【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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夏の章 砂漠編

38 地下都市遺跡

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 翌朝やや寝不足ではあったが、身体はすっきりとしていて気力充実していた。
 相性の良い良質な魔力を摂取すると、やはり調子が良くなる。

 昨夜は最近の不眠も感じず、短いながらぐっすりと深い睡眠が取れたこともある。
 とにかく今日のアルカは、意気軒昂としていた。

 間違い無くレグルスのおかげだろう。昨夜の一連を思い出し、つい唇をなぞると、肚の奥がじくりと疼いた。

 これから大勝負に出ると言うのに、色ボケしている場合じゃない。アルカは冷たい水を魔法で出して洗顔した。

「おはよう」
「!」
「あぇー……」

 待ち合わせ場所のホテルロビーに下りると、部下2人が仰天してから、さっと瞳をあちこちに逸らした。

 もうやってしまったことは取り返しがつかないため、アルカは結局レグルスの言う通り、しれっとすることにした。

「アルカさん体力あるなあー、っで!」

 ぽそっと漏れたウルクの呟きに、ジョエルがすかさず頭を引っ叩いた。

「作戦に変更が生じた。詳細を説明する」

 気にせずアルカが告げると、2人は直ぐに仕事モードに切り替わった。
 ロビーの一角に陣取り、ジョエルが防音の遮蔽魔術を展開した。

「早速だが、サマル王太子から直々に、支援要請が入った」

「え、なんで俺らを駆り出すんですか?あちらの尻拭いですよね、どうせ?」

 ジョエルは直ぐに察したようで、憤りをあからさまに顔に出す。誰かが割を喰うのが、許せない性分なのだ。

「命じられたのは、何なんすか?」

 ウルクが結論を急ぐ。普段あれ程ペラペラ喋る癖に、任務となると端的な会話を好む。
 目的を元に逆算して、最短効率を組み立てたいタイプだ。

「命じられたのは、事件の一味いずれかの捕縛だ」
「ハァ?」

 ウルクも流石に憤りを見せた。2人を宥めて会話を続ける。

「俺も納得いかないが、統括代表すら断れない案件だ。奴らのアジトの当たりを付けたことまで知られていたから、そこを叩いて欲しいんだろう」

「いや~、こっちが下手に出て対処してやってんのに、よくいけしゃあしゃあと頼めたもんすね~」

「ウルクに同感です。我々が断れないことをいいことに。だけど変ですよね。情報を渡せば、あちらだって対処出来るだろうに」

 ジョエルが首を傾げる。確かにアルカも、微かに引っ掛かっていた。
 人員が足りないと言われれば、まあ納得出来る理由だが。

「思惑はあれど、やらなきゃいけないことは変わらない。それで割り振りだが、お前たち2人で現任務を続行してもらいたい」

「え?アルカさん、単身アジトに乗り込む気ですか?」
「ああ、そうだけど」

 魔力も満タンだし、と続けそうになり思い留まる。

「いや、せめて俺を連れてって下さいよ!?地下街なんて、素人には不利ですって」

 ウルクが慌てて手を振った。ジョエルも頷く。

「今日は王子一行をサマル王太子と一緒に行動させて、警護範囲を絞ります。それでジークさんの下から数人こっちに回すので、絶対ウルクだけは連れてって下さい」

「う、う~ん。でも……多分、かなりヤバイ奴がいるんだよ」
「じゃあ尚更です!」

 ジョエルの剣幕に、アルカは押し切られて頷いた。
 ウルクがよく言ってるが、ジョエルが怒るとかなり怖いかも知れない。
 気をつけよう、アルカは密かに決意した。

 アルカが渋ったのは、端的に言うと初日の挑発して来た暗殺者と対決になれば、ウルクが足手まといになるからだ。
 ウルクの実力では、奴には及ばない。

 ややもすると、アルカでも及ばない可能性がある。
 どちらにしろ、かなり厳しい戦いになるのは間違いがなく、他人に構う余裕が無くなる。

 そしてウルクの命を天秤にかけられた場合、自分は間違い無くウルクを選ぶだろう。
 その結果は色々な方面で、最悪になる。

 何よりその結末だけは、レグルスが傷付くから避けなければいけない。

 無価値な自分でも、あれだけ大事にしてくれるのだ。
 レグルスが泣くのは嫌だな、と自然と思えるくらいにはなった。
 アルカは決意を込めて、腰に双剣を装着した。

「ウルク、1つ命令をしておく」
「はい」

「俺が引けと言ったら、必ず戦闘から離脱すること。間違えても、俺の邪魔をしないこと」

 旧市街へ向かう道すがら、敢えてきつい言い方で告げる。年若いウルクはぶすくれた。

「弁えてますけど、俺だってアルカさんの役に立てます」
「そうな、道案内はお前が頼りだから」

 バチンと背中を強く叩くと、ウルクは大袈裟に飛び上がった。

 旧市街の入り口に立つと、まだ昼間のせいか人通りが少なかった。旧市街は、新市街より目覚めが遅い。

 旧市街の目貫通りには、ごちゃごちゃと市場や怪しげな魔石店、武器防具、酒場に娼館、賭場が乱立していて、夕方前から大賑わいになる。

