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レグルスの章
97 ランスロット
最初に見たのは、眩しい光だった気がする。それから知らないたくさんの動く魔力の塊。
中でもがっしりした硬い腕に抱え上げられた時のことは、今でもずっと忘れられない。
「ルーベンス殿下、失礼致します」
ランスロットは王城東宮に住まう王太子である、第1王子の下へと馳せ参じた。
「ランスロットか。何用だ?」
執務室で書類を決裁していた、ルーベンスが顔を上げた。
ルーベンスは、愚王と呼ばれる父を反面教師とし勤勉である。
その姿勢は次代の王として好ましいが、ただ勤勉なだけで、本質は神経質で臆病であった。
「お人払いをいただけませぬか」
机の前に跪き臣下の礼を取ると、ルーベンスは慌てて席を立った。
この辺りが王子らしからず、小心者と明かしてしまっている。
「よせ、ランスロット、どうしたのだ一体」
ランスロットの家では、父の代から第1王子派の筆頭として何くれとなく後援をしている。
ランスロットとて、ルーベンスとは浅からぬ縁だ。
「禁忌の件で」
傍に寄ったルーベンスだけに聞こえるように呟くと、ルーベンスはさっと顔色を変え、部屋の侍従を全て下げさせた。
「影はどうする?」
「本日の担当は、ニールでございましたね……」
ニールといえば、中堅の立場で忠義に厚い男だと記憶している。王太子に付けられるくらい、腕も保証されている。
「では、終生その者を、お離しなさいますな」
「ニール、覚悟が無ければ外せ」
ルーベンスは一言告げると、執務室に続く応接室へと向かった。
ランスロットも後を続き、最高度の遮蔽魔術を展開した。
「殿下、単刀直入に申し上げます。国宝の在り処と、紛失の下手人が判明致しました」
盗まれたのでは無い、紛失したのだ。王の言である。
「ランスロット、……何故、それを私に申すのだ……」
ルーベンスは目を見開いて、乾いた唇を湿した。
「国王陛下は病で、虚構と現実がご判断出来なくお成りになった。それ故、かつてご自分で宝珠を封印なさり女神に捧げたことを、お忘れになってしまっただけなのです」
「待て、何の話だ……」
「陛下は保養地でのご療養のため、政務をご勇退なさいます。そして我々は新たな王を迎える」
「お、お前、何と畏れ多い。それは謀反ではないか……!?」
ルーベンスが冷や汗を流しながら仰け反った。だが、ランスロットは続けた
「謀反を起こしたのは、ダニエル卿です」
「なん……だと……、どういうことだ!?」
「ダニエル卿が宝珠を盗み、それを我が子に埋め込みなさいました」
俄には信じられない話に、ルーベンスはぽかんと口を開けた。
国政の中心にいる王家の血縁者が国宝を盗み、王家の血縁者に国宝を融合させたのだ。
それが何をもたらすのか、想像するだけで大変なことになる。
「ああ……なんということだ……」
両手で顔を覆い膝に突っ伏したルーベンスの足元に跪き、ランスロットはその手を取った。
「ダニエル卿はご病気で身罷られます。そして今後は、私が殿下に、終生の忠心を捧げましょう」
「……ランスロット」
「殿下と私は、死ぬまで一蓮托生の仲となります。私が殿下をお守りし、至上の太陽と致しましょう」
ルーベンスの白い手は震えて冷たくなっていた。視線を彷徨わせて、それから微かに頷く。
「だ、だが……、子供はどうするのだ……、処分するのか?」
「いえ、子供は王宮で保護しましょう。かなりの大魔術師になると見込まれますので、王宮魔術師団で国のために奉仕してもらえばよろしい。曲がりなりにも王族の末端であり、彼もまた犠牲者なのですから」
「そう、だな……。う、うむ、相分かった。……私がとうとう、王に……。この件、……そなたに任せて良いのだな、ランスロット?」
そこにあるのは、怯えた顔だった。ランスロットは安心させるように笑む。
