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レグルスの章
104 魔力暴走
アルカについて知ったこと。
隠しているけど、負けず嫌いで喧嘩っ早いこと。
気を許さない相手には、絶対に隙無く壁を崩さないこと。
逆に気を許すと、表情がかなり読みやすくなること。
わりと天衣無縫な、我が道を往くタイプなこと。
豪放磊落で、やりたいことには躊躇しないこと。
抜け目が無くて頭が良いのに、たまに天然が炸裂するところ。
本当の内心は、誰にも見せたくないこと。
時々、すごく寂しそうなところ。
魔力がぐちゃぐちゃになるくらい傷ついていても、誰にも頼らないこと。
自分の身は顧みず、無茶をしがちなこと。
甘えたり、頼るのがすごく苦手なところ。
自己評価が相当に低いこと。
本当は誰も信用していないこと。
誰にも触れられたくない、踏み入られたくないこと。
笑うと、とても可愛いこと。
ジーク辺りなら、職権乱用と思っているかも知れないし、実際に下心がゼロとも言えないが、アルカを右腕の局長付きに昇格させてから知ったことがたくさんある。
アルカは魔術師としても相当に優秀だし、仕事がかなり出来る。
現にアルカのサポートで1人で抱えていた仕事も、楽に捌けるようになった。
と言っても、仕事以外の時間の潰し方も知らないため、相変わらず仕事漬けの日々には変わり映えがない。
むしろ王宮へ戻されぬよう、常にギルド職員、情報局長として、存在価値を成果として出し続けるしか無い存在なのだ。
だから自分は別に構わないが、最近のアルカは様子がおかしい。
長期休暇で欠員2名が出てからだから、まさか全て自分で欠員カバーをしている筈は無いだろうが、大部分を引き受けているのか忙しそうだ。
確かに春の決算時期で、猫の手も借りたい程ではあるが、1人だけ忙しさのレベルが違う気がする。
それが証拠に、局長補佐の仕事を殆ど回していないのに気付いていない。
普段のアルカなら直ぐに気付いて、1人で仕事を抱えるレグルスを諌める筈だ。
そこまで頭が回らないくらいなら、かなり追い込まれているとみて間違いない。
手を出されたり頼るのが苦手なのは知っているが、そろそろきちんと話をしなければ。
今日も残業で2人きりになってしまった情報室から、ふらふらと出て行く背を見た。
他の職員はとっくに帰っているし、もう夜もすっかり更けている。
やっぱり食事でも誘って、口を割らそうと席を立った。
普段は切っている魔力探知をすると、アルカの酷く弱々しくなった魔力を直ぐに見つけた。
もっと早く視れば良かった。こんな状態になるまで放置するなんて。
方角から大資料室に居るようで、レグルスは足を速めた。
アルカの魔力が明滅した気がして、知らずに走り出す。
大資料室の扉に付くと、書架梯子の1番上に居たアルカの体が傾いだ。
殆ど反射的に駆け出して間一髪、書類と共に落ちて来たアルカを受け止める。
竜の力のある身ではアルカなんて羽根のように軽いが、いつもよりやつれてぐったりと目を瞑る様子に、頭が半ばパニックになる。
忘れられないマティアスの死に顔が蘇る。
「アルカ君、……アルカ君!!」
懸命にアルカを揺すると、その口からうめき声が上がった。
酷い魔力枯渇を起こしている。魔力回復用のポーションを備品室から取って来ないと。
アルカがぼんやりと瞳を開いた。いつも生き生きと輝いている紫水晶は、光が無く茫洋としている。
「大丈夫ですか!?アルカ君!?」
もう1度呼び掛けると気がついたのか、その目が見開かれた。
「……っ、レグルス、様?」
初めて呼ばれた名前に動揺した瞬間、アルカの魔力が一気に収束した。
魔力暴走の兆候だ。かなりの深刻なものが来る。直感で理解した。
「アルカ君!!」
「う、ああ……っ!?」
相当な苦しみなのか、アルカは目を見開いたまま悶え出した。
このままでは命に支障を来す。
もう迷う暇は無かった。目の前で死にかけているのは、他でも無いアルカだ。
初めて行う魔力調整は多分、アルカなら出来てしまうだろう。
