【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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最終章 旅路の涯

137 レグルス

「おはよう、アルカ」

 レグルスは微笑んで、柔らかく光る青い球体を見上げた。

「今日はどんな夢見てるの?」

 触れた球体の中心に、レグルスの唯一無二の番、アルカが浮かんでいた。

 触れた氷と水の結界は清浄に輝き、膝を抱えて丸くなったアルカを守っている。
 結界の膜は通してはくれないが、レグルスを拒絶はしていない。寧ろ温かく、アルカの存在を感じさせてくれる。

 あの日、意識を失ったレグルスが目覚めると、アルカは既にこの状態になっていた。

 精霊の石室の中心で結界に守られ、宝珠を自分へと融合させている。レグルスには直ぐに分かった。
 かつて竜核を埋め込まれた自分と同じだと。

 水の魔素がふんだんに集まるこの場所は、アルカを安定させるのに役立つ筈だ。
 現に自分も濃密な魔素のお陰で、失った魔力が自然回復し再び目を覚ました。

 自分で斬り裂いた腕の傷は化膿して酷いことになっていたが、レグルスはそのままずっと、球体の前に座り込んでアルカを見続けた。

 アルカが精霊の魔力を取り込むのに、何年かかるかは分からない。自分の時は12年かかった。

 12年。その言葉にぞっとした。ただただ祈りながら、アルカをひたすらに見続けた。
 頭の中では、暫く起きないと結論付いているにも関わらず。

 早晩腕が腐り落ちると見えてきたところで、レグルスは漸く立ち上がった。
 石室の入口に厳重な結界を張り、ふらふらと邸へと帰った。

 帰って直ぐにタバサが卒倒し、ハリスが珍しく顔面を蒼白にして、駆け付けたイザベラに治療前にぶん殴られた。

 1週間以上行方不明になっていて、2人とも死んだかも知れないと、ハンクも情報室員も密かに探していたらしい。

 ギルドを辞めてアルカの傍に居ると言った時も、その居場所を誰にも絶対に教えないと言った時も、イザベラとナンにぶん殴られた。

 しかしどれだけ詰められても、居場所だけは絶対に誰にも言わなかった。
 アルカの一生涯の秘密の場所であり、魔術根源なのだ。増してアルカの状態を、誰にも知られる訳にはいかない。

 だから全て秘匿とし、表向きはスタンピードの怪我の療養ということで通している。

 王家との契約もあり、ギルドは絶対に辞めることは出来ない。
 それにアルカの居ない情報室が相当に混乱したため、なし崩しに働き続けている。

 そうして3ヶ月。レグルスは毎日朝晩、休みの日は1日中ずっとアルカの様子を見に来て、日に何度も魔力を与えている。
 かつてのレグルスとは違って、アルカは拒絶しないし、レグルスにも拒絶は出ない。

 本当はここに住みたいくらいで、最初の1ヶ月はろくに家に帰らず食事も睡眠も取らずに、仕事以外はアルカの傍に居た。

 そうしたらハリスが泣いた。初めて涙を流したハリスは酷く小さく見えて、それからは食事と睡眠はきちんと取るようにしている。

 アルカの結界に触れて、毎日の出来事を話す。それが最近のレグルスの日課だ。


 今日もレグルスは仕事の後に、アルカのところに顔を出した。

「ねぇ、良い話だって分かった?今日は少し、楽しそうじゃない?」

 温かな結界を撫でて魔力を流す。暗い石室の中にアルカの球体が浮かび、青く柔らかく光り輝いて美しい。

「イドがね、正式な職員になったよ。もちろん情報室員にしたよ。俺、ちゃんと面接したよ。いつもみたいに君が居れば良かったけど、君はイドに甘いからなあ」

 とびきり喜ぶアルカの顔を想像する。アルカは胎児のように丸まったまま、その美しい顔を決して見せてはくれない。

「それからさ、驚いてよ。あのね、師匠の弟子になった。イドが俺の弟弟子だって。信じられる?今度歓迎会やるって、ジョエル君が張り切って仕切ってくれてるよ」

 じっと青い光に浮かぶアルカを見つめる。
 そうしていれば直ぐに目を覚まして、名前を呼んでくれる気がした。

 アルカが名前を呼んでくれる時の笑顔が恋しい。
 名前に愛しさをたくさん込めてくれていたのを、今さら知った。
 呼んでもらえなくなって、初めて知った。

「俺、君の声、本当に好きなんだ。君が話すの、ずっと聴いてたい。君の笑顔も大好きだ。本当に可愛くて……、俺、君に笑いかけてもらうと、すごく幸せになる」

 もう1度、結界を抱き締めるように額を付ける。

「君が好きだよ。愛してる」

 ずっと言う勇気が無かった言葉。
 それも聴いてもらえなくなって初めて、告げたかったのだと知った。

 そして、アルカにどれだけ甘えていたのかも。

「ちゃんと君を感じるよ。俺、何年でも待つからね。寿命長いしさ。俺は12年かかったけど、君はすごい魔術師だから、きっと直ぐに融合するよ。だから、早く起きてね……」


 毎日、精霊魔素に惹かれた魔物を駆除した雨季を過ぎ、暑い夏を迎えた。
 今年の雨季は少し長かったが、おかげで石室には水の気がいつもより満ちて、強い魔素で満たされた。