「大丈夫です、殿下。私が1番お傍で支えます。全て私にお任せ下さい」
少し休むと言ったルーベンスを残し、ランスロットは部屋を出た。
気を抜くとスキップをしてしまいそうだが、厳しく自分を戒めた。
1度肚を決めたなら、迷わず最速最短でがモットーだ。ダニエルに怪しまれない内に、始末を付けねばなるまい。
次は1番厄介な王弟の娘だ。だがこれは、王弟を抑えれば何とかなる。
そもそも王弟自体が現国王の権威を嵩に着ているだけのため、王とともに保養地へ送れば、娘ともども静になるだろう。
そもそも娘は、国宝の在り処を長年黙っていたのだ。それを不問にするのと引き換えに、親子を黙らせる。
娘には表向き急逝の旦那への傷心、実質蟄居としての処分とすれば良い。
あとはハリーたちの行き先も確保出来たし、王弟と話を付け次第、ダニエルの捕縛と子供の回収だ。
風が向いてきた。全て悪くない方向に転がり出した。
ランスロットは意気揚々と、外出の手筈を整えた。
全て手筈が整ったのは、ハリーから相談を受けて4日目。
ランスロットは王宮騎士団長とその右腕1名、王宮魔術師団長1名を引き連れ、夜更けにダニエルの邸を訪れた。
迎えたハリーが、彼らをダニエルの執務室まで連れて行く。
「おや、ランスロットに、騎士団長殿、魔術師団長殿まで。こんな夜更けにどうかしたかね?」
ダニエルは机に座り、書類を決裁していた。
物々しい緊迫した空気にも関わらず、何故か落ち着いていて、薄笑いで首を傾げる。
「ダニエル・マクファーレン、貴殿を国家転覆の謀反を企てた罪で処刑する」
「おやおや、いきなり処刑とは。せめて捕縛じゃないか?」
「貴様の犯したのは、大罪だ。既に十分な証拠もある。本件に動機は要らぬ。速やかに全て、秘匿する方が重要だ」
じり、と寄るとダニエルから魔術の気配がしたが、それより早くハリーが後からその首にナイフを宛てがった。
「ははあ、ハリー、貴様か。飼い犬風情が。お前の主は執念深いから、気を付けた方が良いぞ」
多勢に無勢にも関わらず、ダニエルはくつくつと笑った。
「まあ、これはここまでか。そろそろ飽いて来た頃だし、良いだろう」
ダニエルは両手を上げた。ランスロットはハリーが頷いた後に、懐から小瓶を差し出した。
「飲め」
毒の小瓶を見た後、ダニエルは嘲笑った。
「ランスロット、貴様のこういうところ、私は好きだぞ」
「……御託は良いから飲め」
「いや、駄目だ。……そいつ、王宮騎士団長が俺の首を落とせ」
「は?」
「どうせ死ぬなら、そいつに殺されたい」
ダニエルは笑いながら、真っ直ぐに王宮騎士団長を見た。
突然白羽の矢が立った騎士団長はやや困惑したように、ランスロットを見た。
「……騎士団長、頼めますか?」
「……分かった」
ランスロットも困惑したが身を引き場所を譲ると、騎士団長が剣を抜いて歩み出た。
「ハリー、そのまま抑えてくれ」
「御意」
ハリーに土下座のように背中を押され、ダニエルの首が騎士団長の前に差し出された。
確かに抵抗にあえば、全員に討ち取れと指示は出していたが、何だか気味が悪い結末だ。
シンと張り詰めた空気の中、騎士団長が剣を振り上げる。
豪腕の剣が空気を切り裂いた刹那、ダニエルは騎士団長を見て何ごとか呟いた。
しかし剣は見事に一刀で、その首を落とした。
ハリーと騎士団長以外は血飛沫を避けて下がっていたため、呟き自体にすら気付かなかったが、騎士団長は1人茫然としていた。
彼はまともに血飛沫を浴びていたため、それには誰も気づかずに後始末に入り、今度は子供の保護に向かった。
別館の地下工房の隣に小さな小部屋があり、例の子供はそこにいた。
魔術師団長と騎士団員は工房での証拠確保を進め、ランスロットと騎士団長が子供の部屋に乗り込んだ。
窓の無い暗い石造りの部屋に、簡素なベッドが1つ。その真ん中に小さな子供が寝ていた。
灯明魔術で明かりを灯し、子供の状態を確かめる。
「この方が、マクファーレン家が三男の御子息様です」
