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レグルスの章
94 受胎
モーリントン通り奥、今1番人気の酒場には美人で評判の看板娘がいる。
溌剌として明るい魅力があり、すっきりした鼻立ちに大きな瞳、ふっくらした唇が印象的な若い娘だ。
名はマリアと言う。マリアは貧乏な平民出で、学は無いが頭の回転が早く、機知に富んだ会話をする娘だった。
金さえあれば、王都で1番の学園にも入れるほどの魔力量と才能があったが、マリアが生まれた年に彼の史上最悪の厄災が起こり、父親が死亡した。
そして厄災の余波で大不況の中、病気がちな祖父母と気を病んだ母親だけがマリアに遺された。
マリアは幼い頃から必死に働き、年頃を迎えてからは昼は食堂の手伝い、夜は酒場で給仕と踊り子をして必死に稼いだ。
幸か不幸か美しい顔と魅惑的な体付き、人を虜にする会話術で、マリアは様々な者たちに可愛がられた。
おかげで何とか家族全員の食い扶持を稼ぐことが出来た。
誰もを虜にするマリアは、いつしか王都で1番の踊り子として評判となる。
やがて、その噂は貴族たちにも届くようになった。
「ダニエル様」
王宮の本宮、執務室までの長い廊下を歩く宰相ダニエルに、背後から駆け寄ったのは部下のランスロットだ。まだ若いが優秀な右腕だ。
「王がお呼びです。私室へ参られますよう」
ダニエルは頷いて踵を返して、王の私室へと向かった。
近衛が守る豪奢な扉を抜け控えの間に入ると、近侍が寝室へと導いた。
「王国の太陽にご挨拶申し上げます」
「来たか、ダニエル」
天蓋が下ろされた広いベッドの上に臥せった王が、震える手を上げた。近侍が頭を下げて退出する。
臥せた王はまだ60歳にもならぬ筈だが、完全に痩せ細り老け込んで弱々しい。
王家の特徴である眩い金髪も琥珀色の瞳も、すっかり褪せて濁ってしまっている。
「ダニエル、ダニエル」
「はい、ここに」
傍へ控えると、王は幽鬼のような血走った目でダニエルを見た。
「あれは未だ見つからぬのか……!」
「は……、申し訳ございません。全力で捜索中でございます」
最高品質の羽毛布団を握り締め、王は呻いた。
「もう、頼みの綱はお主のみなのだ……!ダニエル」
しなびた手が、ダニエルの白い手を掴む。
ダニエルが首を傾げると、かつての王と同じ色の金髪がさらりと靡いた。それから琥珀色の瞳を細める。
「勿論です。私も王家の末席として、我が王に身命を賭してお仕えする所存でございます」
「うむ、……うむ、頼むぞ。必ずあれを取り戻すのだ。……あれが戻らねば、私はまた民の誹りを受けるだろう……!」
王国史上に置ける三大愚王の1人。まだ存命であるのにも関わらず、そんな二つ名を持つ男にダニエルは優しく笑いかけた。
夜まで精力的に仕事を熟したダニエルは、王城を出て直ぐ近くの有力貴族ばかりが住む一等地の屋敷へは帰らず、馬車を商業区へと差し向けた。
邸には2人の息子が帰りを待っている筈だが、さして興味は無い。
ダニエルの家は古くから王族の降嫁先であり、数代置きに王族関係者から配偶者を迎えていて、当代ダニエルの配偶者も王弟の末娘だ。
これが悋気が強く、めっぽう気位が高い。
プライドの塊のような女で、冷酷な仮面の下に激情をしまい、尊厳のためなら何でもするような性格をしている。
子作りも義務として端から培養法を望んだため、ダニエルは彼女には指一本触れていない。
妻は子を2人生してからは、社交シーズン以外は王弟保有の保養地に引っ込んでしまっている。
碌な交流も愛も無いが、こちらの動向は全て把握しており、ある種、執念深い女と言えよう。
その妻との子は、優秀だが可愛げは無い。貴族らしい気位と優秀な頭脳を持っているため、教育方針は妻に任せて余計な口出しはしない。
「ふふ……」
