【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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秋の章 人工魔石事件編

幕間 ジークとイド

「ィイヤッホーーー」

 びょんと空を切って、イドが飛んで行った。

 10メートル以上の木に絡んでいるツル魔物に、自ら掛かって遊んでいる。
 お気に入りの遊びらしく、さっきから何度も繰り返しては、ツル魔物が途切れるまでブランコの要領で飛び移って進んでいる。

 本人が楽しそうなのは何よりだが、湿地の苔生して泥濘んだ道無き道を進むジークは苛々が止まらない。

 テスタ・ルルーカ湿原は、あちこちに水が溢れ泥濘に覆われている。
 通常の湿地帯より数倍背の高い木が密集して、植物魔物が多数集っている。

 どちらかと言うと大密林に近い様相だが、地面が水に浸されている分、こっちの方が不快だし厄介だ。

 そんな中で2人は、もう2日も手掛かりを求め彷徨っている。

 きゃっきゃっと響いた笑い声に、とうとうブチ切れたジークは、尖った枝を拾い上げて全力で上空へぶん投げた。

「わー」

 剛速で飛ばした枝は、イドのぶら下がったツルを狙い通り撃ち抜き、イドがくるくると落ちて来る。
 音も無く岩の上に着地した姿を見て、ジークがまた苛々を募らせた。

「いい加減、ふざけるのはやめろ、クソガキ」
「あ?クソじじいこそ、何しやがる」

 バチバチと睨み合って、ジークはまた歩みを再開した。
 イドは濡れたくないのか、器用に色々な足場を見つけては飛び移って行く。

「オッサンも濡れたくなきゃ、飛んでけばいいじゃん」
「うるせー、大体俺はまだ20代半ばだ!お前とそう変わらねーだろうが!」

 どうにも生意気で、ペースの乱される男である。
 とんでもない獣を押し付けられたと、ジークは恨めしく親友の顔を思い出した。

「えー?歳なんか知らね―よ、俺。アハトの推測だと、まだ成人してないみたいだけどな」
「あ?……ウルクより下だと……?」

 ジークは絶句した。タッパも自分とそう変わらない上、態度もふてぶてしく、若くてもせいぜいウルクくらいかと思っていたのだ。

 言われてみれば、痩せ型に見える体も成長途中と言われた方がしっくりくる。

「いや、マジのお守りかよ……」
「こっちは介護なんだがぁ?」

 こいつ本当に1回ぶちのめしてやろうかと睨むと、イドはべーっと舌を出した。
 言い返す前に、後ろに結んだ銀色の髪を流星のように靡かせて、岩から岩へ飛び移っていく。

「はーっ、俺もアルカとコンビが良かったな~」
「なんだってそんなに、アルカに執着すんだよ、お前」

 開けた場所に出ると、イドは諦めて地面へ下り立った。

「だってぇー、いい顔するじゃん、アルカって」

 挑発するように笑ったイドに、ジークは眉間の皺を深くした。

「……お前が、あいつの何を知ってるってんだ」
「バブ・イルムで、いいもん見せてもらった」

 その含みのある物言いが、神経を逆撫でする。
 あの日のことはアルカは決して話さないが、反応からするに何が起きたかは察している。

 学生時代に何度も見た、フラッシュバックと同じだったから。

 知っているからこそ、軽々には踏み込めなかった。
 だから、それにイドが関わってるのだとすれば到底許せない。

「わはーっ、こわ!殺気ビンビンじゃん!」

 心底愉しそうに笑いながら、イドは身を寄せて来て、顔を覗き込んでくる。

「あんたこそ、なんだってそんなにアルカに執着してんの?」

 ジークのこめかみがひくついた。だが未成年と聞いた今、まともにやり合う気は失せている。

「ガキが混ぜっ返してんじゃねーよ。黙って探索に集中しろ」
