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秋の章 人工魔石事件編
64 流星群
「ヨシ、ここかな」
結局強化を使って、大峡谷の更に奥の1番高い崖に登り、アルカは満足そうに息を吐いた。
「あ、アルカは、時々、振り切る、よね……」
ぜえぜえと、レグルスが隣に座り込んだ。
もうすっかり真夜中だろう。月が西に傾き始めている。
「まあまあ、見ろよ」
アルカも座って、目の前の景色を見渡す。
月明かりでも満月のためか、遠くまで良く見える。
広がる赤土の幾重にも重なった地層、カラガスの町の灯り、アズカン地方に広がる大草原には、ミニチュアのような遊牧民のテントが見える。
左手には遥かな山脈が連なり、北のセドルア山系へ繋がっている。
遥か先に雪を冠した、霊峰セドルアの先端が小さく見えた。
「すごいな。こんな近くで星空、見たことない」
レグルスがぽつりと呟く。手の届きそうな距離に、星がひしめいて輝いている。
遠い宇宙を覗いているようで、神秘的で胸がわくわくする。この世界の外には、何が広がっているのだろうか。
前世のようにロケットなんてものは無いし、未だ到達されていないけど、太陽や月もあるくらいだから、似たような宇宙もあるんだろう。
「寒くない?」
腰に手を回して引き寄せながらレグルスが問う。隣同士にくっついて、肩に頭をもたれかける。
「風吹いてないし、レグルスが温かいから大丈夫」
「……そっか。寒くなったら言って」
どこまでも気遣う声に、少しだけやるせなくなる。
「あ、流れ星」
「ああ、今、流星群が見えるって酒場で聞いたな」
不意に星の間をすり抜けて消えた、光の軌道に目を瞬かせた。
レグルスと黙って夜空を見上げると、1つ2つと次々に星が流れて消えていく。
「な、願いごとした?」
「願いごと?」
レグルスの横顔を覗き見ると、少し困った顔をしていた。
「願いごと、……願いごとかぁ」
「何?なんもないの?」
本気で困惑した声に視線を向ければ、レグルスは上を向いたままうんうんと唸っていた。
「う~ん、全部叶っちゃったしな」
「はぁ?全部?何、どんなの?」
俄に頷けず、思わず問い詰めてしまう。レグルスはアルカを見て、瞳を柔らかく細めた。
「君」
恥ずかしいのに心臓がぐっとなって、アルカはわなわなと震えた。
案外こういうストレートな口説き文句に、弱いところがある。
「ほ、本気で言ってんの、ソレ……」
「本気だよ?アルカが全部、俺の願い叶えちゃったから」
「んぐぐ、も、やめ……。やめよ」
ふふと静かにレグルスが笑う間に、気持ちを落ち着ける。
「いや、無欲過ぎるだろ。折角なんだからホラ、レグルスももっと願っとけよ。例えば、俺がもっと優しくなりますようにとか、怒られませんようにとか」
「はは!それ言ったら絶対、俺怒られるやつじゃん!」
珍しくレグルスがけらけら笑った。
「でも、そうだよね、俺の願いはアルカだから」
見惚れるような笑顔に顔に熱が集まって、誤魔化しながらそっぽを向く。
「ぐ、……も~しょうがないなあ。じゃあ、この俺が何でも1つ願いを叶えてやる」
「えっ、今、何でもって言った?」
「……俺に二言は無い。とりあえず聞いてやる」
念押ししたレグルスに気圧されつつ、アルカは頷いた。
少し早まったかも知れない。
そう思わないでもないが、レグルスが収納袋に手を突っ込んだのを、黙って見守る。
袋から取り出した手の平には、小さなビロードのケースが握られている。
「あのね、これ」
パクンと開かれたケースの中に、一対のピアスが収まっていた。
「これ……」
2つで1つのピアスの片方は、アメジストの小さな珠がプラチナの台座に嵌り、そこから繊細な2つの鎖で結ばれた菱形のエメラルドが吊り下がっている。