口の端から嗤いが漏れたところで、目的の通りの前で馬車が停まった。御者に待つように言い付けて、ダニエルは機嫌良く馬車を降りた。
大通りから馬車の入れぬ通りに入り、目的の酒場へ入る。
「ああ、これは旦那様、ようこそいらっしゃいました」
脂下がった酒場の店主が直ぐに駆け寄って来て、1番良い席へ案内する。
他にもお忍びの貴族がチラホラ見られるが、その席は常にダニエル用に空けられている。
ゆったりしたソファ席に座り店主に心付けを手渡すと、直ぐに上等のウィスキーが運ばれた。
目の前にあるステージに、ぱっと魔石ランプの明かりが1つ灯る。
「よっ!待ってましたーっ!」
「下町の舞姫!」
満員の客から待ち切れない歓声が飛ぶ。
観客のボルテージが高まったところで、1度店内の照明が全て落ちた。
スポットライトに艶めかしい女のシルエットが浮かび、妖艶な手つきで腕を天に振り上げた。
それを皮切りにステージの照明が全て灯され、楽器隊の演奏が始まる。
どっと観客たちが沸いて、店が揺れるようだ。
その中を時に流浪の民のように奔放に、または正当な貴族のダンスのように、情熱的に官能を呼び覚ます如く踊り子は踊る。
何かに追われるようにステップを踏み、刺すように腕を振り、汗が流れる顔は終わりの美しさを滲ませている。
沸いた観客の中、ダニエルは静かに笑いながら、踊り子の生命の輝きを堪能した。
「ダニエル様」
ステージが終わり、化粧を整えてドレス姿になった踊り子がダニエルの席に付いた。
「やあ、私の舞姫。今夜の君もとても綺麗だった。マリア」
腰に腕を回し額に口付けると、踊り子のマリアは頬を染めた。妖艶な舞台化粧を落とすと、随分若い娘だと分かる。
「今日は君を迎えに来たんだ。漸くアレが田舎に引っ込んだからね」
「まあ……、そうですの。でも私……、やっぱり気が引けるわ」
そっと耳元に囁くと、マリアは眉を下げた。
「ここまで認めて下さっているのですもの。それなのに、お屋敷にまで上がるなんて、奥様に申し訳ないわ」
「マリア、何度も言うけど、私たちは政略結婚だからね。互いに本当の伴侶を持つ契約なんだ。君が気にすることはない」
一夫多妻制は王家以外は認められない世の中になったが、それでも貴族の愛妾文化は根強く残っている。
だから下町に行けば、貴族の愛人になることを夢見る女はたくさんいた。
しかし、マリアは何とか口説き落としたものの、下町育ちの割に少々固いところがある。
「大丈夫。私たちの愛の巣は別邸さ。本邸の隣になってしまうが、邪魔者は誰も入れないようにする」
「……ダニエル様」
「お母様たちが心配なんだろう。大丈夫、当面の生活資金も既にお渡ししたし、世話人を家から用意しよう。君は何の心配もいらない。身一つで来てくれれば良い」
ぎゅっとその細く小さな両手を握り締めると、マリアは大きな目に涙を溜めた。
「私のためにそこまでしていただいて……。本当にありがとう」
「マリア、頷いてくれるね?」
顔を寄せて覗き込むと、マリアは漸くこくんと頷いた。
「はは、私は幸せ者だなあ」
「きゃあ!ダニエル様!」
ひょいと軽い体を抱き上げると、酒場の中にどよめきが走る。
「店主、今日限りマリアは引退する!」
「は、ええ!?」
金貨の袋を渡すと店主は卒倒しそうなくらい興奮したが、後腐れ無くマリアの退職を了承した。
酒場の者たちからは悲鳴が上がっていたが、ダニエルは悠々と店を出た。
待たせていた馬車に乗り込むと、マリアを隣に座らせて腰を抱く。
「楽しみだな、待ち切れない」
「もう……、ダニエル様ったら」
すっかり上機嫌のダニエルは、マリアのこめかみに口付けをする。
「邸に着いたら、直ぐに子供を作ろう」
「え?ダニエル様、少し気が早いのではなくて?」
「何を言ってるんだ。私は愛する君との子を、早くこの手に抱きたいんだ。ずっと夢見ていたのだから」
「まあ、……でも、私、その……、初めてなの」