ハリーが痛ましそうに一礼をした。子供はぐったりと荒い息で、目蓋を閉じていた。
大の男が3人現れても全く反応が無いことから、かなり具合が悪そうだ。
痩せ細り削げた頰は真っ赤だが、まるで死に体のように生気が無い。
それに5歳と聞いていたが、ランスロットの2歳の娘と同じくらいの大きさしかない。
「この子の名前は?」
「……ございません」
「ダニエルは、名前すら与えていないのか?」
「はい。失敗作と呼び、我々使用人にも必要以上の接触はもちろん、言葉をかけることも、全て禁じられました」
ランスロットとて、同じ年頃の子を持つ親だ。この惨状とハリーの言葉で絶句した。
「とにかく治療を受けさせよう。……あまりに不憫だ」
ランスロットが呟くと、それまで控えていた騎士団長がそっとシーツごと子供を持ち上げた。
「……軽い」
シーツに包まれた子供の手足は枯れ枝のように細く、歩くための筋肉は全て失われていた。
とても直視出来ずに、ランスロットはそっと視線を外した。
魔術師団長がやってきて、子供を覗き込む。
「予想はしていたけど、途轍もない魔力だ。質も量も」
「治療は可能でしょうか?お坊ちゃまは生まれてずっと熱が続いて、目も耳も喉もまともに機能していないご様子なのです」
ハリーが魔術師団長に縋るように問うた。魔術師団長はじっと子供を見た。
「……竜核の魔力がこの子自身の魔力と、完全には馴染んでいないね。常に魔力暴走しているのと同じ状態だ。子供の小さな身体じゃ耐えられない。死んでないのが不思議なくらいさね」
「そんな……。何とかお助けいただけませんか」
ハリーのこんな表情は、初めて見る。
だが、ランスロットもあまりに酷い子供の状態を見て、やはり同様の気持ちになってしまっていた。
狡猾で野心高く冷酷な自覚はあるが、やはりまだどこか甘いところがあるらしい。
そういえば亡き父も、どこか甘いところがあった。
「やるさ。何とか救ってみせる」
魔術師団長が強く頷いて、全員が足早に暗い地下を出た。
中でもがっしりした硬い腕に抱え上げられた時のことは、今でもずっと忘れられない。
「ルーベンス殿下、失礼致します」
ランスロットは王城東宮に住まう王太子である、第1王子の下へと馳せ参じた。
「ランスロットか。何用だ?」
執務室で書類を決裁していた、ルーベンスが顔を上げた。
ルーベンスは、愚王と呼ばれる父を反面教師とし勤勉である。
その姿勢は次代の王として好ましいが、ただ勤勉なだけで、本質は神経質で臆病であった。
「お人払いをいただけませぬか」
机の前に跪き臣下の礼を取ると、ルーベンスは慌てて席を立った。
この辺りが王子らしからず、小心者と明かしてしまっている。
「よせ、ランスロット、どうしたのだ一体」
ランスロットの家では、父の代から第1王子派の筆頭として何くれとなく後援をしている。
ランスロットとて、ルーベンスとは浅からぬ縁だ。
「禁忌の件で」
傍に寄ったルーベンスだけに聞こえるように呟くと、ルーベンスはさっと顔色を変え、部屋の侍従を全て下げさせた。
「影はどうする?」
「本日の担当は、ニールでございましたね……」
ニールといえば、中堅の立場で忠義に厚い男だと記憶している。王太子に付けられるくらい、腕も保証されている。
「では、終生その者を、お離しなさいますな」
「ニール、覚悟が無ければ外せ」
ルーベンスは一言告げると、執務室に続く応接室へと向かった。
ランスロットも後を続き、最高度の遮蔽魔術を展開した。
「殿下、単刀直入に申し上げます。国宝の在り処と、紛失の下手人が判明致しました」
盗まれたのでは無い、紛失したのだ。王の言である。
「ランスロット、……何故、それを私に申すのだ……」
ルーベンスは目を見開いて、乾いた唇を湿した。
「国王陛下は病で、虚構と現実がご判断出来なくお成りになった。それ故、かつてご自分で宝珠を封印なさり女神に捧げたことを、お忘れになってしまっただけなのです」
