【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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秋の章 人工魔石事件編

53 臨時アルバイト

 慌ただしく家に制服に着替えに戻ってから、出勤したアルカは真っ直ぐに代表室に向かった。

 一連の件でレグルスと共に、申し送りがあるためである。

 代表室に顔を出すと既にレグルスとハンクは、応接用ソファに座って話し込んでいた。

「おっ、来たな、アルカ、おはようさん」
「おはようございます。ご無沙汰をしています」

 ハンクは立ち上がると、深く頭を下げた。

「まずは今回の事態について、謝罪する。すまなかった。王家を上手くいなせなかった俺に、全て責任がある。アルカには尻拭いで、1番迷惑を掛けちまった。命を危険に晒させて、申し訳ない」

「だ、代表!頭を上げてください」

「いえ、アルカ、俺たちの責任は大きいです。職員を任務上の謂れなき不利益から、守る義務がありますから。副代表として、俺からも謝罪します。大変申し訳ありませんでした」

 慌てたアルカを制して、レグルスまで頭を下げた。取り敢えず謝罪を受け取り、2人の頭を上げさせる。

「まあ、レグルスの言うことが最もだ。聞いているだろうが、情報室は王子の旅の補佐から、完全に手を引いた。当然だが、アルカへの王家やギルドからの処分は無い。ただ、重罪人を牢に繋ぐことだけは、出来なかった。状況証拠だけで進めようとすると、お前の証言が必要になるからだ。非常に胸糞悪いが、お前に証言させるのは、今後の影響を考えると得策とは思えない」
 
 分かるな?と尋ねられ、アルカは頷いた。
 王家に目を付けられれば、今後付け入られて、どうにかされる危険がある。

「証言と引き換えに、今後の安全はしっかり保証してきたから、その辺は理解して、この件は黙秘してくれないか」
「承知しました」

「すまんな、アルカ。すっきりしない終わり方で」
「いえ、寧ろ馬鹿共のお守りがなくなって、良かったです」

 にっこり笑うとハンクはやや引いたが、レグルスは何故か嬉しそうに、にこにこした。

「それで、馬鹿の件が終わったところで、何だが」

 ハンクが居住まいを正す。レグルスを窺うと、既に知っている様子だ。

「特級秘匿案件の依頼がある。まあ、王子の件を下りるのに渡りに船っつうのと、これは我々としても見過ごせない件だ」

 真剣な目付きになったハンクに、アルカも頷いた。

「依頼主はヘラン=サマル王太子、内容はヒト魔石に纏わる調査」

 ざわりと背中が粟立った。レグルスに報告していたものの、水面下で高位役職内で議論が交わされていると聞いていた。

 確かにサマル側が掴んでいた情報だが、敢えてこちらに依頼主として振って来るとは。

「何故、我々に依頼でしょうか。自国で対応するのでは?」

「うん、それがそう簡単じゃない。首謀者たちはサマルとレーヴァステインから人攫いをしているんだが、……拠点が我が国にあるらしい」

 アルカは額を押さえた。そんなの戦争の火種になっても、おかしくない話だ。

「だが、王太子は、その、かなりお前を買っていてな。例の件の借りを返したいとのことで、人手も出すから両国を脅かす存在と共同戦線を張ろうと。国家じゃなくて、ギルド間での共通クエストにすれば、まあ最悪は避けられるっていう寸法だな」

