【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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秋の章 感謝祭編

65 唐揚げメンチコロッケ

 ヒト魔石工房が発見されて、早1ヶ月。
 早期に解決出来ると思われた事件は、膠着状態を迎えた。

 引き続き工房の解析は続いていて、それなりに分かったことがある。

 結論から言えばアズカン高地とルルーカ湿原にあった工房は、どちらもヒト魔石の造成所だった。

 ただしルルーカの方が、より初期の工房との推測だ。ルルーカを廃棄した後、アズカンへ拠点を移したようだ。 

 そのアズカンでさえ、アルカたちが遅ければ廃棄されていたと、ユアンの証言で判断できる。

 拠点は一定の期間、または成果を持って移される。
 恐らく人攫いで目立ち過ぎないよう、魔素濃度が高い場所を常に渡っていると推察された。

 工房は大気中の魔素を、アブソーブを付与した魔石で自動で吸収し、装置を通して、光結界を張ったポッドの中に吐き出す仕組みになっていた。

 それによって1日中、人に魔素を浴びせ続けることが出来る。
 アズカンで回収された死体には、大量の魔素が蓄積されていた。

 全員分が解剖に回されたが、体内に魔石は確認出来なかった。
 魔物に転化させる程の魔素を人体に蓄積させ、その後どうするのか。

 魔石が精製されるまで、ひたすら魔素を吸収させ続けるのか。それともまだ何か工程があるのか。

 その疑問は、ルルーカの工房跡が手掛かりとなった。ルルーカのガラスケースに覆われた、台の下。
 あそこに打ち捨てられた、かつて誰かだった欠片が、まだ工程がある可能性を示唆していた。

 しかしそれに繋がる手掛かりが無く推測の域だが、まるごと体が結晶化して魔石になる、という可能性は潰せた。

 何故、こうも推測しかできないのか。

 それは目を覚ましたマーカスが、何1つ覚えていなかったせいだ。
 それどころか、全くの別人格になっていたのだ。

 肝心のマーカスからの証言は引き出せず、ユアンも肝要なことは何一つ知らなかった。

 マーカスは引き続き、取り調べでギルド本部地下牢へ監禁、ユアンはネフディト砂漠にある監獄に送られた。

 ネフディト監獄は、簡単に殺すには温い凶悪事件の犯罪者ばかりが収容されている。
 1度収容されれば魔術誓約の下、僅かな食料と苦役で一生を過ごすことになる。

 さらには、半ば狂った犯罪者たちに囲まれて過ごすのだから、命の保証は無い。
 強烈な序列制を強いる凶悪犯の群れに、羊が放り込まれればどうなるか。敢えて説明はいらないだろう。

 悪党でさえ、ネフディト監獄には身を震わせるのだから。

 とにかくこれで2件は、一部解析続行ながら完結の見込み、引き続きヒト魔石事件は調査続行の運びとなった。


「お疲れ様でぃ~す」

 ウルクの音頭で、アルカとジョエル、ウルクの3人は樽ジョッキを合わせた。木の音が鈍く響いてエールが波立つ。

「こうして3人で飲むの、随分久し振りですね」

 王都の目抜き通り裏にある人気居酒屋のテラス席、木樽で作った小さなテーブルで、3人丸くなって膝を突き合わせた。

 既に秋となり、夜風はそれなりに冷たい。
 しかし店は人で大混雑して密になっているのと、木樽に火魔石が設置されているためか、外でも冷たいエールが美味いくらいだ。

「そうだな、バブ・イルム以来だな」

 ジョエルに頷いて、アルカも寛ぎながらメニューを捲る。

 ヒト魔石事件が手詰まりを迎え、一段落となったところで、ジョエルたちに飲みに誘われたところだ。
 2人が恐縮するのは想像が付くので、レグルスは誘わずに報告だけして、仕事終わりにそのまま街へ繰り出した。

「あっ、アルカさん、ここの唐揚げめちゃ美味いっす。頼みます」

 提案かと思えば宣言だったようで、ウルクはさっさと店員を呼び数点頼み出した。
 アルカも気になった、トマトの浅漬けを頼む。

「ジョエル、何頼む?」
「俺は……、あ、これで」

 ジョエルが店名物の、手作りメンチとコロッケセットを頼む。
 中々良いチョイスに、次は柑橘系のサワーにしようと心に決める。

「は~、生き返る。忙しかったすね~」
「そうだな。お前にしては、真面目に頑張ったもんな」 

 エールをしみじみと呑むウルクに、ジョエルがしみじみと返した。

「わーい、褒められたぁ」

 テレっとウルクが喜んで、ハードルの低さに若干引く。

「2人とも、本当にお疲れ様。まあ、これから新しく地道な調査が始まるから、今だけはゆっくりしてくれ。今だけは」

「うっ、止めてくださいよ、思い出させないで」

 そうなのだ。今後の方針は、マーカスの行動履歴に基づいた現地調査、それから全国の魔素濃度の高い場所の調査となっている。

 マーカスが記憶の無い期間に出歩いていたのは、ユアンから確認済み、場所の詳細は不明なため、地道に目撃情報を洗い出すことになっている。

「おまけに、アレ、本部担当ですよね。今回」

 ジョエルのボソッと呟いた言葉に、ウルクが戦慄した。

「ひぃぃ……、地獄合宿の件はやめてぇ……」
「まあ、毎回持ち回りだから、仕方ないな」

 運ばれて来た唐揚げにレモンをかける。3人ともレモン派のため、戦争にはならないので遠慮なくいく。

「はふ、うま、生き返る」
「お前、何回生き返んだよ」

 すかさず手を伸ばしたウルクを見習って、じゅわっと肉汁が出る、醤油の濃い目味付けの熱々唐揚げを頬張る。
 追加の生搾りレモンサワーで流し込めば、ウルクじゃないが生き返った。