「あた!」

 拳骨を落とすと、イドは唇を尖らせた。
 こうすると随分子供っぽい。確かに、妹と同じくらいに見えなくもない。

「はぁ、余裕の無いオッサンだな。そんなんだから、モテねぇんだよ?」

 前言撤回。妹はこんなにスレてない。
 挑発ばかり繰り返すイドを放って、ジークはさっさと先に進んだ。

「なー、ジーク」
「お前に呼び捨てを許した覚えは無いが?」

「はいはい、じゃあオッサン」
「お前、本当躾け直すぞ」

「めんどくせー奴だな。なあ、あんた」

 ピタっと止まったイドが、通り過ぎようとしたジークの腕を掴んで引っ張った。

「こっち」
「何かあるのか?」
「すげー臭いね」

 湿原の端の森を指差して、イドが顔を顰めた。
 ばさばさと草を掻き分けて進むと、森がダンジョンを形成していた。事前に入れてきた情報では、この辺りに迷宮は無かった筈だ。

「野良ダンジョンかもな」
「すげー魔素、ぶんぶん」

 広い迷宮フィールドには良くあるが、人が入らない場所には未発見の迷宮もあり、通称野良ダンジョンと呼ばれている。

 ここは湿原の踏破ルートからも外れてはいるが、後で報告して未発見なら、調査を派遣しなければいけない。

 ルルーカ湿原付近の村での聞き込みは芳しく無く、ジークたちはひたすら、湿原内で手掛かり探していた。

 湿原近くの小屋にいた猟師が、唯一目撃情報を持っていたが、それも湿原に怪しい集団が居たという茫洋としたものだった。
 ここに来て漸くの取っ掛かりが見つかって、ジークは顔を明るくした。

「よし、良く見つけたな、イド」

 ポンと頭に手を載せてから、ハッとした。つい妹と同じ年頃という認識が染み付き過ぎた。

「……おう」

 何だか変な表情をしてから、イドはベロベロバーをした。
 もう1回拳骨を落としてから、ダンジョンへと足を踏み入れた。

 鬱蒼とした森の中、襲ってくる植物や虫魔物を斬り伏せながら進んでいく。

「あっ、この薬草、高く売れるやつだ!」
「馬鹿!余所見すんな!」

 薬草を見つけてしゃがんだイドの背中に、蜂の魔物が襲いかかる。
 しかしイドは一瞬姿を消し、片手に薬草を持ったまま蜂の背後に現れ、小太刀で簡単に斬り伏せた。

 マイペースが過ぎる。気に掛けたのがアホらしい。ジークは襲って来たマンティコアを斬り倒した。

 イドはどういう理屈かは説明しないが、場の違和感を見つけるのが上手い。
 異常に勘が良いと言えば良いのか、伊達にサマル王太子に雇われていた訳ではないらしい。

 戦闘能力も調査能力も、暗殺稼業だけに使うのが惜しいくらいだ。
 イドに導かれて1番魔素濃度の高い場所に辿り着き、ジークは素直にそう思った。

 森林ダンジョンの最奥にあるその場所に、大きな倉庫が建っていた。周りを見ると、規則的に配管用の排気口が設えられている。

「おい、ジーク。多分ヤバいの引いた」
「……分かった。ちょっと待て」

 神経を集中させて気配を探る。中に人の気配は無い。

「後ろを頼む」

 ジークは堂々と正面の入り口の鍵を壊して侵入した。中は既に廃棄されているのか、何も音はしない。

 だが、微かに奥から臭いがする。

「死臭だ。腐ってやがる」

 イドが首部分に下ろしていた黒い口布を引っ張り上げて、鼻先まで覆った。

「確かめない訳には、いかないだろうな」

 惨状を思い浮かべて、奥に進む。

 最初の区画は何かのガラスのポッドが整然と並び、あちこちから配管が通っている。外観は倉庫に見えたが、中は何かの工房だ。

 こびりついた臭いは、ここからではない。

 更に奥へ進むと部屋があった。臭いはそこからだった。幸い小窓が付いていたため、そこから中を覗き見る。
 中にはケースで覆われた大きな台が1つ、後は床の排水溝と台の下の鉄格子だけだった。