かあっと首筋まで染めて恥じらうマリアは愛らしく、欲に煽られるまま襲い掛かりたくなるものだ。
「大丈夫。子供は培養するから、君の体には負担は掛けないさ。魔力は毎日必要だけどね」
「え……?」
「貴族の中じゃ、今は培養法が主流だからね。大事な君の体にも傷がつかないし」
マリアは困惑した様子で、落ち着き無く視線を彷徨わせた。
「そうなの……、私、てっきり……」
「ふふ、可愛い子を作ろう」
そわそわしているマリアを強く引き寄せる。馬車は程なくダニエルの邸に乗り入れた。
豪奢な本邸の前を通り過ぎ、脇の2回り小さい別邸の前で馬車は停まった。
先に下りたダニエルが、マリアをエスコートする。
数人の使用人が出迎えをするのに鷹揚に頷いて、身を強張らせるマリアの肩を抱いて導く。
「あの、ダニエル様、どこに行くの?」
地下室への階段を下りて、石造りのひんやりした廊下に出ると、マリアは微かに身を震わせた。
「少し寒かったかな。休む前に培養だけは、始めてしまいたくてね。もう少しだけ付き合ってくれるかい?終わったら、上で休もう」
上等な革靴と安物のヒールの足音だけが響いて、やがて最奥の部屋に着く。
そこには様々な魔術書や計器、それに培養装置が置かれていた。
「ねぇ、ダニエル様、私たちの赤ちゃんを……こんな暗くて冷たい場所に置くの?」
「ああ、大丈夫。ここが邸の中で、1番魔力が集まりやすくて安定しているんだ。胎児の生育に適している」
机の引き出しから、胎児作製用の細胞抽出器を取り出す。これで2人の細胞を培養器に入れて、十月十日毎日魔力を注ぎ続ける。そうすれば人の赤子が誕生するのだ。
かつて絶滅した旧人類がしたことの中で唯一の功績が、ホムンクルスとの交わりと培養法の確立だと、ダニエルは思っている。
「どんな子が出来るか楽しみだ。君の魔力、才能は近年稀に見るくらいだからね。きっと強い子が出来る」
ダニエルはマリアの肩を握り締め、うっそりと微笑んだ。
溌剌として明るい魅力があり、すっきりした鼻立ちに大きな瞳、ふっくらした唇が印象的な若い娘だ。
名はマリアと言う。マリアは貧乏な平民出で、学は無いが頭の回転が早く、機知に富んだ会話をする娘だった。
金さえあれば、王都で1番の学園にも入れるほどの魔力量と才能があったが、マリアが生まれた年に彼の史上最悪の厄災が起こり、父親が死亡した。
そして厄災の余波で大不況の中、病気がちな祖父母と気を病んだ母親だけがマリアに遺された。
マリアは幼い頃から必死に働き、年頃を迎えてからは昼は食堂の手伝い、夜は酒場で給仕と踊り子をして必死に稼いだ。
幸か不幸か美しい顔と魅惑的な体付き、人を虜にする会話術で、マリアは様々な者たちに可愛がられた。
おかげで何とか家族全員の食い扶持を稼ぐことが出来た。
誰もを虜にするマリアは、いつしか王都で1番の踊り子として評判となる。
やがて、その噂は貴族たちにも届くようになった。
「ダニエル様」
王宮の本宮、執務室までの長い廊下を歩く宰相ダニエルに、背後から駆け寄ったのは部下のランスロットだ。まだ若いが優秀な右腕だ。
「王がお呼びです。私室へ参られますよう」
ダニエルは頷いて踵を返して、王の私室へと向かった。
近衛が守る豪奢な扉を抜け控えの間に入ると、近侍が寝室へと導いた。
「王国の太陽にご挨拶申し上げます」
「来たか、ダニエル」
天蓋が下ろされた広いベッドの上に臥せった王が、震える手を上げた。近侍が頭を下げて退出する。
臥せた王はまだ60歳にもならぬ筈だが、完全に痩せ細り老け込んで弱々しい。
王家の特徴である眩い金髪も琥珀色の瞳も、すっかり褪せて濁ってしまっている。
「ダニエル、ダニエル」
「はい、ここに」
傍へ控えると、王は幽鬼のような血走った目でダニエルを見た。
「あれは未だ見つからぬのか……!」
