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第1章 転生編
第17話 少女と二人きりなんて冗談じゃねえよ
しおりを挟む宿を探すために、街中を見回してみると、いろんな店が閉まっている中、窓から光が漏れているので営業している宿屋を見つけるのは簡単だった。
だが、入学シーズンの王都には各地から生徒が集まるので、部屋が空いているかが問題だ。
何度も「部屋空きがありません」と突き出されていたが、10件ほど回ってようやく空き部屋を見つけた。王都広すぎる……。
これ昼になったら人でごった返すんだろ?怖すぎだろ……。
で、その宿屋にいるわけだが。受付は困ったようにこう言う。
「一応、空いてはいるのですが、一部屋のみでして……」
ユリアはう~んと顎に手を当てて俯いた後、すぐに答えを出す。
「仕方ないですね、はい、問題ありません」
「では40番の部屋です」
「ありがとうございます」
ユリアは受付に軽く頭を下げて、鍵を受け取る。元王族なだけあって、ところどころの所作がなめらかというか綺麗だ。ちなみに、受付との対応は全部ユリアに任せている。
だって、陰キャコミュ障の俺がまともに人と話せるわけないじゃん。いやあ、便利だわあ、友達って。もし俺一人だったらどうだったんだろう。考えたくもないが……。
仮に俺が受付と話したとして、声が小さくて受付に「すみません、聞き取れないのでもう一度よろしいでしょうか?」と何度も聞かれて終了だ。
声小さい理由って、自信の無さの表れでもあるんだけど、もう一つ理由があって、自分の気持ち悪い声聞くのが嫌なんだよ、本当に。
自分でも思うよ、聞き返されるの分かってんだから最初からハッキリ言えよって。でもそれができりゃ苦労しねえんだって。自分で自分の声聞きたくないんだから。
さてと、40番は2階の部屋のようだ。俺はユリアに付いて行って部屋に入る。
……っとちょっとまて。今更だが、一部屋しかないんだよな?ユリアと二人でこの部屋を共有するのか?若い男女が一つ屋根の下、同じ部屋で?
まあ普通の男ならだれもが憧れるシチュエーションだが、俺の脳裏には「社会的リスク」という文字がドンッと浮かんだ。俺は冷や汗をかいて、拳を握りしめていた。……よし、逃げよう。目の前の誘惑に目がくらんで、その後の人生を壊すのは嫌だ。
部屋に入らずに固まっている俺を見て、ユリアは目をぱちぱちとしながら声をかけてくる。
「チー君?どうしたの?」
「……えっと、俺、外で寝てきます」
「なぜ!?あ、ちょっと!?」
俺は部屋に入る直前でダッシュで宿屋を脱出しようとしたが、すぐに反応したユリアにがっちりと腕を掴まれる。意外と力が強い。
「ちょっとチー君まずは理由を聞かせてよ!」
いや、理由も何も、男女が二人同じ部屋なのはダメだろ。お前は嫌じゃないのか?俺を異性として見られていないんだろうな。
「いや、男女が同じ屋根の下で共にするというのは……」
そう言うと、ユリアはぽかんと固まった後、ハッと意識して顔を赤くする。
「し、仕方ないじゃん!ここしか空いてないんだから……。そ、外は寒いし危ないし、それに私の騎士なんだから一人にしないでよ!そんなに私のこと嫌なの!?」
ず、ずるい。騎士だからとか、そう言うのはずるいぞ。ここで嫌なんて言えるわけないじゃないか。怖いのは俺の理性が保てるかどうか。
一応転生したとはいえ、心は純粋で健全な男子高校生のままなんだぞ。
ぐぬぬ、でも、仕方ない。俺はユリアの護衛を(メイドの頼みで仕方なくほぼ強制的に)引き受けたのは間違いない。俺はユリアに一応確認する。
「嫌じゃないです、が、えっと、俺なんかと一緒にいたくないでしょ?」
「そんなことないもん。ベッドも二つあるし問題ないって」
「訴えたりしませんよね?」
「私を何だと思ってるのかなあ?」
「……はあ。分かりました」
俺は首をかきながら目を逸らした。ユリアも髪をもじもじといじりながら目を逸らす。きまずい。そのまま、ユリアが扉を開けて、部屋に入る。
で、ユリアは初めての宿の部屋にテンションが上がったのか、さっそく片方のベッドにダイブした。
「見てチー君ふかふかだよ~」
ベッドの上で丸まってシーツをぎゅっとして、犬のように匂いを嗅いでいる。さっきまでのやり取りはどこへやら。可愛いからいいけど。
にしても、普通は男女2人なら嫌だろうけど、ユリアは嫌そうなそぶりは見せていない。俺がイケメンだからなのか?