もう片方は、逆の組み合わせだ。
小ぶりで目立ちはしないが、しっかり磨かれて宝石となった原石は、上品で存在感がちゃんとある。
それにあまり揺れない長さで、戦闘の邪魔にもならない。
片方ずつ、菱形がエメラルドの方をアルカが、アメジストをレグルスが着ければ、光に煌めく度に一目で、誰が誰のものか知らしめることが出来るだろう。
「でも、レグルス、穴開いて無いよな?」
アルカは首を傾げた。アルカはピアスホールを開けていて、気分によって適当な物を着けている。
「うん。……だから、君に開けて欲しいって……」
少し俯き加減に、顔を赤くしながらレグルスが希う。
こういうのを、キュートアグレッションって言うんだな、きっと。
据わった目でレグルスの膝の上に乗り上げて、両肩を掴んで見下ろす。
「跡、つけちゃっていいの?」
「うん。俺に一生消えない跡、つけて」
レグルスの瞳が、熱で揺らめいている。
「俺がアルカのものだったって、一生残る証が欲しい」
ポーチから取り出したピアス穴用の針を、手渡したレグルスの指先も熱い。
「それで俺が死ぬまで、ずっと君のものでいたい。それだけは無くならないように、体に刻んで」
1つ1つが殺し文句で、否応なくアルカの熱も上がってくる。
「なんで過去形なんだよ。一生消えない傷、残すんだったら責任は取るよ、俺は」
「……アルカ。俺を、アルカのものにして」
レグルスの欲に染まった声に、息が震える程に神経が昂る。
右耳を差し出したレグルスの頬に触れて、指を滑らす。
「痛くしていい?」
「……うん。忘れないようにして」
氷で冷やすことも出来たが、敢えてそのまま薄い皮膚に針先を当てる。
は、と浅い呼吸が聞こえた。
針を当てたまま焦らすように顔を確認すると、思った通り、レグルスは恍惚を耐える表情をしていた。
ベッドの中で見慣れた顔に、薄く笑む。
「……っ」
ゆっくりと針を皮膚に突き立てる。レグルスの肩が跳ねた。
尻の間に硬い感触を感じる。
「はは、……変態。……勃ってる」
「……っう、ぁっ」
視線を合わせたまま、態とゆっくり力を込めて、針が肉を抉じ開ける感触を焼き付ける。
レグルスをなじった癖に、自分もすっかり張り詰めてしまっている。
「……はっ、……っ!」
ぶちりと針が最後の皮膚を破って貫通した。
僅かに零れた血を指で受け止めて、見せつけながら舐め取った。
レグルスが荒い息のまま、惚けたように見詰めている間に針を抜き取る。
また跳ねたレグルスの手から、アメジストが主体のピアスを取る。
開けたばかりだが、構わずにピアスを嵌めた。
留め具を装着して、自分の色に縛られたレグルスをじっくり見下ろす。
「……俺のものだね」
ぞくぞくと背骨から脳まで、駆け上がる支配欲が満たされる快感に、堪らずに声が掠れて欲情を隠し切れない。
誰よりも強い、皆の憧れの男を独占して首輪を付けたのだ。倒錯的な快感に目が眩む。
「レグルス、俺にも新しいの開けてよ」
レグルスの瞳が、はっきりと浅ましい熱を灯した。鼻先が触れる距離まで、顔を近づける。
「俺の体にも、入れて。……俺の男だって、自分の手で俺に刻み付けて、分からせてよ?」
挑発するように口の端を上げると、レグルスが顔を赤くして身動ぎをした。
「ねぇ、君、ほんと、どこでそう言うの覚えて来たの……?時々すごく、刺激的な言い方するよね」
「ふふ、知りたい?」
「……知りたい。アルカのことなら、何でも」
「じゃあ、入れてよ?レグルスので貫いて、俺のこと」
態と卑猥な言い回しで耳元に囁くと、分かりやすくレグルスが動揺したのが分かった。
「早く、して」
「……っ!」
興奮しているのか微かに震えた指先が、左の耳朶に触れる。
元々開けていた穴の隣に針が当てられる。充分真ん中と言える場所だ。
「……ここでいい?」
