【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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冬の章 新年祭編

112 メイヤー伯領

「やっぱちょっと、職権濫用過ぎない?」

 アルカは誰もいないギルドの、転移フロアの扉を開けるレグルスの袖を引っ張った。

「ふふ、局長特権です」

 メイヤー伯領に冒険者用転移陣で向かうべく、ギルド総本部へ着いた訳だが。
 レグルスは宿直職員に挨拶すると、さっさと地下に向かってしまった。

「セドルア絡みでしょ?調べたいことって」
「う……ん、まあ、そう。役に立つかは分かんないけど」
「じゃあ、特別任務ってことで」

 魔力認証の鍵を開いて、レグルスはアルカの手を繋いだ。

「こら、職場だって!」
「誰もいないから、いいじゃん」

 態となのか指を絡められて、アルカは口を噤んだ。
 番になってから宣言通り我慢を止めたレグルスは、少し手強いところが出てきた。

「ふふ、アルカってさ、職場とか効いちゃうよね。……今度、局長室でしちゃおっか」

 ひそと左耳に囁かれて反射的に顔が赤くなる。自分だって弱い癖に。

「それやったら、暫くお預けにするからな、マジで」
「ひっ、嘘です。ごめんなさい」

 さっと顔を青くしたレグルスを引っ張って、メイヤー伯領にある、へレイアコッド地方の支部の転移陣に向かう。

「長居はしないよ。用済ませたら帰るから、直ぐに」
「うん」

 手を繋いだまま、転移陣を起動させる。ふうと息を吐くと、レグルスがぎゅっと手を握った。

 メイヤー伯領はへレイアコッド地方に属し、セドルア地方とレーン地方の間に位置する。
 山脈と近いため湖水と川に恵まれ、主要産業は農業、紡績業が盛んだ。

 領地は他領と比べ小さいが、一昔前までは豊富な鉱石資源と有名ダンジョンも複数保有していたため、財源が豊かな領だった。

 ギルドが立て直される前は、迷宮資源は領主が自由に利益を独占していたため、メイヤー伯領もその恩恵で潤っていた。

 しかしアルカの祖父の代になり、次々に迷宮が消滅し、まずは魔石やレア素材があまり採れなくなった。
 それから鉱石資源採掘に傾倒した結果、今度は鉱石も掘り尽くしてしまった。

 その頃には父親の代になっていたが、資源が掃いて捨てるほどあった時代の金銭感覚がいつまでも抜けない祖父と父が、身代を緩やかに喰い潰して今に至る。

 現在では、結婚と同時に当主の座を継いだ兄が領主として、傾いた財源を紡績業を主軸に立て直しを図っている。

 そしてこの兄が、アルカが帰省をしなくなった1番の原因だ。

 両親2人は、アルカ自身には心底から無関心。妹は最後に会った時は子供ながらに女王様。
 そして兄は、アルカの支配者だった。

「兄のことなんだけど、……視えたよな?」

 コッド地方の支部から、更にメイヤー領中心部にある支部へ転移して、借り上げた馬車で街の外れにあるメイヤー城を目指す。

 小さな湖の畔に建ち、有事の際には防衛機能を持つ旧い時代の城だ。
 あの石造りの厳しい門を思い出すだけで、本当に嫌気が差す。

 2人きりの馬車で手を繋いて、レグルスの肩に寄り掛かる。これがただの新婚旅行なら、どれほど楽しかっただろうか。

「……うん。だから来たかった」
「……入籍の話は最後にする。先ずは調べ物したいからさ」

 何をどう言うか詰まって、車内に沈黙が降りる。

「……ねぇ、キスして、レグルス」

 無性に熱を感じたくなる。レグルスは黙って、アルカに口付けた。
 柔らかく穏やかなのに熱情を感じる。揺れる車内の中、しっかりと抱かれて身を委ね、ただ夢中で唇を深く合わす。