「待て、何の話だ……」
「陛下は保養地でのご療養のため、政務をご勇退なさいます。そして我々は新たな王を迎える」
「お、お前、何と畏れ多い。それは謀反ではないか……!?」
ルーベンスが冷や汗を流しながら仰け反った。だが、ランスロットは続けた
「謀反を起こしたのは、ダニエル卿です」
「なん……だと……、どういうことだ!?」
「ダニエル卿が宝珠を盗み、それを我が子に埋め込みなさいました」
俄には信じられない話に、ルーベンスはぽかんと口を開けた。
国政の中心にいる王家の血縁者が国宝を盗み、王家の血縁者に国宝を融合させたのだ。
それが何をもたらすのか、想像するだけで大変なことになる。
「ああ……なんということだ……」
両手で顔を覆い膝に突っ伏したルーベンスの足元に跪き、ランスロットはその手を取った。
「ダニエル卿はご病気で身罷られます。そして今後は、私が殿下に、終生の忠心を捧げましょう」
「……ランスロット」
「殿下と私は、死ぬまで一蓮托生の仲となります。私が殿下をお守りし、至上の太陽と致しましょう」
ルーベンスの白い手は震えて冷たくなっていた。視線を彷徨わせて、それから微かに頷く。
「だ、だが……、子供はどうするのだ……、処分するのか?」
「いえ、子供は王宮で保護しましょう。かなりの大魔術師になると見込まれますので、王宮魔術師団で国のために奉仕してもらえばよろしい。曲がりなりにも王族の末端であり、彼もまた犠牲者なのですから」
「そう、だな……。う、うむ、相分かった。……私がとうとう、王に……。この件、……そなたに任せて良いのだな、ランスロット?」
そこにあるのは、怯えた顔だった。ランスロットは安心させるように笑む。
「大丈夫です、殿下。私が1番お傍で支えます。全て私にお任せ下さい」
少し休むと言ったルーベンスを残し、ランスロットは部屋を出た。
気を抜くとスキップをしてしまいそうだが、厳しく自分を戒めた。
1度肚を決めたなら、迷わず最速最短でがモットーだ。ダニエルに怪しまれない内に、始末を付けねばなるまい。
次は1番厄介な王弟の娘だ。だがこれは、王弟を抑えれば何とかなる。
そもそも王弟自体が現国王の権威を嵩に着ているだけのため、王とともに保養地へ送れば、娘ともども静になるだろう。
そもそも娘は、国宝の在り処を長年黙っていたのだ。それを不問にするのと引き換えに、親子を黙らせる。
娘には表向き急逝の旦那への傷心、実質蟄居としての処分とすれば良い。
あとはハリーたちの行き先も確保出来たし、王弟と話を付け次第、ダニエルの捕縛と子供の回収だ。
風が向いてきた。全て悪くない方向に転がり出した。
ランスロットは意気揚々と、外出の手筈を整えた。
全て手筈が整ったのは、ハリーから相談を受けて4日目。
ランスロットは王宮騎士団長とその右腕1名、王宮魔術師団長1名を引き連れ、夜更けにダニエルの邸を訪れた。
迎えたハリーが、彼らをダニエルの執務室まで連れて行く。
「おや、ランスロットに、騎士団長殿、魔術師団長殿まで。こんな夜更けにどうかしたかね?」
ダニエルは机に座り、書類を決裁していた。
物々しい緊迫した空気にも関わらず、何故か落ち着いていて、薄笑いで首を傾げる。
「ダニエル・マクファーレン、貴殿を国家転覆の謀反を企てた罪で処刑する」
「おやおや、いきなり処刑とは。せめて捕縛じゃないか?」
「貴様の犯したのは、大罪だ。既に十分な証拠もある。本件に動機は要らぬ。速やかに全て、秘匿する方が重要だ」
じり、と寄るとダニエルから魔術の気配がしたが、それより早くハリーが後からその首にナイフを宛てがった。
「ははあ、ハリー、貴様か。飼い犬風情が。お前の主は執念深いから、気を付けた方が良いぞ」
多勢に無勢にも関わらず、ダニエルはくつくつと笑った。
「まあ、これはここまでか。そろそろ飽いて来た頃だし、良いだろう」
