【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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最終章 旅路の涯

132 氷精霊戦

「縛った!」

 イドが叫ぶと影を縛られた複数の魔物が、ゾーイの風の刃でバラバラに斬り刻まれる。
 即席パーティーだが全員暗殺術マスターなだけあり、中々の連携が取れている。

 アルカは向かってくる魔物の群れを、氷槍で全て貫いた。
 しかし魔物の数が多い。北部より中部寄りの魔物に群れの中身が変わっていて、辺りに広がった魔障で更に数が増えていく。

 射程圏に入った球体の周りは、大型リザードやオークなどの強力な魔物が守っている。

「イド!視えるか?」
「魔障、邪魔だ!」

「私が散らします!」

 風属性のゾーイが魔力を練り始める。特級を使うようだ。

「助かる!」

 ならば露払いをと、邪魔な魔物たちへ斬り込む。歩みに合わせて、魔物の影が縛られていく。
 広範囲魔法に加え、仕留め切れなかった魔物はヒットアンドアウェイの要領で、双剣で留めを刺していく。

 女神の加護のおかげか魔障が効きづらいため、多少の無茶が出来そうだと踏んでいる。
 光結界も部隊から付与されているため、見極めればいけそうだ。

 向かって来たオークの棍棒を避ける。この巨体数体をやらないと、球体まで届かないだろう。
 ここまで敵陣深く入り込んでいるのはアルカたちだけで、他部隊は距離がある。魔障で薄暗く視界も悪い。

「ヤズマイシュじゃ試せなかったからな……!」

 一瞬だけ精霊魔力を解放し、空中に無数の水球を展開する。球体の周囲半径10メートルに限定し練度を上げる。
 ゴーレムの半分以下の射程だが、十分だろう。

 もう1段、精霊魔力を込めて、魔物の目が一斉にアルカを見た瞬間、溜めた魔力を解放する。

 無数の水球は刹那に槍に姿を変え、凄まじい勢いで魔物に降り注ぐ。
 魔物を貫いた水槍はドドドと地面を砕いて刺さり、もうもうと土煙を上げた。

「ゾーイ!」

 道を開けて叫ぶと、ゾーイから風魔法の特級魔法が放たれる。
 軽い魔物は吹き飛ばす程の暴風が、球体の周りの魔障を吹き飛ばした。

 開けた視界にアルカに串刺しにされた魔物の死骸と、どす黒く染まった氷の渦が視える。

 渦の中心に居た。魔障に冒された氷精霊だ。美しかった姿はそのままだが、気配が禍々しく凶悪だ。

「視えた!2つある!そいつだ!」

 イドの叫びに、いち早くレグルスの火魔法が放たれた。レグルスと入れ替わりに、イドの隣まで後退する。

「縛れるか?」
「だめだ……!どっちも邪魔してきて、2つ縛るには抵抗が強過ぎる。弱らせないと!」

 影を縛ろうとしているのか、汗を滲ませて歯を食い縛ったイドが首を振る。

「そう上手くはいかないよ、な!」

 頷きながら最硬度にした氷槍を1本、最速で氷精霊目掛けて放つ。
 氷槍は光を纏い、氷精霊の結界を貫通して打ち砕いた。しかし槍自体は、氷精霊の凍気に相殺され粉々に砕け散る。

「……変だな」

 もう1度、同じ氷槍を作り出す。

「あ!」

 光属性が付与されている。どうりで氷属性の最高峰の結界を砕けた訳だ。ダメ元で試してみたが、思わぬ発見だ。
 もしかしたら昨日から加護で、攻撃にも光属性が付与されていたのかも知れない。