「少し遠回りですが、廃坑道から地下街へ入りましょうか。西区の入り口だと、流石に今は目立ちます」

 旧市街の地下には、広大な地下都市遺跡がある。
 現在のバブ・イルムの高層建築は、この地下都市を模したものだ。

 遥か昔、高度な文明を誇り、天まで届く建物を乱立させ、栄華を極めた筈の都市は、今は砂礫に埋もれ崩れかけている。

 しかし地下都市には、かつては莫大な遺産が眠っていた。
 特に城跡に、かなりの鉱石類が多数使用されていて、過去には発掘ブームが起きた。

 その際に、遺跡と地上を結ぶ坑道が、採掘のために我先にと多数掘られ、事業終了と共に都市ごと廃棄された。
  
 そんな打ち捨てられた場所に、いつの間にか集まり住み着いたのが、文字通り日の下では生きていけない日陰者たちだ。

 犯罪者やその血縁、密入国者、通常の表社会には居場所の無い者が、てんでばらばらに好き勝手住み着き、いつしかここは地下街と呼ばれるようになった。

 その結果、地下都市への道は正規の発掘ルートに加え、盗掘者や住民が掘り足した抗道が、無秩序に交錯している。

「これ、良く分かるな」

 坑道に入って直ぐ、アルカは少しぞっとした。
 狭い土壁の坑道は曲がりくねり、多数の別れ道や行き止まりがある。迷えば出られなくなりそうな恐怖がある。

「ガキの頃の遊び場なんすよ、ここ。近所の悪ガキたちと度胸試しに入ったり、情報屋のオッサンについて回ったり」

 灯明魔術で周囲を照らすウルクの瞳が、懐かしそうに遠くを見た。

「ふ、目に浮かぶな。確かに、お前が居なければここは来れなかった」
「でしょ?……俺、この仕事終わったら、アルカさんと……、」

 ウルクが少しキリッとした表情をした。

「カジノに行きたいで~す」
「フラグを立てるな」

 ハートマークが付いた語尾に嘆息しながら、少し前を行く背中を叩いた。

 風の流れが強くなり、暗闇に薄明りが現れる。
 温い空気が風に混ざったところで、穴を出た。地下都市の建物の中に繋がる坑道だった。

「すごい、初めて来た」

 朽ち果てた土造りの建物を出たアルカは、息を呑んだ。

 数十メートルの高さと数キロ四方の空間に、高さのある建築物が乱立している。
 最奥の城跡とされる建物は一際高く、長方形の塔のようにそびえている。いつの間にか、かなり下ったみたいだ。

「まだこの下があるそうです。本来はここは建物の中層だとか。古代の人たちは、天に届く高い建物をたくさん建てて、建物の上に庭園や泉を作って遊興に耽った、そうな」

「さすが詳しいな」
「こんな時じゃ無ければ、是非、観光案内をして差し上げたいんすけどねー」

 地下は住人たちの手入れで、魔石ランプがあちこちに下げられていて、薄暗いものの視界には困らなそうだ。

「俺らは首領を捕らえれば、お役御免って話すか?」
「そうだな。これまでのやり口から見るに、首領は表に出ずに指示だけするタイプなんだと思う。手下が何人いるかだな」

「昨日のペースだと、手下共は上で仕事してんじゃ?」
「うん……。首領まで上に出られたら厄介だし、ここで始末をつけるか」

 空いている建物の1室で、携帯食と休憩を取りながらアルカたちは話を詰めた。
 シャキイフ商会のシマは城跡付近ということで、城跡へ真っ直ぐ進むことにした。

「ウルク、お前は強襲の任務をするのは初めてだけど、本当に引き際だけは誤るなよ。何かあっても、俺が必ず対処するから」

「……やだ、アルカしゃん、男前……」
「アホ抜かしてないで、気合入れろ。お前、魔法で人を撃ったことあるか?」

「撃たれたことなら、あります。アルカさんに」
「それは訓練だろ。……いいか、やるなら躊躇うなよ」

 真剣に諭すとウルクは顎を引いた。

 当然ながらこの国にも法律はあり、傷害や殺人は原則禁止されている。
 いくら魔物と戦ったことがあると言っても、人と戦うことは普通ではあまり無い。

 ただ、王族や貴族絡みでは、暗殺が普通に使われる世界だ。
 また、野盗や追い剥ぎの類がいない訳では無いので、正当防衛は認められている。

 魔物が代表する脅威からは自衛するという認識のため、戦いは疎か傷害や人殺しに対する敷居は、前世より低い。
 暗殺術だって暗殺者を育てるためではなく、王家の影が代表するような、要人警護用の名目となっている。

 要は権力者の何でも出来る犬に、必要な技術として確立されている。マスターしていると、高給の就職にも有利だ。
 
 アルカも任務中に何度か、対人戦闘を経験しているが、魔物を相手にするのとは訳が違う。
 生命の軽重は無い筈だが、それでも同じ言葉を話し、意思疎通が出来る同族を傷つけるのは、後味が悪い。

 特にスタンピード時の、魔物に転化した人を斬るのは、筆舌に尽くしがたい気分になる。

 だが、殺らなければ殺られる。そういう時がままあるのだ。
 前世のように、戦いから縁遠い世界からすれば信じられないが、ここはそういう世界だ。

「よし、じゃあ行動開始」

 アルカたちは立ち上がり、遺跡都市群へと足を踏み出した。
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