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最終章 旅路の涯
138 君と見る暁の花
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長い夢を見ていた気がする。
色々なことがあった。
良いことも悪いことも、嬉しいことも嫌なことも、胸が高鳴ることも、苦しくなることも。
中には、消えてしまいたくなることも、何にも代え難い歓びもあった。
全て留まることなく奔流のように、たくさんのことが起きては過ぎ去る。
その1つずつを歩いて、振り返れば随分遠くまで来た。
未だ涯は見えず、道程は続く。まるで永い旅のように。
「早く、起きて」
呼んでいる。もう少し微睡んでいたい気もするが、そろそろ起きた方が良いだろう。
「君に会いたい」
だろうじゃなくて、起きなくては。だって泣いてる。早く起きて、涙を拭いてやらないと。
「愛してる、愛してるんだ」
ああ、どうせ聴くなら、そんな絶望したみたいな悲しい声じゃなくて。こんな遠い場所でじゃなくて。
「アルカ」
全てが在るべき場所に嵌った。
結界が消えて、ゆっくりと降りていく。
もちろん、硬い石の上ではなく、絶対に間違えない自分だけの腕の中に。
ゆっくりと目を開ける。揺らぐ焦点が徐々に定まり、大きな雫が幾つも頬に落ちて、濡らしていく感触がはっきりしてくる。
「レグルス」
言葉も無く歯を食い縛って涙を流す、世界でただ1人の番の目元に手を伸ばす。
美しいエメラルドの瞳から、後から後から溢れる透明な雫を静かに拭う。
「ただいま」
「……アルカ!」
ぎゅっと抱き締められ、暫く嗚咽が治まるまで、その背中を撫で続けた。
「アルカ、ごめん、ごめん……!他に方法が無くて、君を死なせたくなくて、俺は君を、人から外してしまった……!」
確かにレグルスの言う通り、明らかに魔力質というか生命を支えている根源が、今までとは変わってしまっているのが、自分でもはっきり分かる。
もし、レグルスが自分に触れなくなっていたら。それだけが不安で、慟哭するレグルスの唇を塞いで魔力を送る。
「どう?……俺は、まだレグルスの番?」
鼻先を触れ合わせて見つめると、涙でぐしゃぐしゃの顔がまた歪んだ。
「アルカが番に決まってるだろ……!君は俺のアルカだよ……!」
「うん。じゃあ、これで良かった。お前の番のままなら、何も変わらない」
安堵に微笑むと、今度はレグルスから口付けられる。
震えた唇から魔力が交換され、前よりも早く結びついて一瞬で多幸感をもたらす。
「ああ、アルカだ……」
「レグ、そんなに泣いたら、目、溶けちゃうよ」
目元に何度も口付けて、甘い涙を吸い取る。
「あれ……、ん?何かちょっと大人っぽくなった……!?」
ガシッとレグルスの両頬を掴んで、マジマジと顔を見る。
前はもっと幼いというか、表情に丸みがあった。しかし今は精悍になったというか、しっかりしたというか。
「ああ~、俺の可愛い仔竜ちゃんが……!……ていうか、やつれた?」
すりすりと頰を撫でると、レグルスはわっと叫んだ。
「や、やつれるに決まってるだろ!君が1年も目を覚まさないから……!」
「えっ?1年?そんなに寝てたの、俺?」
体感ではせいぜい1ヶ月程度にしか感じない。寝ていた間の時間感覚が大分曖昧になっていたようだ。
「そうだよ、俺はずっと、ずっと……!君を待って……!」
「マジか……。あ~、そっか、ごめんな、淋しい思いさせて」
ぎゅっとレグルスの頭を胸に抱えて、頭を撫でてやる。
「もう大丈夫だからな。俺を守ってくれて、ありがとう」
「違うよ、守ってくれたのはアルカだ。俺、アルカに言いたいこと、たくさんあって……!」
