【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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秋の章 感謝祭編

幕間 ジョエルとウルク

「もー、ホラ、しっかりしろよ」

 アルカの昇格祝いの後。

 自分より大柄なウルクを支えて半ば引き摺りながら、平民街の小さな家に帰ってきたジョエルは、やや手荒にウルクを自分のベッドに放り投げた。

「う~ん……、しぇんぱい……、もっと優しくぅ……」
「なんでジュースと勝負して、そんなんなってんだよ、全く」

 くたびれてベッドに座り込んで、むにゃむにゃと幸せそうな後輩の額を軽く弾く。

 同居していた育ての親である叔母が亡くなって半年、人の気配がなくなった狭い家に、久しぶりの他人の気配だ。

 相棒を組んでいるウルクはよく懐いてくれて、2歳下とは思えないほどに支えてくれる。
 叔母の件でも何くれと面倒を見てくれて、伝を使って良い薬や腕の良い治療士を、手配してくれたのもウルクだ。

 ヒールは奇跡のように欠損した体を治すが、万能では無い。
 基本的に細胞や遺伝子自体が変質するような病は、根治出来ない。

 病に冒された細胞の免疫力を活性化させ、進行を遅らせることは出来るが、死そのものには抗えない。

 祖先の人間からしたら罹る病も減ったが、ホムンクルス由来の魔素絡みの病も増えた。
 叔母が罹ったのは、細胞を変質させる致命的な病だった。

 体外から接種した毒や細菌などの異物由来の病、致命傷以外の傷は大体は魔法で治せる。
 治療士の腕にも依るが、中級以下の治癒スキルや治療関係の魔法は、水と土属性は修練で習得が出来る。

 ジョエルも中級以下の治療魔法は使えるが、とても叔母を救えるものでは無かった。

 高レベルの治療士となれば光や闇属性、固有スキル持ちに限られて来るため、治療を受けるにも順番待ちが長い。

 そんな中でアルカも何度か延命や痛みの軽減に協力してくれたし、ウルクが治療の融通を付けてくれたので、叔母は本当に幸運だったと思う。

 アルカに感謝しているのと同じく、口には出さないがウルクにも大きな恩を感じている。
 
 ウルクのジャラジャラしたピアスに、パサパサの褪せた長め金髪が引っかかっているのを、そっと避けてやる。

 これまでは休職中も含めて、しょっちゅう見舞いに来てくれていたが、叔母が亡くなってからは久しぶりの来訪である。

 飲みには度々行ってはいたが、何故か家に訪れることがなくなっていたので、今日は少し嬉しい。
 叔母と2人で力を合わせて建てた家は、1人だとずっと物寂しさを感じていたところだ。

 全く身寄りの失くなった身に、ウルクの献身がどれほど支えになっていたかを思い知ったが、すぐに調子に乗る本人には伝えていない。

「ウルク、ほら、ばんざーい」

 幼子のようにあやして、仕事用の上着を脱がせてやる。ギルドからそのまま街へ出たので、2人とも制服のままだ。

 ズボンとシャツだけは規定だが、上着や装備は何を着けても構わないため、ウルクも腰回りに色々下げている。
 ポーチやらがじゃらじゃら下がった、ベルトを取ろうと手にかけると、ウルクがぼんやりと目を開けた。

 酒に潤んだ紅の瞳が、じんわりと笑む。相当酔ってるなと苦笑する。

「あれ、なんで……先輩がいるの……?」

 まだ呂律を怪しくさせて、ウルクがへらへらと笑った。

「お前、イドと勝負して潰れたんだよ。覚えてないか?」
「イドぉ~?くそ、あの野郎ぉ~……、生意気なんだよー……」

 噛み合ってるようで、噛み合わない返事に笑う。

「じゃあ、ちゃんと装備外して寝ろよ?おやすみ」
「おやすまない!」

 起きたのでもういいかと立ち上がろうとしたところで、勢い良く手を引かれた。

 さすが体術A級。あっという間に羽交い締めにされて、変なところで感心する。

「こら、ふざけるなよ、離せ」
「やだぁ~、せっかくジョエル先輩がいるのに~」

 じたじたと駄々っ子のように頬ずりされる。
 ウルクもかなり呑めるので知らなかったが、醉うとお触り有りの絡み酒になるらしい。

「せーんぱい……」

 眠いのかとろんとした声で、耳元を擽られる。

「こら、お前ちょっと、本当に酔い過ぎだ」

 後から羽交い締めにする腕の強さや絡まる足の重みに、そう言えば最近、誰かと寝たことが無かったと思い出してしまう。
 途端にウルクの匂いや熱が肌に染みて来て、ジョエルは少し焦った。

