【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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冬の章 セドルア掃討編

89 影

 とぷんと堕ちた先は、薄暗い白黒の世界だった。

「アルカ、すぐ気絶させる!」
「ここ、影の中か……!?」

「俺の影だよ!それより早くしないと始まる!発狂しちゃうよ、アルカ!」

 わんと歪んだ輪郭のイドが近付いたと思ったら、目の前いっぱい足下までにバッと映像が映り出す。
 まるで、直接脳をこじ開けるように映像が流れ込んできて、目を逸らすことが出来ない。

 その映像と共に、処理能力を超える膨大な感情が流れ込んできて、アルカの身が硬直した。 

「ごめん!!」

 イドの手の平が目を覆った瞬間、頸に手刀が落とされ、アルカは意識を失った。


 パチンと火が爆ぜる音がして、ふっと目を覚ました。
 その瞬間、猛烈な吐き気がして胃液が出るまで全て吐き出した。

「大丈夫?発狂した?」

 いつの間にか傍に寄ったイドが背中を擦ってくれた。
 手を付いた感覚から雪上と知り、漸く戻った五感に顔を上げる。

「……ありがとう、イド」
「……水飲め」

 収納ポーチから水の瓶を渡したイドは、居心地悪そうに隣に座った。
 辺りを見回すと森の中で、辺りはすっかり夜だった。

「ここは?」
「念の為、北地区から出た。中央区と間の森。どっちにも戻れるように」

 パチパチと焚き火が爆ぜた。どこからか、ちゃんと乾いた枝を見つけて来たらしい。水を飲んで人心地吐く。

「頸痛い?発狂した?」
「痛くないよ。ヒールしてくれただろ。発狂もしてない」

 背の高い針葉樹林の合間から、冴え冴えした月が見えた。雪が降らない分、冷え込んでいて寒い。

「お前の影に入れてくれたんだな……」
「うん。人の秘密は見ちゃいけないって、教えてもらったから」

「そうか……。助けてくれてありがとうな。だけどごめんな、お前の秘密を暴いてしまった」

 何か燃える物と収納袋を漁って、シェンからもらった報告用紙の束を見つけて火に焼べた。

「いいよ。俺は別に、人に見られても困んないから」

 視えてしまった記憶の中、たくさんのものを、自分すらを喪ったイドはあっけらかんと笑った。

「イド、中央区へ帰ろう。あれは、俺たちは退かないといけない」
「なんで?殺した方がいいなら、引き受けるけど?」

「殺すのは絶対に駄目だ。戦争になる」
「ふ~ん?戦争したくないの?」

「そう、1番駄目だ。皆が不幸になるから」
「分かったぁ。じゃあ帰ろ。腹減った、俺」

 イドは立ち上がると、アルカを引き起こした。

「歩いて帰れる?」
「ああ、もう大丈夫だよ。帰ったらラーメン食いに行こう」
「ラーメン?食ったことねえ」

「特別に奢ってやる」
「わは!走って帰ろ!」

 にっこにこになったイドが、さっさと走り出した。アルカも急いで火と汚した場所を雪で始末して歩き出した。

 それにしてもフォルクロー帝国は、王国でかなり好きにやっている様子だった。
 とにかくレグルスに報告しなくては。もう外交問題の話だ。たかだかギルドのいち職員には手に負えない。

 闇オークションは、もう2度と開催されないだろう。
 1つ心残りは、あの牢の中で囚われた人々を助けれなかったことだ。

 明日には殺されているか、また帝国側に何かの材料にされるか。
 どちらにしろ、彼らが日の目に当たる機会にしてやれなかった。
 
 別に自分が英雄になりたいとか、全てを助けられるとは思っていない。
 ただ、ああやって捨て置かれた人たちを、自分も見捨てるのが嫌だというだけだ。

 もう少し上手いやり方があったかも知れない。
 レグルスだったら、もっと上手くやれていたかも。でも下手を打てば戦争になっていたかも知れない。

 そんなことを苦い思いで考えながら、夜の雪原を黙々と歩く。

 街道に合流すると、ちらほら点在する民家から暖炉の煙と灯りが漏れているのが見えた。
 澄んだ星空の下、遠くに見える中央区の灯りは賑やかだった。


「うんめ!なんだこれ~?……あ゛っ、かれぇああ!」

 約束通り、まだ開いていたラーメン屋台でイドにラーメンを食べさせた。

 オススメは辛味噌ということでイドがそれを頼んだが、意外にも悶絶した。
 砂漠の民だから辛いものが平気かと思っていたが、イドは苦手らしい。

「あ゛っ、から、うま、あ゛あ゛」

 変な声で唸りながらも箸が止まらないので、ほっといた。
 アルカは流石にくたびれて食欲が無い、と思って軽めの塩にしたが、貝出汁がめちゃくちゃ美味くて箸が止まらない。