微睡んで曖昧な意識の中、夢と現にレグルスの話を聴いていた。
「うん、たくさん話してくれてたな。ちゃんと声、聴こえてたよ」
レグルスの手を引き立ち上がる。1年振りとのことだが、体の調子は絶好調だ。
「帰ろう、レグルス。帰ったら、ゆっくり話しよう」
「うん、……うん!」
手を繋ぎ石室を出る。アルカは石室の入口に結界を張った。
「殆どの魔力は俺に譲渡されたけど、また生まれてくるから」
胸に手を当てて、肌に焼き付いた精霊刻印を撫でる。微かに、しかし確かに感じる共鳴に微笑む。
「うん。……ありがとう、待ってる」
洞窟入口に差し込む朝陽に誘われて、レグルスの手を引いて明るく眩しい外に出る。
「レグ、久し振りにあの場所、寄りたい」
「うん。1年振りのデートだね」
嬉しそうに笑うレグルスの指をしっかり握る。
朝日に照らされた湖の畔を、2人でゆっくりと歩いていく。
少し冷たい春の山の澄んだ空気と、綻び出した花々や萌出る柔らかな草木。様々な野鳥の声。
1年振りの世界は美しく、生命に満ち溢れていた。
やがて、アルカとレグルスのお気に入りの場所に着く。
プリトー村を一望出来る丘だ。雪解け水が流れて滝が朝霧のように、光に烟っている。
「わっ、リッカの花だ!初めて見た!」
崖下から村まであちこちにたくさん自生している、リッカの木が満開の花を付けていた。
リッカの花は春の1日だけ、それも明け方から数時間しか咲かない。
薄っすら黄金に輝く美しい白い花が、朝陽に光り輝いている。暫く言葉を忘れて目を奪われる。
「後でアンディさんたちに、結婚報告しに行こうね」
レグルスが後ろから包み込むように抱き締めた。
「レグルス。魔術誓約しよう」
「良いけど、何の?」
腕を外して正面から向かい合う。レグルスは目を瞬かせた。両手を握って、しっかり瞳を合わせる。
「ずっとしたかったんだ。だから、今なら言える。多分もう俺の方が、お前より死ねないから」
竜と精霊では精霊の方が寿命が永い。というよりも、生息域に魔素が無くなるか致命傷を負わない限り、精霊は死なない不滅の存在だ。
「精霊と竜と、ほんの少しだけ女神が混ざっちゃった。俺も自分に、どれだけ人が残ってるのかよく分からん」
「アルカ……」
「でもこれで、お前とずっと一緒に居られるようになった。もう何も怖いこと無いよ」
晴れ晴れと笑うと、レグルスは泣きそうな顔で微笑んだ。
「ごめん。嬉しい、すごく」
「俺も嬉しいよ。だから、誓約しよう。俺も番なしじゃ生きていけないんだ、もう」
泣きそ出す手前のような、それでいて幸せそうな顔で頷いたレグルスの心臓の上に手を置く。
レグルスもまた、アルカの心臓の上に手を乗せた。
「同じ文言を続けて」
「はい」
「我、オールカベルレカの名に置いて、汝を生涯、我のみの命に縛り、また汝のみの命に縛られる。生涯愛し、番い続ける。汝の心臓が止まり、生命の終わりが訪れる際には、共に心臓を止めて生命を終える。生きる時、死する時を同じくする」
アルカから魔力が立ち昇り、瞳に銀の虹彩が煌めく。純粋な人ではなくなった証は、どこまでも澄んで美しく輝く。
「我、ラザゼルシグラシスの名に置いて、汝を生涯、我のみの命に縛り、また汝のみの命に縛られる。生涯愛し、番い続ける。汝の心臓が止まり、生命の終わりが訪れる際には、共に心臓を止めて生命を終える。生きる時、死する時を同じくする。永劫に汝にこの身を捧げ、守り慈しみ、幸せを与える」
レグルスからも魔力が立ち昇る。同じように瞳に煌めくのは金の虹彩だ。
忌まわしかった竜の証は今や祝福になり、永遠を約束する。
魔術真名に呼応して誓約の刻印が魂に刻まれる。互いの手の下から光りが溢れ、温もりを残して消えた。
「同じって言ったのに、最後ずるい……!」