その確信がある。1度してしまったら、もう戻れない。
ずっと疾しく見つめていた体に、勝手に触れる罪悪感に喉が鳴る。
だが、やるしかない。どうなるか分からないが、アルカを絶対に助けたい。
「アルカ君、すみません!緊急事態なので!」
ずっと願っていた唇を塞ぐ。初めて触れた唇は柔らかく、想像よりずっと甘い。
そんな場違いな感想を持ってる場合ではないのに、胸が打ち震える。
努めて煩悩を払い、拒絶が出ないように、ゆっくりと魔力を流していく。
「……っ」
受け入れてくれている。自分なんかを。
そして、自分自身にも拒絶反応は出ない。
ゆっくりと呼吸が合わさって、波長が深く混ざる。気持ちが良い。
アルカを鎮めるつもりが自分まで満たされていく。
すらりとした美しい指が震えながら伸ばされて、しっかりと握り込む。
魔力がどんどん吸われていく。唇の接触では間に合わない程、不安定で枯渇している。
ぐったりとしたアルカを抱えて、レグルスは緊急転移陣を開き自宅へ飛んだ。自室に駆け込み、アルカをベッドに横たえる。
「アルカ君、ごめんなさい!ここまでやらないと、君を治せない」
先程入れた魔力だけでは焼け石に水で、またアルカの容態が悪くなって来ていた。
アルカは目を見開いたまま、虚ろな視線を宙に彷徨わせて胸を抑えている。
呼吸が不規則で不安定だ。重度の深刻な枯渇で、相変わらず魔力暴走の危険がある。
何度も自分に言い訳をしながら、服に手を掛けた時だった。
「い、やだ!やめて!」
虫の息だったアルカが突如、暴れ出した。
魔力を練りかけて何も出来ないことを知ったのか、収納袋に手を掛けた。
武器を取り出す気だと直感し、ベルトごと袋を強引に取り外す。
咄嗟に片手で手首を抑えたのがいけなかったのか、アルカから爆発的な殺気が溢れる。
「アルカ君!」
目はやはりどこも見ていなかった。無意識でこれ程抵抗している。だが、命を削る行為だ。
抑えていない足が振り払われて、腰に乗り上げて完全に動きを封じる。
アルカの暗殺術はかなり強く、あの蹴りをもらうのは避けたい。
「や、やだ……、やめて」
完全に封じ込めた途端に、弱々しくなった声にハッとする。
「やだ……こわい、やだ……」
「ごめん、ごめんね、アルカ君。魔力調整するだけだから」
「やだ、やめて、触らないで……!」
大きく見開かれた美しい瞳からボロボロと涙が溢れてきて、心臓が掴まれたように痛んだ。
初めて見るアルカの涙に、自分まで苦しくなる。
「やめて、先輩、やめて……」
目を見開いて涙を流しながら、幻に懇願するアルカは酷く震えて怯えて哀れだ。
先輩、とは誰だ。これ程の何をされたのだ。
沸々と怒りが沸くが、魔力を鎮めねば。
「大丈夫、俺だよ。君を傷つけたりなんかしない、絶対」
額を合わせて、魔力を与える。柔らかく静かに送り続けると、譫言のように拒絶の言葉が漏れるが、体の力は抜けていく。
「そう、良い子だね。ちょっとだけ、我慢してね」
片手を繋いで魔力を宥めながら、ゆっくり刺激しないように、服を慎重に脱がせていく。
「やだ、……やめてよぉ……、先輩、っく」
「アルカ君、先輩じゃないよ。俺だよ、レグルスだよ。ちゃんと見て」
ゆっくりと露わになっていくアルカの裸身に、頬に熱が集まってくる。
緊急の医療行為だ。煩悩に塗れている場合じゃない。
「信じてたのに……、信じてたのに……!」
しゃくりを上げながら、子供のように泣くアルカの頬を撫でて涙を拭う。
下履きに手を掛けたところで、またアルカが暴れ出した。魔力を入れた分、派手に暴れてまた抑える。
「お願い、俺を受け入れて。このままだと死んじゃうから……!お願いだ、アルカ……!」
「嘘つき、嘘つき!痛い、止めて!嫌だぁ……!」
ひゅっと喉が鳴って過呼吸の兆しに、口を塞いで息と魔力を送る。
下履きは諦める。本当は服は全て取った方が良いが、レグルスもさっさと服を脱いだ。
全身をぴったり重ね合わせて魔力を送る。きつく抱き締めると、アルカは腕の中で泣いた。
ああ、やはり、アルカがそうだった。
これまで誰とも合うことの無かった魔力は、いとも簡単に結びついて、圧倒的な歓喜を全身の細胞にもたらす。
