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本編(出会い)
ペペロンチーノはパスタ界の至高、我基準。
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「え…だって、太陽が…」
「ここ何百年か、吸血鬼と聞いた者の反応は変わらんの。
我は日向ぼっこは好きじゃが。」
「じゃあニンニク…」
「ペペロンチーノはパスタ界の至高、我基準。」
「心臓に杭…」
「人間だろうが古龍だろうが、だいたいの生き物は死なんかソレ?
ちなみに我はその程度では死なんが。
吸血鬼は体を霧に変化できると聞いたことは無いか?」
「銀を恐れる…」
「銀食器だの、このスプーン。」
「棺桶で眠る…」
「フカフカのベッドの方が広くて快適じゃろ。」
「聖水…」
「製法はとうに失われ、現存しているのは相当に希釈されたものじゃ。
というか、純聖水なんぞ包有エネルギーが莫大すぎて逆に人体に害なす物ぞ。
…もう無いか?」
穏やかな日差しの中、私の中の吸血鬼像が完全に崩れ落ちる。
そんな私を愉快そうに見つめるアーシュさんの目は、ルビーのように紅く。
「そもそも魔法使いとは、魔法と呼ばれる超常を探求する、いわば単なる研究者。
自分が研究する分野に関する知識以外には興味が無い、ただの人間。
一般的に悪いイメージが付きまとうのは、目的のためには手段を択ばぬ者が多いから。
かつては多くいたが、倫理観が欠如している故にトラブルを起こして、ほとんど討伐されたな。」
まるで昔話をするように、紅茶を飲みながらゆっくりと話すアーシュさん。
「ここが”魔女の森”と呼ばれるのは、元々は魔法使いの一族が住み着いていたからじゃ。
ちょうどその頃は、吸血鬼というだけで勇者気取りのバカが討伐だの正義だのと五月蠅かったからの。
なので結界ごと譲り受けた。
残念ながら連中は途絶えてしまったが、代々我とは友好関係だったからの。
いい連中じゃったな…」
昔に思いをはせる老人のように、目を細め。
「ま、信じるか否かはそなた次第じゃ。
さて、話題が逸れたの…スーと言ったか?
そなたの世界でも、いくら玄関の鍵が開いているからとドカドカ乱入してよい法はあるまい。
誘拐されたのには同情くらいするが、そもそもなぜ誘拐など?」
そう言われても心当たりは無い。
男爵家の人間なので、身代金や脅迫といった目的はありそうだが。
「今朝、近所の先生宅へ習い事でお邪魔をして、その帰りに突然…」
「そなた、男爵家の人間であろ?
馬車も共も無く、たった一人で?」
「歩いて数分ですし、馬車を出す準備をしている間に着きますので。」
公爵家の令嬢ならともかく、歴史の浅い男爵家の娘などこんなものだ。
ましてや我が家は。
「…ま、嘘は言っていないようだの。
とはいえ、我にはそなたを助ける義理も無い。
そなた、我が森に乱入したことを帳消しとする何かはあるのか?」
「すみません、ありません…」
あるわけがない。
貴族家の一員だからといって家の金庫を自由にできるわけではない。
権力だって、一般市民から見れば大きいかもしれないが、貴族社会では些少なものだ。
王家や公爵家にコネがあるわけでもない。
「困ったの…では、その体で払うか。」
「え?」
アーシュさんがとんでもないことを言い出した。
思わず身構える。
「僭越ながら少々誤解があるようですが。
先ほど申し上げました通り、お嬢様は”真祖”と呼ばれる生粋の吸血鬼です。
寿命という概念が無く、その気になれば飲まず食わずで永遠に近い時を生きます。」
「とはいえ、それでは退屈極まりないわ。
だから時々は街に出かけたり、使いに食材や日用品を買いに行かせたりする。
普段は結界が張られているから入れるわけがないのじゃが…」
つまり、その時に結界を張り忘れ、そこへ私が誘拐されてきたのだ。
何という悪夢だろう。
「スー様。
吸血鬼という以上、その名の通り血を吸います。
ではご理解いただいたところで、その血をご提供ください。」
何かもう、生き残れる望みも完全に断たれた。
血を一滴残らず吸われて、今日ここで死ぬのだ。
だから、イメージに沿って。
「では、どうぞ…」
ネグリジェとガウンの襟首を引っ張り、首筋を露出させる。
「あの、スーさん。
それは”従者”になるための儀式ですよ?」
キャティさんが、覚悟を決めていた私の襟首をそっと直す。
「伝承とか物語というのも、考え物じゃな…
吸血鬼は首筋に牙を立てるイメージがあるが、それは”儀式”の時だけじゃ。
まぁ頸動脈があるから一気に飲めるがの。
キャティ。」
「失礼します。」
キャティさんは私の右手を取ると、人差し指に縫い針を軽く突き立てる。
痛みの後に、プクリと赤い血の玉が。
「血を飲むのは数年ぶりか。」
アーシュさんが歩み寄ってくる。
そして両手で私の右手を取り、ゆっくりと指をくわえた。
「ここ何百年か、吸血鬼と聞いた者の反応は変わらんの。
我は日向ぼっこは好きじゃが。」
「じゃあニンニク…」
「ペペロンチーノはパスタ界の至高、我基準。」
「心臓に杭…」
「人間だろうが古龍だろうが、だいたいの生き物は死なんかソレ?