「ふふーっ、寝てる間に俺のが上手になっちゃったんじゃない?」
「な!契約関係なら俺のが得意だろ!ちゃんと王家の縛りも外してやったのに!」
少し膨れると、ぎゅっと抱き締められた。
「ありがとう、アルカ」
「なあ、出来る限り長生きして、人よりたくさん楽しんでやろ。時間はたくさんあるからな。せいぜいお前といちゃつくことにするわ」
「うん。ずっと幸せにする……、あ!」
ハッとしたレグルスが体を離して、咳払いをする。
「どした?」
「君が起きたら、やりかたかったことの1つ」
レグルスは真剣な顔をして跪いた。途端に大人びた表情になってドキリとする。
「アルカ」
「うん、はい……」
左手を取られて、じっと下から見上げられる。
「俺と結婚してください」
そっと左手の薬指に口付けられた。じわ、と顔が熱くなってくる。
「……はい」
パッと顔を上げたレグルスが、それはそれは幸せそうに微笑んだ。
「愛してる」
「……っ」
レグルスからの初めての言葉に、涙が1つ溢れ落ちた。
「俺も……、愛してる!」
ぎゅっと抱き着くと、崖下からぶわりと強い風が吹いた。
「うわぁ……」
散り始めたリッカの花が舞い上がり、まるで雪のように振って来る。
朝陽に黄金に輝き、後から後から降り頻る花吹雪は祝福のようだ。
「ね、アルカ、知ってる?」
「うん?」
「リッカの御伽噺」
あ、と思い出す。そう言えば、これって。
「リッカの実を食べさせ合った恋人たちが、一緒に花を見ると、永遠に結ばれて幸せになる、ってやつ」
見惚れるほど綺麗なレグルスの笑顔にも、花弁が1つ舞い落ちた。
「ふふ、よく知ってるよ。だけど、お前とこうなるとは夢にも思わなかったな」
「俺はね、何年も前からずっと、君に恋してたから。いつかリッカの花、アルカと見たいって思ってた」
「……幸せになろうな。ずっと一緒に生きていこう」
降り注ぐ花弁の中、2人は唇を重ねて、いつまでも離れることは無かった。
色々なことがあった。
良いことも悪いことも、嬉しいことも嫌なことも、胸が高鳴ることも、苦しくなることも。
中には、消えてしまいたくなることも、何にも代え難い歓びもあった。
全て留まることなく奔流のように、たくさんのことが起きては過ぎ去る。
その1つずつを歩いて、振り返れば随分遠くまで来た。
未だ涯は見えず、道程は続く。まるで永い旅のように。
「早く、起きて」
呼んでいる。もう少し微睡んでいたい気もするが、そろそろ起きた方が良いだろう。
「君に会いたい」
だろうじゃなくて、起きなくては。だって泣いてる。早く起きて、涙を拭いてやらないと。
「愛してる、愛してるんだ」
ああ、どうせ聴くなら、そんな絶望したみたいな悲しい声じゃなくて。こんな遠い場所でじゃなくて。
「アルカ」
全てが在るべき場所に嵌った。
結界が消えて、ゆっくりと降りていく。
もちろん、硬い石の上ではなく、絶対に間違えない自分だけの腕の中に。
ゆっくりと目を開ける。揺らぐ焦点が徐々に定まり、大きな雫が幾つも頬に落ちて、濡らしていく感触がはっきりしてくる。
「レグルス」
言葉も無く歯を食い縛って涙を流す、世界でただ1人の番の目元に手を伸ばす。
美しいエメラルドの瞳から、後から後から溢れる透明な雫を静かに拭う。
「ただいま」
「……アルカ!」
ぎゅっと抱き締められ、暫く嗚咽が治まるまで、その背中を撫で続けた。
「アルカ、ごめん、ごめん……!他に方法が無くて、君を死なせたくなくて、俺は君を、人から外してしまった……!」
確かにレグルスの言う通り、明らかに魔力質というか生命を支えている根源が、今までとは変わってしまっているのが、自分でもはっきり分かる。