「皆やりたくないから、しょうがないですけど、もう少しなんとかならないですかね」
「冬のセドルアは地獄だからな」

 通称地獄合宿。セドルア大山の冬の魔素掃討には、全国から選抜チームが招集されるが、毎年持ち回りで統括指揮の役目が回ってくる。

 セドルアの魔素は冬に極大期を迎えるため、毎年冬の始めに一斉魔素掃討が行われる。

 真冬を迎えるとセドルアは悪天候に閉ざされ、一切人が入れぬ環境となる。

 そのため、冬の始めの魔素濃度が上がり出した頃に、掃討をしないと、魔障の発生率がかなり上がってしまう。
 絶対に欠かせない、ギルド全体の必須の行事なのだ。

 セドルア北部山系の迷宮フィールドは、世界有数の広さを誇るため、全国のギルドから人が集まる。
 そして、人海戦術で10日から2週間程度かけて、人が入れる場所までを班分けで担当していく。

 ギルドの横の繋がりを深めるに良い機会なのだが、とにかくキツイ作業なのだ。
 冬の始めとは言え極寒の地を延々と、魔素溜まりを探して歩くのだが、シンプルに辛い。

 これに加え統括指揮の支部は、各班の戦力、経験値で担当配置を決め、全国から集う約100余名の宿や食糧の手配、日程管理など、やることがかなり多い。

 今年の冬の掃討指揮は、ギルド総本部だ。
 人手は所属人数比で出す義務があり、小さな支部は合同で対処する。
 しかし、ギルド総本部は人手があるため、かなりの人員がこちらに回される。

 戦力的にも情報室員は、いつも高確率で参加命令が下る。
 今回は統括ということもあり、情報室員からはアルカを含め6名が参加予定だ。

 来月の始めには、レグルス、ジーク、イド、ジョエルとウルクと共にセドルア地獄合宿に向かうことになっている。

「今回はお留守番って思ってたのに、2連続ですよ、俺!」

 ウルクがひんひん言いながら、最後の1つの唐揚げを取った。

 テーブルに漂った不穏な雰囲気を払拭するように、揚げ立てメンチとコロッケが元気良く運ばれた。
 一口メンチ4つ、小判型コロッケ4つ。

「しょうがないだろ?俺たちはもう1つの調査があるし」

 ジョエルがさっと、それぞれ1つずつ取り皿に取った。遅れずにアルカたちも続く。

「まあ、あそこは広いし、隠れるにも濃度的にも、ちょうど良いからな」

 さくっ、じゅわっ。
 キャベツと玉ねぎ、豚挽き肉のみのシンプルだが、旨味と肉汁がぎゅっと閉じ込められたメンチカツ。

 胡椒がしっかり利いていてスパイシーで、火傷しそうな熱さが堪らない。
 キンキンのレモンサワーで油を流し込めば、あっという間にハッピーセットになる。

「止めましょう、仕事の話はもう止めましょう。何か楽しい話しましょう」

 スンとしたウルクがハイボールの杯を掲げた。もう1度、3人で乾杯した。

 揚げ立てのコロッケを齧ると、甘いしっかりした味付けで、ホクホクの芋がさくさくの衣に引き立てられている。
 ソースを少しかけるとアクセントになって、いくらでも食べられる。

 しかし大皿に残ったメンチとコロッケは、1つずつ。

「そう言えば、アルカさん、来週の感謝祭の前の日なんですが、空いていますか?」
「うん、特に用事はないよ」

 ひりつく緊張感の中、ジョエルの問いに頷く。
 来週は国の祝日で、感謝祭が各地域で3日に渡り開祭されるため、ギルドは連休となっている。

「遅くなってすみませんが、皆でアルカさんの昇格祝いを開くので、ぜひ参加いただきたく」
「えっ、わざわざ悪いだろ……!大したことないのに、大袈裟だろ」

「いやいや、特級魔術師ですよ!?大したことありますって!アルカさんは昔から凄いんだから、遅すぎるくらいですよ!」

 急に目を見開いて、前のめりになったジョエルの勢いに押され、アルカはたじろいだ。

「そうれふよぉ、もふ……、局長には了承取ってるし、縄つけて連れて来るって」

 行儀悪くウルクが両頬を膨らませて咀嚼し、話している途中で飲み込んだ。

 ジョエルと2人で大皿に目をやると、メンチが消えている。

「へへ、アルカさん、最近局長とどうなんすか」
「どうって、……普通だよ」

 アルカの左耳で揺れるエメラルドをにまにまと見ながら、ウルクがコロッケを頬張った。

「あっ、お前!」
「ふざけんなよ!何で最後の2つ、両方食ってんだよ!」

 思わず声を荒げると、ジョエルも目を吊り上げて怒鳴った。

「しかも唐揚げも、最後食ったよな!?普通上司や先輩に気を遣うだろ!最低でも、じゃんけんだろうが!」

 信じられない、このボンボンめ!とブチ切れながら詰め寄る。

「お前に人の心は無いのかよ!これだから最近の若いのは!」

 普段温厚なジョエルすら、本気でキレている。
 当の戦犯ウルクは、アルカとジョエルの剣幕にめちゃくちゃ引いた。

「いや、ねぇ、2人とも食い意地張りすぎっしょ……」
「お前が言うなよ!!」

 上司とその右腕に同時に怒鳴られ、やっぱり似て来てるとウルクは場違いな感想を曰わった。
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