 外は暑いが、石室はひんやりとして気持ちが良い。
 レグルスはだらしなく靴を脱いで、竜らしく石の床にごろごろした。

「今日はちゃんと依頼こなしてきたよ。皆、アルカがいなくて残念がってた。お婆さんたちなんか、宥めるの大変だったんだから。依頼よりそっちのが大変だったよ、本当」

 アルカがプリトー村を、どれ程大事にしていたかは知っている。だから目を覚ました時にがっかりしないよう、その役目をちゃんと引き継いだ。

「俺、牛のお世話も出来るし、ちゃんと早起きして畑も回ったし。君の鬼特訓で泳げるようになったから、鉱石も川で拾ったし……。魂送り、今年はアンディさんたちと一緒に見たよ」

 去年の送魂祭が酷く懐かしい。心臓が壊れそうなくらいドキドキしながら、キスをしたことを思い出す。

「アルカと見られなくて残念だな。今年は湖泳ごうって、君が約束したのに。……淋しいよ」


 夏の暑さを過ぎて、少し落ち着いて来た頃。
 いつもより遅い時間に来たレグルスは、大きく息を吐いて肩を回した。

「ちょっと遅くなったね。仕事終わりにさ、ジョエル君とウルク君に飲みに誘われちゃって。ごめん、君も行きたかったよね。アルカが起きたら4人で行こうって、今日も言ってたとこなんだ」

 襟元を寛げながら、結界に額を付ける。アルカの包み込むような温かい魔力を感じて、息を吐いてから笑った。

「最近はね、ジョエル君とウルク君から、それぞれ相談受けたりして板挟みなんだ。もう早く、くっついちゃったら良いのにって思うよ、本当。でもさ、君だったら何て答えるかなって想像しながら、話聞いてるよ」

 アルカは美しい球体に浮かんだまま。清浄な青い光に包まれている。

 時々見せる、けらけら笑う姿を無性に思い出して、話を続けることが出来なくなった。


 季節はどんどん巡っていく。
 あの日から置き去りにされたように。もしくはあの日を置き去りにしたように。

 留まることなく時間は過ぎて行き去り、街路樹の葉が色づき始める。

「最近さあ、ジーク君とよく飲みに行ってるんだ。イドも一緒だったりして、……びっくりだよね。ジーク君ってさあ、意外と面倒見良いよね。仕事でも随分助けられてるよ。口悪いけど」

 最近増えた酒量に酔いも覚めないまま、つれづれと呟く。
 アルカは負けず嫌いだから、仕事を奪われるのは癪かも知れない。

「2人ともさ、アルカが居ない分、頑張ってくれてる。ジーク君たちだけじゃなくて、ジョエル君もウルク君も。他の室員も。ウルク君なんて去年とは別人みたいに、書類もちゃんとやってるんだ」

 笑いかけて頬が上手く動かないのに気付いて、膝を抱えて俯く。

「君が言ったこと、最近は少し分かってきたよ。……皆、俺のこと、どうにか助けようって気にかけてくれるんだ。すごく有り難いなって……」
 
 アルカが居なくても、日常は回るようになった。皆が穴を埋めようとしてくれている。
 まるでアルカが居ないことを、当たり前にしているかのように。

「……だけどやっぱ俺、君が居ないとだめだから。……君の席はずっとそのまま」


 感謝祭の連休は殆どアルカと過ごして、夜はアルカのアパートメントへ帰った。
 アルカの部屋はいつ帰って来ても良いように、毎週手入れをして、週半分はそこで寝ている。

 初めて抱いた日のことを何度も思い出す。
 アルカの言葉、眼差しや表情。熱や汗、吐息に声。肌の滑らかさ、中で抱き締められる感覚。

 自分だけが知るアルカの厭らしく乱れた姿は、何より美しくて、ずっと見ていたい。

 青い結界に触れて、その温もりを確かめる。

「花火、君と見たかったな……。皆、君に会いたがってるよ。……ナンがさ、君を恋しがって泣くんだ」

 
 とうとう冬が訪れ、季節は一巡してしまった。

「会いたいなあ……、会いたい。アルカに会いたい。……愛してる、アルカ」




「おはよう、今日は休みだから1日いられるよ」

 夜も明けぬ内に目が覚めて、今日も直ぐにアルカの元へと来た。ここ最近は眠りが浅くて、上手く眠れない。
 
「今見たらね、リッカの花が咲いてた。……あれから1年過ぎちゃったよ。もう春だよ。アルカ、俺よりお寝坊さんになっちゃったね」

 青い結界は今日もいつもと変わらず、アルカを守り浮かんでいる。

「そう言えば、君と初めて会った日も、リッカの花が咲いてたんだ。覚えてる?俺は忘れたことないよ。すごく良い匂いがして、風が吹いて。君はさ、落ちた書類拾ってくれて」

 初めて会った日のあの光景が、酷く遠くに美しく見える。

「俺、びっくりしてコーヒー落とすとこだった。こんなに綺麗な人、見たことないって。君の髪も目も肌も、全部光でキラキラしてて。本当に綺麗で。まるで精霊みたいだって……」

 それまで笑顔で話していたのに、黙り込んだレグルスは俯いた。

「ごめんね、こんなことにして。俺と会わなきゃ良かったのかな。俺が身の程を弁えずに、君を番にしたから」

 アルカと同じように膝を抱える。

「でもね、俺、やっぱり君が良いんだ。君が良いの。世界中で、君しかいない。だから待つよ。ずっと待つ」

 たった1年だ。だが、そのたった1年で思い知った。

「だけどさ、すごく淋しいよ。声が聞きたい。笑った顔が見たい。君に触れたい。君がいないと生きていけない。早く起きてよ。君に会いたい」

 震えて情けない声を隠せない。石の上に、1つ2つと染みが出来ていく。

「愛してる、愛してるんだ。アルカ」
 
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