「レグルスの好きにしていいよ」
「~~~っ」
一々煽られてくれる可愛い男に笑みが止まらない。顎に手をかけて囁く。
「目にちゃんと、焼き付けろよ。俺がお前のものになるところ」
喉仏が大きく動いて、瞳孔が開いてしまっているレグルスに、自らも煽られながら瞳で促す。
「は……っ」
耳朶をなぞられてから、待ち望んだ針先が皮膚を貫いてくる。
ゆっくりと押し入って来る先端は、痛みというよりも熱を生む。見つめ合ったまま熱に侵されていく。
永遠みたいな時間だった。いや、確かに永遠を分け合っていたのかも知れない。
「……ふ」
熱いままの左耳にエメラルドのピアスが収まり、アルカは漸く息を吐いた。
レグルスの両肩に腕を回し、しなだれ掛かる。柔く耳殻に唇を付けて食んだ。
「俺、平民の中で育ってきたって話たよな?」
「っ、うん」
「それで平民の悪ガキがやることは、大抵全部やってるんだけど」
「う、……はぁ」
言葉を区切る度に、首筋を辿り太い血管や筋に甘く噛み付く。ぬるりと舌を這わせると、レグルスが大きく跳ねた。
「娼館の姐さん兄さんに、色々手解きを受けたって訳」
ぢゅと音が鳴る程、強く首の付け根を吸う。レグルスの腰が動いて、硬いものが当たる。
アルカは悪ガキたちと下町を根城にしていたため、ずっと娼婦たちに可愛がられていた。
故にあの事件の後に、アルカの性的な異変に直ぐに気づいたのも彼らだった。
性的弱者として扱われる彼らは、性的な傷やトラウマには敏感で、ほとんどが似たような尊厳を傷付けられる体験があった。
故に同類相憐れむではないが、2度とそんな目に合わないような性的な処世術や、ついでに房術の類などを教えてくれた。
それから体に触られるトラウマも、少しずつリハビリしてくれたのも彼らだ。
ジークと媚薬効果のせいとは言え、最後まで出来てしまったのは、このリハビリの効果だ。
その2つで漸く性行為への嫌悪感は、最低限は克服出来たのだ。
「ねぇ、俺の可愛い男を誑し込みたいんだけど、試してみない?凄く甘やかしてやりたい気分なんだ。……たくさんお預けさせたし、ね?」
先程開けたばかりの、レグルスのピアスに口付ける。
もう、レグルスのスイッチがどこか、良く知ってしまっている。
顔を覗き込むと、期待に満ちた眼とかち合う。欲情に塗れて笑って、両頬を挟んで深く口付けた。
レグルスの熱い舌を、何度も吸い上げて扱くように絡める。
唾液でさえ甘く感じるのだから、何の抵抗もなく味わい、こちらからも流し込む。
レグルスの喉が上下するのに、深い満足を覚える。
足の間でぎちぎちに張っている昂りを、腰を動かして刺激すると、レグルスの口から色っぽい吐息が漏れる。
「……こんなにして、かわいそうだね、レグルス」
言葉とは全く真逆の声音で告げると、レグルスのシャツをたくし上げ、鎖骨から順番に下に唇で辿る。
腹筋の割れ目を辿り、形の良い臍の下に吸い付く。
「ま、待って、アルカ、そんなとこ……!」
パンツ越しに、張り詰めた昂りに唇を落とす。
レグルスの焦った制止も聞かず、ジッパーを歯で挟んで下げた。
それから固い腹筋を撫でて、ぐいっと下着を下げる。
ぶるんと飛び出た逞しい怒張が、目の前に晒される。血管を浮かび上がらせ、反り返る程に勃ち上がっている。
ふうと息をかけると、大袈裟にビクついた。
「あ、アルカ、待って!き、汚いって」
ついこの間同じ台詞を吐いたが、レグルスは気にしないと答えた。
上目遣いに見上げたまま、逞しい幹に頬摺りをしてキスをする。
「うぁっ、ヤバいって……!」
意地になったのか、漸くされる方の心情を理解したのか、2人分の浄化魔法が掛けられた。
「あっ、こら、勝手なことするな……!」
「だって、アルカの綺麗な顔に、そんなの……、んっ!?」
ぱくりと、涙を溢している先端を口に含んだ。音を立てて吸い上げる。
