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第2次ベガドリア戦役(アラスタ視点で)

戦闘前

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「総員、気を付け!」

領館前の広場、整列した兵士の前にアラスタが立つ。

「おはよう諸君。
 さて、最悪の状況だ。
 少なくとも前回のような大勝は望むべくもない。」

アラスタは兵士を見回す。

「先日、第6歩兵小隊が北方偵察を実施した。
 帝国の国境付近で大規模な編成が確認された。
 にもかかわらず王家直轄地の駐在武官からは何の警告も無い。
 状況を把握していない、などと思うなよ?
 直轄地でも、通常ではない軍の大規模編成が進んでいる。」

問い合わせたところ臨時の大規模演習が予定されているとのことだった。
しかし、農繁期に、わざわざ肥沃な王家直轄地近くでの演習など不自然すぎる。

「従前であれば、いくら捨て石といえど警告くらいは来ていた。
 今回はそれすら無い。
 となると…大隊長、どう判断する?」

「王国側に何らかの思惑がある…かと。」


「最悪、王国と帝国が裏で手を結んでいる。
 そうなると我々は両方から挟み撃ちだ。」


アラスタの言葉に、さすがの兵士もざわつく。
前回の大勝は、入念に計画を練り、何の事前情報も持っていないであろう帝国軍と、正面から戦ったのだ。
おそらく今回は帝国軍もそれなりの対策を取ってくるはず。
この状況下で総数400人しかいない戦力を二面に展開するなど不可能だ。

「では閣下。
 その際はどちらかを撃破して突破するしか…」

「そうしたいのだがな。
 ただ突破したところで、北方はどこまで行っても帝国…敵国だ。
 さりとて南方の王国軍を榴弾で吹き飛ばせば、国家反逆罪で大軍が押し寄せてくる。」

「じゃあ一体どうしろと!?」

悲鳴のようなフィーナの声に。

「もうここまでくると賭けだ。
 王国軍は信用できん、まさか我々と協調して帝国軍と戦うわけではあるまい。
 だが…実のところ、挟撃されるというのも正直引っかかる。
 戦力など投じなくとも国王陛下が一言命ずれば我々など、どうとでもなるだろう。」

国王とて定められた法には従う必要があるが、それでも国王は国王だ。
解釈など後でどうとでもこじつければいい、そのために文官や宰相がいるのだ。

「総員に告ぐ!
 発令した警戒警報は継続する。
 状況がどう転ぶか分からん、各小隊長は分隊長とも連携し皆が過度に動揺しないよう努めよ。
 収集した情報は作戦本部に集約、分析し随時通達する。
 かなり厳しいが絶望だけはするな!」

「はっ!」




「フィーナ、退避勧告は出しているな?」

「はい。
 駐在武官に通告しています。」

執務室に戻ったアラスタはフィーナから書類を受け取る。
戦闘勃発予測に伴う領内全域、特に大街道周辺からの退避勧告書。
写しに駐在武官の受領サインもしっかりとある。

「領内を通過する行商人の数はどうだ。」

「王国から帝国へ向かう数は3割以下です。
 おそらく退避勧告を見て、急いで帝国へ抜けたい商隊でしょう。
 逆に帝国側から王国へと向かう者は、ここ数日確認できていません。」

「帝国側で規制がかかったな…これはいよいよ来るぞ。」

アラスタは腕を組む。
帝国が攻めてくる、これは理解できる。
逆におかしいのは王国側だ。
恒例の”嫌がらせ侵略”は時期が決まっているので、王国軍も事前に把握できる。
しかし今回は完全なイレギュラーだ。
それにしては王国軍の対応があまりにも迅速すぎる。

まるで”事前に分かっていた”とばかりに。

アラスタが引っかかるのは、この一点だ。
バズル男爵が帝国に何らかの密書を運んだ、というのも疑念を強めていた。

「今回ばかりは本当に分からん…
 分からんが、だからって茫然としているわけにもいかん。
 フィーナ、村々には警告を出しているな?」

「近隣の村々から順次伝わっているはずです。
 それぞれの村長の判断で安全な場所に逃げろと。」

「帝国兵も無駄な殺生はしないと思いたいがな。
 点在する村々をわざわざ焼き討ちする余裕は無い…はずだ。」

前回手ひどくやられ、指揮官まで捕縛されたのだ。
無駄な消耗は避けたいはずだが、それに勝る程度には恨みもあるだろう。
この辺は、もう帝国軍指揮官の、人としての人格に賭けるしかない。
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