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レグルスの章
101 英雄
大きな鐘の音が響いた。明け方まで降り続いていた雨が上がり、空は晴れて、強風で雲がどんどん流れていく。
濡れた草と土が掘り返された場所に、国旗が掛けられた棺が安置された。
参列者が次々に花を放り、最後の別れを告げていく。
ナンを抱いたレグルスは、黙ってそれを見ていた。
イザベラは参列者へ目礼を返している。ナンはポロポロと橄欖石色の瞳から涙を零していた。
参列者の最後にハンクが花を捧げ、墓地の監理者たちが土を盛っていく。
その場に3人と1匹だけが残り、無言でそれを見つめた。
全て土が盛られ、最後に墓石が設置される。
マティアスの名が刻まれた真新しい石に、イザベラは花輪を捧げた。
「間に合わなかったか……」
墓地の入り口から足早に、息を切らしたランスロットがやって来て、濡れた草に構わず跪いた。
そのまま祈りを捧げたランスロットが立ち上がったところで、ハンクがその胸倉を掴んだ。
「てめぇ、よくも、のこのこと顔出せたもんだなぁ!今まで1度も顔も出さなかった癖によ!」
大男のハンクに胸倉を掴まれて、標準体型のランスロットは爪先立ちになり顔を歪めた。
「俺にはやらなきゃいけないことが、たくさんあって、な!」
ハンクの腕を強引に振り払ったランスロットは、襟首の乱れを直してイザベラへ向き直った。
「イザベラ殿、万事恙無く終わりました」
「……そうかい、世話になったね。心から感謝する。この恩は忘れないよ」
ランスロットが頭を下げたのに、イザベラもまた深く礼を返した。
「ランスロット!まだ話は終わってねぇ!何で、俺に言わなかったんだ!」
ぐいっと肩を引っ張られ、ランスロットは舌打ちをした。怒り心頭のハンクの恫喝は並の者なら震え上がるだろうが、ランスロットには全く効かない。
「……言ったら、お前は止めるからだ」
「当たり前だろうが!こんなことになるなら、俺が」
「だからだよ、ハンク。お前が何にも考えなしに、あの人の最後の願いを踏みにじるからだ」
「な、……なんだと」
「お前が託されたものを、もう1度考え直せ」
ランスロットはハンクを厳しく睨むと、レグルスを見た。
「……何か困ったことがあれば、いつでも訪ねなさい」
肩に力強く手を置いて、ランスロットは墓地を去っていった。
「さあ、私たちも帰ろう。ハンク、お前も来なさい」
レグルスはナンを抱え直して、イザベラたちの後を黙ってついて行った。
貴族街の最南端の、植物に囲まれた広い敷地にあるこじんまりした屋敷へ帰った一同は、1階の居間に座り込んだ。
ハリスが直ぐに茶を用意し、後は静かな沈黙が下りた。
「お前さんたちに、それぞれ預かりもんだ」
イザベラはハンクとレグルスに手紙を渡した。促されて開封すると、膝に座っていたナンも覗き込んで匂いを嗅ぐ。
開いた封筒には、紙が数枚。1番上はこの屋敷の権利書だった。持ち主はレグルスの名が記載されている。
この屋敷は、マティアスとイザベラの物だとばかり思っていた。
「何故……」
久し振りに出した声は、嗄れてひび割れていた。
「私たちは商業区でアパート経営しててね、そっちが本来の家なのさ。この屋敷は最初から、あんたのために用意したんだ。ハリスたちに覚えはないかい?」
促されて控えていたハリスを確かめると、遠い昔によく感じたことのある魔力だった。
ハリスと目が合うと、悲しげに微笑んだ。
「師匠、……何故、俺なんかに、ここまでしてくれるんです……。先生が死んだのは俺のせいなのに、俺が殺したも同然なのに!」
「おやめ、レグルス。あと何回その問答を繰り返せば、気が済むんだい。いい加減におし」
手紙を読み終えたハンクが顔に手を当てながら、レグルスの肩を抱いた。
「その手紙にも同じことが書いてあるだろうから、私からも話そう。何故、私たちがお前に巡り合ったのかを」
イザベラは長い息を吐いて、きつく瞳を閉じた。