強烈な媚薬みたいに、癖になる甘い味がする。やはり魔力相性が良いと、体液が美味いのは本当だと改めて実感する。
これまでの躊躇はなんだったのだと、夢中でレグルスの味を絞り出すように舌を当てて、吸い上げながら頭を上下させる。
弱り切った表情で、レグルスが躊躇いがちに頭に触れて、やわやわと髪を撫でる。
褒められているような擽ったさに、どんどん夢中になる。
「……上手、……っ」
「ひもひひーひ?」
「うあ……そこで喋るのやばい……!」
うっそり笑うと、裏筋にベッタリと舌を這わせて、絞るように手も使いながら引き込んでいく。
敏感な口の天井が何度も擦られて、じわじわと快感を感じ出す。
「アルカ……!すぐ、出るって……!」
パンパンに張った袋も柔く揉んで、じゅるじゅると下品な音を立てて吸い上げる。
チラと見上げると、腹筋がびくびくと震えた。
「離して、口……!アルカぁ……!」
「ん、……ふ、ぅ……んぐ」
喉奥に飲み込むように、引き摺り込む。奥に欲しい。
この男の全てを、体に入れたい。喰い尽くして、1つになってしまいたい。
湧き上がる欲のまま、一際強く吸い上げた。
「っあ!」
「んぐっ!」
喉奥にまともに強く迸りが叩きつけられ、咽ながら必死で飲み下した。
我慢していたと分かる程に、どろりと濃くて熱い。雄の臭いとレグルスの味に、くらくらする。
ずるりと引き抜かれる感触に、飲み下せなかった精液と涎が、口から1筋零れた。それを指で拭って口に含む。
「はっ……はぁ……、ちゃんと、全部飲んだよ、見て」
荒い息のまま、舌を出して笑いながら誘惑する。ただ1人の男を。
世界でたった1人だけの、アルカの男を呼ぶ。
「俺のことも、可愛がって。レグルス」
「アルカ……!」
星空の下、酷く余裕の無い顔で自分を求める男を、心から愛しいと思った。
結局強化を使って、大峡谷の更に奥の1番高い崖に登り、アルカは満足そうに息を吐いた。
「あ、アルカは、時々、振り切る、よね……」
ぜえぜえと、レグルスが隣に座り込んだ。
もうすっかり真夜中だろう。月が西に傾き始めている。
「まあまあ、見ろよ」
アルカも座って、目の前の景色を見渡す。
月明かりでも満月のためか、遠くまで良く見える。
広がる赤土の幾重にも重なった地層、カラガスの町の灯り、アズカン地方に広がる大草原には、ミニチュアのような遊牧民のテントが見える。
左手には遥かな山脈が連なり、北のセドルア山系へ繋がっている。
遥か先に雪を冠した、霊峰セドルアの先端が小さく見えた。
「すごいな。こんな近くで星空、見たことない」
レグルスがぽつりと呟く。手の届きそうな距離に、星がひしめいて輝いている。
遠い宇宙を覗いているようで、神秘的で胸がわくわくする。この世界の外には、何が広がっているのだろうか。
前世のようにロケットなんてものは無いし、未だ到達されていないけど、太陽や月もあるくらいだから、似たような宇宙もあるんだろう。
「寒くない?」
腰に手を回して引き寄せながらレグルスが問う。隣同士にくっついて、肩に頭をもたれかける。
「風吹いてないし、レグルスが温かいから大丈夫」
「……そっか。寒くなったら言って」
どこまでも気遣う声に、少しだけやるせなくなる。
「あ、流れ星」
「ああ、今、流星群が見えるって酒場で聞いたな」
不意に星の間をすり抜けて消えた、光の軌道に目を瞬かせた。
レグルスと黙って夜空を見上げると、1つ2つと次々に星が流れて消えていく。
「な、願いごとした?」
「願いごと?」
レグルスの横顔を覗き見ると、少し困った顔をしていた。
「願いごと、……願いごとかぁ」
「何?なんもないの?」
本気で困惑した声に視線を向ければ、レグルスは上を向いたままうんうんと唸っていた。
「う~ん、全部叶っちゃったしな」
