【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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冬の章 セドルア掃討編

86 ヤズマイシュ北地区

 休養日翌朝、ヤズマイシュ支部の会議室に情報室員は集合した。

「セドルア魔素掃討中ですが、人工魔石事件に関して、有力な手掛かりになりそうな情報がありました。この街で魔石が目玉の違法オークションと、それに合わせた人身売買が行われているとのことです」

 この国では魔石を売買するには、商業ギルドからの認可が必要になる。
 一昔前には、既に魔力が残り少ないものや粗悪品を売りつける悪徳業者も多く、それに起因した魔石道具の事故も多発していたからだ。

 クエストを含めた採取や個人使用は、全ての国民が行うことが出来る。
 しかし売り買いをするには、ギルドに卸すか認定商会を通す必要がある。

 適正価格も品質等級により大凡の相場があり、今回のようなオークションは法律で禁止されている。

 そもそもオークションは、チャリティーや文化振興のための芸術品に相当するものしか許可されていない。
 それも貴族や有力商会の後援の下、商業ギルドが開催するもののみだ。

 今回のオークションは、念の為商業ギルドに問い合わせたが、認知自体されておらず違法であること自体は確定している。

「近々、オークションの開催されそうな動きがあるということで、急遽ですが、アルカ君とイド君には潜入任務に従事していただきます。掃討の方はランカー1名と、えー……シェンさんが欠員補充として、ご参加いただけるそうです」

 シェンの名前が出た途端、イド以外の全員が口元を引き攣らせた。

「あーっ、雪山から解放されて清々するぜーっ」

 にっこにこのイドは背伸びをして体を解していたが、ウルクとジョエルがアルカに泣きついて来た。

「アルカさん、マジで早く解決して帰ってきてください……!」
「俺も今回ばっかりは、さすがにキツいです!」
「う、うん。頑張るからな。お前らも耐えてくれ……」

 会議室から出てロビーに戻ると、既に準備を済ませたシェンがにこにこと手を振っていて、全員が更に怯んだ。

 イドがジークに何事か話しているのを横目で確認して、アルカもレグルスの元へ向かう。

「じゃあ、気を付けてな。基本的に連絡取れないと思って。もし何かあったら、伝令陣で伝える」

 周りに人はいないが素早く伝えると、レグルスは眉を下げた。

「アルカも気を付けて。あと、本当に無理はしないでね。終わったら真っ直ぐ帰って来てね」

 数瞬だけ見つめ合うとアルカは踵を返し、イドを回収して支部を出た。


「アルカぁ~、こんな朝早くからどうすんだよ~」

「朝だから動きやすいんだろうが。場所の目星は付いてんだし」
「うへ~、マジメ~。別に夜にぶっつけで、ちゃちゃっと行けばいいじゃん」

 朝の凍てつく空気の中、イドを引っ立てて歩く。ヤズマイシュの街は広く、小さな町3つ分に相当する。
 オークション会場があるとされるのは、支部がある中心部から更に北へ、定期馬車で2時間のセドルア川沿いの地区だ。

 北地区はセドルア山麓に位置し、登山道の入り口がある地区となる。
 この登山道は途中で登山口と枝分かれし、もう一方が北の隣国フォルクロー帝国と繋がっている。

 その国境にはオルデン辺境伯が管理する堅牢な砦があり、関所も兼ねている。
 帝国とは完全に国境封鎖をしている訳ではなく、指定商人のみ双方向で通行可とし、多少の出入りはある。

 最後の紛争では商業協定を結び、鉱物資源が豊富な北からは資源と魔導技術や最先端魔導具を、南からは食糧を輸出することになったためだ。

 ここよりも厳しい土地の帝国では、食糧の輸入を他国に頼る部分も大きく、それが侵略戦争に繋がってきた歴史がある。

 また、帝国は魔導大国のため、戦争になればかなり厳しい戦いとなる。
 それならば完全に拒絶するのではなく、技術を盗むことも出来る協定をと、この形を落とし所として互いに同意した。

 帝国民はこの北地区までしか入国出来ず、ここで王国の仲介業者と交易をする。
 帝国側へも同様に、セドルア大山を挟んだ反対側の麓の街の一部までしか、王国民は入国が出来ない。