ダニエルは両手を上げた。ランスロットはハリーが頷いた後に、懐から小瓶を差し出した。
「飲め」
毒の小瓶を見た後、ダニエルは嘲笑った。
「ランスロット、貴様のこういうところ、私は好きだぞ」
「……御託は良いから飲め」
「いや、駄目だ。……そいつ、王宮騎士団長が俺の首を落とせ」
「は?」
「どうせ死ぬなら、そいつに殺されたい」
ダニエルは笑いながら、真っ直ぐに王宮騎士団長を見た。
突然白羽の矢が立った騎士団長はやや困惑したように、ランスロットを見た。
「……騎士団長、頼めますか?」
「……分かった」
ランスロットも困惑したが身を引き場所を譲ると、騎士団長が剣を抜いて歩み出た。
「ハリー、そのまま抑えてくれ」
「御意」
ハリーに土下座のように背中を押され、ダニエルの首が騎士団長の前に差し出された。
確かに抵抗にあえば、全員に討ち取れと指示は出していたが、何だか気味が悪い結末だ。
シンと張り詰めた空気の中、騎士団長が剣を振り上げる。
豪腕の剣が空気を切り裂いた刹那、ダニエルは騎士団長を見て何ごとか呟いた。
しかし剣は見事に一刀で、その首を落とした。
ハリーと騎士団長以外は血飛沫を避けて下がっていたため、呟き自体にすら気付かなかったが、騎士団長は1人茫然としていた。
彼はまともに血飛沫を浴びていたため、それには誰も気づかずに後始末に入り、今度は子供の保護に向かった。
別館の地下工房の隣に小さな小部屋があり、例の子供はそこにいた。
魔術師団長と騎士団員は工房での証拠確保を進め、ランスロットと騎士団長が子供の部屋に乗り込んだ。
窓の無い暗い石造りの部屋に、簡素なベッドが1つ。その真ん中に小さな子供が寝ていた。
灯明魔術で明かりを灯し、子供の状態を確かめる。
「この方が、マクファーレン家が三男の御子息様です」
ハリーが痛ましそうに一礼をした。子供はぐったりと荒い息で、目蓋を閉じていた。
大の男が3人現れても全く反応が無いことから、かなり具合が悪そうだ。
痩せ細り削げた頰は真っ赤だが、まるで死に体のように生気が無い。
それに5歳と聞いていたが、ランスロットの2歳の娘と同じくらいの大きさしかない。
「この子の名前は?」
「……ございません」
「ダニエルは、名前すら与えていないのか?」
「はい。失敗作と呼び、我々使用人にも必要以上の接触はもちろん、言葉をかけることも、全て禁じられました」
ランスロットとて、同じ年頃の子を持つ親だ。この惨状とハリーの言葉で絶句した。
「とにかく治療を受けさせよう。……あまりに不憫だ」
ランスロットが呟くと、それまで控えていた騎士団長がそっとシーツごと子供を持ち上げた。
「……軽い」
シーツに包まれた子供の手足は枯れ枝のように細く、歩くための筋肉は全て失われていた。
とても直視出来ずに、ランスロットはそっと視線を外した。
魔術師団長がやってきて、子供を覗き込む。
「予想はしていたけど、途轍もない魔力だ。質も量も」
「治療は可能でしょうか?お坊ちゃまは生まれてずっと熱が続いて、目も耳も喉もまともに機能していないご様子なのです」
ハリーが魔術師団長に縋るように問うた。魔術師団長はじっと子供を見た。
「……竜核の魔力がこの子自身の魔力と、完全には馴染んでいないね。常に魔力暴走しているのと同じ状態だ。子供の小さな身体じゃ耐えられない。死んでないのが不思議なくらいさね」
「そんな……。何とかお助けいただけませんか」
ハリーのこんな表情は、初めて見る。
だが、ランスロットもあまりに酷い子供の状態を見て、やはり同様の気持ちになってしまっていた。
狡猾で野心高く冷酷な自覚はあるが、やはりまだどこか甘いところがあるらしい。
そういえば亡き父も、どこか甘いところがあった。
「やるさ。何とか救ってみせる」
魔術師団長が強く頷いて、全員が足早に暗い地下を出た。
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