もし、レグルスが自分に触れなくなっていたら。それだけが不安で、慟哭するレグルスの唇を塞いで魔力を送る。
「どう?……俺は、まだレグルスの番?」
鼻先を触れ合わせて見つめると、涙でぐしゃぐしゃの顔がまた歪んだ。
「アルカが番に決まってるだろ……!君は俺のアルカだよ……!」
「うん。じゃあ、これで良かった。お前の番のままなら、何も変わらない」
安堵に微笑むと、今度はレグルスから口付けられる。
震えた唇から魔力が交換され、前よりも早く結びついて一瞬で多幸感をもたらす。
「ああ、アルカだ……」
「レグ、そんなに泣いたら、目、溶けちゃうよ」
目元に何度も口付けて、甘い涙を吸い取る。
「あれ……、ん?何かちょっと大人っぽくなった……!?」
ガシッとレグルスの両頬を掴んで、マジマジと顔を見る。
前はもっと幼いというか、表情に丸みがあった。しかし今は精悍になったというか、しっかりしたというか。
「ああ~、俺の可愛い仔竜ちゃんが……!……ていうか、やつれた?」
すりすりと頰を撫でると、レグルスはわっと叫んだ。
「や、やつれるに決まってるだろ!君が1年も目を覚まさないから……!」
「えっ?1年?そんなに寝てたの、俺?」
体感ではせいぜい1ヶ月程度にしか感じない。寝ていた間の時間感覚が大分曖昧になっていたようだ。
「そうだよ、俺はずっと、ずっと……!君を待って……!」
「マジか……。あ~、そっか、ごめんな、淋しい思いさせて」
ぎゅっとレグルスの頭を胸に抱えて、頭を撫でてやる。
「もう大丈夫だからな。俺を守ってくれて、ありがとう」
「違うよ、守ってくれたのはアルカだ。俺、アルカに言いたいこと、たくさんあって……!」
微睡んで曖昧な意識の中、夢と現にレグルスの話を聴いていた。
「うん、たくさん話してくれてたな。ちゃんと声、聴こえてたよ」
レグルスの手を引き立ち上がる。1年振りとのことだが、体の調子は絶好調だ。
「帰ろう、レグルス。帰ったら、ゆっくり話しよう」
「うん、……うん!」
手を繋ぎ石室を出る。アルカは石室の入口に結界を張った。
「殆どの魔力は俺に譲渡されたけど、また生まれてくるから」
胸に手を当てて、肌に焼き付いた精霊刻印を撫でる。微かに、しかし確かに感じる共鳴に微笑む。
「うん。……ありがとう、待ってる」
洞窟入口に差し込む朝陽に誘われて、レグルスの手を引いて明るく眩しい外に出る。
「レグ、久し振りにあの場所、寄りたい」
「うん。1年振りのデートだね」
嬉しそうに笑うレグルスの指をしっかり握る。
朝日に照らされた湖の畔を、2人でゆっくりと歩いていく。
少し冷たい春の山の澄んだ空気と、綻び出した花々や萌出る柔らかな草木。様々な野鳥の声。
1年振りの世界は美しく、生命に満ち溢れていた。
やがて、アルカとレグルスのお気に入りの場所に着く。
プリトー村を一望出来る丘だ。雪解け水が流れて滝が朝霧のように、光に烟っている。
「わっ、リッカの花だ!初めて見た!」
崖下から村まであちこちにたくさん自生している、リッカの木が満開の花を付けていた。
リッカの花は春の1日だけ、それも明け方から数時間しか咲かない。
薄っすら黄金に輝く美しい白い花が、朝陽に光り輝いている。暫く言葉を忘れて目を奪われる。
「後でアンディさんたちに、結婚報告しに行こうね」
レグルスが後ろから包み込むように抱き締めた。
「レグルス。魔術誓約しよう」
「良いけど、何の?」
腕を外して正面から向かい合う。レグルスは目を瞬かせた。両手を握って、しっかり瞳を合わせる。
「ずっとしたかったんだ。だから、今なら言える。多分もう俺の方が、お前より死ねないから」
竜と精霊では精霊の方が寿命が永い。というよりも、生息域に魔素が無くなるか致命傷を負わない限り、精霊は死なない不滅の存在だ。