「あ、アルカ様、あの……、何故お笑いに」

 隣に居たゾーイが、引いたような表情を一瞬だけした。

「え?笑ってないけど?」
「ああ、アルカって戦闘狂だからね」

 イドがにやっと笑った。ゾーイは少し考えてから頷いた。

「確かに、ゴーレム戦でも……」
「う。まあ、ほら、やるぞ!敵はまだまだ居るんだ!レグルスのサポート!」
「は!」

 少し緩んだ空気を一蹴して喝を入れる。レグルスと精霊は距離を保ったまま、対峙していた。

「またお前か。本当に忌々しい」

 氷精霊が口を開いた。女性に似た声だが、鼓膜に直接働きかけてくるような響きだ。

「もうお前が誰か、分かっている」
「ふふ、父とでも呼ぶのか?」

「レグルス!」

 駆け付けて隣に立つ。顔を窺うと、レグルスは落ち着いていた。

「アルカ、危ないから下がって」
「おや、精霊持ちもいたのか……、ん?お前……」

 氷精霊もといメイヒムは、じっとアルカを見た。

「お前、何故、光属性になっている?どうやった?教えろ!」 
「何?」

 レグルスも驚いた顔をしたが、アルカは首を振った。

「メイヒム、俺のこれは一時的なものだ。お前を殺せば消える」

 メイヒムはぽかんとした顔をした。

「メイヒムだって……?こりゃ、驚いた。実に50年振りに呼ばれたな。いやはや、この何十年、誰も辿り着けなかったのに!」

 メイヒムは笑って手を叩いた。氷精霊の顔が美しい笑みを湛える。

「はあ……、笑わせてもらった。じゃ、用は無い。王都に行かねば」

 氷精霊の優雅な手先が、ついと空を横切った瞬間、幾つもの魔障を纏った氷のナイフが放たれる。
 レグルスと自分に結界を張ると、氷のナイフは砕けて消えた。

「全く邪魔だな。何なんだ、お前らは。失敗作は失敗作らしくしていろ」
「何故、王都に行く必要がある」

 レグルスが問うと、メイヒムは片眉を上げた。

「お前が光属性を持たなかったからだ。お前さえ、ダニエルの光属性を継いでいれば、こんな面倒は無かったのだ」

「何故そうも光属性に、こだわるんだ」
「研究に必要だからに決まっているだろうが、馬鹿者め。分かったら邪魔立てするな」

 メイヒムがすっと手を上げると、ごろごろと雷が鳴り、急に雲が厚くなる。

「殿下!最高出力で後衛に結界!」

 振り返り指示しながら、レグルスと2人分の結界を強くする。イドも試みていた影縛りを止め、防御体勢に入った。

 指が下りると、急激に猛吹雪が巻き起こった。しかも雪の代わりに、魔障を纏った無数の氷の礫が打ち付けられる。

「させるか!」

 レグルスが爆炎を放ち、氷と炎の競り合いになる。
 瞬時に沸き上がった蒸気で、大きな爆発が起こった。四方に居た魔物が消し炭になっている。

 背後の王子たちや部隊は結界で免れた様子で、胸をなで下ろす。イドも退避していた影から出てきた。

 一瞬の静寂の後、また襲い出した魔物との交戦が始まり、辺りは再び喧騒に包まれた。
 あれだけの爆発だったのに、氷結界を展開したメイヒムにはダメージが入っていない。

「レグ、あの結界だ!俺が破るからタイミング合わせろ!」
「分かった!」

 また最硬度の氷槍を錬成し、レグルスの魔力に合わせて最高速で放つ。レグルスは過たずに追撃する豪火球を放つ。
 女神の加護が魔障を散らし、結界を粉々にする。輝く結晶を燃やし、火球がメイヒムに直撃した。

「ぐ!鬱陶しい!」

 多少ダメージを与えたようだが、メイヒムは直ぐに氷精霊の体を凍らせて修復した。

「一気に戦闘不能にしなきゃいけないかも」

 レグルスは唇を噛んだ。最上級の火魔法を使えるのは多くて2、3回。
 それで削り切れなければ、イザベラの魔力回復薬だけでは、最上級を使えるまでは回復出来ないだろう。

 氷精霊の恐らく最強の技、死のブレスが何発撃てるのか分からないまま、唯一の対抗手段を安易に使うのは憚られる。

「邪魔だと言っている!」

 メイヒムが手を口元に持って来た。あれは、目に焼き付いている構えだ。

「死のブレスだ!レグ!」
「任せて!」

 いっそ神からの祝福の如く美しく、きらきらと輝くダイヤモンドダストの吐息が、氷精霊の唇から吹き出される。

 周りの魔物すら凍結し結晶にしながらブレスが迫る。
 レグルスからブレスと同規模の、最上級火魔法の業火が放たれた。

 ヤパシュカ平の時と同じく、凄まじい凍気と火気の打つかり合いは、先程よりも大爆発を起こし、精霊と部隊の間に大穴を開けた。

 凄まじい粉塵と水蒸気に辺りが白く烟る。視界の端で、氷精霊がふらついたのが見えた。
 反射的に体が動いて、全力の強化で氷精霊の元へ一足飛びで斬りかかる。

「っ!」

 全力で撃ち込んだ回転斬りは、氷精霊の右手を跳ね飛ばした。

「貴様……っ!」

 やはりそうだ。剣戟にも光属性が付与されている。勢いのまま滑りながら着地すると、メイヒムはアルカへと憤怒の表情を見せた。

 落ちた腕が溶けていくが、肩からまたざわざわと新しい腕が生えようとしている。

「アルカ!」

 その声にハッとし下がると、メイヒムの脇腹に焔の矢が無数に突き刺さった。

「く!小癪な!」

 氷精霊の体が1段高くまで上がる。途端に辺りの熱が奪われていく。空中の水分が、ミシミシと音を立てて凍り出す。

 上空を広範囲に覆ったのは鋭い槍だ。ゴーレムの千本槍より多いかも知れない。
 自分たちを含め、かなりの部隊が晒されている。

 もう1度、レグルスに対抗させれば防げる。しかし、同時に氷精霊を倒す手段は無くなる。

 レグルスと目が合った。取捨択一をする時だった。

「させないよ!!」

 その時、空中に浮かぶ槍を砕きながら、豪速で空を飛ぶ塊が突っ込んで来た。

「炎風!」

 空一面をその塊を中心に炎の渦が巻き、すべての氷を蒸発させた。
 誰しも恐らく口を開けて、空を見上げていたと思う。

「メイヒム!!そこに直れ!!」

 身が竦むほどの威圧と怒声を上げたのは、箒に跨り空に浮かぶイザベラだった。
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