろ」

 浮上した瞬間、調子に乗り出したレグルスを一蹴する。

「大体職場じゃ、ちゃんとしろって、あれだけ言ったのに。もう滅茶苦茶だよ。このマーキング、なんて言えばいいんだ。明日まで絶対に消えないだろ、これ」

「いい加減諦めて、もう言わせておけばいいって」

 あっけらかんと言い放った、レグルスの足を蹴る。

「あいたぁ!えっ、今、強化使ったでしょ!こんなことで魔力使わないでよ、勿体ない!」 
「いいよ、ここにたくさんあるから」

 背伸びして、首に腕を回して引き寄せた。合わせた唇から魔力をいただく。
 唇を離して、鼻先が触れ合う距離のまま見つめた。

「……君はやっぱり、……酷い人だ」

 揺れる翠玉の瞳に、雄の熱が灯っている。
 酷く満たされる仄暗い気持ちに身を委ねて、もう1度、目を瞑った。

 数週間ぶりに触れた存在に、互いに浮かれ切っていたのだと思う。

 長い間重なっていた影を見られていたことに、2人はとうとう気づくことなく、ホテルの前で名残惜しく別れた。
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