 さらに頭痛さえしてきて、瞳を閉じる。
 レグルスが心配しているのが伝わったが、一難去ってまた一難とはこのことだ。

 あの抜け目ない王太子の、狡猾な顔が浮かぶ。
 借りを返すと言って恩を売りつつ、面倒事は全ておっ被せて来やがった。

「アルカ、大丈夫。特別任務っていうことで、俺が中心にまとめるから。君にもメンバーに入ってもらうけど、やっぱり捨て置けない問題だから、俺と一緒に対処してくれる?」

 肩に置かれたレグルスの手の平から体温が伝わり、真摯な力強い瞳に力が抜けていく。

 レグルスが大丈夫だと言うのだ。一緒ならきっと何だって何とかなる。自然とそう思えて頷く。

「おーい、オジサンもいるよー」

 朝方までの余韻のせいか、危うく簡単に2人の世界に入りそうになった。
 ハンクのからかう声に、背筋を伸ばして咳払いをした。

「失礼しました。その件は承知しました」
「それでな~、その人手の紹介をしないとなんだがな~……」

 ハンクは唸りながらも、立ち上がって隣室へ消えた。

「レグルス、誰が来るの?」
「俺にも教えてもらってないんだ。王太子の肝入だとしか」
「サマルのギルド職員とか?」
「何人かは優秀な人、知ってるけど……」

 素早くこそこそと会話をして、2人で首を傾げた。ドアノブに手を掛ける音がして、寄せていた顔を離す。

 ガチャリと扉が開いて、ハンクに続いて現れた姿を認めて、アルカは思わず立ち上がった。

「お前……!」

 流れる美しい銀髪に、褐色の肌。それから深い菫色の瞳の若い男。
 あの日、黒い口布で覆っていた素顔を晒し、ギルド職員の制服を着ているが、間違いなく暗殺者のイドだ。

「来たよ、アルカ」

 イドは酷薄そうな、薄く大きめの唇を吊り上げた。

 暗殺者は空恐ろしい美貌を持つ、若い男だった。歳はもしかすると、ウルクよりも若いかも知れない。

「お前、どの面下げて……!」
「ん?こんな顔だよ?」
「代表、どういうことですか!?こいつを情報室員に入れるってことですか!?」

 アルカの剣幕に、ハンクが慌てて宥める。

「ヒト魔石の件が解決するまでの臨時だから……!何とか堪えてくれ……!」
「代表知ってますよね!?こいつがウルクに重傷負わせたって!」

 ハンクは気まずそうに頷いた。態々、レグルスに教えなかったくらいだ。
 イドが暗殺組織でスパイをしていた際に、交戦した相手だと知っている筈だ。

「アルカ、俺はアハトに頼まれた仕事をしただけ。今日からはハンクに雇われたから、ここで仕事するだけ。根に持つことなんてなくない?」

 小馬鹿にする風に、イドは肩を竦めた。

「ハンク、どういうことですか?俺は聞いていないですよ?」

 それまで黙っていたレグルスも、聞き捨てならない話に口を挟んだ。

「俺も悩んだが、これまで王太子の命で魔石絡みの情報を、1人で集めたのはコイツなんだ。固有スキルの特性からも、絶対に必要な戦力だ。癪に障るのは重々承知だが、この通り根っからの暗殺者だから、仕事に悪意や他意は持たないことは王太子からも聞いている」
 
 悪意を持たないだと?じゃあ、あの時のアレはなんだったんだ。悪意が無い訳が、無い。
 しかし、あの犯されかけた件を口に出せずに、アルカは言葉を全て飲み込んだ。

「イド、ウルクに謝れ。話はそれからだ」
「謝る?何を?ウルクって誰?」

「お前が地下都市で邪魔だと言って、斬った奴だ。共に仕事をする最低限の条件だ」
「分かった。仕事に必要なんだな」

 素直に頷いたイドは、アルカの目の前に進み出て、顔を覗き込んだ。

「アルカには、謝らなくていいのかよ?」
「要らない」
「ふ~ん、分かった」

 横に倒していたすらりとした長身を伸ばして、蠱惑的に笑う。

「じゃあ、ウルクのとこ行こうぜ」

 あまりに自由過ぎる物言いに、腹の虫は治まらねど、アルカは不承不承ハンクに頷いた。

 レグルスと3人連れ立ち、情報室に向かう。
 すれ違う職員達は、新たに現れた美貌の男に興味津々だ。
 互いの気配を濃く纏ったアルカとレグルスへの注目が逸れて、その点では良かったが。