「はぁ?全部?何、どんなの?」
俄に頷けず、思わず問い詰めてしまう。レグルスはアルカを見て、瞳を柔らかく細めた。
「君」
恥ずかしいのに心臓がぐっとなって、アルカはわなわなと震えた。
案外こういうストレートな口説き文句に、弱いところがある。
「ほ、本気で言ってんの、ソレ……」
「本気だよ?アルカが全部、俺の願い叶えちゃったから」
「んぐぐ、も、やめ……。やめよ」
ふふと静かにレグルスが笑う間に、気持ちを落ち着ける。
「いや、無欲過ぎるだろ。折角なんだからホラ、レグルスももっと願っとけよ。例えば、俺がもっと優しくなりますようにとか、怒られませんようにとか」
「はは!それ言ったら絶対、俺怒られるやつじゃん!」
珍しくレグルスがけらけら笑った。
「でも、そうだよね、俺の願いはアルカだから」
見惚れるような笑顔に顔に熱が集まって、誤魔化しながらそっぽを向く。
「ぐ、……も~しょうがないなあ。じゃあ、この俺が何でも1つ願いを叶えてやる」
「えっ、今、何でもって言った?」
「……俺に二言は無い。とりあえず聞いてやる」
念押ししたレグルスに気圧されつつ、アルカは頷いた。
少し早まったかも知れない。
そう思わないでもないが、レグルスが収納袋に手を突っ込んだのを、黙って見守る。
袋から取り出した手の平には、小さなビロードのケースが握られている。
「あのね、これ」
パクンと開かれたケースの中に、一対のピアスが収まっていた。
「これ……」
2つで1つのピアスの片方は、アメジストの小さな珠がプラチナの台座に嵌り、そこから繊細な2つの鎖で結ばれた菱形のエメラルドが吊り下がっている。
もう片方は、逆の組み合わせだ。
小ぶりで目立ちはしないが、しっかり磨かれて宝石となった原石は、上品で存在感がちゃんとある。
それにあまり揺れない長さで、戦闘の邪魔にもならない。
片方ずつ、菱形がエメラルドの方をアルカが、アメジストをレグルスが着ければ、光に煌めく度に一目で、誰が誰のものか知らしめることが出来るだろう。
「でも、レグルス、穴開いて無いよな?」
アルカは首を傾げた。アルカはピアスホールを開けていて、気分によって適当な物を着けている。
「うん。……だから、君に開けて欲しいって……」
少し俯き加減に、顔を赤くしながらレグルスが希う。
こういうのを、キュートアグレッションって言うんだな、きっと。
据わった目でレグルスの膝の上に乗り上げて、両肩を掴んで見下ろす。
「跡、つけちゃっていいの?」
「うん。俺に一生消えない跡、つけて」
レグルスの瞳が、熱で揺らめいている。
「俺がアルカのものだったって、一生残る証が欲しい」
ポーチから取り出したピアス穴用の針を、手渡したレグルスの指先も熱い。
「それで俺が死ぬまで、ずっと君のものでいたい。それだけは無くならないように、体に刻んで」
1つ1つが殺し文句で、否応なくアルカの熱も上がってくる。
「なんで過去形なんだよ。一生消えない傷、残すんだったら責任は取るよ、俺は」
「……アルカ。俺を、アルカのものにして」
レグルスの欲に染まった声に、息が震える程に神経が昂る。
右耳を差し出したレグルスの頬に触れて、指を滑らす。
「痛くしていい?」
「……うん。忘れないようにして」
氷で冷やすことも出来たが、敢えてそのまま薄い皮膚に針先を当てる。
は、と浅い呼吸が聞こえた。
針を当てたまま焦らすように顔を確認すると、思った通り、レグルスは恍惚を耐える表情をしていた。
ベッドの中で見慣れた顔に、薄く笑む。
「……っ」
ゆっくりと針を皮膚に突き立てる。レグルスの肩が跳ねた。
尻の間に硬い感触を感じる。
「はは、……変態。……勃ってる」
「……っう、ぁっ」
視線を合わせたまま、態とゆっくり力を込めて、針が肉を抉じ開ける感触を焼き付ける。