 結局2人ですっかり温まり、満腹になって屋台を出た。

「もう遅いから、ホテルに泊まるか?予備部屋もあるし」

「んーん、ちゃんと帰って来いって言われたから、あっちに帰る。明日の朝、俺が卵と牛乳取らないと、あいつら困るだろ」

「そうか。じゃあ気を付けて帰れよ。おやすみ」
「あ、アルカ、ご馳走さまでした!」

「おぉ……、挨拶できるようになって偉いな」
「うい、じゃな!」

 まだ少し唇を赤くしたイドが、にかっと笑って身を翻すのを見送り、ホテルまでの道を辿った。

 ホテルのロビーに入ると、少し慌ただしく職員が行き来していた。
 何事かと首を巡らせると、顔見知りの総務部の職員を見つけ、声を掛ける。

「どうしたの?何かあった?」
「アルカさん。あれ、ご存知ないですか?」

 肩までのボブカットを揺らして、少し青ざめた顔で彼女は声を潜めた。

「2合目にスノウドラゴンが出て……、何人か重傷になりました」

「……7合目じゃなくて?」
「はい、2合目で間違いないです。今、支部で上長たちが会議してます」

「そう……、負傷者は?治せなかった人はいる?」
「治療はあらかた済んでるので、寝かせてます」
「分かった。治療が必要な時は言って」

 職員と話を切り上げ部屋に戻る。次から次に何なんだ。
 当然ながらレグルスは帰って来てなかった。取り敢えず考えることを放棄して、熱いシャワーを浴びた。

 ベッドでうたた寝をしていると、扉が開く気配がして目を覚ます。

「お帰り」
「うわ、アルカ!帰ってたの?」

 油断していたのかビクついたレグルスが、直ぐに嬉しそうに寄ってきた。
 そのままぎゅっと抱き締めると腕の中の顔が緩み切って、何だかホッとした。

「レグ~、レグルス~」
「ふふ、どうしたの、疲れた?」

 抱いた頭に頬擦りすると、すぽんと抜け出てきて軽く口付けられる。逆に抱き込まれて、今度こそ安堵の息を吐いた。

「服、邪魔だなあ」

 性的にでは無いが、肌に触れたい。無性に肌の熱を感じたくて無意識に呟く。

「んえっ、あ、脱ぎます?あ、でも、えっと、シャワーしてきていいです?」

 何故か敬語になって、乙女のようなことを曰わり出したレグルスに笑う。

「うん。じゃあ早く戻って来て、淋しいから」
「んっぐ、承知しました……!」

 慌ててバスルームに飛んで行ったレグルスにまた笑って、天井を仰ぎ見る。

 話さなければいけないことは、山程ある。
 まずは仕事を優先するべきだ。だが、イドの記憶やオークションの囚人の件で、思ったより精神疲労している。

 特にイドの記憶だ。あのままだったら、本当に発狂していただろう。その余波が凄まじく、精神に負荷をかけている。
 気を抜くと引き摺られそうになり、アルカはじっと天井を見つめた。

「アルカ!」
「え、はや……」

 爆速で風呂から出たレグルスが、またベッドに舞い戻って来た。

「ちゃんと温まった?」
「アルカに温めてもらうから、平気」

 来ていた服を全て脱がされて抱き込まれた。漸く求めていた素肌の温もりが感じられ、胸に顔を埋める。

「ね、魔力ぐちゃぐちゃになってる……。治していい?」
「うん、して」

 マーキングが残っても構わないくらいに、今はレグルスの魔力が恋しい。
 ぎゅっとしがみつくと、合わさった肌からゆっくりと魔力が流れてくる。

 温かく柔らかに包んで、癒すような流れに身を委ねる。
 黙って肌を合わせるだけなのに、これほど心地好いものはない。

 言われる程に滅茶苦茶になっていた魔力の流れを、整えられて漸く知る。
 漸く満たされて凪いで、閉じていた瞳を開いた。

 2人分混ざった気配が愛しい。本能が満たされて精神が随分すっきりした。

「ありがと」

 ちゅと口付けると、レグルスは困ったように眉を下げて笑った。

「まだ足りないなあ」

 物足りなそうな瞳に、頬を引き寄せて深く口付けをする。

「煽んないでよ。我慢してるのに」
「一昨日あんなにしたのに?」

「魔力調整はしてないじゃん」
「我慢しろって言ったのは、レグルスだろ?」

 鼻先を触れ合わせて、互いに探り合う。

「もう少しだけ、する?」

 アルカが艶然と笑むと、レグルスは煩悶した。

「う、ん……、シェンさんがなあ……」
「あ~、ベッドで他の男の名前出したあ」

 レグルスの得意台詞を棒読みで言うと、目をじっとりさせて唇を尖らせた。

「いや、本当、アルカが居ない間大変だったんだからね。総務の子たちはどうやってアレ、毎日耐えてんだろ」

 どうもシェンが代打の間、かなりやり込められてストレスが溜まったらしい。

「ふふ、可哀想に。慰めてやろっか」

 口付けて今度は自分から魔力を流して、レグルスの魔力を包んでやる。
 悩んだ割に抗えないようで、直ぐに受け入れられてねだられる。

 マーキングが深くなる前に、無理やり唇を離した。だが既に2人とも火が付いてしまっていて呼吸も荒い。

「また今日も魔力我慢か……」
「これはね、アルカが悪いね……!」

 目が据わったレグルスに覆い被さって、アルカは笑った。
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