「こら!ウルク、マジで離せって!」

 逃れようと藻掻くが、意外と逞しいウルクの拘束から逃れられない。
 ギブアップとばかりに回された腕を叩くと、手をガシッと掴まれた。

「っ!」

 わっとウルクの魔力が流し込まれて、抗えずに動きが止まってしまった。
 久々の他人の魔力が、体を走る感覚に身震いする。

「やめ……、ウルク!」
「先輩、俺の魔力受け取ってよ……」
「馬鹿!何言ってんだ、お前……!」

 誘い文句にも使われる言葉に身を捩り、ウルクを睨み付けてからハッとした。

 いつものチャラけた雰囲気は消え去り、切実で真剣な表情だけがそこにあった。
 急に男になったように、雄を滲ませた後輩に軽く混乱する。

「よ、酔い過ぎだ、マジで……」
「……酔ってはいるけど、そうじゃない」

 ウルクは身を起こして、覆い被さるように見下ろしてきた。酷く真剣な眼差しに、空恐ろしさすら感じて喉が鳴る。

「ちょ、ちょっと落ち着け、な?」
「つけ込むようで嫌だったけど、やっぱりこうなると、俺も我慢出来ないじゃん」

 どうにか逃げ出す隙を探すが、しっかり伸し掛かられて退かすことも出来ない。

「どうしたんだよ、ウルク!こんな冗談は、お前らしくないって……!」
「だから、俺はこんな冗談はしない」
「ままま、待て待て、怖い、怖いって!ウルク!」

 胸を押し退けるがビクともしない。顔の距離が近過ぎて、ジョエルが狼狽える。

 とにかく焦って、何を言えばいいのか、何をしたらこの後輩が鎮まるのか、あたふたと考えたが何も浮かばない。
 普段、冷静沈着なジョエルには珍しいことだ。

「……先輩」

 耳元に微かに唇が触れて、火傷しそうに熱い。ビクンと大袈裟に体が跳ねた。

「待てって、お前、本当に怖いってば……!」

 破れかぶれに素直に叫ぶと、ウルクは動きを止めた。

「はー……、分かったよ、……分かった、ごめん、先輩」

 どさりと体を投げ出すように、力を脱いたウルクの大きな体を受け止める。
 重い。退かそうとするが、ウルクは譲らなかった。

「……一緒に寝るくらいは、いーでしょ」
「いや、駄目だろ」

「許してよ、可愛い後輩でしょ」
「いや、こんなことする後輩は全然可愛くない」

「はー、きびし。……ゆっくり気長にいくとするわ」

 ぎゅっとジョエルを抱き込んで、ウルクは転がった。
 胸に顔を引き寄せられて、知らなかったウルクの匂いを知る。

「こら、寝るなら1人で寝ろよ!」

 顔に集まってきた熱を誤魔化すように、筋肉のしっかり付いた胸を叩くが、ウルクはどこ吹く風だ。

「俺、怖くて1人じゃ寝られない質なんだ。可哀想でしょ、先輩なんだから面倒見てよ、え~ん」

 全くのデタラメを、恥ずかしげも無く嘯くウルクに呆れ返る。

「明日、一緒に花火見ましょうね」
「ん?明日も俺といるのかよ」
「うん、そりゃそうでしょ」

 2人分の体温で温まって来て、ウルクの腕が重くなってくる。

「そういうのは、恋人と見ろよ」
「恋人なんかいないよ、俺」

 再び蕩けてきた声に、ジョエルも仕方なく目を閉じた。

「好きな人はいるけどね」

 どう返事をしようかと悩む内に、ウルクの寝息が聞こえ出した。
 安堵すればいいのか惜しめばいいのか分からずに、抜け出せない腕の中でジョエルも眠りに就いた。
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