【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

文字の大きさ
88 / 168
冬の章 セドルア掃討編

幕間 ウルクとジョエル

しおりを挟む
「い゛~~~っ、あ゛~~~っ」
「……親父くさ」

 高温の蒸気に包まれて唸ると、隣に座ったジョエルから呆れた視線が送られた。
 
 息を吸うだけで気道に染みる熱さ、熱せられた木の独特な匂い、ウルクとジョエルは2人で公衆サウナに居た。

 ヤズマイシュではサウナ文化が盛んで、街の至る所にサウナ付きの温泉がある。
 北部山系一帯は王国で有名な温泉地の1つだ。

 セドルア大山の大掃除で冷え切った体を、先ずはサウナで整える。それからウォッカ祭りをする算段だ。

「あ~、先輩寂しそうだったなあ。誘えば良かったかなあ……」

 ロウリュをしながら、ジョエルが何度目かの呟きを漏らした。
 確かにウルクが敢えて、飲みに誘わなかった時のアルカはちょっとショックを受けていた。その姿に罪悪感が湧いたのは確かだ。

「まだ言ってる。ウォッカなんて飲ませたら、アルカさんヤバいことになって、俺ら殺されるじゃないすか!大体この間、局長に釘刺されたでしょうが」

 ぼたぼたと汗を流しながら、ウルクは髪をかき上げた。

「あの人も大概だからなあ。局長、アルカさんにベタ惚れだもんな」

 ふう、と息を吐いたジョエルの頬も首元も、真っ赤に染まって汗が流れている。

 普段は白い肌が色づいて、ウルクは煩悶しながらも、あまり見ないように目を逸らす。
 サウナでどうのという疾しい気は無いが、たまたま空いていて2人切りだ。

「いや、俺はそれより、今日1日、ジークさんがヤバかったっす。アルカさんを絶対見ない感じ!」

「んああ~、アレな、いや、うん。俺もヤバいと思ったわ。見ない癖に、局長と居る時は神経尖ってる感じな」

「アレって、感謝祭後からずっとすよね!?」 

 同意を得て思わず横を向くと、ばっちりジョエルの全身が目に入り、ちゃっかり目に焼き付けてから逸らす。
 不可抗力はしょうがない。

「なー。あれは……、とうとうジークさんも動いたのかな。あの2人って学生時代から、付き合ってるって噂だったし。ぶっちゃけ、前まではそうでもおかしくない空気感だったしなあ」

「まあ、あの2人は距離近かったすからね。でもなあ、いくら職場恋愛オッケーでも、上司の三角関係は……」

 魔力相性や魔力調整の絡みで、人々の倫理観は割と緩い。
 好きじゃなくても魔力調整後に盛り上がることはあるし、魔力相性が合うと、あっという間に乗り換えたりくっついたりする。

 旧人類が絶滅して、約1000年。
 さらなる交配により、ホムンクルス由来の血と本能が強く出ている現在の新人類が、旧人類の倫理観や文明を見直し出したのは約300年前からだ。
 
 だが、両者を比べると、新人類は性的に開放的な性質が目立つ。
 人前でのスキンシップも割と多く見られるし、パートナー同士でのマーキングだって普通のことだ。

 それでも尊敬する上司3人の、恋愛模様は生々しく。

「生々しいけど、見てる分にはおもしれーっすぅ」
「お前ほんと、いい趣味してんな」
 
 外付けの水風呂に浸かり、雪の中で外気浴をする。

 うっかり寒暖差に反応したジョエルの胸元を見てしまい、ウルクは心頭滅却のため、意味無く水風呂に逆戻りした。


「うま!やっぱヤズマイシュのラーメン、美味いっすね」

 サウナで整ったら腹が減ったため、ウォッカの前にラーメンの屋台へと寄った。

 トタンと布で囲われた狭い屋台で並び、大盛り味噌バターコーンを啜る。
 ジョエルは鬼辛味噌スペシャルなる、真っ赤な麺を頼んでいた。

「一口味見させて」
「いっすよ、俺もいいすか?」
「ほい」

 蓮華を交換して、それぞれのスープを飲む。
 ウルクも砂漠の民らしく激辛は好きなので注文を悩んだが、結局名物の王道味噌を頼んだ。

「味噌、パンチあって美味いなあ」
「こっちの辛味も良い感じっすね、うめ~」

 1日働いた空腹の身には、ラーメンの油や旨味、塩分が染み渡る。
 北部の味噌は甘めで、がつんとしたニンニクや野菜の甘みと動物系出汁が合わさって、ずっしり食べ応えがある。

 きりっとした淡麗味噌も捨て難いが、やはり疲れた体にはずっしりこってりが良い。
 分厚く切られた蕩ける豚バラチャーシューと、極太メンマも食べ応えがある。

「は~、幸せ~。ヤズマイシュ支部に異動……したくねえな、やっぱ。親父さん、王都に出店しなよ」

 鍋をかき混ぜていた店主が、ニヤッと笑う。

「たまに祭りで出店してるぜ。特に王都の感謝祭には、ここ数年出てんだ。先月のにも居たぞ」
「えっ、そうなんですか?見つけられなかったな」

 ジョエルも驚いてウルクと顔を見合わせた。ヤズマイシュのラーメン屋台があれば、絶対に寄っていた。

「王城前の広場でやってるからよ、来年も出店予定だから来てくれや。午前で売り切れちまうから、早めにな」

「あ、あ~、王城前広場か」
「……行けなかったもんな、俺たち」

 2人とも同じことを思い出して、黙ってラーメンを啜る。

 感謝祭の初日。昼までぐっすり寝たウルクたちは、昼飯がてら街へ繰り出した。
 ぶらぶらと川を歩き、大橋に差し掛かったところで、前方に見覚えのある背の高い紅髪を見つけた。