「ヨアヒム、マシュー、イサベルの話を知っているね」
「……はい、40年前の英雄ですね」
「いや、彼らはね、英雄なんかじゃない。大罪人なんだよ。史上最悪の罪を犯したんだ……」
イザベラは、ティティテスタ自治領の大密林の畔にある、貧乏な村に生まれた。
ピピ=ティティテスタ大密林は、イザベラの遊び場であり生活の糧として、勝手知ったる庭だった。
イザベラは5歳の頃、大密林で神隠しに遭い、大地の女神と邂逅した。
その際に預言と加護を授かっている。
15歳になれば彼女は旅に出ると告げられていたので、イザベラは今か今かとその時を待っていた。
貧しい村には辟易としていて、都会に出たくても金が無かったからである。
約束の歳になり、村に2人の若者が訪れた。それがマティアスとメイヒムという男だった。
マティアスは大盾使いの騎士、メイヒムは生粋の魔術師で、対照的なのに兄弟のように仲が良かった。
後に知るが、2人は同じ孤児院で育ったとのことだった。
大密林のガイドを探しているということで、それに名乗り出たのがパーティーの始まりだった。
三者三様癖の強いメンバーだったが、あっという間に意気投合し、3人で旅に出ることになったのだ。
村を出る最後の夜、イザベラの夢に女神が現れこう告げた。
「緑の愛し子よ。そなたにはこれから、様々なことがあります。天に昇るような歓喜も、死を願うほどの絶望もあります。しかし恐れることはない。この世に必要ではないことなど、無いのです」
美しい大地の女神の吉凶が混ざった予言に、イザベラは困惑した。
「いつか、意味の分かる時が来るでしょう。ただし、3年後、世界が危機に瀕します。その折には私の眷属を用いる許可をしますので、それだけは努忘れぬよう」
世界の危機って?イザベラが慌てて問うと、女神はじっとイザベラを見据えた。
「そなたたちが、引き起こすのです」
そこでハッとイザベラは目を覚ました。動悸が止まらず、嫌な汗が流れている。
ものすごく不吉な予言だった。イザベラは暫く不安に駆られていたが、旅の毎日は刺激的で、いつしかすっかり忘れてしまった。
今でもこれを忘れてさえいなければと、思うことがある。
その日はそれから、2年後にやって来た。
その頃、地位と富を得ることにすっかり溺れたイザベラたちは、ある1匹の自然竜を殺した。
抱卵中の弱った風竜だったが、三日三晩の激闘の後、何とか討伐できた。
だがその竜は古代竜の番で、妻殺しの現場をその古代竜に見られてしまった。
古代竜は甲斐甲斐しくも、妻に餌を運んで来たところだった。
そしてその古代竜は、怨嗟に塗れながら怒り狂った。
相当の長命個体で、正に神話の時代を彷彿とさせる魔力量と強さだった。
イザベラたちは必死で逃げたが、古代竜は絶対に許さないと言ったのだ。どこにいても見つけ出すと。
竜から逃がれた先は、かつてイザベラが住んでいたテスタの村。イザベラは1人、女神に助言を乞うべく森へ入った。
加護に導かれて空間が歪み、最奥の女神に謁見が出来た。イザベラは草の上に額づいた。
「女神様、私はとんでもない過ちを犯しました。ある古代竜の番を殺してしまったのです。どうすれば怒りを鎮められますか?」
イザベラは必死で謝り、問うた。だが女神の答えは無慈悲だった。
「竜は永い生がありますが、たった1匹としか番いません。出会う前から、たった1匹の定まった番以外は愛せない習性があります。1度番と定めれば生涯を添い遂げ、代わりはおらぬ故、番には並々ならぬ執着を見せます。特に古代竜は数が少ないため、他の竜種より執着が凄まじい。怒りは鎮まらないでしょう」
「そ、そんな。じゃあどうすれば……」
「既に定まっているのですよ、愛し子。かつて私が忠告しましたが、そなたは忘れてしまった。しかしこれも必定。そなたたちは、哀れな古代竜を殺す運命にあります」
「あ、あの強大な竜となど、戦える訳がありません!」
「いいえ、やるのです。そのために、特別なヒヒイロカネを授けましょう。私の眷属と戦い、その体を使いなさい」