「は……、申し訳ございません。全力で捜索中でございます」
最高品質の羽毛布団を握り締め、王は呻いた。
「もう、頼みの綱はお主のみなのだ……!ダニエル」
しなびた手が、ダニエルの白い手を掴む。
ダニエルが首を傾げると、かつての王と同じ色の金髪がさらりと靡いた。それから琥珀色の瞳を細める。
「勿論です。私も王家の末席として、我が王に身命を賭してお仕えする所存でございます」
「うむ、……うむ、頼むぞ。必ずあれを取り戻すのだ。……あれが戻らねば、私はまた民の誹りを受けるだろう……!」
王国史上に置ける三大愚王の1人。まだ存命であるのにも関わらず、そんな二つ名を持つ男にダニエルは優しく笑いかけた。
夜まで精力的に仕事を熟したダニエルは、王城を出て直ぐ近くの有力貴族ばかりが住む一等地の屋敷へは帰らず、馬車を商業区へと差し向けた。
邸には2人の息子が帰りを待っている筈だが、さして興味は無い。
ダニエルの家は古くから王族の降嫁先であり、数代置きに王族関係者から配偶者を迎えていて、当代ダニエルの配偶者も王弟の末娘だ。
これが悋気が強く、めっぽう気位が高い。
プライドの塊のような女で、冷酷な仮面の下に激情をしまい、尊厳のためなら何でもするような性格をしている。
子作りも義務として端から培養法を望んだため、ダニエルは彼女には指一本触れていない。
妻は子を2人生してからは、社交シーズン以外は王弟保有の保養地に引っ込んでしまっている。
碌な交流も愛も無いが、こちらの動向は全て把握しており、ある種、執念深い女と言えよう。
その妻との子は、優秀だが可愛げは無い。貴族らしい気位と優秀な頭脳を持っているため、教育方針は妻に任せて余計な口出しはしない。
「ふふ……」
口の端から嗤いが漏れたところで、目的の通りの前で馬車が停まった。御者に待つように言い付けて、ダニエルは機嫌良く馬車を降りた。
大通りから馬車の入れぬ通りに入り、目的の酒場へ入る。
「ああ、これは旦那様、ようこそいらっしゃいました」
脂下がった酒場の店主が直ぐに駆け寄って来て、1番良い席へ案内する。
他にもお忍びの貴族がチラホラ見られるが、その席は常にダニエル用に空けられている。
ゆったりしたソファ席に座り店主に心付けを手渡すと、直ぐに上等のウィスキーが運ばれた。
目の前にあるステージに、ぱっと魔石ランプの明かりが1つ灯る。
「よっ!待ってましたーっ!」
「下町の舞姫!」
満員の客から待ち切れない歓声が飛ぶ。
観客のボルテージが高まったところで、1度店内の照明が全て落ちた。
スポットライトに艶めかしい女のシルエットが浮かび、妖艶な手つきで腕を天に振り上げた。
それを皮切りにステージの照明が全て灯され、楽器隊の演奏が始まる。
どっと観客たちが沸いて、店が揺れるようだ。
その中を時に流浪の民のように奔放に、または正当な貴族のダンスのように、情熱的に官能を呼び覚ます如く踊り子は踊る。
何かに追われるようにステップを踏み、刺すように腕を振り、汗が流れる顔は終わりの美しさを滲ませている。
沸いた観客の中、ダニエルは静かに笑いながら、踊り子の生命の輝きを堪能した。
「ダニエル様」
ステージが終わり、化粧を整えてドレス姿になった踊り子がダニエルの席に付いた。
「やあ、私の舞姫。今夜の君もとても綺麗だった。マリア」
腰に腕を回し額に口付けると、踊り子のマリアは頬を染めた。妖艶な舞台化粧を落とすと、随分若い娘だと分かる。
「今日は君を迎えに来たんだ。漸くアレが田舎に引っ込んだからね」
「まあ……、そうですの。でも私……、やっぱり気が引けるわ」
そっと耳元に囁くと、マリアは眉を下げた。
「ここまで認めて下さっているのですもの。それなのに、お屋敷にまで上がるなんて、奥様に申し訳ないわ」
「マリア、何度も言うけど、私たちは政略結婚だからね。互いに本当の伴侶を持つ契約なんだ。君が気にすることはない」