俺のものだ。この魂は、俺のもの。
「なんで、俺ばっかり、こんな目に合うの」
嗚咽の合間に、アルカから弱々しい言葉が漏れる。この世で唯一の人の悲しみに、胸が張り裂けそうだ。
「誰も助けてくれない。俺はあんなにやめてって言ったのに……!なんであんな酷いことしたの……!」
また荒れた魔力を包んで温める。そんなに辛いことはもう、思い出さないで欲しい。
「そんなこと忘れていい。全部忘れていいんだ」
「助けて、助けてよ……、怖い……、痛い」
「アルカ」
送る魔力を強める。満たされ混ざる魔力が、徐々に官能を引き起こしていく。
この人を守るためなら、全て差し出しても構わない。
腕の中で震えるアルカを、衝動のまま強く抱き竦める。
「大丈夫。君のこと、怖いものから俺が守るから。絶対傷つけさせないから、もう大丈夫だよ。絶対に助けるから、大丈夫」
大事な大事な、この世でただ1人の永遠。
この人のために生まれたのだ。この人に捧げるために、ここまで歩んできた。
そう告げる本能の声を、もう無視出来ない。
「大丈夫だからね。何があっても俺が守るよ。君に全部あげる」
枯渇状態を脱したアルカの頬に赤みが差す。互いの状態はよく分かっている。
「ねぇ、レグルスって呼んで。そしたら、俺は君のもの」
虚ろな瞳が彷徨うのを導くと、アルカは漸くレグルスを見た。狡いやり口だと人の理性が告げたが、止めることが出来ない。
「俺を見て、名前を呼んで」
「レ、グルス……」
心臓が熱く動いた。身体中を巡る魔力が、歓び狂っている。
「ああ……、アルカ。これで俺は全部、君のもの。これからは俺が君だけを守って、君だけのために生きるからね」
「俺、だけ……、俺のため……」
「そうだよ、俺を君に捧げる」
熱く滾る魔力のまま口付ける。もうアルカは抵抗しなかった。回された腕とその熱に、多幸感に包まれる。
魔力に酔い痴れて何度も自分を求めるアルカは、この世の何よりも美しかった。
その美しい唯一無二に求められることが、心の底から幸せで幸せで、溶けるようだった。
隠しているけど、負けず嫌いで喧嘩っ早いこと。
気を許さない相手には、絶対に隙無く壁を崩さないこと。
逆に気を許すと、表情がかなり読みやすくなること。
わりと天衣無縫な、我が道を往くタイプなこと。
豪放磊落で、やりたいことには躊躇しないこと。
抜け目が無くて頭が良いのに、たまに天然が炸裂するところ。
本当の内心は、誰にも見せたくないこと。
時々、すごく寂しそうなところ。
魔力がぐちゃぐちゃになるくらい傷ついていても、誰にも頼らないこと。
自分の身は顧みず、無茶をしがちなこと。
甘えたり、頼るのがすごく苦手なところ。
自己評価が相当に低いこと。
本当は誰も信用していないこと。
誰にも触れられたくない、踏み入られたくないこと。
笑うと、とても可愛いこと。
ジーク辺りなら、職権乱用と思っているかも知れないし、実際に下心がゼロとも言えないが、アルカを右腕の局長付きに昇格させてから知ったことがたくさんある。
アルカは魔術師としても相当に優秀だし、仕事がかなり出来る。
現にアルカのサポートで1人で抱えていた仕事も、楽に捌けるようになった。
と言っても、仕事以外の時間の潰し方も知らないため、相変わらず仕事漬けの日々には変わり映えがない。
むしろ王宮へ戻されぬよう、常にギルド職員、情報局長として、存在価値を成果として出し続けるしか無い存在なのだ。
だから自分は別に構わないが、最近のアルカは様子がおかしい。
長期休暇で欠員2名が出てからだから、まさか全て自分で欠員カバーをしている筈は無いだろうが、大部分を引き受けているのか忙しそうだ。
確かに春の決算時期で、猫の手も借りたい程ではあるが、1人だけ忙しさのレベルが違う気がする。
それが証拠に、局長補佐の仕事を殆ど回していないのに気付いていない。
普段のアルカなら直ぐに気付いて、1人で仕事を抱えるレグルスを諌める筈だ。
そこまで頭が回らないくらいなら、かなり追い込まれているとみて間違いない。