「精霊と竜と、ほんの少しだけ女神が混ざっちゃった。俺も自分に、どれだけ人が残ってるのかよく分からん」
「アルカ……」
「でもこれで、お前とずっと一緒に居られるようになった。もう何も怖いこと無いよ」
晴れ晴れと笑うと、レグルスは泣きそうな顔で微笑んだ。
「ごめん。嬉しい、すごく」
「俺も嬉しいよ。だから、誓約しよう。俺も番なしじゃ生きていけないんだ、もう」
泣きそ出す手前のような、それでいて幸せそうな顔で頷いたレグルスの心臓の上に手を置く。
レグルスもまた、アルカの心臓の上に手を乗せた。
「同じ文言を続けて」
「はい」
「我、オールカベルレカの名に置いて、汝を生涯、我のみの命に縛り、また汝のみの命に縛られる。生涯愛し、番い続ける。汝の心臓が止まり、生命の終わりが訪れる際には、共に心臓を止めて生命を終える。生きる時、死する時を同じくする」
アルカから魔力が立ち昇り、瞳に銀の虹彩が煌めく。純粋な人ではなくなった証は、どこまでも澄んで美しく輝く。
「我、ラザゼルシグラシスの名に置いて、汝を生涯、我のみの命に縛り、また汝のみの命に縛られる。生涯愛し、番い続ける。汝の心臓が止まり、生命の終わりが訪れる際には、共に心臓を止めて生命を終える。生きる時、死する時を同じくする。永劫に汝にこの身を捧げ、守り慈しみ、幸せを与える」
レグルスからも魔力が立ち昇る。同じように瞳に煌めくのは金の虹彩だ。
忌まわしかった竜の証は今や祝福になり、永遠を約束する。
魔術真名に呼応して誓約の刻印が魂に刻まれる。互いの手の下から光りが溢れ、温もりを残して消えた。
「同じって言ったのに、最後ずるい……!」
「ふふーっ、寝てる間に俺のが上手になっちゃったんじゃない?」
「な!契約関係なら俺のが得意だろ!ちゃんと王家の縛りも外してやったのに!」
少し膨れると、ぎゅっと抱き締められた。
「ありがとう、アルカ」
「なあ、出来る限り長生きして、人よりたくさん楽しんでやろ。時間はたくさんあるからな。せいぜいお前といちゃつくことにするわ」
「うん。ずっと幸せにする……、あ!」
ハッとしたレグルスが体を離して、咳払いをする。
「どした?」
「君が起きたら、やりかたかったことの1つ」
レグルスは真剣な顔をして跪いた。途端に大人びた表情になってドキリとする。
「アルカ」
「うん、はい……」
左手を取られて、じっと下から見上げられる。
「俺と結婚してください」
そっと左手の薬指に口付けられた。じわ、と顔が熱くなってくる。
「……はい」
パッと顔を上げたレグルスが、それはそれは幸せそうに微笑んだ。
「愛してる」
「……っ」
レグルスからの初めての言葉に、涙が1つ溢れ落ちた。
「俺も……、愛してる!」
ぎゅっと抱き着くと、崖下からぶわりと強い風が吹いた。
「うわぁ……」
散り始めたリッカの花が舞い上がり、まるで雪のように振って来る。
朝陽に黄金に輝き、後から後から降り頻る花吹雪は祝福のようだ。
「ね、アルカ、知ってる?」
「うん?」
「リッカの御伽噺」
あ、と思い出す。そう言えば、これって。
「リッカの実を食べさせ合った恋人たちが、一緒に花を見ると、永遠に結ばれて幸せになる、ってやつ」
見惚れるほど綺麗なレグルスの笑顔にも、花弁が1つ舞い落ちた。
「ふふ、よく知ってるよ。だけど、お前とこうなるとは夢にも思わなかったな」
「俺はね、何年も前からずっと、君に恋してたから。いつかリッカの花、アルカと見たいって思ってた」
「……幸せになろうな。ずっと一緒に生きていこう」
降り注ぐ花弁の中、2人は唇を重ねて、いつまでも離れることは無かった。
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