 帝国との唯一の交易拠点、鮭や魔魚の一大名産地、登山の宿場町、国境砦の台所と様々な役割があり、この北地区は中央区と同じくらい活気があり栄えている。

 また、天気が良ければ地区のどこからでも、霊峰セドルアの頂上を仰ぎ見ることが出来て、霊山信仰や観光の名所にもなっている。

「うわ~!でっけ~!かっこいー!」

 2時間ソリ馬車に揺られて北地区に着いて早々、ソリを引く2メートルを超える魔馬にイドが釘付けになった。

「おっちゃん、おっちゃん、ちょっと触っていい?」
「おう、いいけど足踏まれねえようになあ」

 恰幅の良い御者が煙草を吸いに馬から離れた。
 アルカも遠くに見えるセドルア大山の上層部を仰ぎ見る。厚い雲に覆われているが、レグルスたちもあそこに居る筈だ。

「イド、遊んでないで行くぞ」

 少し離れただけで、これだ。アルカは首を振って意識を切り替えた。

「嫌だ!触りたい!」
「でかい図体して、子供みたいな駄々こねるんじゃないよ。……少しだけだぞ」

 イドがいきなり首元に抱き着いてぎょっとしたが、芦毛の魔馬は大人しく受け入れた。
 普通の馬より二回りは大きく、中々見ることが出来ないサイズに、アルカもじっと見惚れてしまう。

 魔馬に促されて傍に寄ると、鼻先を撫でろと差し出された。

「あんれ、兄ちゃんたち、そいつにそんなに気に入られたのかい!?珍しいこともあるもんだ」

 大人しい魔馬の鼻先を掻いていると、御者が戻ってきてたまげた。

「なーなー、おっちゃん。人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるって聞いたんだけど、おっちゃんがけしかけて回ってんの?」

「あ?何だそりゃあ。うちは無賃乗車野郎には、蹴りくれてやるけどなあ、ガハハ」
「え~?じゃあ誰がどうやんだろ」

「ほら、訳わかんないこと言ってないで行くぞ。ちゃんとお礼しろ。ありがとうございました」
「あーい。おっちゃん、ありがとうな!」

 相変わらず訳が分からないが、きちんと礼を言えるようになったイドと街中へ向かう。

「なあなあ、アルカ知ってる?ジークの母ちゃんってさ、ちょー美人なの」
「……俺は会ったことないよ」

 寒いのか鼻先を赤くしたイドが、無邪気に笑う。

「ココアってさ、飲んだことある?ジーク母ちゃんが淹れてくれんだけど、美味いんだぜ。ばーちゃんのお茶と同じくらい美味い」

「ジークの家に泊まってんだっけ。ちゃんと迷惑かけないようにはしてるか?」

「俺は鶏と牛と友達になったから、卵と牛乳取る係やってる!でもあいつら酷いんだぜ、鶏は背中向けるとすぐ脹脛つついてくるし、牛は足踏むんだよ」

 それは友達じゃない気がするが、馴染んでいるようなので頷くに留める。
 ふと、拗れる前はジークと他愛のないことをしていたと、懐かしく思い出す。

「でさあ、ジークから転ばない歩き方教えてもらったから、教えてやるな。それか俺の後ろ歩いてもいいよ!」

「大丈夫、俺の地元もここ程じゃ無いけど、冬は多少雪降ったり凍るから」

 脈絡の無い会話だが、少しイドが変わったような気がした。

「ほ~ん。なあなあ知ってる?雪って、雪だるま作れんの。俺、昨日雪だるまとからくま作った」

「……かまくらじゃないか?」
「うん?知らんけど、楽しかった!」

 全く持って初等部以下の会話だが、何故だかイドの情緒面の成長が感じられて感慨深くなる。

「そんでさあ、ジークって妹がいんだけどさ、何となくアルカに似てんだ。妹も氷属性だしな。あいつ、魔力強いし根性あるから、良い魔術師になるぜ」

 ジークには体が弱い妹がいるのは知っているが、それは初耳だった。

「ジークってさあ、ちょーシスコン過保護ヤローでさ、俺も引くわ。だからアルカに振られんだって」
「!?」

 ばっと横を歩いていたイドを見上げると、イドは涼しい顔で首を傾げた。

「ジークから聞いたのか……!?」

「いんや?見てれば分かるし。つーか、あの日、解散後にジークを探しに行ったらめちゃくちゃ荒れてたから、つい面白くて覗いちゃった」

「覗いたって何を」
「え~、影ぇ」

「おっ、お前!また影スキル使ったのか!?職員に対して禁止したよな!」
「うん。影に入ってつけるのは駄目だって、言われた」

「俺は影スキルって言った筈だぞ!次やったら魔術契約してもらうからな!」
「え~、そんな怒るなよ」

「怒るんだよ!いいか、勝手に人の秘密を暴くな!人の触られたくないところを土足で踏み荒らすのは、1番最低な行為だからな!」

 へらへらした口調に限界を迎え、真剣に瞳を見て睨むとイドは怯んだ。

「……そんなに、悪いことだったのかよ」

「そうだ。そんなことしたら、お前が今まで築いた信用も関係も台無しになる。これまでの居場所を失くすようなことだって、覚えておけよ」

「……うん、分かった」

 それきりイドは黙ってしまった。アルカは1度大きく深呼吸してから、イドの背中を叩いて歩き出した。
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