 アルカは見るからに不機嫌、レグルスは思案顔、イドは口笛でも吹きそうに飄々と、三者三様な一行は悪目立ちしながら居室へ戻った。


「という訳で、臨時バイトのイド君です」
「どうも」
「あっ、てめぇは!?」

 レグルスの説明に、ガタンと席を立ったのはウルクだった。
 こめかみに青筋を立てている。常に無い様子に、皆が唖然とした。

「よくもアルカさんを傷付けたな!」

 皆がざわめく。真っ先に自分ではなく、アルカの件で反応したウルクに、少し心が柔らかくなった。
 何だかんだ慕ってくれている可愛い部下だ。

「お前、ウルク?」
「あ?それが何だよ」
「ケガさせてごめんな。仕事だったから」

 全員微妙な顔付きになり、黙り込む。
 ウルクでさえも剣幕が引っ込み、苦虫を噛み潰した顔で黙った。

「はい、皆思うところはありますが、この件は午後一の打ち合わせで詰めます。ではそれまでジョエル君、イド君の面倒お願いね」

 皆、複雑な顔で仕事に戻るのを確認した後、レグルスが目で促してきたので2人で局長室へ入る。

 扉を閉め遮蔽と防音魔術を、入室不可・防音最大に切り替えてから、レグルスは椅子に座らずにデスクの上に直接浅く腰掛けた。

「こっち来て」
「ここ職場だって」
「いいから」

 有無を言わせない圧に、アルカは導かれるままレグルスの足の間に立った。

 逃げられないようにか、腰に両腕をしっかり回された。
 そのままレグルスはじっと、下からアルカの顔を見つめてくる。

「無理に訊くつもり無かったんだけど……。言いたくないことは言わなくていいから、バブ・イルムでイドに何かされた?」

 アルカは口を開いてから、1度閉じた。
 任務報告では、勝負に負け拉致・一時監禁されたが、暗殺ギルド首領を倒して脱出したとしかしていない。

「イドには負けて、斬られただけ」

 レグルスは目を逸らさず、首を振った。瞳が懇願している。

「アルカはそれだけなら、あんな風に怒らない」

 深く自分を理解されていることは、気恥ずかしく嬉しいものだが、その分誤魔化しも効かないものだ。

「問題があるなら、あいつがアルカに近づけないようにする」

 腰に回された手に力が籠もった。
 困った人だ。どこまでも甘やかそうとする。

「俺が拷問受けるのを、愉しく観てただけ。イドに直接何かされた訳じゃない。あ、魔力は縛られたけど。最後にはヒール掛けて去ってった」

「影使いのスキルか……。いや、そもそも魔力縛られたせいでしょ、捕まったの。それに拷問って……」

 絶句したレグルスが、胸に頭を押し付けてくる。拷問の意味をどう取ったかは測りかねた。

「だから職場だって。示しがつかないよ、これじゃ」

 旋毛を見ながら、ふわりと香る匂いに朝を思い出す。大概なのは自分も同じだ。

「本当にごめん、君を辛い目にばっか合わせて。結局俺は、君のこと全然守れてない。ごめん……、役に立たなくて、ごめん」

 そもそも王家の無茶な命令はレグルスに責任は無いし、任務で危険があるのも雇用条件にあって同意済みだ。
 そのために危険手当だってあるし、一般より高給となっている。

 自分だって同じだろうに。こんなに責任を感じる必要なんて無いのに。
 役に立たないなんて言葉、レグルスにだけは言わせたくない。それが誰より、自らを傷付ける言葉だと知っている。

「レグ」

 ひしとしがみついたままの頭を撫でてやると、ちらと上目遣いに顔を上げた。

「大丈夫だから。レグルスがいるから、俺は大丈夫」

 両頬を挟んで、軽く口付けをする。じっと、揺らぐエメラルドの瞳を見つめる。

「レグルスがいるから、俺はもう、辛いことなんてない」

 もう1度唇を柔く合わせて、レグルスが応える前にさっと身を離した。

「はい、さっさと仕事するぞ、局長!」
「は、はいっ……」

 一息に鬼軍曹モードになったアルカに、レグルスは目をぱちくりさせながらも、ビシっと背筋を伸ばした。
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