手を出されたり頼るのが苦手なのは知っているが、そろそろきちんと話をしなければ。
今日も残業で2人きりになってしまった情報室から、ふらふらと出て行く背を見た。
他の職員はとっくに帰っているし、もう夜もすっかり更けている。
やっぱり食事でも誘って、口を割らそうと席を立った。
普段は切っている魔力探知をすると、アルカの酷く弱々しくなった魔力を直ぐに見つけた。
もっと早く視れば良かった。こんな状態になるまで放置するなんて。
方角から大資料室に居るようで、レグルスは足を速めた。
アルカの魔力が明滅した気がして、知らずに走り出す。
大資料室の扉に付くと、書架梯子の1番上に居たアルカの体が傾いだ。
殆ど反射的に駆け出して間一髪、書類と共に落ちて来たアルカを受け止める。
竜の力のある身ではアルカなんて羽根のように軽いが、いつもよりやつれてぐったりと目を瞑る様子に、頭が半ばパニックになる。
忘れられないマティアスの死に顔が蘇る。
「アルカ君、……アルカ君!!」
懸命にアルカを揺すると、その口からうめき声が上がった。
酷い魔力枯渇を起こしている。魔力回復用のポーションを備品室から取って来ないと。
アルカがぼんやりと瞳を開いた。いつも生き生きと輝いている紫水晶は、光が無く茫洋としている。
「大丈夫ですか!?アルカ君!?」
もう1度呼び掛けると気がついたのか、その目が見開かれた。
「……っ、レグルス、様?」
初めて呼ばれた名前に動揺した瞬間、アルカの魔力が一気に収束した。
魔力暴走の兆候だ。かなりの深刻なものが来る。直感で理解した。
「アルカ君!!」
「う、ああ……っ!?」
相当な苦しみなのか、アルカは目を見開いたまま悶え出した。
このままでは命に支障を来す。
もう迷う暇は無かった。目の前で死にかけているのは、他でも無いアルカだ。
初めて行う魔力調整は多分、アルカなら出来てしまうだろう。
その確信がある。1度してしまったら、もう戻れない。
ずっと疾しく見つめていた体に、勝手に触れる罪悪感に喉が鳴る。
だが、やるしかない。どうなるか分からないが、アルカを絶対に助けたい。
「アルカ君、すみません!緊急事態なので!」
ずっと願っていた唇を塞ぐ。初めて触れた唇は柔らかく、想像よりずっと甘い。
そんな場違いな感想を持ってる場合ではないのに、胸が打ち震える。
努めて煩悩を払い、拒絶が出ないように、ゆっくりと魔力を流していく。
「……っ」
受け入れてくれている。自分なんかを。
そして、自分自身にも拒絶反応は出ない。
ゆっくりと呼吸が合わさって、波長が深く混ざる。気持ちが良い。
アルカを鎮めるつもりが自分まで満たされていく。
すらりとした美しい指が震えながら伸ばされて、しっかりと握り込む。
魔力がどんどん吸われていく。唇の接触では間に合わない程、不安定で枯渇している。
ぐったりとしたアルカを抱えて、レグルスは緊急転移陣を開き自宅へ飛んだ。自室に駆け込み、アルカをベッドに横たえる。
「アルカ君、ごめんなさい!ここまでやらないと、君を治せない」
先程入れた魔力だけでは焼け石に水で、またアルカの容態が悪くなって来ていた。
アルカは目を見開いたまま、虚ろな視線を宙に彷徨わせて胸を抑えている。
呼吸が不規則で不安定だ。重度の深刻な枯渇で、相変わらず魔力暴走の危険がある。
何度も自分に言い訳をしながら、服に手を掛けた時だった。
「い、やだ!やめて!」
虫の息だったアルカが突如、暴れ出した。
魔力を練りかけて何も出来ないことを知ったのか、収納袋に手を掛けた。
武器を取り出す気だと直感し、ベルトごと袋を強引に取り外す。
咄嗟に片手で手首を抑えたのがいけなかったのか、アルカから爆発的な殺気が溢れる。
「アルカ君!」
目はやはりどこも見ていなかった。無意識でこれ程抵抗している。だが、命を削る行為だ。
抑えていない足が振り払われて、腰に乗り上げて完全に動きを封じる。
アルカの暗殺術はかなり強く、あの蹴りをもらうのは避けたい。
「や、やだ……、やめて」
完全に封じ込めた途端に、弱々しくなった声にハッとする。
「やだ……こわい、やだ……」
