【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

文字の大きさ
128 / 168
冬の章 新年祭編

幕間 イドとジーク、時々ナン

しおりを挟む
 セドルア中層でスノウドラゴンを捜索していた際、イドとジークの担当場所より1合下で雪煙が上がった。

「スノウドラゴンだ!」

 隣に居たジークが叫んだ時には、竜は凄まじい速さで斜面を下り大きく飛んだ。

 着地した場所から照明弾が打ち上がり、イド達はルートを多少無視しながら斜面を下り始めた。

 レグルスと竜の攻防は凄まじく、近付くにつれ、イドは怖気を感じていた。
 前々から感じていたが、レグルスに視える魔力は相当に悍ましい。

 強さも生物として怯むようなものだが、性質が特に恐ろしい。
 狂気的な強い感情の奔流が視えるのだ。

 イドとしては関わり合いになりたくないので、詳しくは視ていない。
 その力を使って戦うレグルスの気配は、本能的に忌避したいくらいだった。

 そして、この世の終わりかのような大きな爆発があった後、もっと恐ろしいものが、急に山頂付近から現れた。

「ジーク!ヤバいの来る!本当にヤバい!逃げた方がいい!」

 ざわざわとした鳥肌が全身に立つ。こんな気配の魔物は、生まれてこの方見たことがない。
 イドは恥も外聞もなく、ジークに叫んだ。

「なに!?一体、何が来るってんだ!?」
「神とか、そういう感じの、やべー奴!人じゃ勝てねーよ!」

 2人で走りながら叫び合う。

「なら、尚更行かないと!アルカを助けねーと!」
「はぁ!?死んじまうよ、こんなん無理だ!走れ、止まるな!」

 心臓が凍るような殺気に振り向けないが、もう直ぐ後ろに来ている気配がする。
 無理だ。走れとは言ったが、逃げ切れない。1人なら逃げられる。影に入りさえすれば、自分は問題無い。