「女神様のゴーレムとですか!?そんな無茶な……」
イザベラは頭を抱えた。ゴーレムも古代竜も、生半で戦える相手ではない。
「イザベラよ。出来なければ、世界の人口は3割まで減る。それだけです。人が死ぬか、古代竜が死ぬか、どちらか1つしか選べません」
無情なのは女神ではない。それだけの所業を、笑って行った自分たちなのだ。
因果応報。撒いた種は芽吹き、刈り取りの季節が巡る。
原因と結果に応じた報いが現れる、それだけがこの世の摂理である。
「……私たちは、死に物狂いで強くなった。いつ竜が復讐に動き出すのかと、気が狂いそうになりながら。そうして女神様の番人から3人の武器を作り、1年後に数々の国で人を殺し始めた古代竜の討伐に向かった」
イザベラの長い話に誰も口を挟まず、ナンも静かに聴いていた。
「後はハンク、あんたは記憶があるだろうが、大勢死んだ。この国だけじゃない。あちこちの国で、今も消えない跡がある。あれを引き起こしたのが、私たちだよ」
イザベラの普段の美貌は鳴りを潜め、今は幽鬼の如くやつれた顔をしていた。
「……たくさんの人を犠牲にして、最後にはメイヒムの命と引き換えに、私たちは半年かかって古代竜を殺した。そして消滅も放置も出来ない程の禍々しい力を蓄えた竜核を、王命により献上した。私たちは真実を告げ、封印を嘆願した」
だが、王家はそれを国宝とし原因は秘匿の上で、レーヴァステイン王国の若者が世界を救ったのだと、世間へ大々的に知らしめたのだ。
国中が沸き、3人を元にした英雄譚も多数出版された。
「私たちはあれよあれよと、国の英雄として祭り上げられ、王宮での地位を得た。表向きはね。実際は監視だったよ。それから罪滅ぼしとばかりに、私たちは国のために働いてきた」
落ち窪んだイザベラの瞳が、レグルスを見つめた。
「レグルス、お前はね、私たちの1番の被害者なんだよ。私たちがした報いを、全てお前に被せてしまった。……本当に、申し訳ないことをした。謝っても謝りきれない」
繰り返し暗記するまで読んだ冒険譚の英雄が、深々と頭を下げた。
濡れた草と土が掘り返された場所に、国旗が掛けられた棺が安置された。
参列者が次々に花を放り、最後の別れを告げていく。
ナンを抱いたレグルスは、黙ってそれを見ていた。
イザベラは参列者へ目礼を返している。ナンはポロポロと橄欖石色の瞳から涙を零していた。
参列者の最後にハンクが花を捧げ、墓地の監理者たちが土を盛っていく。
その場に3人と1匹だけが残り、無言でそれを見つめた。
全て土が盛られ、最後に墓石が設置される。
マティアスの名が刻まれた真新しい石に、イザベラは花輪を捧げた。
「間に合わなかったか……」
墓地の入り口から足早に、息を切らしたランスロットがやって来て、濡れた草に構わず跪いた。
そのまま祈りを捧げたランスロットが立ち上がったところで、ハンクがその胸倉を掴んだ。
「てめぇ、よくも、のこのこと顔出せたもんだなぁ!今まで1度も顔も出さなかった癖によ!」
大男のハンクに胸倉を掴まれて、標準体型のランスロットは爪先立ちになり顔を歪めた。
「俺にはやらなきゃいけないことが、たくさんあって、な!」
ハンクの腕を強引に振り払ったランスロットは、襟首の乱れを直してイザベラへ向き直った。
「イザベラ殿、万事恙無く終わりました」
「……そうかい、世話になったね。心から感謝する。この恩は忘れないよ」
ランスロットが頭を下げたのに、イザベラもまた深く礼を返した。
「ランスロット!まだ話は終わってねぇ!何で、俺に言わなかったんだ!」
ぐいっと肩を引っ張られ、ランスロットは舌打ちをした。怒り心頭のハンクの恫喝は並の者なら震え上がるだろうが、ランスロットには全く効かない。
「……言ったら、お前は止めるからだ」
「当たり前だろうが!こんなことになるなら、俺が」
「だからだよ、ハンク。お前が何にも考えなしに、あの人の最後の願いを踏みにじるからだ」
「な、……なんだと」