 何かが行われていたことだけは、分かる。
 もう少し詳しい情報をと、部屋の扉に手を掛けたところで、後から肩を掴まれる。

「やめとけ。下で腐ってる。相当数だから、近づくのは良くない」
「そうは言っても、誰かが確認しないことには始まらんだろ」

「あんたじゃ無くてもいいだろ」
「他に誰もいないだろうが」

 首を傾げると、イドは大きく溜息を吐いた。

「下にあるのは肉片だよ。どうしても確かめたいなら、もう止めねーよ」

 さらりと告げたイドは後ろへ下がって、後は口を噤んだ。
 肉片だと理由も言わず告げられても、情報室員としては、はいそうですかと報告する訳にはいかない。

 ジークは1つ呼吸をしてから、扉を開けた。

 耐え難い臭いがする。聞くまでも無く、それが何かはジークも知っている。
 素早く台に近付き、鉄格子の下を覗き込んだ。

 中を確かめたジークは直ぐに部屋を出た。イドが菫色の瞳を思いっ切り眇める。

「物好きだな、アンタ」
「根拠が無い報告は出来ないんだよ、情報室員ってのは。信用っていうのは、そういう風に積み重ねてく」
「……ふーん」

 ジークは収納袋から伝令陣を取り出した。

「取り敢えず、局長に報告だな。どの道、俺らじゃこれは調べられない」
「まあ、ここ間違いないぜ」

 イドが辺りを見渡す。何故そうも確信に満ちているのか。

「影に残ってんだ。強い感情って」

 疑問の眼差しを受けて、イドは肩を竦めた。どうせ信じないだろうと言う目付きが気に喰わない。

「俺は影使いじゃないから知らないが、お前の勘の良さの理由がそうなら納得はする。だが、情報室員に求められるのはいつも、全員を納得させて黙らせる証拠だ」

「……情報室員ってのは、メンドーなんだな。めんどくせーあんたにぴったりじゃん」

 イドはまた変な目付きをしてから、捨て台詞を吐いた。

「このクソガキ、本当に可愛くねえ」

 大人気なく応酬してから、伝令陣で情報を伝える。
 レグルスたちは当たりを引いた様子だ。こちらにも調査を手配するとの返信があった。

「調査隊が派遣されるって話だから、湿原入り口まで戻って待機するぞ」
「え~、また行ったり来たりすんのぉ?」

「じゃあお前、ここに1人で居るか?」
「それはつまんねーから、ヤダ」

 うだうだしているイドを置いて、さっさと引き返す。

「またツルで遊べるだろ」
「あっ、そーか」

 イドは何事も無かったかのように、ジークの後について来た。

 工場を出て直ぐ傍の沼の畔を歩いて戻る。
 イドではないが、また湿地を往復するのはジークとてうんざりだ。

 それにあの惨状、一体何があったのか。目にした光景に流石に気が滅入る。

「なー、ジーク」
「だから、お前に呼び捨て」

 言い終わらない内に、後から羽交い締めにされる。

 そのままイド諸共、大きな音と飛沫を上げて沼に落ちた。憩っていた鳥たちが一斉に飛び立つ。

「おま、お前!何すんだ!」

 ぶはっと2人で水面から顔を出す。

 頭に藻を載せたイドが、ゲラゲラ笑い出した。水に濡れた美しい銀髪も垂れ下がる藻で台無しだ。

「だって、死臭くせーんだもん!つか、アンタ頭に藻載っててやべー」
「オメーもだろうが!」

 ツボに入ったのか、ヒィヒィ笑うイドと岸に上がる。

「あー、笑った。濡れて気持ちわり」

 イドはポイッと腰紐を解き、貫頭衣の上衣を脱ぎ捨てた。
 口まで覆えるハイネックの黒衣は、袖が無く体に沿った鳩尾までの短いもので、予想外に肩と腹が丸出しでぎょっとする。

 引き締まった腹筋と、濡れて艶めく褐色の肌が晒される。
 脚半と小手も投げ出して、半裸でズボンを絞るあけすけな姿から気まずく目を逸らす。

 何とも調子の狂う男だ。ジークも上衣を脱いで絞る。

「……待て、浄化魔法使えば良かったんじゃないか?」

 振り向くと、イドはきょとんとしてからニカッと笑った。

「確かに!」

 本当に調子の狂うクソガキである。
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