「ごめん、ごめんね、アルカ君。魔力調整するだけだから」
「やだ、やめて、触らないで……!」
大きく見開かれた美しい瞳からボロボロと涙が溢れてきて、心臓が掴まれたように痛んだ。
初めて見るアルカの涙に、自分まで苦しくなる。
「やめて、先輩、やめて……」
目を見開いて涙を流しながら、幻に懇願するアルカは酷く震えて怯えて哀れだ。
先輩、とは誰だ。これ程の何をされたのだ。
沸々と怒りが沸くが、魔力を鎮めねば。
「大丈夫、俺だよ。君を傷つけたりなんかしない、絶対」
額を合わせて、魔力を与える。柔らかく静かに送り続けると、譫言のように拒絶の言葉が漏れるが、体の力は抜けていく。
「そう、良い子だね。ちょっとだけ、我慢してね」
片手を繋いで魔力を宥めながら、ゆっくり刺激しないように、服を慎重に脱がせていく。
「やだ、……やめてよぉ……、先輩、っく」
「アルカ君、先輩じゃないよ。俺だよ、レグルスだよ。ちゃんと見て」
ゆっくりと露わになっていくアルカの裸身に、頬に熱が集まってくる。
緊急の医療行為だ。煩悩に塗れている場合じゃない。
「信じてたのに……、信じてたのに……!」
しゃくりを上げながら、子供のように泣くアルカの頬を撫でて涙を拭う。
下履きに手を掛けたところで、またアルカが暴れ出した。魔力を入れた分、派手に暴れてまた抑える。
「お願い、俺を受け入れて。このままだと死んじゃうから……!お願いだ、アルカ……!」
「嘘つき、嘘つき!痛い、止めて!嫌だぁ……!」
ひゅっと喉が鳴って過呼吸の兆しに、口を塞いで息と魔力を送る。
下履きは諦める。本当は服は全て取った方が良いが、レグルスもさっさと服を脱いだ。
全身をぴったり重ね合わせて魔力を送る。きつく抱き締めると、アルカは腕の中で泣いた。
ああ、やはり、アルカがそうだった。
これまで誰とも合うことの無かった魔力は、いとも簡単に結びついて、圧倒的な歓喜を全身の細胞にもたらす。
俺のものだ。この魂は、俺のもの。
「なんで、俺ばっかり、こんな目に合うの」
嗚咽の合間に、アルカから弱々しい言葉が漏れる。この世で唯一の人の悲しみに、胸が張り裂けそうだ。
「誰も助けてくれない。俺はあんなにやめてって言ったのに……!なんであんな酷いことしたの……!」
また荒れた魔力を包んで温める。そんなに辛いことはもう、思い出さないで欲しい。
「そんなこと忘れていい。全部忘れていいんだ」
「助けて、助けてよ……、怖い……、痛い」
「アルカ」
送る魔力を強める。満たされ混ざる魔力が、徐々に官能を引き起こしていく。
この人を守るためなら、全て差し出しても構わない。
腕の中で震えるアルカを、衝動のまま強く抱き竦める。
「大丈夫。君のこと、怖いものから俺が守るから。絶対傷つけさせないから、もう大丈夫だよ。絶対に助けるから、大丈夫」
大事な大事な、この世でただ1人の永遠。
この人のために生まれたのだ。この人に捧げるために、ここまで歩んできた。
そう告げる本能の声を、もう無視出来ない。
「大丈夫だからね。何があっても俺が守るよ。君に全部あげる」
枯渇状態を脱したアルカの頬に赤みが差す。互いの状態はよく分かっている。
「ねぇ、レグルスって呼んで。そしたら、俺は君のもの」
虚ろな瞳が彷徨うのを導くと、アルカは漸くレグルスを見た。狡いやり口だと人の理性が告げたが、止めることが出来ない。
「俺を見て、名前を呼んで」
「レ、グルス……」
心臓が熱く動いた。身体中を巡る魔力が、歓び狂っている。
「ああ……、アルカ。これで俺は全部、君のもの。これからは俺が君だけを守って、君だけのために生きるからね」
「俺、だけ……、俺のため……」
「そうだよ、俺を君に捧げる」
熱く滾る魔力のまま口付ける。もうアルカは抵抗しなかった。回された腕とその熱に、多幸感に包まれる。
魔力に酔い痴れて何度も自分を求めるアルカは、この世の何よりも美しかった。
その美しい唯一無二に求められることが、心の底から幸せで幸せで、溶けるようだった。
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