「お前が託されたものを、もう1度考え直せ」
ランスロットはハンクを厳しく睨むと、レグルスを見た。
「……何か困ったことがあれば、いつでも訪ねなさい」
肩に力強く手を置いて、ランスロットは墓地を去っていった。
「さあ、私たちも帰ろう。ハンク、お前も来なさい」
レグルスはナンを抱え直して、イザベラたちの後を黙ってついて行った。
貴族街の最南端の、植物に囲まれた広い敷地にあるこじんまりした屋敷へ帰った一同は、1階の居間に座り込んだ。
ハリスが直ぐに茶を用意し、後は静かな沈黙が下りた。
「お前さんたちに、それぞれ預かりもんだ」
イザベラはハンクとレグルスに手紙を渡した。促されて開封すると、膝に座っていたナンも覗き込んで匂いを嗅ぐ。
開いた封筒には、紙が数枚。1番上はこの屋敷の権利書だった。持ち主はレグルスの名が記載されている。
この屋敷は、マティアスとイザベラの物だとばかり思っていた。
「何故……」
久し振りに出した声は、嗄れてひび割れていた。
「私たちは商業区でアパート経営しててね、そっちが本来の家なのさ。この屋敷は最初から、あんたのために用意したんだ。ハリスたちに覚えはないかい?」
促されて控えていたハリスを確かめると、遠い昔によく感じたことのある魔力だった。
ハリスと目が合うと、悲しげに微笑んだ。
「師匠、……何故、俺なんかに、ここまでしてくれるんです……。先生が死んだのは俺のせいなのに、俺が殺したも同然なのに!」
「おやめ、レグルス。あと何回その問答を繰り返せば、気が済むんだい。いい加減におし」
手紙を読み終えたハンクが顔に手を当てながら、レグルスの肩を抱いた。
「その手紙にも同じことが書いてあるだろうから、私からも話そう。何故、私たちがお前に巡り合ったのかを」
イザベラは長い息を吐いて、きつく瞳を閉じた。
「ヨアヒム、マシュー、イサベルの話を知っているね」
「……はい、40年前の英雄ですね」
「いや、彼らはね、英雄なんかじゃない。大罪人なんだよ。史上最悪の罪を犯したんだ……」
イザベラは、ティティテスタ自治領の大密林の畔にある、貧乏な村に生まれた。
ピピ=ティティテスタ大密林は、イザベラの遊び場であり生活の糧として、勝手知ったる庭だった。
イザベラは5歳の頃、大密林で神隠しに遭い、大地の女神と邂逅した。
その際に預言と加護を授かっている。
15歳になれば彼女は旅に出ると告げられていたので、イザベラは今か今かとその時を待っていた。
貧しい村には辟易としていて、都会に出たくても金が無かったからである。
約束の歳になり、村に2人の若者が訪れた。それがマティアスとメイヒムという男だった。
マティアスは大盾使いの騎士、メイヒムは生粋の魔術師で、対照的なのに兄弟のように仲が良かった。
後に知るが、2人は同じ孤児院で育ったとのことだった。
大密林のガイドを探しているということで、それに名乗り出たのがパーティーの始まりだった。
三者三様癖の強いメンバーだったが、あっという間に意気投合し、3人で旅に出ることになったのだ。
村を出る最後の夜、イザベラの夢に女神が現れこう告げた。
「緑の愛し子よ。そなたにはこれから、様々なことがあります。天に昇るような歓喜も、死を願うほどの絶望もあります。しかし恐れることはない。この世に必要ではないことなど、無いのです」
美しい大地の女神の吉凶が混ざった予言に、イザベラは困惑した。
「いつか、意味の分かる時が来るでしょう。ただし、3年後、世界が危機に瀕します。その折には私の眷属を用いる許可をしますので、それだけは努忘れぬよう」
世界の危機って?イザベラが慌てて問うと、女神はじっとイザベラを見据えた。
「そなたたちが、引き起こすのです」
そこでハッとイザベラは目を覚ました。動悸が止まらず、嫌な汗が流れている。
ものすごく不吉な予言だった。イザベラは暫く不安に駆られていたが、旅の毎日は刺激的で、いつしかすっかり忘れてしまった。
今でもこれを忘れてさえいなければと、思うことがある。