 アルカしか頭に無くて危険に飛び込みたい奴なんて、関係ないじゃないか。
 好きにさせればいい。自分には関係ないことだ。付き合う義理もない。

 だって直ぐ後ろに死が迫っている。特に生きたい理由は無いが、死にたい理由も無い。

 いいよな、もう。どうせ契約は、もう直ぐ終わるんだろうし。
 もう、影の中に入ってしまおうと思った。

「こうするとね、美味しいんだよ」

 温かな湯気を立てるココアと甘いマシュマロ、それからクレアの声が脳裏を掠めた。

「誰かに迷惑、他人が困ることや嫌がることはしてはいけない。日の下で仕事するなら必要なルールだ」

「そういう時はちゃんと話して、尋ねるのが人の世のルールだ」

「いいかい、坊主。こういう時はちゃんと礼を言うのが、人の礼儀だよ!」

「信用っていうのは、そういう風に積み重ねてく」

「君は今、レーヴァステインの職員だからね」

「お前が今まで築いた信用も関係も台無しになる。これまでの居場所を失くすようなことだって、覚えておけよ」

 たくさんの言葉と顔が、走馬灯のように流れていく。

「イド、ありがとさん。ついでに電球も変えとくれ」
「イド!偉い!お前のお蔭でめちゃくちゃ楽だった!」

「イドさん、私を助けてくれて、ありがとう」
「イド君、本当にありがとうね……!」

 レーヴァステインに来るまで、言われたことの無かった言葉が聞こえた。

「本当に、ありがとうな……!」

 そう言って落ちた、蒼玉の美しい涙が蘇った。

「イドーーーっ!!」

 アルカに呼ばれた気がしたと同時に、背後から凄まじい音と雪煙が舞い、何も考えることが出来なかった。

 気が付けばジークを抱えて影に飛び込んだが、ハッとした時には、ジークは目を見開いて硬直していた。

 魔術耐性が低過ぎた。アルカが大丈夫だったから油断していた。
 発狂するような自分の過去がジークを襲っている。咄嗟に手刀でジークを気絶させたが、間に合わなかった。

 
 静かな月明かりの下、イドは寝台に横たわったジークを見る。女性陣たちは、反対側の寝室で休んでいるため静かだ。

「猫、交替だ。後は俺が代わるから、休め」

 ジークの頭の上に乗って、魔素を調整していたナンに告げる。
 ナンはグッと伸びをしてドスンとベッドを下り、床の布団に丸まった。

 イドは着ていた寝間着用のシャツを脱ぎ捨てた。冷やりとした冷たい空気に少し震える。

「早く起きろよな、ずっと介護してんだぜ、俺。……まあ、俺のせいだけど……」

 少し低い体温になってしまっている体を抱いて、魔力調整を始める。
 合わせた肌を通して、全身を巡る魔素に触れる。

 あちこちぐちゃぐちゃにとっ散らかった流れを、心臓を起点に血流と合わせるように導いて流す。

 イドは余程深く合わせないと、魔力調整では官能が起きづらい。というより、平生からそうだ。

 1度壊れてから、性欲というものが曖昧になった。
 もしくは過去の体験のせいかも知れないが、発散したいような欲が湧かない。

 もちろん気持ち良いことは好きだが、脳が快楽と思えるものなら何でも良い。性的な快楽じゃなくても良い。
 不能とまでは言わないが、性的欲求の在り処が曖昧だ。

 アハトに雇われてから暫く性的接触は無かったので、ジークが久し振りに触れた人だ。
 特に感慨も興奮も無く、自分よりがっしりした体を抱き締めて、唇を合わせてもっと深く調整を行う。

 魔素の混乱が落ち着いて流れが一定になるにつれ、ジークの体温が戻って来る。白い顔に少し生気が戻った。

「クレアがさ、氷の上級使えるようになったんだぜ。アイツ、すごい早さで魔法覚えてくんだ。だから、魔術師資格取れって言ったんだよ」

 唇を触れ合わせたまま、イドは静かに語りかけ続ける。

「あ、ジーク母ちゃん、手袋編んでくれた。新年のオトシダマとかいうやつ。どこに玉を落とす要素がある訳ぇ?つか何の玉?金玉のこと?全然、意味分かんねーし」

 流れを外れようとする魔素を、導いて整える。

「ばーちゃんの薬さ、不味かったろ。臭いと材料がやべーの。お前よく飲んだよな。まあ飲ませたの、俺だけど。口の中、暫く不味くてさ、ジーク母ちゃんにココア貰ったんだけど、ずーっと苦くてさぁ」

 毛布の中でボソボソ話している内に、眠気が訪れる。

「早く起きろよなぁ……、俺は眠いけど……」

 グッと深く唇を合わせて、暫く自分の魔力を送る。残した魔力で1日、魔素を導いて流させる。

「うん、こんなもんかな……」

 唇を離すと、ジークの寝顔が穏やかなものになる。暫くじっと見つめるが、眠りから醒める気配は無い。

 ふぁ、と欠伸をしながら適当に服を着させ、面倒臭くなって自分もそのままそこで寝転がる。
 そもそもイド用の布団が、ヘソ天大の字で寝ているナンに占領されている。

 ちゃんと体温があるジークの体を抱いて、イドはゆっくり眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

平凡な俺は魔法学校で、冷徹第二王子と秘密の恋をする

ゆなな
BL
旧題:平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました 5月13日に書籍化されます。応援してくださり、ありがとうございました! 貧しい村から魔法学校に奨学生として入学した平民出身の魔法使いであるユノは成績優秀であったので生徒会に入ることになった。しかし、生徒会のメンバーは貴族や王族の者ばかりでみなユノに冷たかった。 とりわけ生徒会長も務める美しい王族のエリートであるキリヤ・シュトレインに冷たくされたことにひどく傷付いたユノ。 だが冷たくされたその夜、学園の仮面舞踏会で危険な目にあったユノを助けてくれて甘いひと時を過ごした身分が高そうな男はどことなくキリヤ・シュトレインに似ていた。 あの冷たい男がユノにこんなに甘く優しく口づけるなんてありえない。 そしてその翌日学園で顔を合わせたキリヤは昨夜の優しい男とはやはり似ても似つかないほど冷たかった。 仮面舞踏会で出会った優しくも謎に包まれた男は冷たい王子であるキリヤだったのか、それとも別の男なのか。 全寮制の魔法学園で平民出身の平凡に見えるが努力家で健気なユノが、貧しい故郷のために努力しながらも身分違いの恋に身を焦がすお話。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...