部屋を見渡すと、部屋に入って正面に窓、左右両壁にベッドが二つのみで他に特に何も置かれていない、シンプルな作りだった。まあ食事とかは食堂でってことで、あくまで寝床の確保みたいなものか。
まあ、いろんな意味で疲れたし、俺はユリアとは別のベッドにそのまま寝転がって疲れをいやす。ああ、身体が柔らかいベッドに沈み込んで力が抜けていく感触。好きだわ~。
はあ、とりあえず、寝よ……とは思ったけど、馬車の中でも寝てたからあんまり眠れなかった。
ユリアはぐっすりだ。てか寝つくの早!この子って結構寝るの好きな子?寝る子は育つというしまあいいことだが……警戒心が無さすぎるというか、俺だって男なんだぞ?
ユリアのことは気になるが、暇だったので光魔法の魔道具を薄く起動しながら、魔法教本でも読むことにした。
------
翌日。
「ねえ起きてよ!チー君!」
ユリアの俺を起こす声で目が覚める。昨日は結局寝られなくて夜通し本読んでたからなあ……。
「あ、やっと起きた。おはよう、チー君」
朝からこいつは相変わらず可愛いな。窓から差す朝の陽ざしに髪がきらきらと輝いているようで神々しい。
……なんかさっきまで寝顔みられてたと思うとなんか恥ずかしくて、俺はすぐ起き上がって目を逸らす。
「ご飯食べに行った後、寮に申請しにいくよ?」
「あ、はい」
にしてもしっかりしてるよなあ。
こんな子も将来、わがままで自己中心的な受け身の意識高い女に変わってしまうのだろうか。知らんけど。
---
一旦宿を出て、食堂を探すことにする。
朝になった王都の街並みは昨日の夜とは違って人でにぎわっている。昨日の夜とは真逆の風景だ。
いろんな店が営業していて、服屋、八百屋、肉屋、中には明らかに子どもが入っちゃいけない雰囲気の場所まであって、視線そらしたわ。ユリアにバレたら殺されそう。
にしても、やばい、人多すぎてやばくなってきた、一応冬で涼しいはずなのに、暑くて汗が体ににじんで、酔いそうになってくる。
視線も怖いし。……あいつ、俺を見てる。あいつも見てくる。あいつは俺を見て笑った?
「きも」「陰キャじゃん」って言ってるのか?笑うなよ。きもいのは分かってんだよ。見るな、お前に気持ち悪い奴の気持ちなんか分かるわけないだろ。クソが――
「――チー君!?ねえ!大丈夫?」
「え?あ、まあ、はい」
俺はユリアの声で正気に戻る。ユイは俺の様子に戸惑いつつも、心配そうに俺に声を掛けていた。
「ずっとぶつぶつとしゃべってたけど……。本当に大丈夫?何かあれば私に言ってね?一緒にがんばろ?」
「え、あ、はい」
周りの目が怖くて無意識に恐怖に陥っていた。
ユリアは優しいな。本当に。この子の目を見ても、純粋で本当に俺を心配してくれているように見える。
もちろん、完全には信頼しているわけではない。
俺の様なチー牛は、いくらイケメンになっても視線などは怖いもんは怖い。弱者男性だったときの心の傷は、今も深く刺さっている。自意識過剰すぎるだけかもしれんが。
俺は周囲を警戒しつつ、しばらく歩くと、食堂もすぐに見つかったので、2人で中に入った。
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