その日はそれから、2年後にやって来た。
その頃、地位と富を得ることにすっかり溺れたイザベラたちは、ある1匹の自然竜を殺した。
抱卵中の弱った風竜だったが、三日三晩の激闘の後、何とか討伐できた。
だがその竜は古代竜の番で、妻殺しの現場をその古代竜に見られてしまった。
古代竜は甲斐甲斐しくも、妻に餌を運んで来たところだった。
そしてその古代竜は、怨嗟に塗れながら怒り狂った。
相当の長命個体で、正に神話の時代を彷彿とさせる魔力量と強さだった。
イザベラたちは必死で逃げたが、古代竜は絶対に許さないと言ったのだ。どこにいても見つけ出すと。
竜から逃がれた先は、かつてイザベラが住んでいたテスタの村。イザベラは1人、女神に助言を乞うべく森へ入った。
加護に導かれて空間が歪み、最奥の女神に謁見が出来た。イザベラは草の上に額づいた。
「女神様、私はとんでもない過ちを犯しました。ある古代竜の番を殺してしまったのです。どうすれば怒りを鎮められますか?」
イザベラは必死で謝り、問うた。だが女神の答えは無慈悲だった。
「竜は永い生がありますが、たった1匹としか番いません。出会う前から、たった1匹の定まった番以外は愛せない習性があります。1度番と定めれば生涯を添い遂げ、代わりはおらぬ故、番には並々ならぬ執着を見せます。特に古代竜は数が少ないため、他の竜種より執着が凄まじい。怒りは鎮まらないでしょう」
「そ、そんな。じゃあどうすれば……」
「既に定まっているのですよ、愛し子。かつて私が忠告しましたが、そなたは忘れてしまった。しかしこれも必定。そなたたちは、哀れな古代竜を殺す運命にあります」
「あ、あの強大な竜となど、戦える訳がありません!」
「いいえ、やるのです。そのために、特別なヒヒイロカネを授けましょう。私の眷属と戦い、その体を使いなさい」
「女神様のゴーレムとですか!?そんな無茶な……」
イザベラは頭を抱えた。ゴーレムも古代竜も、生半で戦える相手ではない。
「イザベラよ。出来なければ、世界の人口は3割まで減る。それだけです。人が死ぬか、古代竜が死ぬか、どちらか1つしか選べません」
無情なのは女神ではない。それだけの所業を、笑って行った自分たちなのだ。
因果応報。撒いた種は芽吹き、刈り取りの季節が巡る。
原因と結果に応じた報いが現れる、それだけがこの世の摂理である。
「……私たちは、死に物狂いで強くなった。いつ竜が復讐に動き出すのかと、気が狂いそうになりながら。そうして女神様の番人から3人の武器を作り、1年後に数々の国で人を殺し始めた古代竜の討伐に向かった」
イザベラの長い話に誰も口を挟まず、ナンも静かに聴いていた。
「後はハンク、あんたは記憶があるだろうが、大勢死んだ。この国だけじゃない。あちこちの国で、今も消えない跡がある。あれを引き起こしたのが、私たちだよ」
イザベラの普段の美貌は鳴りを潜め、今は幽鬼の如くやつれた顔をしていた。
「……たくさんの人を犠牲にして、最後にはメイヒムの命と引き換えに、私たちは半年かかって古代竜を殺した。そして消滅も放置も出来ない程の禍々しい力を蓄えた竜核を、王命により献上した。私たちは真実を告げ、封印を嘆願した」
だが、王家はそれを国宝とし原因は秘匿の上で、レーヴァステイン王国の若者が世界を救ったのだと、世間へ大々的に知らしめたのだ。
国中が沸き、3人を元にした英雄譚も多数出版された。
「私たちはあれよあれよと、国の英雄として祭り上げられ、王宮での地位を得た。表向きはね。実際は監視だったよ。それから罪滅ぼしとばかりに、私たちは国のために働いてきた」
落ち窪んだイザベラの瞳が、レグルスを見つめた。
「レグルス、お前はね、私たちの1番の被害者なんだよ。私たちがした報いを、全てお前に被せてしまった。……本当に、申し訳ないことをした。謝っても謝りきれない」
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