レグルスをなじった癖に、自分もすっかり張り詰めてしまっている。
「……はっ、……っ!」
ぶちりと針が最後の皮膚を破って貫通した。
僅かに零れた血を指で受け止めて、見せつけながら舐め取った。
レグルスが荒い息のまま、惚けたように見詰めている間に針を抜き取る。
また跳ねたレグルスの手から、アメジストが主体のピアスを取る。
開けたばかりだが、構わずにピアスを嵌めた。
留め具を装着して、自分の色に縛られたレグルスをじっくり見下ろす。
「……俺のものだね」
ぞくぞくと背骨から脳まで、駆け上がる支配欲が満たされる快感に、堪らずに声が掠れて欲情を隠し切れない。
誰よりも強い、皆の憧れの男を独占して首輪を付けたのだ。倒錯的な快感に目が眩む。
「レグルス、俺にも新しいの開けてよ」
レグルスの瞳が、はっきりと浅ましい熱を灯した。鼻先が触れる距離まで、顔を近づける。
「俺の体にも、入れて。……俺の男だって、自分の手で俺に刻み付けて、分からせてよ?」
挑発するように口の端を上げると、レグルスが顔を赤くして身動ぎをした。
「ねぇ、君、ほんと、どこでそう言うの覚えて来たの……?時々すごく、刺激的な言い方するよね」
「ふふ、知りたい?」
「……知りたい。アルカのことなら、何でも」
「じゃあ、入れてよ?レグルスので貫いて、俺のこと」
態と卑猥な言い回しで耳元に囁くと、分かりやすくレグルスが動揺したのが分かった。
「早く、して」
「……っ!」
興奮しているのか微かに震えた指先が、左の耳朶に触れる。
元々開けていた穴の隣に針が当てられる。充分真ん中と言える場所だ。
「……ここでいい?」
「レグルスの好きにしていいよ」
「~~~っ」
一々煽られてくれる可愛い男に笑みが止まらない。顎に手をかけて囁く。
「目にちゃんと、焼き付けろよ。俺がお前のものになるところ」
喉仏が大きく動いて、瞳孔が開いてしまっているレグルスに、自らも煽られながら瞳で促す。
「は……っ」
耳朶をなぞられてから、待ち望んだ針先が皮膚を貫いてくる。
ゆっくりと押し入って来る先端は、痛みというよりも熱を生む。見つめ合ったまま熱に侵されていく。
永遠みたいな時間だった。いや、確かに永遠を分け合っていたのかも知れない。
「……ふ」
熱いままの左耳にエメラルドのピアスが収まり、アルカは漸く息を吐いた。
レグルスの両肩に腕を回し、しなだれ掛かる。柔く耳殻に唇を付けて食んだ。
「俺、平民の中で育ってきたって話たよな?」
「っ、うん」
「それで平民の悪ガキがやることは、大抵全部やってるんだけど」
「う、……はぁ」
言葉を区切る度に、首筋を辿り太い血管や筋に甘く噛み付く。ぬるりと舌を這わせると、レグルスが大きく跳ねた。
「娼館の姐さん兄さんに、色々手解きを受けたって訳」
ぢゅと音が鳴る程、強く首の付け根を吸う。レグルスの腰が動いて、硬いものが当たる。
アルカは悪ガキたちと下町を根城にしていたため、ずっと娼婦たちに可愛がられていた。
故にあの事件の後に、アルカの性的な異変に直ぐに気づいたのも彼らだった。
性的弱者として扱われる彼らは、性的な傷やトラウマには敏感で、ほとんどが似たような尊厳を傷付けられる体験があった。
故に同類相憐れむではないが、2度とそんな目に合わないような性的な処世術や、ついでに房術の類などを教えてくれた。
それから体に触られるトラウマも、少しずつリハビリしてくれたのも彼らだ。
ジークと媚薬効果のせいとは言え、最後まで出来てしまったのは、このリハビリの効果だ。
その2つで漸く性行為への嫌悪感は、最低限は克服出来たのだ。
「ねぇ、俺の可愛い男を誑し込みたいんだけど、試してみない?凄く甘やかしてやりたい気分なんだ。……たくさんお預けさせたし、ね?」