「は……、このまましたいな」
「アルカ……」

 散々抱き合ったというのに、まだ互いに熱っぽく見つめ合えるのが嬉しい。
 もう1度と鼻先が触れ合ったところで、馬車が減速して停まる気配がした。

「……残念、着いた」
「ね、無理しないで、俺を頼って」

 降りる前に真摯な瞳で告げられ、顎を引いた。ひらりと馬車を降りて、久し振りの景色を仰ぎ見る。

 雪を被った白亜の城と背後の湖面が、午後の陽射しに輝いている。
 正面から見ると湖に浮かんでいるようだ。全盛期に建てられた城は、氷の城と呼ばれる程美しい。

 見たことのない家令が怪訝そうにやって来る。先触れも無くやって来たのだから当然だろう。

「冒険者ギルド総本部、情報局長付きアルカだ。火急の用件にて、御当主に取次ぎ願いたい」

 実家の家令にする挨拶ではないが、これで良い。今更家門を名乗る気はさらさら無い。

 一先ずギルド名に邪険に出来なかった家令に連れられ、城に踏み入れる。
 直ぐ後ろに居るレグルスに意識を合わせながら、玄関ホールへ進んだ。

「アルカ!」

 ホール正面の階段から、男が下りて来た。腹に力を込めて顔から表情を消す。

「随分久し振りだね」

 美しい男だ。ほとんど自分と同じ色だが、より白く白銀に近い長い髪を流している。
 身長もアルカより高く、すらりとしている。

 似ている顔だが、違うのは目だ。薄い青灰の切れ長の目は、吊り目がちのため凛々しい。

 アルカの兄、ダヴィード・メイヤー伯爵は優雅に微笑んだ。

「ご無沙汰しております。突然の不躾な訪問、申し訳ございません」
「家族が帰って来るのに突然も無いさ。お前はもっと、顔を出すべきだからね」

 正面に寄ったダヴィードが顎に手を掛けて、下を向いていた顔を有無を言わさず上げられる。

「だが、お客様を連れてくるなら、話は違うだろう?満足なおもてなしが出来ないじゃないか」
「任務途中に尽き、用事が済み次第、直ぐに御暇します」

 殊更笑みを深めたダヴィードから、そっと視線を外す。

「年始なのに?父上たちもいらっしゃるし、リベリカも会いたがっている」
「……では、後ほどご挨拶だけ」

 暫しじっと覗き込まれてから、漸く顔から手が外される。

「それでアルカ、こちらの御方は?」
「申し遅れました。不躾なご訪問失礼致します」

 然りげ無くアルカとダヴィードの間に身を割り込ませて、レグルスが貴族的な笑みを浮かべる。

「マクファーレン公爵家が3男、レグルスと申します。冒険者ギルド総本部副代表を務めております」

「……ああ、これはお会い出来て光栄の極みです。私はメイヤー家当主、ダヴィード・メイヤー。以後お見知り置きを」

 目の前で2人が握手を交わすのを、複雑な思いで眺める。

「それで、当家へはどのような御用向きで?」
「兄上、蔵書を改めさせていただきたいのです」

 アルカは、兄の右手の親指に嵌った指輪に視線を送る。代々当主だけが継承し、使用出来るものだ。
 この城は旧い仕組みで、それを用いてしか作動しない仕掛けが幾つかある。

「任務のため仔細は明かせませんが、どうしても必要なのです。何卒、御許可を」

 ダヴィードは片眉を上げた。アルカの嘆願に合わせ、レグルスも頭を下げる。

「得た情報は秘匿し、御家門に不利益を及ぼさないと誓います故、何卒御協力いただきたく」
「頭をお上げ下さい。もちろん御協力させていただきますよ」

 このためにレグルスは、態々家名を出したのだ。ダヴィードは意図を正しく汲んで、恭しく頭を下げた。

「では、こちらへ」

 視線はアルカに定めながら、ダヴィードは歩き出した。ホッとして後に続くと、背中に温かい手が一瞬触れた。

 絨毯の敷かれた階段を上がり、2階の執務室に通される。
 壁際の書棚の間にある装置に、ダヴィードは当主の指輪を翳した。
 すっと扉が開いて、門外不出とされる古い蔵書を納めた小部屋が開かれた。

「旧い仕組みで、面白いでしょう?こういった先祖の技術が、この城にはあちこちありまして」

 ダヴィードが笑うのに、レグルスは鷹揚に頷いた。

「大変興味深いです」
「では、兄上、失礼します」

 暫く開かれていないのか、黴臭い部屋に踏み入れる。
 アルカを通すと、ダヴィードは入り口を塞ぐように体をずらした。

「この間に入れるのは当家の者だけと、先祖よりきつく命じられております」

 にこりと微笑むダヴィードに、レグルスは1度口を噤んでから頷いた。

「ではこちらで、待たせていただきます」

「いえ、とんでもない。かのマクファーレン様をこのような場所でお待たせするなど、我が家の恥となりましょう。是非、サロンにて一献」

 レグルスの視線に頷く。ここは申し訳ないが、兄の話に乗って欲しい。とにかく蔵書を見られれば、それでいいのだ。

「……それでは、お言葉に甘えて」
「はは、光栄です。早速参りましょう。ちょうど新年に合わせて、良いブランデーを仕入れたところです」

 レグルスに笑いかけてから、ダヴィードがアルカを見た。

「後ほど迎えに来よう」
「……はい」

 ダヴィードが再び指輪を掲げると、扉は音もなく閉まった。完全に遮断された窓の無い、真っ暗な部屋に取り残される。

 昔と変わらない場所にある魔石ランプに火を灯すと、部屋は明るくなった。

 しかし扉が閉まる直前に垣間見えた兄の眼に、アルカの背中は冷たい汗を流した。
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