ちなみに我はその程度では死なんが。
吸血鬼は体を霧に変化できると聞いたことは無いか?」
「銀を恐れる…」
「銀食器だの、このスプーン。」
「棺桶で眠る…」
「フカフカのベッドの方が広くて快適じゃろ。」
「聖水…」
「製法はとうに失われ、現存しているのは相当に希釈されたものじゃ。
というか、純聖水なんぞ包有エネルギーが莫大すぎて逆に人体に害なす物ぞ。
…もう無いか?」
穏やかな日差しの中、私の中の吸血鬼像が完全に崩れ落ちる。
そんな私を愉快そうに見つめるアーシュさんの目は、ルビーのように紅く。
「そもそも魔法使いとは、魔法と呼ばれる超常を探求する、いわば単なる研究者。
自分が研究する分野に関する知識以外には興味が無い、ただの人間。
一般的に悪いイメージが付きまとうのは、目的のためには手段を択ばぬ者が多いから。
かつては多くいたが、倫理観が欠如している故にトラブルを起こして、ほとんど討伐されたな。」
まるで昔話をするように、紅茶を飲みながらゆっくりと話すアーシュさん。
「ここが”魔女の森”と呼ばれるのは、元々は魔法使いの一族が住み着いていたからじゃ。
ちょうどその頃は、吸血鬼というだけで勇者気取りのバカが討伐だの正義だのと五月蠅かったからの。
なので結界ごと譲り受けた。
残念ながら連中は途絶えてしまったが、代々我とは友好関係だったからの。
いい連中じゃったな…」
昔に思いをはせる老人のように、目を細め。
「ま、信じるか否かはそなた次第じゃ。
さて、話題が逸れたの…スーと言ったか?
そなたの世界でも、いくら玄関の鍵が開いているからとドカドカ乱入してよい法はあるまい。
誘拐されたのには同情くらいするが、そもそもなぜ誘拐など?」
そう言われても心当たりは無い。
男爵家の人間なので、身代金や脅迫といった目的はありそうだが。
「今朝、近所の先生宅へ習い事でお邪魔をして、その帰りに突然…」
「そなた、男爵家の人間であろ?
馬車も共も無く、たった一人で?」
「歩いて数分ですし、馬車を出す準備をしている間に着きますので。」
公爵家の令嬢ならともかく、歴史の浅い男爵家の娘などこんなものだ。
ましてや我が家は。
「…ま、嘘は言っていないようだの。
とはいえ、我にはそなたを助ける義理も無い。
そなた、我が森に乱入したことを帳消しとする何かはあるのか?」
「すみません、ありません…」
あるわけがない。
貴族家の一員だからといって家の金庫を自由にできるわけではない。
権力だって、一般市民から見れば大きいかもしれないが、貴族社会では些少なものだ。
王家や公爵家にコネがあるわけでもない。
「困ったの…では、その体で払うか。」
「え?」
アーシュさんがとんでもないことを言い出した。
思わず身構える。
「僭越ながら少々誤解があるようですが。
先ほど申し上げました通り、お嬢様は”真祖”と呼ばれる生粋の吸血鬼です。
寿命という概念が無く、その気になれば飲まず食わずで永遠に近い時を生きます。」
「とはいえ、それでは退屈極まりないわ。
だから時々は街に出かけたり、使いに食材や日用品を買いに行かせたりする。
普段は結界が張られているから入れるわけがないのじゃが…」
つまり、その時に結界を張り忘れ、そこへ私が誘拐されてきたのだ。
何という悪夢だろう。
「スー様。
吸血鬼という以上、その名の通り血を吸います。
ではご理解いただいたところで、その血をご提供ください。」
何かもう、生き残れる望みも完全に断たれた。
血を一滴残らず吸われて、今日ここで死ぬのだ。
だから、イメージに沿って。
「では、どうぞ…」
ネグリジェとガウンの襟首を引っ張り、首筋を露出させる。
「あの、スーさん。
それは”従者”になるための儀式ですよ?」
キャティさんが、覚悟を決めていた私の襟首をそっと直す。
「伝承とか物語というのも、考え物じゃな…
吸血鬼は首筋に牙を立てるイメージがあるが、それは”儀式”の時だけじゃ。
まぁ頸動脈があるから一気に飲めるがの。
キャティ。」
「失礼します。」
キャティさんは私の右手を取ると、人差し指に縫い針を軽く突き立てる。
痛みの後に、プクリと赤い血の玉が。
「血を飲むのは数年ぶりか。」
アーシュさんが歩み寄ってくる。
そして両手で私の右手を取り、ゆっくりと指をくわえた。
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