先程開けたばかりの、レグルスのピアスに口付ける。
もう、レグルスのスイッチがどこか、良く知ってしまっている。
顔を覗き込むと、期待に満ちた眼とかち合う。欲情に塗れて笑って、両頬を挟んで深く口付けた。
レグルスの熱い舌を、何度も吸い上げて扱くように絡める。
唾液でさえ甘く感じるのだから、何の抵抗もなく味わい、こちらからも流し込む。
レグルスの喉が上下するのに、深い満足を覚える。
足の間でぎちぎちに張っている昂りを、腰を動かして刺激すると、レグルスの口から色っぽい吐息が漏れる。
「……こんなにして、かわいそうだね、レグルス」
言葉とは全く真逆の声音で告げると、レグルスのシャツをたくし上げ、鎖骨から順番に下に唇で辿る。
腹筋の割れ目を辿り、形の良い臍の下に吸い付く。
「ま、待って、アルカ、そんなとこ……!」
パンツ越しに、張り詰めた昂りに唇を落とす。
レグルスの焦った制止も聞かず、ジッパーを歯で挟んで下げた。
それから固い腹筋を撫でて、ぐいっと下着を下げる。
ぶるんと飛び出た逞しい怒張が、目の前に晒される。血管を浮かび上がらせ、反り返る程に勃ち上がっている。
ふうと息をかけると、大袈裟にビクついた。
「あ、アルカ、待って!き、汚いって」
ついこの間同じ台詞を吐いたが、レグルスは気にしないと答えた。
上目遣いに見上げたまま、逞しい幹に頬摺りをしてキスをする。
「うぁっ、ヤバいって……!」
意地になったのか、漸くされる方の心情を理解したのか、2人分の浄化魔法が掛けられた。
「あっ、こら、勝手なことするな……!」
「だって、アルカの綺麗な顔に、そんなの……、んっ!?」
ぱくりと、涙を溢している先端を口に含んだ。音を立てて吸い上げる。
強烈な媚薬みたいに、癖になる甘い味がする。やはり魔力相性が良いと、体液が美味いのは本当だと改めて実感する。
これまでの躊躇はなんだったのだと、夢中でレグルスの味を絞り出すように舌を当てて、吸い上げながら頭を上下させる。
弱り切った表情で、レグルスが躊躇いがちに頭に触れて、やわやわと髪を撫でる。
褒められているような擽ったさに、どんどん夢中になる。
「……上手、……っ」
「ひもひひーひ?」
「うあ……そこで喋るのやばい……!」
うっそり笑うと、裏筋にベッタリと舌を這わせて、絞るように手も使いながら引き込んでいく。
敏感な口の天井が何度も擦られて、じわじわと快感を感じ出す。
「アルカ……!すぐ、出るって……!」
パンパンに張った袋も柔く揉んで、じゅるじゅると下品な音を立てて吸い上げる。
チラと見上げると、腹筋がびくびくと震えた。
「離して、口……!アルカぁ……!」
「ん、……ふ、ぅ……んぐ」
喉奥に飲み込むように、引き摺り込む。奥に欲しい。
この男の全てを、体に入れたい。喰い尽くして、1つになってしまいたい。
湧き上がる欲のまま、一際強く吸い上げた。
「っあ!」
「んぐっ!」
喉奥にまともに強く迸りが叩きつけられ、咽ながら必死で飲み下した。
我慢していたと分かる程に、どろりと濃くて熱い。雄の臭いとレグルスの味に、くらくらする。
ずるりと引き抜かれる感触に、飲み下せなかった精液と涎が、口から1筋零れた。それを指で拭って口に含む。
「はっ……はぁ……、ちゃんと、全部飲んだよ、見て」
荒い息のまま、舌を出して笑いながら誘惑する。ただ1人の男を。
世界でたった1人だけの、アルカの男を呼ぶ。
「俺のことも、可愛がって。レグルス」
「アルカ……!」
星空の下、酷く余裕の無い顔で自分を求める男を、心から愛しいと思った。
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何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。