一夫多妻制は王家以外は認められない世の中になったが、それでも貴族の愛妾文化は根強く残っている。
だから下町に行けば、貴族の愛人になることを夢見る女はたくさんいた。
しかし、マリアは何とか口説き落としたものの、下町育ちの割に少々固いところがある。
「大丈夫。私たちの愛の巣は別邸さ。本邸の隣になってしまうが、邪魔者は誰も入れないようにする」
「……ダニエル様」
「お母様たちが心配なんだろう。大丈夫、当面の生活資金も既にお渡ししたし、世話人を家から用意しよう。君は何の心配もいらない。身一つで来てくれれば良い」
ぎゅっとその細く小さな両手を握り締めると、マリアは大きな目に涙を溜めた。
「私のためにそこまでしていただいて……。本当にありがとう」
「マリア、頷いてくれるね?」
顔を寄せて覗き込むと、マリアは漸くこくんと頷いた。
「はは、私は幸せ者だなあ」
「きゃあ!ダニエル様!」
ひょいと軽い体を抱き上げると、酒場の中にどよめきが走る。
「店主、今日限りマリアは引退する!」
「は、ええ!?」
金貨の袋を渡すと店主は卒倒しそうなくらい興奮したが、後腐れ無くマリアの退職を了承した。
酒場の者たちからは悲鳴が上がっていたが、ダニエルは悠々と店を出た。
待たせていた馬車に乗り込むと、マリアを隣に座らせて腰を抱く。
「楽しみだな、待ち切れない」
「もう……、ダニエル様ったら」
すっかり上機嫌のダニエルは、マリアのこめかみに口付けをする。
「邸に着いたら、直ぐに子供を作ろう」
「え?ダニエル様、少し気が早いのではなくて?」
「何を言ってるんだ。私は愛する君との子を、早くこの手に抱きたいんだ。ずっと夢見ていたのだから」
「まあ、……でも、私、その……、初めてなの」
かあっと首筋まで染めて恥じらうマリアは愛らしく、欲に煽られるまま襲い掛かりたくなるものだ。
「大丈夫。子供は培養するから、君の体には負担は掛けないさ。魔力は毎日必要だけどね」
「え……?」
「貴族の中じゃ、今は培養法が主流だからね。大事な君の体にも傷がつかないし」
マリアは困惑した様子で、落ち着き無く視線を彷徨わせた。
「そうなの……、私、てっきり……」
「ふふ、可愛い子を作ろう」
そわそわしているマリアを強く引き寄せる。馬車は程なくダニエルの邸に乗り入れた。
豪奢な本邸の前を通り過ぎ、脇の2回り小さい別邸の前で馬車は停まった。
先に下りたダニエルが、マリアをエスコートする。
数人の使用人が出迎えをするのに鷹揚に頷いて、身を強張らせるマリアの肩を抱いて導く。
「あの、ダニエル様、どこに行くの?」
地下室への階段を下りて、石造りのひんやりした廊下に出ると、マリアは微かに身を震わせた。
「少し寒かったかな。休む前に培養だけは、始めてしまいたくてね。もう少しだけ付き合ってくれるかい?終わったら、上で休もう」
上等な革靴と安物のヒールの足音だけが響いて、やがて最奥の部屋に着く。
そこには様々な魔術書や計器、それに培養装置が置かれていた。
「ねぇ、ダニエル様、私たちの赤ちゃんを……こんな暗くて冷たい場所に置くの?」
「ああ、大丈夫。ここが邸の中で、1番魔力が集まりやすくて安定しているんだ。胎児の生育に適している」
机の引き出しから、胎児作製用の細胞抽出器を取り出す。これで2人の細胞を培養器に入れて、十月十日毎日魔力を注ぎ続ける。そうすれば人の赤子が誕生するのだ。
かつて絶滅した旧人類がしたことの中で唯一の功績が、ホムンクルスとの交わりと培養法の確立だと、ダニエルは思っている。
「どんな子が出来るか楽しみだ。君の魔力、才能は近年稀に見るくらいだからね。きっと強い子が出来る」
ダニエルはマリアの肩を握り締め、うっそりと微笑んだ。
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