「あれ、局長とアルカさ……」

 その隣には当然のように寄り添ったアルカが、指を絡めて手を繋いで歩いている。
 時折肩を寄せて顔を近づけながら何事か話す2人の姿に、ウルクもジョエルも絶句した。

 もうそれはそれは、幸せそうなのである。完全に2人の世界で、誰のことも気にしていない。

 そもそもアルカは、常に気怠げ気に薄く笑んだような表情をしていて、読みにくい顔をしている。

 だが懐に入れてもらえると、案外分かりやすい表情をしてくれる。
 その分ウルクとジョエルは、かなり気に入られていると自負していた。

 しかし前方を歩くアルカは、そんな自負など木っ端微塵になる程の、部下が見てはいけない類の横顔をしていた。

 それからレグルスだ。レグルスもいつも笑顔だが、それだけ。レグルスは人と対峙する時は、常に何の考えも読み取れない穏やかな笑みを浮かべている。

 さすがに戦闘中や書類仕事中は笑顔ではないが、代わりにその顔から何の表情も無くなる。
 喜怒哀楽がすっぽ抜けた顔で、淡々と物事を片付けていく。

 普段穏やかで物腰柔らかで冷静、仕事も出来るし判断も速くて間違わない。それに圧倒的な強さがある。
 だからこそ人らしさが無くて、畏怖の対象になっているのだ。

 それなのに、アルカと手を繋いだレグルスといったら。
 こちらも見てはいけない類の横顔だったが、人らしさに溢れた表情をしていて、これまた仰け反った。

 この長い大橋を、ずっと隠れるように後ろからあの2人を見ながら歩くのか?

 ウルクとジョエルが顔を見合わせると、レグルスが急にアルカの顔を、鼻先が触れ合わんばかりの距離で覗き込んだ。

 思わず2人で手を取り合って、跳ね上がる。
 いかん、まずい、その距離は止めてくれ。

 ウルクとジョエルが天に祈る気持ちになる前に、アルカの方からレグルスに、ちゅっと一瞬だけ口付けした。

「んぎぎぎ……!」

 2人で口を押さえて悶絶する。
 キスもそうだが、レグルスの男の顔もアルカの恋しい顔も、全部見てしまった。

 見ている方が赤面するくらい、幸せダダ漏れの空気に耐えられず、2人で回れ右をした。

 何というか、当てられたのだ。
 こちらの方がドキドキして心臓が煩いし、何なら言わなくていいことを、ジョエルに告げてしまいそうになった。

 くそ、恋人っていいな!
 俺だって、俺だって、チューしてぇ~と隣を見ると、ジョエルは頬を染めながらも複雑な顔をした。

「あれは多分、……見せつけられた気がするな……。昨日も話してて思ったけど、局長、先輩のことだけは見境なくなるからな……」

「え、こわぁ……。……こうなりゃ、屋台村の方で呑みましょうか」
「そうだな。……別に、今日も泊まってもいいからな」

「えっ、マジすか!?」
「花火見るんだろ。あと、別に俺1人だし」

「やった!じゃあ3日間、呑んで呑んで呑みまくりましょ!呑まなきゃもう、やってらんねーから」
「……だな!」

 なんて会話をして、3日間をずっと一緒に酒を浴びるほど呑んで過ごした感謝祭を思い出す。
 ジョエルの顔が赤いのは決して、激辛ラーメンのせいではないだろう。

「やっぱ今日は呑みましょう」
「明日も地獄の大掃除だぞ」

 何だか急に腹が一杯になった気がしたが、やっぱりどんな時でもラーメンは美味かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

平凡な俺は魔法学校で、冷徹第二王子と秘密の恋をする

ゆなな
BL
旧題:平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました 5月13日に書籍化されます。応援してくださり、ありがとうございました! 貧しい村から魔法学校に奨学生として入学した平民出身の魔法使いであるユノは成績優秀であったので生徒会に入ることになった。しかし、生徒会のメンバーは貴族や王族の者ばかりでみなユノに冷たかった。 とりわけ生徒会長も務める美しい王族のエリートであるキリヤ・シュトレインに冷たくされたことにひどく傷付いたユノ。 だが冷たくされたその夜、学園の仮面舞踏会で危険な目にあったユノを助けてくれて甘いひと時を過ごした身分が高そうな男はどことなくキリヤ・シュトレインに似ていた。 あの冷たい男がユノにこんなに甘く優しく口づけるなんてありえない。 そしてその翌日学園で顔を合わせたキリヤは昨夜の優しい男とはやはり似ても似つかないほど冷たかった。 仮面舞踏会で出会った優しくも謎に包まれた男は冷たい王子であるキリヤだったのか、それとも別の男なのか。 全寮制の魔法学園で平民出身の平凡に見えるが努力家で健気なユノが、貧しい故郷のために努力しながらも身分違いの恋に身を焦がすお話。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...