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第2次ベガドリア戦役(アラスタ視点で)

叫ぶアラスタ

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「今、何とおっしゃられた?」

アラスタ様が驚きの表情を浮かべる。

「親書、と言われなかったか?」

「言いましたとも。
 私がマティス公爵閣下からお預かりした手紙には、しっかりと王家の紋章で封印しておりましたからな。」

「それを、マティス公爵閣下のお屋敷で、陛下からお預かりした…?」

「いえいえ。
 マティス公爵閣下からですよ。」

父の言葉に私は違和感を覚える。
おそらくアラスタ様も。
再び、しばし考え込まれ。

「どうされた、ベガドリア男爵殿?」

「バズル男爵殿…あなたは、それをおかしいとは思われなかったのか…?」


「何がです?」


キョトンとする父。

「すみませんバズル男爵殿、少々急用が出来た。
 申し訳ないが、お引き取り願いたい。」

「そうですか。
 ではフィーナ、準備を…」

「申し訳ないが!
 当家の家令を連れていくのなら陛下の命令書をご持参願いたい!」

アラスタ様の言葉に父も立ち上がる。

「失礼だぞベガドリア男爵!
 父親が娘を連れ帰るのに、その物言いは何だ!?」

「失礼は貴様だ、バズル男爵!」

アラスタ様はドアを指さす。

「貴様のアホ面をこれ以上眺めさせるのか!?
 残念ながら、その娘をマティス公爵に売り飛ばした時点で、貴様の言葉はフィーナには届かん!
 最終警告だ、今すぐに領地から立ち去りたまえ。
 もし帝国からの帰還中にに会いたくないならば!」




怒り狂った父を見送ることなく、アラスタ様は隅に控えたヒューホースに顔を向ける。

「大隊長を呼べ!
 作戦本部の要員もだ、数人連れて来させろ!」

「はい、閣下!」

「あわせて総員に警戒警報を発令!
 これは教練ではない!」

「復唱します!
 総員に警戒警報発令、これは教練にあらず!」


「行け!」


アラスタ様の言葉に、メイド服をひるがえして駆け出していく。

「…すまんな、フィーナ。
 お前の父上殿に随分失礼なことをした。」

「構いません、アラスタ様。
 お気持ち、痛いほど分かります。
 それに、あまりにもおかしいことも…」

「あぁ…おそらくなのだが…」

アラスタ様の言葉を遮るように、ノックもそこそこに数人が駆け込んでくる。

「失礼します、閣下!」

既に警戒警報とかいうのが伝わっているのだろう。
全員の顔が強張こわばっている。

「大隊長、最も北方に展開中の部隊は?」

「第3歩兵小隊が巡回任務中、通常装備です。」

「直ちに帰還させろ!
 歩兵中隊で待機中は?」

「第6歩兵小隊が、巡回任務明けの休息中です。」

「休息取り消し!
 直ちに完全武装で北方へ偵察任務を命ずる!
 1時間以内に準備させろ。」

「はっ!」

「第5支援小隊も連れて行かせろ、あそこが一番スナイパーが多い。
 現場指揮権は第6歩兵小隊長に任せる。」

矢継ぎ早な命令に、作戦本部の人が順次駆け出していく。

「閣下、失礼ながら説明頂けますか?」

大隊長の言葉に、アラスタ様は苦虫を嚙み潰したような表情で。

「敵だ。」

「は?
 この農繁期に、ですか?」

「危険性は高い。
 最低でも帝国軍、下手すると王国軍との挟み撃ちだ。」
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